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ナイトオブブルーローズ  作者: 陽山純樹
第2話

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潜入調査

 羽間によってもたらされた報告――それにより、達樹はどうなるか多少ながら予想がついた。

 ということで放課後。いつものオープンカフェの一席に座り、頬杖をつきながら学校から帰ろうとする生徒を眺めていた。


(ここに来ない可能性もあるわけだが……)


 胸中思いながらも、黙って見続ける。ちなみに優矢や羽間は昼間の情報から副会長とやらの調査を独自に進めることにしたとのこと。

 そして達樹はというと、別行動であり――ふと、視界に見覚えのある女子生徒を捉えた。


「よし」


 呟くと速やかに立ち上がり、鞄を手に取りそちらへ歩み寄る。

 目標は、門を出た相手――菜々子。


「おーい」


 達樹は近づきつつ彼女へ呼び掛ける。相手は声に気付き、やや驚いた表情を見せ、


「達樹、どうしましたか?」

「手伝おうと思ってさ」


 返答した――直後、菜々子は口を真一文字に結び、目を見開いた。


「やっぱり、その様子だと副会長のことを一人で調べる気だったんだな?」


 達樹が問う。菜々子は僅かに沈黙した後、小さく頷いた。


「よく、わかりましたね」

「予想できたよ。報告を受けて舞桜のことを考えるなら行動に移すのが当然。しかも、菜々子は後援会所属だったわけだし、色々と知っている……だから心当たりを探すんじゃないのか?」


 問うと、菜々子はまたも頷く。達樹は胸中予測が当たったことに満足しつつ、


「一人で行動するのは危ないと思う。なにせ、相手は強行な手段に打って出たことのある相手。二人以上で行動した方が良い」

「……わかりました」


 意見に菜々子は渋々といった様子で了承した。


「ですが、場合によっては強引な手に出るかもしれません。それでもよろしいですか?」

「俺としてはあまり賛同したくないけど……ま、実害が出てしまう可能性を考慮すれば、やむなしかな」


 達樹は賛同。菜々子は「わかりました」と答え、手で通りを示した。


「では、行きましょうか」

「ああ。ちなみに有力候補はあるのか?」

「調査は済んでいますから」


 言って、彼女は歩き始めた。達樹はその横に回り、話し掛ける。


「そういえば、後援会に入っていたことは優矢たちに話したのか?」

「いえ、話していません。もしそうだとしたら彼らは真っ先に私へ話をするでしょう?」

「それもそうだな……ちなみに、何でそうしない?」

「私が色々と動いているという事実はあまり知られたくありませんし……何より」

「何より?」

「厄介事に関わるのは、私だけで十分だと思いまして」


 語り、菜々子は苦笑した。


「今回は達樹の協力を受けるわけですが」

「俺は菜々子の事情を少なからず知っている人間だから、ノーカウントということで」

「そういうことにしておきましょう」


 どこか嬉しそうに語った後――彼女は表情を引き締めた。


「今回の件は由々しきことだと思います。何としても、問題が生じる前に相手の目的を把握するべきです」

「……一応訊くけど、まだ調査の段階だよな? 副会長絡みの人に出会ったら問答無用で戦う、とかはしないよな?」


 先ほどの強引な手というセリフから、達樹は彼女が荒事前提で行動しているような気がして尋ねた。


「まだ副会長が人探しを舞桜に頼んでいる事実だけ……怪しいとは思うけどさ」

「調査なのは間違いありませんよ。私達の行動を知られないようにすべきだとは思います」


 穏便に済ませるような言い方だったが、彼女は難しい顔をして続ける。


「平和的に済ませるには確実な情報が必要です。一番の疑問は、純粋な人探しならば警察に相談すればいいはず……けれど、舞桜に相談したということは下心があるか、何かしら警察に頼れない事情があるか」

「後者だとすると、大事の可能性もあるな」

「そうですね」


 菜々子は答えて一つため息。


「ほら、達樹が色々と抱えていたせいでフラグが見事立ってしまいました」

「……これ、俺のせいなのか?」


 脱力しつつ菜々子へ問う。彼女は黙って肩をすくめた。

 どこか冗談めいた雰囲気に達樹は小さくため息をつきつつ、案内し従い歩を進める。


 やがて――達樹たちは学園前の通りを離れ、繁華街に繋がる方向へ。


「で、改めて訊くけど今から行く場所は?」


 人気も少なくなった時達樹が問うと、彼女は明瞭に応じた。


「繁華街の路地にある、とあるアパートの一室です」

「アパート?」


 聞き返す達樹。菜々子は即座に頷き、


「後援会は学内に部室がありましたが、他にも隠れ家的にアパートの一室を利用していたんです」

「そんな予算、どこから出るんだ?」

「私も詳しくは知りませんが、使っていない部屋を誰かから借り受けているという話だったかと」

「家賃もその人が払っていると?」

「みたいですね」

「部屋を一室タダで借りるって、ずいぶん大きなことだと思うんだけど……」

「おそらく研究機関と関わりがあったんでしょう」


 菜々子は軽く言う――のだが、途端に達樹は顔を険しくした。


「研究機関と、関わり?」

「ああいう部活には、研究所が絡んでいるケースが多々ありますから」


 特におかしい点はないという調子で、菜々子は話す。


「魔法関係の部活と言うのは基本、慢性的に資金不足ですからね。だから研究機関と話をして、色々実験に協力する代わりにおこぼれをもらうんです」

「アパートもその一つだと?」

「そんなところです」


 ――学園は研究機関と少なからず関わりがある以上、色々と関係を結んでいてもおかしくはない。とはいえ以前の事件で色々とあったことから、達樹は変に意識してしまう。


「なんというか、勘ぐりたくなるよな」

「達樹がそうした見解を抱くのは当然と言えるかもしれませんね」


 彼女は応じた時、いよいよ繁華街へと辿り着いた。

 夕暮れが近づく時間、通りは人でごった返していた。大半は学生で、はしゃいでいる姿がそこかしこに見られる。


「こちらです」


 そんな中菜々子は通りから一つ角を曲がる。それなりの道幅であったが、大通りと比べると半分もないような道。


「ここから歩くのか?」

「いえ、もう見えていますよ」


 達樹の疑問に菜々子は人差し指を前に出した。

 見ると、そこには木造二階建てのアパートが一つ。ずいぶんと古い。


「研究機関と関わりがあるという割には、ずいぶん質素なアパートだな」

「そんなものですよ」


 淡泊に答えつつ、菜々子は迷いなくアパートの敷地に入る、達樹は追随しながら――ふと、鍵とかどうするのか疑問に思った。


「菜々子、鍵とか……」


 言い終わらぬ内に、彼女は右手を達樹へ見せつけるように動かす。人差し指に、金属プレートのキーホルダーがついた鍵が一つ。


「え、合鍵持っているのか?」

「調査は済んでいると言いましたよね?」


 どこか誇らしげに彼女は語る。達樹はその言動を見て、昨日舞桜が忠告した意味を深く理解した。


(見た目とは裏腹に、手段を選ばない人だな)


 そんな風に思いながら、達樹は一階にある隅の部屋に到達した。

 菜々子は何の躊躇いもなく設置された呼び鈴を鳴らす。思い切りの良さに達樹はハラハラしながら事の推移を見守るしかない。


 結果、反応は無し。


「誰もいないようですね。入りましょう」


 菜々子はあっさり言うと、鍵を差し込んだ。


「誰かいても反応しないだけとかじゃないのか?」


 懸念した達樹は声を上げる。しかし、


「部屋の中に誰かいたらまず普通の対応をします。そして合言葉となるいくつかのやり取りをして、入るというルールが決められています。反応がないということは、誰もいないということです」


 答えつつ、彼女は鍵を回した。

 鉄製の扉があっさりと開く。菜々子は滑り込むようにして室内へと入り、靴を脱いで奥へと向かう。達樹は一度周囲を見回し誰もいないことを確認しつつ、中に入り扉を閉めた。


 続いて靴を脱ぎ中に入る。短い廊下には水道とガスコンロを置くスペースがあるだけで、トイレすらない。

 そして唯一の部屋らしき場所は六畳一間かつ、左手に押入れ。さらに入口から見て真正面に窓がある畳の部屋だった。


「ずいぶんとまあ……シンプルな部屋だな」


 感想を零しつつ、達樹は部屋を見回す。古めかしい円形の照明によって見渡せる部屋の中は、ノートや雑誌なんかが積まれており、猥雑としていた。

 目立つ家具は押し入れの反対側の壁にくっついたこたつ机くらい。その上にはノートや参考書らしきものも散乱しており、勉強部屋としても使っていたのがわかる。


 達樹は一通り見回した後、部屋の一角にあるものを認め視線を逸らす。けれど菜々子は一切構わないようで、部屋の至る所を見分していた。


「ふむ……」


 少しして彼女はあごに手をやり、


「エロ本が置いてありますね」

「言わなくていいよ」


 達樹は肩を落としつつ彼女に言う。


「というか、菜々子からそんな発言が出るとは思わなかったよ」

「そうですか? きっとこういう物を隠しておく部屋としても使われていたのでしょうね」

「すごく淡々とした反応だな……って、どうした?」


 達樹は次に菜々子が視線を宙に漂わせていたため尋ねた。そこで、


「いえ、変なにおいはしないなと思って」

「……菜々子って、そういう話題オッケーな人?」


 ツッコみを入れる気にもなれず、達樹は脱力したまま質問した。


「後援会などに入り研究員と話をする機会もあって……そういう人々から色々と耳に挟んでいたので予想通りです」

「耳に挟んでいた?」

「この動画が最高だ! とか」

「……もうこの話題はやめにした方がいいんじゃないかな」

「ですね。話を進めましょう」


 菜々子は視線を外し、今度は机に向かう。


「あ、机の上にも置いてありますね。使っていたんでしょうか」

「……俺、何も言わないからな」


 忠告しつつ、達樹は机の上に置いてあったノートを手に取り、パラパラとめくる。


「これ、大当たりじゃないか?」


 そして中身を一目見た瞬間、菜々子へ言った。

 すかさず彼女は横に来て覗き見る。それは、後援会の日誌だった。


「日付は九月半ばからになっていますね……」

「ああ、日付は多少飛んでいて、一日当たり一ページみたいだ……昨日の日付のものがある」

「とすると、机の上の本は昨日使ったわけですね」

「……ツッコみを入れて欲しいのか?」

「少しばかり。あまりに無反応なので」


 真面目な顔で菜々子は語る。内容は冗談以外の何物でもないのだが、表情が至って普通なので達樹は当惑する。


「えっと……普通、女性にそういう話をされると困るんじゃないかな」

「そういうものですか?」

「ほら、特に菜々子みたいな人だと」

「私に対しどういうイメージを持っているのか気になりますが……訊くのはやめておきます」

「それがいいよ。で、話を進めよう……えっと、後援会が解散したのっていつだっけ?」

「九月頭です」

「となると、解散以後も何かしら活動していたことになるな。えっと……」


 何か情報が無いか解散以後の報告に目を通し始め――ある場所で目を留めた。

 日付は二週間前。そこには奇妙なことが書かれていた。


『今日、後援会が解散し塞ぎ込んでいた俺に声を掛けた人物がいた。白衣を着た、研究者らしき女性だ』


 そう記されている。


「研究者……?」


 以前関わった事件が思い起こされ、嫌な顔をする達樹。対する菜々子は、眉をひそめ文面を目でなぞる。


「ふむ、その女性から何やら策を施されたと書いてありますね。直接的な表現はなされていませんが、その女性が入れ知恵したということで間違いないようです」

「具体的にどうするかは書いてないな」

「ですね……以降の日付には何か情報はありますか?」

「えっと……」


 達樹は急かされページをめくる。しかし、


「うーん、ないな。何度かその女性と会ったくらいだ」

「なら、他に何かないか調べるしかなさそうですね」


 言って、菜々子は捜索を開始。表紙がアレな本にも構わず作業する彼女は、達樹の目から見てなんだか奇異に映る。


(……おっと、いけない。黙って見ている場合じゃないな)


 達樹は少しして我に返り、彼女と共に室内を物色し始めた。

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