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洞窟暮らしの魔族の娘に転生しても、皇子様と結婚したい  作者: 渓夏 酔月


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38.吹雪の夜

 昨夜はいろいろと考えたら眠れなかった。


 明け方、窓から朝日が差した山の斜面を見ると、上の方にもぞもぞと動く黒い点が見えた。良く見なくてもハンス先生だと直感的に分かった。


 ハンス先生は、その山の頂上から垂直に見える雪の急斜面に向かって滑り出した。相変わらず何をやっているのか。雪崩にでも遭ったらどうするのか。見ていて心配で腹が立ってくる。


 ハンス先生は小さな稜線をジャンプすると、板をくるくる回して着地し、そのまま猛スピードで落下するように滑り降りて行った。スノーボードというものは、ターンしながら滑っていくものと思っていたが、ハンス先生は300mくらいの距離を、大きく一回しかターンしない。


 最初は心配で心臓が止まるのかと思ったが、朝日をうっすらと浴びた雪の斜面を猛スピードで滑り降りる美しさに、途中から心を奪われてしまった。


 やっぱりハンス先生はすごい。


 岩壁をためらうことなく登っていくハンス先生を思い出した。


 ああ、昨日の夜はお酒も飲まずに山頂まで登っていたのかな。下山したからと言って飲み過ぎたりしないでほしいな。


 ついいろいろなことを考えてしまうが、ハンス先生はもうわたしのことなんか考えていないだろうかと思うと、とても悲しい気持ちになった。


 この日はわたしにすり寄ってきている貴族の令嬢たちとお茶会をしたが、いつもは聞いていて気持ちの良い彼女達のおべっかも、虚しく感じた。


 その夜、外は猛吹雪だった。明日のお昼ごろまでは吹雪が続くらしい。これなら今夜はハンス先生は部屋にいるはずだ。


 わたしは侍女も連れずにハンス先生の部屋にお酒を持って出かけた。


 夜の薄暗い王宮内をハンス先生の部屋に近づくと、明かりが灯っていて中から声がした。


「おい、エリーゼ、いいねいいね。ワックスかけるの上手くなってきたな」


「きっとアイロンがけが上達したせいですわ。ブラシをご用意してください」


「おうよ。この地道な作業が良い滑走に生きるんだぜ。あ~、パウダー超たまっているだろうなあ」


「わたし、もっと幅の広い板ほしいです」


「良いねメイリー。分かってきたね~」


 わたしはハンス先生の部屋の前で立ち尽くしてしまった。


 中からは楽しそうな声が聞こえる。ついちょっと前まではあの中には常にわたしがいたはずなのに。


 わたしが気にせずお酒を持って部屋の中に入っていけば、きっとハンス先生は歓迎してくれるだろう。扉を隔てたすぐ向こうにはハンス先生がいる。でも、その距離はとてつもなく遠く感じられた。


 わたしは扉の近くに持って来た一升瓶をそっと置くと、自分の部屋に帰って行った。



あと、残り三話です。

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