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ナイトオブブルーローズ  作者: 陽山純樹
第1話

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様々な顛末と、新たな決意

 二人はそのまま空を駆け抜け、舞桜の家へと戻ってきた。そこで家で待機していた笹原達に出迎えられる。


「大丈夫か?」


 疲労困憊の二人へ、日町が問う。達樹はソファに座らされつつ、頷いた。


「青井さん、ひとまず解決しました。事情を、説明します」


 それから、舞桜が話を始める。同時に彼女が記録した映像も映し出される。その場にいた全員が驚愕する姿を達樹は見ながら、意識が遠ざかっていった――






 ――そして次に気付いた時、太陽の光が目に入った。ソファで眠っていたようで、体には毛布が掛けられている。


 横を見ると、達樹を覗き見る舞桜の姿。眠ってしまったことに、達樹は小さく頭を下げた。


「ごめん……」

「気にしないで」


 舞桜は苦笑しながら答えた。

 達樹は身を起こしながら、リビングにある時計を確認する。午前九時を回っていた。


「さすがに、今日の授業は無理そうだな……」

「私も、同じく」


 彼女は呟き、小さく欠伸をした。見ると、彼女は昨夜と同じ格好のままだった。


「今まで、どうしていたんだ?」

「事の顛末を説明した後、菜々子と日町さんを返した。それから青井さんと一緒に警察に行って、事情を説明。それで、いま戻って来た所」

「ごめん、立ち会えなくて」

「ううん。そこは私がすべきところだから」


 彼女は首を左右に振る。


「それに達樹が立ち会うと、とんでもないことになるから」

「とんでもない?」

「親衛隊の人が……」


 苦笑しながら述べる彼女に、達樹は合点がいった。


「ああ、そうか。俺が周りの人間にこんなことをしていたのを、話すのはまずいのか」

「うん」


 舞桜はしっかりと頷いた。達樹は仕方ないと心の中で思った。


 結局騎士だと言っても、舞桜と達樹の間に埋められない程の大きな壁が存在している。今回はたまたま達樹自身に役割があったため一緒に戦ったが、それはあくまで秘事とすべきものであり、日常とはかけ離れたものであるべきだ。


「確かに、友人や親衛隊の人に追い掛け回されるのは、勘弁願いたいな」

「でしょ?」


 彼女はどこか寂しそうな笑顔を見せた。それは達樹に何もできないという、自分の境遇を申し訳なく思っているのかもしれない。

 そんな表情を見て、達樹は昨日の戦いを思い出した。


「……舞桜」

「何?」

「その……」

「どうしたの?」


 口ごもる様子に、舞桜は首を傾げる。

 その表情を見ながら、達樹はどうにか彼女へ告げる。


「昨日の戦いで言ったことは、俺の本心だから」


 それだけ、言った。すると、彼女は小さく頷いた。それはどこか、嬉しそうに。


「達樹……ありがとう」


 舞桜は多少伏し目がちに礼を言った。


「お礼をしなきゃなと思っていたんだけど……何も浮かばなくて」

「いや、いいよ。こうして舞桜と話すことができたという事実が、何よりの報酬だよ」


 ちょっとばかり軽口を叩く。対する舞桜は小さく笑みを浮かべ、


「……それでよければ、いくらでも」


 達樹へ優しげに言った。


「学校でも、今後よろしくね」

「よろしくと言われても……俺は、こんな中途半端な魔法使いだし、頼まれるようなこともないと思うけどな」


 達樹は腕をまくり、バンドのはめられた腕を見せ、皮肉気に言う。けれど彼女は首を左右に振った。その瞳は、達樹を心から信頼している風に見える。

 だからそれ以上は達樹も語らず、了承の言葉を告げた。


「……よろしく、舞桜」

「うん」


 嬉しそうに、彼女は答えた。

 達樹はそこで――彼女に認められたことで、色んなものが報われた気がした。






 ――その後、三石の事件は公となり、全国区のニュースとなった。青井他、研究に参加した人間の中で、彼に協力的だった人物はあらかたお縄となった。

 そして当の三石は、あの爆発的な巨人の発生の中でも、生きていた。しかるべき罪が与えられ、やがて全てが終わるはずだ。


「ありがとう、西白君」


 舞桜の家を離れた翌日、放課後に達樹は青井商店に赴き、彼からそう言われた。


「少し複雑な過程を経たけど、事件を解決できたのは君のおかげだ」

「いえ……俺もありがとうございます。これ」


 達樹はバンドを見せながら言うと、青井は小さく微笑んだ。


「一応、私に関する報告をしておくよ。私は情報を渡したりしたため、保護観察付だけど、そのまま研究員として活動できることになった」

「そうですか。良かった」

「ただ研究に参加していた事実は変わらない。その償いは、しっかりしていくよ」


 青井は語ると、今度は達樹の増幅器に目をやった。


「それで、増幅器なんだけど、たまにここに来て調整をするよ。君だって、まだ強くなりたいだろ?」

「いいんですか?」

「うん。特別にタダにする。君には大恩があるからね」

「ありがとうございます」


 達樹は頭を下げた。魔法学科の生徒としていられるのは、間違いなさそうだった。






 ――そして、ごくごく普通の日常に戻る。


「で、達樹。どうにかなりそうなのか?」

「ああ」


 校内の廊下を歩いている中、優矢に問われ達樹は頷いた。


「ただ、先生はびっくりしていたけど。増幅器使用ですか、って」

「それは、判定としてはどうなるんだろうな?」

「先生は何も言わなかったけど、減点くらいはされているだろうな」


 達樹は肩をすくめ答えた。

 しかし前提はどうあれ、課題はクリアできていたため、落第するような可能性は低くなった。


「そうか。なら、進級祝いとして、俺のおごりで昼食をごちそうしてやろう」

「お、マジか?」

「今月苦しいだろ? 訓練三昧で」

「……思い出させないでくれよ」


 優矢は苦笑し――ふいに、彼の視線が前を向く。


「お、立栄さんだ」


 優矢が言う。真正面から舞桜と、彼女を守る親衛隊が。

 達樹と優矢は無言となって、すれ違おうとする。そして二人は、舞桜に会釈をした。


(――達樹)


 そこで、達樹は舞桜からの念話をしかと耳にした。


(これからも、よろしくね)


 それだけだった。見た目上会話はなされず、何事も無く通り過ぎる。

 しかし、彼女が視界から消えた後、


「……ああ」


 小さく頷いた。


「どうした?」


 気付いた優矢が問う。達樹は手を振って応じる。


「いや、何でもない」


 誤魔化して、歩き始める。

 それと同時に、達樹は以前の決意を思い出す。魔法学科の人間に存在を認めさせる――そう決意をして、最終目標が舞桜だと優矢から言われていた。


 この状況は、その最終目標がいきなり達成されたのではないかと、考える。


(なんだか奇妙な話だ……けど、それで終わりじゃないよな)


 もうあんな騒動に関わることはないかもしれない。けれど命を救われ、騎士として仕えようと決意をした達樹。

 少なくとも彼女が事件で見せた、あの悲しい表情を出さないようにしたい。それだけは明確に感じていた。


(ま、だからこそ強く、か……)


 いつか彼女を守れる立場を。また別の決意が生まれ、達樹は誰にも見咎められない中で、しかと気を引き締めた――

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