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ナイトオブブルーローズ  作者: 陽山純樹
第4話

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少女の覚醒

「……な」


 少女の開眼に、達樹に遅れ菜々子も気付いた。他の面々もその後どんどん注目していく。

 その瞳の先――そこに誰がいるか、達樹にも容易に想像がついた。


「……あ」


 舞桜が反応したその瞬間、水槽の中が突如、光に包まれた。


「どうやら、彼女も目覚めたいらしいな」


 定岡が悠然と語った――その直後だった。


 光が消える。そこに、女性の姿はなかった。

 達樹は慌てて周囲を確認する。水槽の横、そこに、彼女がいた。


「転移魔法だな」


 定岡が告げる。水槽から抜け出ただけだが、その異常性がはっきりと浮き彫りになる。


「彼女の力の一端だ。その力は、この場の誰よりも――」


 定岡が解説をしている途中、少女が動き出す。

 ペタペタと裸足で歩く。そして定岡の近くへ。


「……どうした?」


 定岡が尋ねる。その時達樹は背筋が寒くなった。

 何か――言いしれぬ不安感。目の前の少女が何をするのか予想が付かない。


 いや、より正確に言うならば、こうするのではないかという考えが浮かんでいた。けれど達樹は動けない。

 少女が周囲を見回す。一度だけ目が合うと、達樹はドクンと一つ鼓動が大きく鳴った。


 達樹たちは少女の動向を窺い、動けない。そうした中で、定岡は少女の頭に手を置いた。


「……悪いが、君に――」

「邪魔」


 一瞬だった。達樹たちが反応するよりも前に、全てが終わっていた。

 瞬きをした直後、定岡の体がすっ飛んでいく。全員が何事かと見張った矢先、近くにいた手島の体も宙に浮いた。


「が――」


 床に倒れ伏す定岡。ただ吹き飛ばされただけでなく、何かしら魔法を食らったか――

 刹那、少女の足下が突如発光した。罠だ、と達樹が認識し、その光が少女が一気に包み込んだ。


「拘束型の魔法……!」


 菜々子が呟く。魔法発動を感知した直後、使用者を拘束する魔法だと達樹にも理解できた。少女の場合、魔法起動が早かったため、罠発動が一歩遅れたということか。


 光が彼女を包み、一気に――そう思った矢先、パアンとガラスの割れる音が聞こえ、いとも容易く少女は拘束魔法を抜け出した。


「……面倒」


 その言葉の直後だった。突如、彼女は右足を上げ、床に勢いよくたたきつけた。

 そんなことをしても、当然床がどうにかなるはずもない――刹那、変化が起こった。足下に魔力を送り込んだか、周囲の床が光り輝いた。


 次に発せられたのは、軋むような音と床から伝わってくる振動――


「なっ……!?」


 菜々子が呻く。それと同時、ガガガガ、と何か来られるような音が聞こえ――研究室全体が鳴動を始めた。


「罠を魔法で無理矢理破壊したのか……!」


 日町が叫ぶ。どこかに存在していた罠を発動させる機能を、足を介し破壊したというのか。

 無茶なやり口に全員が少女を警戒する。だが当の彼女は罠を破壊し動かない。後方に呻くように倒れる首謀者達の姿はあるが、どうやら命まではとっていない。


「……あなたは」


 菜々子が口を開く。少なくとも敵対している雰囲気ではない。よって、話ができるかもしれない――そういう希望的観測から、干渉しようとしたのかもしれない。


 だが――少女は舞桜に視線を向け、笑った。


「……お姉ちゃん」


 ビクリ、と舞桜が大きく震える。


「……お姉ちゃん?」

「――やめて」


 拒絶の言葉。まったく同じ顔をする少女に対し、舞桜はただ否定するしかない。

 しかし少女の方はそれを認識したのかしていないのか。小首を傾げ近づこうとする。


 刹那、舞桜の手がかざされる。達樹は嫌な予感がして声を挟もうとした。だが、決定的に遅かった。

 舞桜が魔法を放つ。業火が生じ、真っ直ぐ少女に当たる――


「駄目だよ」


 けれど、少女はそれを、手で弾き飛ばした。


「え……?」


 菜々子が呻くのを達樹は聞いた。舞桜の攻撃すら、通用していない。


「残念だよ、お姉ちゃん」


 そして呟く。達樹はここで背筋がゾクリとなり、


「全員、ここから逃げろ!」


 その言葉も間に合わず、少女が右手を掲げる。

 直後、発せられたのは激しい光。誰もが呆然とする中で――その魔法は炸裂した。


 達樹はそうした中でどうにか回避を試みようとする。けれど、なすすべが無く、光に飲み込まれた――



 * * *



「っ……」


 舞桜は光の中で呻く。気付けば防衛本能からか、結界を構築し自身の身を守っていた。

 その中で、様々な思いがよぎる。目の前の少女の存在、自身の出生。そして達樹の決意。


 自分という存在が崩れ落ちたような気がしたけれど、それを達樹が支えてくれた。彼には申し訳なく思う。彼からは色んなものを奪ったはずなのに――

 その中で、光が途切れる。少女は何事もなく立っており、微笑を浮かべていた。


 気付けば舞桜以外の誰もが床に倒れていた。最悪の状況を一瞬想像したが、気配ですぐに生きているとわかる。


「大丈夫だよ」


 そして少女は舞桜に告げる。


「人は殺しちゃいけないんだよね?」

「……あなた」

「前にね、人を殺しちゃったら色んな人に怒られたの。遊んでくれなくなったし、ご飯も食べさせてもらえなかった。だから殺さないよ?」


 何か――そう、何かおかしい。


 というより、少女にとってはこの研究所の中にいることで世界が完結していて、倫理観など持ち合わせていない。

 舞桜は自分と同じ顔を持つ少女を見据え、どうすべきか考える。


 魔法は通用しなかった。おそらく自分よりも遙かに強い存在なのだろう。

 けれど、彼女を止めなければならない――しかし、どうやって。


 能力は圧倒的に彼女の方が上。舞桜一人で対抗できるとは思えない。

 ならば、どう戦えば――悩んでいた時、少女は手をポンと叩いた。


「そうだ、やりたかったことをしよう」

「え……?」

「お姉ちゃんも、少し時間が経てば落ち着くよね?」


 彼女は何を言っているのか――舞桜が呆然とする中で、彼女は続ける。


「一度、外に出てみたかったんだ」


 その言葉、舞桜にもどういうことを意味するかわかった。もし彼女が他人と出会ったらどうなるのか。


「ま、待ちなさ――」


 言い終えぬうちだった。彼女の姿が途端にかき消える。転移した――


 舞桜はすぐに追おうとして、どうにもできないと悟る。彼女を止める術が見当たらない。そして達樹たちを放置しておくこともできない。


「みんなを、起こさないと……」


 いや、それよりも警察に連絡か――舞桜は思考がまとまらない中で、行動を開始した。


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