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ナイトオブブルーローズ  作者: 陽山純樹
第2話

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彼らの策謀

 辿り着いた先は、繁華街を離れさらに居住区なんかからも離れた場所で、方角的には繁華街や学園から北東。

 郊外に出ると自然公園がある。目的地は公園と道路を挟んだ位置にある、平屋の一軒家だった。


「あれか……」


 周囲が赤くなりつつある状況下で、公園の茂みに隠れつつ達樹は呟く。


「見た所何の仕掛もなさそうだけど……」

「ちょっと調べます」


 横にいる菜々子が発言。達樹はそれに首を傾げ、


「調べる?」

「はい。もし魔法陣が形成されているのなら、あの家から多少なりとも魔力が生じているはずです」

「なるほど。それじゃあ頼む」

「はい」


 菜々子は頷くと地面に手を当て、何事か呟き動かなくなる。


 探知系の魔法を使用したのだろうと推測しつつ、達樹は視線を戻す。建物はかなり古く。学園などができる前からあったのだろうと容易に想像がついた。

 そして自然公園周辺は繁華街と同様古い建物と新しい建物が混在しており、ずいぶんと雑多な印象を与えている。


「わかりました」


 菜々子は呟くと、地面から手を離した。


「魔法陣があるのは間違いありません。魔力があの家の周囲に停滞しています」

「となれば、場所は間違いないみたいだな……で、人がいるとかはわかるのか?」

「いえ、そこまでは」


 菜々子は首を横に振りつつ、一つ提言をする。


「近づいて確認しましょう」

「……わかった」


 達樹は頷き、菜々子と共にその場所へと近づく。怪しまれないかと少し危惧しつつも人はおらず――すぐに家の間近へ到達した。

 その時、家の中からドタドタと足音が。周りが静穏であったため、外にも音が漏れたようだ。


「いますね」


 菜々子は呟き、ゆっくりと両の拳を握りしめた。


「では、このまま家に入り――」

「待った」


 達樹はすかさず意見した。


「いきなり何を言い出すんだよ……ここはまず、相手が誰かを確認して――」


 達樹が言い終わる前に菜々子は人差し指を口元に当て、静かにするよう促す。達樹はそれにより口を止めた時、

 家の中から男性の声が聞こえ始めた。けれど音は小さく内容までは聞き取れない。


「……音を増幅させ、話を聞きとれるようにします」

「え? ちょっと待て――」


 強硬なやり方をする菜々子に達樹はなおも口を出そうとするが、


「集え――」


 何やら一言呟いた瞬間、家の中の声が明確に聞こえた。


『しかし、これで本当に上手くいくんですか?』


 聞こえたのはやや高めの男性の声。音量は精々達樹たちが聞き取れる程度のものであるのだが、達樹は他に聞こえないのかと身構えてしまう。


『ものは試しさ。誤魔化しようはあるからな』


 続いてやや野太い男性の声。そして菜々子はそれを聞いて、


「副会長の声です」


 はっきりと告げた。達樹もここに至り彼らの潜伏先であるのを確信する。


『誤魔化すって、どうやるんですか?』


 最初に聞こえた男性の声。すると、


『ここにお前が捕らえられていて、誰かが罠にはめるために魔法陣を組んだ、とかだな』


(……罠があるのは確定か)


 達樹はそう察しつつ菜々子を見る。彼女は眉間に皺を寄せていた。

 同時に状況を理解する。副会長は舞桜に、現在会話をしている男性の捜索依頼をしたのだろう。しかしそれは嘘であり、実際は舞桜をはめるための罠を仕掛けている。


『足跡を辿れば、ここに辿り着くよう情報は撒いてある。今日か、明日中には調べがつくだろう』

『その間、私はここで待っていればいいんですか?』

『そうだな。俺は彼女にもう一度接触し、進捗状況を確かめる。必要なら情報を与えここに誘導。そして――』


 と、副会長から含んだ笑い声が聞こえた。


(こいつらの、狙いは――)


 考えたくもなかったが、達樹は一つ結論付けて胸の奥がムカムカとした。同時に彼らの行動が下種そのものであると理解する。


(依頼自体が罠というのは、舞桜という存在を踏みにじっているな……)


 胸中で思いながら菜々子に視線を移す。そこには――


「え……」


 無表情ながら、恐ろしい程の眼光を伴った彼女がいた。


「お、おい……?」


 声を掛けるが、反応が無い。呆然とするように家をじっと見つめている。

 内に生じた怒りをただただ静かに抑えているようだ。達樹はさらに呼び掛けようとしたのだが、彼女はふいに右手を掲げた。


 そちらに目を移すと、どこに持っていたのか――ボイスレコーダーが握られていた。


(今のを、録音したのか……)


 達樹は慄然(りつぜん)としながら、さらに続く会話に耳を傾ける。


『ちなみにですけど副会長、作戦に成功し捕まえたらどうするんですか?』

『ん? そんなの愚問だろう――』


 と、それに続けられて話された内容は、副会長の欲求そのものだった。

 達樹自身、怒りが沸騰しそうになる。


(こいつら……)


 先ほどの会話から予想はついていたものの、考えていたことがそのまま――いや、それ以上の内容が副会長の口から次々と漏れる。

 会話を聞く男性は笑う。時折『そうですね』という同意の言葉から、相手もまた賛同しているのがわかる。


 達樹は落ち着くためにゆっくりと深呼吸をした。こういう時こそ自制しなければと考えつつ、菜々子のことが気になった。

 すぐさま表情を確認。彼女は顔を伏せ、達樹の視点からは目元を窺い知ることはできない。口元は固く結び、じっと内容を聞いている――内に怒りを溜めていることだけは、間違いない。


 やがて、会話が終わる。同時に菜々子はボイスレコーダーを停止させ、ポケットにしまった。


「……達樹」


 そして、ゆっくりと彼女は告げた。


「これでも、様子を見ろと?」

「いや……確かに最悪な会話だったけど」


 達樹が答えようとした時、菜々子の右腕がゆっくりと家屋に向けられる。


「ちょ、ちょっと待て」


 何をするのか理解し、慌てて達樹は止める。


「家の中にいる二人は確かにボコボコにされてもおかしくない奴らだ。けど、こんなところで魔法を使ったら――」

「心配いりません、達樹」


 直後、冷たい声音が周囲に響いた。達樹は嫌な予感がして彼女の顔を窺う。

 まずわかったのは、目の光が消えていた。しかし、


 悪魔が宿っていた。認めた瞬間、達樹は踵を返し逃げ出したくなる。


「周囲に迷惑を掛けるつもりはありませんから」

「え、ちょ――」


 声を上げようとした刹那、

 炎熱が、菜々子の真正面で炸裂した。光が周囲を包み、さらに家屋を破壊する轟音が果てしなく響いた。


 達樹は声すら出せず、事の推移を見守るしかない。炎熱は家屋を飲み込み一方的に破壊していく上、とんでもない光を伴い達樹に一瞬茜色の空を忘れさせる。

 そして次に思ったのは、中にいる人物の安否。


(だ、大丈夫なのか――!?)


 胸中で叫んだ直後、光が消える。次に見えたのは魔法によって生じた粉塵と、異臭。達樹は顔をしかめつつじっと煙を見つめていると、少しずつだが晴れてきた。

 やがて見えたのは、腰が抜けたのか座り込んだ男性二人。彼らがいる場所は畳の部屋だったようだが、魔法で半分以上飲み込まれており、最早部屋の体を成していない。


「な……な……!?」


 その内の一人が声を上げる。眼鏡を掛けたやや太めの男性。もう一方は細身で、身長が低い男性。

 太めの男性は、体格に準じ太い声をしていたため、そちらが副会長だと達樹は断定する。


「お、お前らは……?」


 驚きながら副会長は声を出し――菜々子に気付いた。


「さ、笹原さん……?」

「どうも、副会長」


 彼女が応じたその瞬間、副会長は頬をひきつらせ体をビクリと震わせた。瞳の色合いに気付いたらしい。


「心配いりませんよ、副会長」


 菜々子は恐ろしい程優しい声で告げる。達樹は震え上がりそうになりながら、次の言葉を予想し慌てて彼女に駆け寄った。


「痛みはありませんよ。炭化するのは一瞬で済みます――」

「待て、頼むから」


 掲げそうになった彼女の手を、達樹は慌てて抑えた。


「落ち着いてくれ、頼むから」

「私は冷静です」

「そうは見えない。頼むから――」


 再度要求した時、細身の男性がコトリと倒れた。菜々子が見せる憤怒の態度を見て、気絶したようだ。


「さ、笹原さん……」


 一方副会長は、震える声で呼び掛ける。


「い、一体何をしているんだ……? なぜ、ここに?」

「知る必要はないですよ、副会長」


 菜々子は達樹の腕を振りほどき、一歩だけ副会長に近づく。


「そうだ、副会長……選択肢をあげましょう」

「せ、選択……?」

「はい」


 にっこりと――達樹にとっては背筋が凍る顔を見せつつ、笹原は言った。


「雷撃による炭化。火球による爆裂四散。高熱魔法による溶解。閃光による切断、どれがいいですか?」

「ひっ――」


 事情はよくわかっていないようだが――彼女の言葉から、殺しに来たのだと理解はできたらしい。


「さ、笹原さん……な、なぜ私を?」

「知る必要はありません」


 次の瞬間、彼女の顔から表情が消えた。同時に、達樹は恐怖から半歩退いた。


「……は」


 それを正面から目の当たりにした副会長は、突如泡を吹いて倒れた。


「……気絶してしまいましたか」


 淡々と、菜々子は呟く。達樹はようやく矛を収めたか――と安堵したのだが、


「わかりました。では炭化にしましょう」

「おおいっ!?」


 さすがに達樹も声を上げ、すかさず止めに入った。


「待った待った! 相手も気絶したし、やめろ!」

「……達樹」


 対する菜々子は、表情を変えずゆっくりと首を向ける。背後に鬼が立っているのかと思う程の雰囲気をまとわせ、彼女は告げる。


「彼は学園に必要ないと思います」

「……怒っているのはわかるから、とりあえずやめてくれ」


 がっくりとうなだれ、達樹は半ばあきらめたように呟いた。


 その時、遠くからサイレンの音が聞こえ始めた。菜々子の魔法により近所の人が通報したのだろう。達樹は逃げないといけないのだろうかと胸中呟いた後、目の前の惨状からさっさと来てくれと半ば投げやりに思い始めた――

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