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ナイトオブブルーローズ  作者: 陽山純樹
第2話

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友人のために

 そこから十五分程経過した時、菜々子が発言した。


「ありました」


 声に反応して達樹はすぐさま彼女へ向き、尋ねる。


「何を?」

「これです」


 そう言って見せたのは、二つ折りの線が入る一枚のA4用紙。


 中心には六芒星の魔法陣が描かれ、陣の周囲に何やら細かい字がびっしり記載されていた。

 達樹が近寄り文面を確認すると、細かい字の大半が数式であるのがわかった。


「魔法……だよな? で、数式はその詳細か……?」

「でしょうね。数式についてはほとんどが解読不能ですけど……一つだけ、わかることがあります」


 そう語ると菜々子は紙の右中央に書かれた文面を指で差した。


「ここに簡単な説明が成されていますが……これは接地型の魔法であり、中央に入り込んだ人に発動させる構造のようです」

「つまり、密かにこれを設置し舞桜に踏ませようと?」

「おそらく、そうだと思います……内容については……」


 菜々子はじっくりと数式を眺め――やはり解読できないのか、小さく息をついた。


「……やはり駄目ですね。土岐さんならいけると思いますが、この状況で頼れば他のメンバーに知られてしまうでしょう。危険ですし、協力を仰がない方が良いでしょう」

「土岐さん?」


 応援団メンバーの名前が出て、達樹は眉をひそめた。


「何で土岐さんの名が?」

「……達樹、知らないんですか?」


 菜々子が問う。その時、達樹は明確な既視感を抱いた。


(あれ……これって、前にも似たような状況が――)


「彼女、実技の能力ははかなり低いですけど……学業分野でトップの人物ですよ。魔法理論も高等レベルを完全に逸脱しており、高等部ながら研究員に混じって研究を……って達樹、どうしたんですか?」


 頭を抱えた達樹を見て、菜々子は尋ねた。


「何か問題が?」

「いや……つくづく優矢がこのメンバーを集めた理由がわからなくて」

「確かに最初見た時は驚きましたけど……縁だそうですし」


 あっさりと答える菜々子。あまり気にしていない様子。

 けれど達樹は納得できず、思わず声を上げた。


「……菜々子だって、八位だよな」

「私のことは、いいじゃないですか」


 いきなり水を向けられたためか、菜々子は少しばかり照れた顔を見せる。


「ほら、話を戻しましょう」

「……そうだな」


 これ以上会話をすると惨めな思いになる気がして、達樹は同意した。


「で、他に何かわかるのか?」

「えっと……あ、下の方に住所が書いてありますね。これを地図検索して調べることにしましょう」

「つまり、この魔法陣をその場所に仕掛けたというわけだな」

「はい。おそらくは」

「……実は以前計画していて、とん挫した奴とかじゃないよな?」

「可能性としてはゼロではありませんが、先ほど達樹が見つけた日誌とこの日付から考えれば、これが本命でしょう」


 菜々子は語りながら用紙の左端を示した。そこには一週間前の日付が書かれている。


「筋書きとしては、彼らと接触した研究者がこの魔法を渡し、後援会メンバーが魔法を使うために動いている……そして、彼らは舞桜に何かしら依頼をしている……今は罠を掛けるために準備しているのでしょう」


 解説しながら、菜々子は携帯電話を取り出し、カメラ機能を使って紙を写真に撮り始めた。


「持ち出すとここに来たことがバレるかもしれませんからね」


 そう言いつたシャッターを数回押した後、達樹に顔を向けた。


「では、この場所に行きましょう」

「今から?」

「はい。善は急げと言うでしょう? すぐに向かうべきです」


 ――舞桜はきっと、自分か警察に連絡しろと言うだろう。警察の場合は取り合ってくれるのかという疑問もあるのだが、警察の中にも彼女達を大いに信用している人物はいるはず。そういう人に連絡して調査してもらうというのもアリだ。

 けれど、菜々子は自分で行く気らしい。


「……舞桜は菜々子に行動してほしくないみたいだし、善なのかな」

「さあ? どちらにせよ舞桜に負担を掛けさせたくはありませんし、私達だけで行きましょう」


 菜々子は言う。行動動機が舞桜の手を煩わせないようするといったことなので、誰にも頼らず密かに行動することになるのは必定。言動から、菜々子にとっては慣れきったことなのだろうと達樹は察した。

 そして一瞬どうするか悩んだが、否定しても彼女は絶対に行くだろう。一人はさすがにまずいので、彼女の言葉に従い共に行動することを決めた。


「わかった」

「はい、それでは……あ、最後に物を元の位置に直しておきましょう」

「そうだな」


 ――それから菜々子の提言により侵入した証拠隠滅を施した後、二人は部屋を出た。

 最後に彼女が鍵を閉めると、達樹は息をつく。


「さて、時間は……」


 呟きながら携帯電話を確認する。四時前だった。


「あまり時間はないな。直に日が暮れる」

「ここから走れば二十分くらいで到着します。急ぎましょう」

「……走るのか? 魔法は?」

「繁華街を突っ切りますので、魔法を使うのはまずいですよ。身体強化も、移動速度を見れば一発でわかりますし使えません」

「下手に怪しまれないようにするには、普通に走った方がいいだろうからな……わかった」


 決議し、二人は走り出した。繁華街に出て、そこからは菜々子の先導によって突き進む。

 鞄を持っているため思ったよりも速度が出ない。なおかつ達樹自身魔力強化を一切施さない現状なので、すぐに息が上がる。


 一方の菜々子だが、走り始めてそれほど息が上がっている様子はない。体の内で魔法を使っているのか、それとも元々運動神経がいいのか――

 その時、菜々子が達樹を一瞥する。そして、いきなり立ち止まった。


「大丈夫ですか?」

「……あ、ああ」


 気を遣って止まってくれたらしい。なんだか情けないと達樹は思いつつ、立ち止まり肩で息をした。


「歩きましょう。息が戻ったら再度走るということで」

「わかった」


 菜々子の提案に達樹は頷き、隣同士で進み始めた。

 いよいよ空は茜に染まり、時間が無いことを克明に知らせる。五時くらいまではもつだろうと達樹は思いつつ、横にいる菜々子に話し掛けた。


「菜々子は息上がっていないけど、大丈夫なのか?」

「運動していますから」

「運動?」

「中等部では陸上部だったんですよ。高校に入って辞めましたけど」

「やめた? 何で?」

「舞桜の活動が高等部に入って以後活発になりましたから、その補助に専念することにしたんです」


 舞桜のことを考慮した結果らしい。


「それ、舞桜の許可とったのか?」

「理由は何も言っていません。ただ陸上部を辞めることを伝えた時、すごく落胆していましたけど」

「続けて欲しかったんじゃないのか?」

「そうでしょうね。けれど、私は舞桜のことを優先にしたかったので」

「舞桜が聞いたら顔を真っ赤にして怒りそうだな」

「私もそう思います」


 何の悪びれも無く菜々子は語る。達樹はそれに頭をかき困った顔をした。


「菜々子って、その辺はとことん強情だよな」

「ありがとうございます」

「褒めてないよ……で、話を戻すけど、陸上部辞めて走るのもやめたのか?」

「日常体を鍛えるのはいいと思ったので、毎朝走っていますよ」

「魔法を使わずに?」

「はい」


 コクリと頷く彼女に、達樹は苦笑した。


「どうしました?」

「いやいや……完璧だなと思って」

「そんなことありませんよ。というか、他者と比較するのはやめにしませんか?」


 菜々子の問いに、達樹はさらに苦笑する。

 彼女の言葉通り、達樹は自身と魔法学科の生徒を比較している。立ち位置を考えればそんなことをしても無意味なのだが、どうしてもやめられない。


 そこで達樹は手と足にはめられている増幅器を思い出す。これこそ、他の人とは大きく異なる、自分が三下である証。


(元々、他の人達と俺は違うよな……)


 どこかあきらめた感情が胸に満ち、達樹は口を開く。


「そうだな、やめとくよ」


 割り切って発言、したのだが――


「そんなあきらめた感じで言うのはやめてください」

「心を読むなよ」

「態度から見え見えです」

「……というか、何で菜々子はそこまで食いつくんだ?」

「それは……」


 菜々子は途端に口ごもる。しばし何事か考え、幾度か視線を送り、


「……良い機会ですしはっきり言いますが、ライバル視した相手だからこそ、自身を卑下して欲しくないのです」

「ライバル視……?」


 思わぬ発言に達樹は目を見開く。なぜ自分のような人間に――


「何で俺を?」

「どういった魔法使いであれ、達樹が舞桜を助けたことに変わりありませんから」


 と、彼女はどこか悔いる様な表情を示す。


「私に技量がもっとあれば、あの時達樹ではなく私が研究所へ向かっていたかもしれない……けど、そのような形となれば研究所に現れた敵を倒すことはできなかったでしょう」


 菜々子は達樹と目を合わせる。瞳は羨望に近い色合いをしていた。


「私にできなかったことを、達樹は成し遂げた……ライバル視するのも、当然では?」

「……買いかぶり過ぎだと思うけどなぁ。あの時の戦いは、色んな運が俺達に向いたんだと思うよ」

「けれど、舞桜を救ったことは間違いありません」

「……改めて思うけど、菜々子って強情な性格なんだな」


 そんな風に感想を漏らした時、達樹は自身の息が正常に戻ったと悟る。


「回復したよ。急ごう」

「わかりました……あ、無理そうなら言ってくださいね」

「わかってるよ。あと、一人で先行するのだけはやめてくれよ」

「なぜですか?」

「絶対無茶するから」


 断定の言葉に菜々子は一瞬目を細め、小さく「わかりました」と応じ、


「では、進みましょう」


 言って、走り出した。

 その時達樹は、彼女の最後の視線から「自分が舞桜を救うべきだ」という心理を見て取った。


(菜々子も結局、優矢たちと変わらないってことか)


 舞桜のため、彼女に負担を掛けさせないようにするため動く――ただ、彼女の根底にあるのは他の人とは違う。親衛隊であれば羨望などの感情が該当するはずだが、彼女の場合は友人であることと、何より――


(救ってもらった、という事実が大きいんだろうな)


 達樹は以前の事件で菜々子が見せた傷を思い出す。詳しくは聞いていない。けれど達樹は自分が死にそうになった時見せた、あの泣き顔を示したのだろうと想像できる。


(舞桜が悲しそうな顔をしているのが、菜々子もきっと嫌なんだろう)


 しかも今回は何やら不穏な空気――彼女は行動せずにいられない。

 同時に思ったのは、舞桜が絡むと彼女は結構見境なく行動すること。達樹は少なからず制御しなければならないと断じた。


(俺がストッパー役になればいいか……役目を全うできるかすごく不安だけど)


 頭の中で結論付け――達樹は走る菜々子の後をひたすら追い続けた。

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