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ナイトオブブルーローズ  作者: 陽山純樹
第2話

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実力と怪しい出来事

 翌日の昼、達樹は半ばうんざりしながら悪友と昼食をとっていた。


「なあ、そう思うだろ?」

「……あのさ」


 達樹は頭を抱えたくなりそうな心境の中、コンビニで購入してきた昆布のおにぎりをかじる。


「はっきり言って、どうでもいい」

「おい、せっかく部活に入ったんだから、少しは話題に食い付けよ」

「できるかよ。何だよ、立栄さんに似合う魔法の属性はどれかとか……もっと他に話題があるだろ」

「俺は炎が似合うと思っているんだが、どうだ?」

「参加する気はないからな」


 達樹はきっぱり告げると、もう一度おにぎりをかじる。増幅器の訓練から金欠気味なのは相変わらずで、最近はたいていこういう食事が続いている。


(やっぱり、やめとけば良かったか……?)


 達樹は後悔の念を抱く。同時に、目の前の友人は舞桜に関する話題ばかり振るようになるのかと、頭が痛くなりそうな想像を行う。

 いや、正確に言えば以前からも彼女の話題は多かったのだが、それが輪をかけて増えているという事態。


「で、達樹。お前はどうだ?」

「……俺が言わないと、延々その話題を振り続けるのか?」

「ああ」


 即答。達樹は底なし沼のような深いため息をついた後、とりあえず何が似合うか考えてみる。


(と言っても、俺が知っているのは一つしか知らないからな……)


「……風かな」


 以前の事件で使っていた魔法を思い出しながら告げる。すると優矢は即座に反応。


「ほう、そうか。風か」

「……なんだよ、その引っ掛かった言い方は」

「いや、お前スカートめくりが好きなのか? 風にあおって中身を見たいとか」

「何なんだよ、そのわけのわからない発想は……」


 達樹は心底付き合ってられないと思い、さっさとこの場から離れようと残ったおにぎりを口に放り込もうとした。その時、


「物騒な議論をしているわね」


 横から声。振り向くと、そこには――


「ああ、どうも」

「どうも、北海さん」


 優矢の言葉に答えたのは、昨日も出会った舞桜の親衛隊、ツカマチという人物。達樹はフルネームを知らないのだが――ふと、聞き覚えのある名前だと思った。


(あれ……確か魔法試験の上位にそんな名前の人が――)


「魔法試験六位の人が何の用ですか?」


 そんな達樹の心情を裏付けるかのように優矢が言う。

 それにより思い出す――塚町(つかまち)(みどり)。魔法試験総合六位の秀才。


「あなた達の監視」


 塚町は優矢に応え、近場のテーブルから椅子を拝借し、達樹から見て右側に座る。


「応援団などと称している以上、警戒するに越したことは無い」

「俺達は無茶しませんよ」

「後援会の人達も同じことを言っていたそうよ。結果は、あなたも理解しているでしょう?」


 優矢を詰問するような目で見ながら、塚町は応じる。なんだか不穏な空気。


「ええ、そうですね。しかし、同じ轍は踏みません」


 けれど優矢は臆することなく返答。達樹としては一切根拠のない発言。

 そして塚町は同じことを思っているのか顔をしかめた。


「私としては、後援会なんかよりもあなた達の方がよっぽど警戒するべきだと思っている」

「ほう、根拠としては?」

「面子よ」

「面子?」


 優矢は言いながら、達樹と自分の体を一瞥し、


「俺達が危険人物とでも?」

「他の三人よ。どうやってあんな面々を見つけて来たの?」


 目を細め尋ねる塚町。対する優矢は肩をすくめ、


「元々知り合いだっただけですよ」

「知り合い、ねえ」


 疑わしげな彼女。達樹としてはイマイチ主旨が読み取れず無言となるしかない――


「まあ、あなた達だけなら捨て置いてもいいと思うけれど」

「手厳しいですね」

「二人なら、今ここで叩き潰せるから」


 答えた時、野性的な眼差しを二人へ送る。達樹は首をすくめるしかない。


「そうですか」


 一方の優矢は涼しい顔。達樹は内心大丈夫なのかとハラハラしたのだが、


「……まあいいわ。警告はしたからね」


 塚町は問答する気がないのか、椅子から立ち上がりそれを戻してから背を向け歩き去った。


「立栄さんに劣らず優雅な歩き方だな」

「……そんなこと言っている場合じゃないだろ」


 達樹はどこまでも楽天的な優矢のコメントに呻いた。


「お前、親衛隊に喧嘩売っているのか?」

「そんなわけないだろう」

「なら何であんな言動したんだよ? もうちょっと下手に出て――」

「彼女の場合は、別の意味合いがあるから注視しているだけだろう。問題ない」


 優矢は達樹に返答すると、腕を組みどこか楽しげに笑った。


「実際の所、彼女は笹原さんに難癖付けて色々とやりたいだけなんじゃないか?」

「笹原さん?」


 菜々子の名前が出て達樹は聞き返す。


「何か因縁でも?」

「……お前、彼女と知り合いだろ? 学校の成績も知らないのか?」


 逆に問われる。達樹は小さく頷きつつ――嫌な予感がした。


「えっと、つまり……」

「ちなみに、笹原さんは八位だ」

「は、はちい?」


 素っ頓狂な声で、達樹は聞き返した。


「ハチ? ハチって何だ? 鉢植えの鉢か?」

「何だ、そのわけのわからない曲解は……魔法試験八位だよ、彼女は。確か『炎撃(えんげき)の精霊』という異名がつけられていたな。炎と雷撃を操るから、造語だろう。能力的には、一発の威力が低い代わりに、手数で押すタイプだな」


 説明されると、達樹は絶句する。


「つまりだ、成績上位者の中で塚町さんというのは好戦的な部類で、近しい順位の人を色々とリサーチしているわけだ。ほら、彼女以外の親衛隊が動いていないだろ? 他の方々は俺達の動きなんか目もくれていないんだよ。下手な行動を起こそうとすれば耳に入るだろうし、問題を起こした時対処すればいい話だからな」


 分析に達樹はさらに言葉を失う。そんな中、優矢は解説を続ける。


「親衛隊というのは、立栄さんに迷惑がいかないよう最大限の配慮をし、自分達から揉め事を起こさないよう気をつけている。彼女達だって何のかんの言ってもボランティアだからな。下手に立栄さんの迷惑になっていらないなどと言われれば終わりとなる。だから、本来彼女達が俺達のような組織をどうこう言うようなことはしない」

「変に話をこじらせて、立栄さんの迷惑になる可能性がある、というわけか」

「そういうことだ」


 満面の笑みを浮かべる優矢。そこから、結論に持っていく。


「というわけで、あれが塚町さんの単独行動というのが俺の結論だ。こう考えればそれほど怖くないだろ?」

「……一つ、訊いていいか?」

「どうぞ」

「仮に彼女が難癖つけてきた場合、どうするんだ?」

「決まっているだろ」


 優矢は塚町が見せたのと同様の色を瞳に映す。達樹はそこから得られる回答を想像し――なんだか怖くなった。


「別に言わなくていいぞ」

「急に及び腰になったな」

「……頼むから穏当にしてくれよ」

「相手によるな」


 心底不安になる答え。達樹としてはこれは駄目だと思い、早くも幽霊部員の可能性を考慮し始め――


「北海」


 再び声がした。今度は男性で、聞き覚えのあるもの。


「ん、羽間か」


 部員である羽間が近くにいた。


「ちょっと報告が」

「報告?」

「ああ。立栄さんに近づいている人物が判明したよ」


(……おいおい)


 もうやめた方がいいんじゃないのか――思いながら、どこか神妙な顔つきの羽間に視線を送る。


「ああ、誰だったんだ?」

「それが……」


 羽間はなぜか口ごもり、


「相手は、以前後援会に所属していた人物……それも、副会長」


 出てきた言葉に、達樹は眉をひそめた。


「副会長……?」


 優矢も訝しげな視線を送り、なおかつ羽間へと体を向けた。


「どういうことだ? 監視中じゃなかったのか?」

「それは主犯者である会長だけ。副会長はお咎めなし」

「そうか……やれやれ、学園側の見立てが甘かったようだな」


 ため息をつきつつ、優矢は声を上げた。


「後援会に関する事件は、立栄さんが直接的に関わっていない。だから後援会に所属していた人物の顔も知らないはずだ。なら、近づくのは容易だろうな」

「確定したわけじゃないと思うけど」

「だが、作為的である可能性は十分ある」


 達樹の言葉に優矢はぴしゃりと答える。羽間も同意見なのか頷いている。


「よし、早速調査に入ろう。羽間、他の部員に連絡は?」

「既に行っている」

「そうか。なら彼に関する調査を頼む」

「わかった」


 指示を受け、彼は去っていく。達樹はその後姿を見つつ、ふいに感じたことを口に出す。


「そういえば優矢。何で羽間さんがお前の指示に従うんだ?」

「俺が部長だからだ」

「普通、成績とかそういうのを勘案すればお前が上に立つというのはおかしいと思うんだが」

「まあ色々あったんだよ」

「色々……?」


 疑わしげに視線を送るが、優矢は答える気がないのかそっぽを向いて伸びをした。


「さて、昼休みも終わりだ。授業の準備でもするか」

「……そうだな」


 達樹は納得できないまま同意。いくつかの問題を残したまま、この場はお開きとなった。

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