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ナイトオブブルーローズ  作者: 陽山純樹
第4話

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決戦

 様々な考えが渦巻く中で、達樹と舞桜は少女の下へ向かう。

 警察の人間を始め、日町などはさらに人員を割くべきではないかと提案した。けれどそれを否定したのは舞桜だった。


「大人数だと、間違いなくあの子が混乱する。だからさらなる被害が出ないよう、結界を張ってほしい」


 むしろそちらの方が大変だと舞桜は言った。達樹も内心同意だった。舞桜と互角に渡り合える力を持っているのは間違いなく、そんな力を防ぐには大掛かりな結界が必要。

 また菜々子たちは――まだダメージがあるため今回は戦線離脱。


「達樹、舞桜のことをよろしくお願いします」


 そう菜々子に言われ達樹は頷き返し――舞桜と共に歩み続けた。


 やがて二人が到着したのは、海岸線の一角。コンクリートで固められ砂浜など一切存在しないひどく人工的な場所。近くには化学工場のような場所も見受けられたが、操業しておらず廃墟となっている。

 そうした中、少女は海を眺めながら佇んでいた。達樹と舞桜は彼女に近寄り、背を向ける相手に隣り合って立ち止まる。


「……来ちゃったか」


 どこかあきらめるような少女の声。振り返った先にあった表情は、穏やか。


「もう散歩は終わりかな」


(言及からすると、説得すればおとなしくしてくれるのか?)


 達樹はそんな淡い期待を抱いた。けれど、


「でも、もっと遊んでいたいなあ」

「それは、駄目だよ」


 舞桜が諭すように告げる。


「あなたのことはどうなるかわからない……でも、こんな風に勝手に行動されたら、立場が危うくなるの」

「それはわかってるよ。私の存在は『禁忌』ってことでしょ?」


 強調するように禁忌という言葉を口にする。


「でも、それを言うならお姉ちゃんだってそうじゃない」


 無邪気に、ナイフを突き刺すような言葉。けれど今の舞桜は動じなかった。


「そうね、私も同じ……だからこそ、多くの人から認めてもらわなければならないの」

「認められたら、散歩してもいいの?」

「そうね。そうかもしれない」


 少女は自分の姿を確認し始める。果たして自分が、舞桜と同じようにできるのか――そんな問答を胸中でしているように感じられる。

 戦う決意を胸に秘めここに来た。けれどもし、交戦せずに終わるのならそれでいい。達樹はどこか祈るような気持ちで少女を見守る。


 そして、


「……でも、私はお姉ちゃんのようにはなれないよ」

「ならなくていい。あなたはあなたのままでいいから――」


 その矢先だった。突然少女の体に、黒いものが浮き出る。それは血管のように全身を覆い始め、達樹たちを瞠目させる。


「……ああ、そっか」


 少女はそうした中、まったく変わらないトーンで呟いた。


「お姉ちゃんは許してくれる……それでも、私はどうにもならないよ」


 悟ったような口調。達樹はその時一つ確信する。

 彼女自身、無邪気でありながら自分の立場がどんなものかわかっている。


「こうやって外の世界に出ることは、捕まったらもう無理だよ」

「そんなことは――」

「色んな人に聞いたから知っているよ……私は、この世界にいてはいけないんだって」


 漆黒がさらに広がる。顔すらもそれに覆われ、異様な気配を滲ませる。


「この力はね、私の手で止めることはできないの。だからもう、お別れしよう?」

「あなたは――」


 言い終えぬ内だった。ガガガ、と軋むような音が響いたかと思えば、彼女が突如笑い始める。

 その光景は恐怖でしかなく、高まる魔力はまるで世界そのものを染め上げてしまうのではないかと思うくらいに濃密だった。


 達樹自身、舞桜と共に並び立っていなければ即座に逃げていたはず――


(恐れるな)


 心の中で達樹は呟く。対する舞桜は、この状況下で少女をじっと見据え、何事か思案している。


「始めよう、お姉ちゃん」


 言葉と共に、彼女は駆けた。それは瞬きをする程度の時間。

 たったそれだけの時間で、少女は舞桜と肉薄する。


 だが舞桜も反応した。右手に炎を生み出すとかざされた少女の右腕に対抗する。達樹もまたそこで反応。即座に後退を選択した。

 炎熱が周囲に生じる。以前達樹は菜々子が放った爆破系魔法を目の当たりにしたが――それを遙かに凌駕する舞桜の力。


 けれどそれに、平然と対抗する少女。


(力は互角……いや、違うな)


 達樹は理解できた。初撃を舞桜は対抗できたかに見えるが、その実魔力量で劣っている。

 少女の力はまさしく暴虐と呼べるものであり、まともにやりあっていればおそらく負ける。だが少女には技術がない。魔力を練り込むといった技法が確立されておらず、純粋な力押し。


 何をしでかすかわからない少女だが、こと戦法だけは直情的であるのだと達樹は確信する。


(なら……どうすればいい?)


 この戦場で自分はどう役に立つ――考えられるのは戦術構築だ。どうすれば少女に勝てるのか。

 追撃する少女の攻撃を舞桜は炎で振り払う。達樹が手出しできるような状況ではなく、だからこそ必死に考える。


 どう戦えばいいか――舞桜が三度少女の攻撃を払う。だがこれを繰り返してもジリ貧になることはわかっている。

 舞桜もまたどう戦えばいいか思考しているはず。しかし少女の力が考える余裕を与えてくれない。その無尽蔵とさえ思えるだけの力。いずれ限界がくるはずだが、果たしてそれを迎えるまでに舞桜の魔力がもつのか――


(……無尽蔵?)


 達樹はここで疑問を寄せる。というより違和感があった。


 無論、魔力が無限などということはあり得ないし、達樹もそう思っていない。だが際限なく噴出する魔力は、そうなのではないかと思ってしまうほど。

 そうした中で魔力以上に問題がある。それは――


 達樹がある結論に達した直後、舞桜はさらに魔力を引き出し少女を振り払った。炎と共に生じたのは風。それはまるで嵐のように変じ、少女の体が大きく吹き飛ばされる。

 少女は海まで一気に到達。豪快に着水し、盛大にしぶきを上げる。


「舞桜!」


 今しかないと達樹は察し、舞桜に駆け寄る。


「あの子の魔力が無茶苦茶なのはわかる……けど、体の方はどうだと思う?」

「体……」


 舞桜は呟き海を見据えた。


「それはあの子が魔力を抱えられるだけの力を有しているか、ということ?」

「いや、そうじゃないんだ。たぶん実験によりその辺りも調整はされていると思う……けど、その魔力を一気に放出する場合、絶対体に負荷がかかるだろ」


 ピクリと舞桜は反応――達樹は喋りながら自分の考えがおそらく正しいと察した。


 魔法に関する事故で多いのが、保有する魔力の扱いに慣れていなくて自身の魔法で怪我をする自傷行為。これは魔法を扱い慣れていない子供の時に多く、相当な無茶をやれば最悪死に至る可能性もある。


「彼女の魔法は力押しだ。それは内に抱える魔力が相当なものだから……けどそれを表に出す時、どうしたって体に負荷がかかるだろ? その辺りだってたぶん検証されていると思うけど……舞桜の魔法に対抗するだけの力を引き出す場合、さすがに体がいつまでも耐えられるとは思えない」

「……そうね。でもそれだけだと結局向こうが自滅するまで待つしかないってことになる」


 魔力が尽きるよりは早いとは達樹も思う。けれど舞桜が果たしてそこまで耐えられるか。

 その時、海から哄笑が聞こえた。少女の声。魔法をその身に受け明らかに楽しんでいる。


「達樹の言いたいことはわかった……そして、一つ策を思いついた」

「本当か?」

「けど、達樹も危険な目に――」

「今更だろ」


 その言葉で舞桜も頷く――そして、彼女は語り始めた。


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