プロローグ 『十年前』
少年は歩く。焼けた町を。
町を一つ焼き尽くすほどの大火災。
いろんなモノが燃えてしまった。買ってもらったばかりのランドセルも机も。
お気に入りの玩具は腕に抱えられるだけ持ってきたが、残りは全部燃えてしまった。
仕方が無い。無理に全部を持っていこうとすれば逃げ遅れていただろう。
玩具を取りに戻って焼け死んだ子供もいたようだ。この少年も取りに戻ろうとしたが、母親に無理やり引き戻された
少年は生き残った。
火が完全に消し止められ、焼けた町は少年のように探し物や探し人をする人間が数人歩いている。
少年の探しモノ。それは物ではない。それだけは分かっていた。
少年は探す。それが何か分からないまま。
女は焼けた町を見て、崩れ落ちた。
金髪は灰にまみれ、美しく整った顔は涙でドロドロになり見る影もない。
目の前には無残に焼け落ちた建物が並んでいる。
これは公私の私を優先した結果だ。
仕方がない。彼女は母親だ。自分の子供を真っ先に助けに行ったことを誰が咎められよう。
しかし、その結果として、町が、多くの人々が傷つくことになった。
勿論、火を放ったのは彼女ではないし、彼女一人でどうにかできることでもなかった。
――でも、止められたかもしれない。
少しでも可能性があったから、己を責めている。
少年は探し当てた。
それは、幼い少女だった。
衣服はボロボロだが、その身体は傷一つない。意識は無かったが、確かに息はある。
少年は母親を呼んできた。
母親はその光景を見て涙した。その涙は自身を責めてのものではなく、純粋な喜びと安堵から流れたものだった。
少年はこの瞬間、二人の人間を救ったのだ。
一人は心を、一人は命を。
『生きてる…この子、生きてる!!』
少年は、少女を抱き歓喜する母を見て微笑んだ。
普段、少年が拾ってくるモノで母はこんなに喜ぶことはない。
それもそのはず、大抵のモノがおまけに面倒事が付いてくるからだ。
多分、その少女も面倒事を抱えているのだろうが、そんなことを考えることは無く母は喜んでいる。
それほどに嬉しかったのだろう。少年も嬉しくなった。
『ねぇ、おかあさん。この子、連れて帰ってもいいかな?』
母親は何も言わずに頷いた。
そして十年後。
今、少年はその少女と兄妹として暮らしている。
あれから四人家族となり、新しい町の新しい家で新しい思い出を作ってきた。
「もう十年も経つのか。」
少年は覚えている。彼女を焼け跡から助けだした事、初めて『兄さん』と呼んでくれたことを。
少年にとって妹は、これまでに拾ったどんなモノよりも大切な存在になったのだ。
「そんじゃぁ、行ってきます!」
「あ、兄さん!お弁当忘れてる!」
「お、ありがとな。改めて、行ってきます」
「いってらっしゃい」
今日は帰りに何か買って来てやろう。そう思って少年はバイト先がある商店街のへ歩いて行った。
ちなみに彼はおみやげを買ってくるのを忘れる。そして、代わりにある厄介な拾いモノをしてくるのだった。
その拾いモノによって、緩やかに流れていた運命の針は急速に動き出す。
十年越しに、大切な拾いモノに秘められた面倒事が明らかとなる―――。
遅れましたが、プロローグを投稿しました。
前後が逆なって混乱される方もいるかもしれませんが、初めてなので分からないことばかりで。
言い訳をしてもどうにもならないので、これからはちゃんと考えて書いていきます。