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ナイトオブブルーローズ  作者: 陽山純樹
第4話

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二人で

「……う」


 達樹が次に気付いた時、そこは研究所の一室だった。

 ベッドで寝かされ、その顔を覗いているのは日町。


「大丈夫か?」

「あ……日町、さん……」

「私の方は、彼女にかばってもらったのでどうにかすぐに復帰したよ」


 指を差す。見れば隣のベッドに、菜々子が眠っていた。


「ただ、他の人達は全員再起不能だ。首謀者を含めて、な。ここは研究所の施設内。警察は既に到着して、色々と動き回っている」

「……定岡、さんは?」

「捕まったよ。私の友人である智美も、な」


 沈鬱な面持ち。達樹にとっても複雑な心境だった。


「……この研究室に、多少ながら資料があったよ。智美は『救世主』という組織の一員だった」

「救世主……前の騒動でも、同じことを言っていた人がいました」

「彼らは魔法によりこの世界を変革しようと思っていた、らしい。そして鍵を握るのがこの研究所に存在していた舞桜と似る、あの少女」

「魔法で……?」

「夢物語のようにも思える。だが、人工的に生み出された少女と舞桜の存在が、計画における最初の足がかりだったようだ。そこからどうやって変革しようと思っていたのかは不明だが、彼らの計画は少しずつ進んでいたわけだ」

「舞桜に干渉していたのは、彼らの仕業……?」

「そのようだ。結果的に少女が裏切った……いや、あれはおそらく彼らが制御できなかったと解釈すべきか。暴走したため、ご破算となった」


 語ると、日町は笑う。


「魔法に関する研究が、何かをきっかけにして崩壊するなんてよくあることだ。まだ全容を解明できていない分野だからな。まして、そうした発展途上の技術で人工的に生命体を生み出すなど……正直、作り話にしても出来過ぎだ」


 そこで、達樹は問い掛ける。


「舞桜は……どこに?」

「警察と連絡し合っている。どうやら少女が外に出たらしくてな」


 外に――それを止めるために、動かなければならない。


「彼女は外に出たいと言っていただけのようだから、下手に刺激さえしなければまだやりようはある。それに、舞桜に執着があるようだからな。それまではおとなしくしている……と、思いたいが」


 達樹はゆっくりと起き上がる。そしてベッドから下りた。


「大丈夫か?」

「痛みは、ないです」

「そうか。舞桜がどうやら達樹の方にも結界を張っていたらしいからな。それでダメージが緩和されたんだろう」


 舞桜が――ただ達樹としてはかなり戦々恐々となる事実だった。

 咄嗟とはいえ、舞桜の構築する結界は相当なものだ。それを平然と壊し、達樹に多少なりともダメージを与えた。これはつまり、舞桜よりも少女の方が力が強いことを意味しているのではないか。


「……警察側にしても、おそらく少女には対抗できない」


 日町は語る。その表情は、深刻だった。


「魔法使い相手には舞桜のような高位能力者に頼るのが実情だからな。舞桜自身戦う意志はありそうだから、どうにかなりそうではあるが」

「……舞桜は、大丈夫なんですか?」


 その問い掛けは、決して怪我などについて訊いたわけではない。それは日町も理解しているようで、


「……彼女自身、定岡の語ったことについて半信半疑というのが真実だろう」


 腕を組み語る彼女は、達樹からすればずいぶんと冷静に見えた。もしや――


「何か、知ってたんですか?」

「舞桜のことを調べたわけじゃない。ただ、彼女の経歴に疑問がつく部分もあったからな。ひょっとして、などと思っていたんだが……最悪な形で予感が当たってしまったな」


 そう語るが、日町の顔はそれほど悲観的ではなかった。


「だが達樹、君の言葉で舞桜はおそらくあの場で崩れ落ちることなく済んだ。だから――」

「支えますよ、何があっても」


 決然とした言葉。力強かったためか、日町は「頼む」と告げ、


「舞桜は外にいるよ。少し話をしてくるといい――」






 研究所の外に出た達樹は、周囲を見回し舞桜を発見する。警察の人間すら近寄っていないようで、来るなと言ったのかもしれない。

 ゆっくりと歩み寄っていく。足音に気付いたらしい舞桜は、あと数メートルといったところで、


「達樹?」

「ああ」


 沈黙する。達樹も立ち止まり、背中を見せる舞桜の言葉を待つ。


「……なんだか、夢でも見ている気分。自分の存在が突然崩れて、何もかも……」

「舞桜」

「わかってるよ、達樹の言いたいことは。達樹はきっと許してくれる。菜々子も、三枝さんも祖々江さんもきっと……でも――」


 達樹は、何も言わずに舞桜を背中から抱きしめた。彼女はそれを拒否することなく、ただ受け入れるだけ。


「でも、それでも……私がある意味全ての元凶で……あの子を止めなきゃいけないのに、足が動かないの……」

「舞桜……」

「わかってる、全部わかってる……私がやらなきゃいけないことも、みんなが私のことを許してくれるのも……でも……」


 達樹は何も言わなかった。言えなかったというのが正しいかもしれない。


 舞桜の言うとおり、達樹や他の仲間は誰一人彼女の過去について、糾弾することなどしないだろう。もしこの騒動が終わっても舞桜の存在が公になるようなことには日町や警察がしないだろうし、元の日常が戻ってくるに違いない。


 だが、それでも――知ってしまった以上、関係性は変わってしまう。


「達樹は、私のことが憎くないの?」

「……姉さんのことを言っているのか?」

「うん」

「正直、実感が湧かないっていうのが正解かな。でも、一つだけ言うとしたら――それは決して、舞桜のせいじゃない」


 達樹は述べながら、言葉を選び続ける。


「もし馬鹿げた実験がなかったらとか、色んな想像はできる。けれど後悔してもどうしようもないし、俺も恨むつもりはない。俺の両親や、他の人がどう考えるかはわからないけれど、俺は舞桜のせいだとは思わないし、考えを変えるつもりはない」


 そして――達樹は静かに息を吸い、


「……どういう経緯であろうとも、俺は舞桜に命を助けられた。そして舞桜のことを大切に思ってるよ」

「達樹……」

「だから、ほんの小さな力だけど支えさせてくれ。舞桜がどういう存在であろうとも、俺はずっと味方でいるから――」


 舞桜は何も言わなかった。達樹からは彼女は俯き顔は見えていないが、雰囲気から泣いているのだとわかった。

 長い沈黙が訪れる。やがて達樹が舞桜から離れると、彼女は静かに袖で涙を拭う。


「……達樹」

「ああ」

「本当にありがとう」

「お礼を言われることはしていない……いや、これでおあいこ、かな」


 彼女が振り向く。既に表情は戻っていた。


「……私は、あの子を止めないと。どういう経緯であれ、私はあの子と関わりがあるから」

「大丈夫か?」

「うん……それで――」

「付き合うよ、俺はどこまでも」


 沈黙が訪れる。舞桜は黙って達樹を見返し、風が二人の間を流れる。


 やがて、


「……無茶だけは、しないでほしい」

「わかってる。俺はむしろ舞桜の方が心配なんだけど」


 その言及にクスリと笑う彼女。


「私も善処する……達樹」

「ああ」

「改めて、言うよ……一緒に、戦って欲しい」


 その言葉で、達樹は無限に力が湧いてくるような気がした。

 彼女と共に戦う――それが果てしなく遠い願いであったけれど、今この時、ほんの一時ではあったが叶えられたような気がした。


「ああ……絶対に、止めるぞ」


 舞桜は頷く――そして二人は、歩み始めた。


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