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洞窟暮らしの魔族の娘に転生しても、皇子様と結婚したい  作者: 渓夏 酔月


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40.雪山

 結局、ハンス先生はエルフレッド山から戻ってくることはなかった。


 山岳兵による捜索隊が編成されたが、大量の積雪と雪崩の危険により、エルフレッド山の麓の近くに行っただけで引き返してきた。捜索隊は付近の岩場と雪面に赤い塗料を撒いてきた。つまり夏頃に雪が解けて、この赤い塗料が見えてきた時に遺体探しを行うということだ。捜索隊はハンス先生の生存は絶望的だと判断した。


 わたしは捜索隊の隊長から話を聞いた。捜索隊はハンス先生のエルフレッド山の山頂直下からのびる、スノーボードのシュプールを遠目で目視しただけだった。遺体や、装備の一部を発見したわけではない。わたしにはどうしても、あのハンス先生が死んだなどとは思えなかった。


 ハンス先生の捜索を再開してほしいと懇願するわたしに、捜索隊長は『夏に遺品の一部でも出てくれば儲けもの、雪山の事故とはそういうものです』と言った。


 最初の一週間は、捜索隊も活動し、王宮のみんながハンス先生のことを気にしていてくれたが、二週間、三週間と日が経つうちに誰も気にしなくなってしまった。


 蝙蝠(こうもり)達にハンス先生を探してくれるように頼んでみたものの、もう少し温かくならないと嫌だの一点張りだった。


 わたしは毎日、王宮からエルフレッド山の方を眺めて、点のように動くハンス先生を発見出来ないか探した。


 ひょっこりハンス先生が帰って来ているような気がして、毎日ハンス先生の部屋を見に行った。


 ハンス先生の部屋では、同じように心配して見に来ているエリーゼとメアリーとちょくちょく顔を合わした。そんな時、決まってお互い気まずそうな顔をした。わたしは二人を見かけると、無言で部屋を出て行った。みんな一緒の想いのはずなのに。


 ある日、わたしがハンス先生の部屋を見に行くと誰もいなかった。わたしはひとりでゆっくりと部屋の中を見わたした。ハンス先生の机は、本や書きかけの書類、作りかけの変な金具などが取っ散らかったままだった。


 ハンス先生は山に出かけるとき、身の回りの整理整頓をすると帰って来られない気がすると言って、片付けをしないで出かけていた。まあ、結局どっちにしても整理整頓なんて、ハンス先生には出来ないのだけれど。


 わたしはハンス先生に初めて出会った便所坂診療所での日々を思い出していた。あの診療所もかなり汚くて、掃除が大変だった。でも、さすがのハンス先生も、患者さんの寝るベッドだけは綺麗にしていたな。


 初めて男の子の傷を治した時、おばあさんの膝を治療した時、思えばハンス先生にはいろんなことを教えてもらった。そもそも、ハンス先生に命を救ってもらわなければ、今ここにいる自分だっていなかった。


 後ろで静かに部屋のドアが開く音がした。振り返るとエリーゼが立っていた。


 わたしがエリーゼを見ると、エリーゼの目から涙があふれだしてきた。


「エリーゼ……泣いているの?」


 とわたしが聞いた。


「グレア、あなたが泣いているからよ」


 エリーゼにそう言われて、わたしは自分が泣いていることに気づいた。


 エリーゼが近づいてきて、わたしを抱擁してくれた。


 わたしは、嬉しくって悲しくって寂しくて、大声を上げて号泣してしまった。エリーゼもわんわん泣いていた。二人で大泣きした後、お互い顔を見合わせて笑ってしまった。


「エリーゼ、ごめんなさい。あなたのことを酷くいじめてしまって。わたし、皇太子様をあなたに奪われないか不安だったの」


 エリーゼがわたしの顔の涙を拭いてくれる。


「わたしの方こそごめんね。あなたのことが憎くて妬ましくて悔しくって。最初に魔力勝負をけしかけたのはわたしよ。本当にごめんなさい」


 そう言ってエリーゼとわたしは、もう一度抱擁した。エリーゼの体温の温かさがとても嬉しかった。


「ハンス先生は絶対帰って来るわ。だってハンス先生ですもの。それはいつも一緒だったグレア、あなたならわかるでしょ」


 そう言って、エリーゼはまだ泣いているわたしの涙を拭いてくれた。


「絶対帰ってくる。帰ってきたら、わたし達をこんなに心配させたこと、たくさん怒ってやらないと」


 わたしは泣きながら笑顔でそう言った。


 その日以来、ハンス先生の部屋でエリーゼとちょくちょく一緒に過ごすようになった。


 わたしが国母陛下に頼んで、エリーゼをもとのオーベルト伯爵家に戻してもらっても、エリーゼはハンス先生の部屋にやって来てくれて、わたしとお茶を飲んだり、おしゃべりをした。


 わたし達が仲直りして、意外にもメアリーがとても喜んでくれた。メアリーもわたし達のことをきっと心配してくれていたのだろう。


 エリーゼとメアリーと三人でおしゃべりをしていると、心が落ち着く。おしゃべりの内容は、ついついハンス先生とのとんでもない出来事や苦労話になってしまうことが多かった。王宮で一人ぼっちになってしまったわたしを慰めるために、この二人はハンス先生からのプレゼントではないかと思った。


 王宮の外の吹雪も止む日が多くなり、陽射しが徐々に力を持ち始め、雪の斜面に割れ目が出来始めた。夜中に、生き物として本能的に恐怖を感じるようなもの凄い雪崩の音がする。朝になって見ると、今までの雪の斜面が崩れ落ち、土肌が出ていた。


 大地が春の訪れを告げている。わたしの婚礼が近づいてきた。



次回最終回です。

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