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洞窟暮らしの魔族の娘に転生しても、皇子様と結婚したい  作者: 渓夏 酔月


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37.スノーボード

 わたしの侍女達から聞くところによると、その日以来エリーゼは、国母陛下の手前、元の伯爵家に帰ることも出来ず、ハンス先生の部屋で寝泊まりしているらしい。


「あんなおじさん医師と一緒の部屋で同棲しているなんて、伯爵家も落ちたものですわ」


「エリーゼがそんな淫乱だとは思いませんでしたわ。やっぱりアベル様には似つかわしくなかったのですね」


 侍女達が口々にわたしにそう言う。


 エリーゼがハンス先生と親しくしているなんて許せない。ハンス先生のことを一番よく分かっているのはわたしのはずだ。ハンス先生が一番信頼してくれているのはわたし以外いない。


 わたしは国母陛下から信頼されている皇太子様の婚約者だ。誰もがわたしのご機嫌をうかがっている。ハンス先生にエリーゼと親しくしないように命令しようか。


 そんなこと無理に決まっている。ハンス先生には皇太子様の婚約者とか伯爵とかも通じない。悪いのはわたしだ。アベル様の元カノだからってエリーゼをいじめていたわたしが悪いのだ。そんなことは分かっている。


 窓の外を見ると、王宮の雪の斜面でハンス先生とメアリーとエリーゼが楽しそうにスノーボードで遊んでいる。ハンス先生がエリーゼの両手を持ってスノーボードを教えていた。三人とも雪まみれになって笑っていた。


 ふと気づくとわたしは泣いていた。どうして涙が流れているのか分からない。貴族になって、皇太子様の婚約者になって、ライバルの伯爵令嬢を蹴落として、この世界のヒロインになったというのに。


 こんな時はイケメン婚約者に慰めてもらおう。


 わたしはアベル様の部屋に遊びに行った。


「アベル様、わたしのどこがそんなにお好きなのですか」


 男性が嫌がると聞いたことのある質問を、ついアベル様にしてしまった。


「魔力が強いところかな」


「そのほかには?」


「う~ん……やっぱり魔力が強いところかな。だって僕の子供は将来王位に就くわけだから、魔力が強いほうがいいよね。だったら母親の魔力が強いほうが、より子供の魔力が強まるからいいじゃないか」


 わたし達の子供! 顔が赤くなるのを感じる。アベル様はわたし達の子供のことまで考えていてくださったのだ。幸せだ。エリーゼのことなんてどうでもよくなった。


 その日の夜、月に一度の国母陛下や国王夫妻などとの夕食会があった。


「そろそろアベルとの結婚式の日取りを決めないとな」


 国王陛下がおっしゃった。


「ツルネホルンでは昔から冬が明けた春に結婚式を行うのが良いとされています。次の春の吉日に執り行うのが良いのではないでしょうか」


 王妃様がそう提案された。


「それが良い。次の春の吉日のうち、もっとも吉兆の日を宮廷占星術師に調べさせよ。そしてその日を結婚式として国民及び外国にも知らしめよ」


 国母陛下がそう言うと、執事がそれを受けてどこかへと伝えに去っていった。


 とうとう冬が終われば結婚式だ。結婚式が終われば正式に皇太子妃。もうわたしの地位を脅かすものはいない。ああ、皇太子妃って素敵な響き。


「ありがとうございます。国母陛下、国王陛下、それに王妃殿下。より良い皇太子妃になれるよう努力いたします」


 わたしはそう言って頭を下げた。


 国母陛下がわたしを見て満足そうに言う。


「グレア。お前は近年稀に見る魔力持ちだ。強い魔力を持った子供を産むことを期待しているぞ」


「ご期待に沿えるよう頑張ります」


「この国は小国。周りは強国に囲まれておる。国王が強い魔力持ちとなれば、迂闊に手を出すことは出来なくなる」


 国王陛下が期待を込めてわたしを見てくれる。


「ありがとうございます。必ず強い魔力を持つ子供を産みます」


 ああ、この王国の王家の方々は、みんなわたしに期待してくれる。ちょっとお願いしてもいいかもしれない。


「国王陛下、結婚式が終わって落ち着いたら、ハンス先生と一緒に国民の治療を行ってもよろしいでしょうか。そうすれば、国民の王国への信頼も一層増すことになると思います」


 メアリーとエリーゼがいてもハンス先生の役には立たない。わたしの魔力が無ければハンス先生も困るはずだ。


「そんなことはしなくてもよい。強力な魔力を持つ世継ぎを産むことに専念せよ」


 国母陛下がピシャリと言った。


「そうですよグレア。余計なことはしなくてもよいのです。あなたにはお世継ぎを産むという立派なお役目があるのですよ」


 王妃殿下がやさしく微笑みながら言った。


「そうだよグレア。街中に出て、体でも壊したらどうするんだ。ましてや病人の世話など、世継ぎに何かあったらどうするのだ」


 国王陛下はさも心配そうにおっしゃった。


 アベル様の方を見ると、特に関心もなさそうにお食事をされている。


「ああ、そうですね。街中に出て、何か感染症にでも罹ったら大変ですものね」


「そうだよグレア。あまり私を驚かせないでおくれ」


「申し訳ありません、国王陛下。冗談です。おほほほほ」


 わたしは作り笑いをしてこの話をおしまいにした。



 その夜、何だかわたしはたまらなく不安になり、窓を開けて蝙蝠(こうもり)を呼んだ。


 必死に呼んでも何も来なかったが、しばらくしてようやく一匹よろよろと飛んできた。


「お願い。お父様とお母様にどうしたらよいか相談したいの。伝えてくれる?」


「チョウサムイ。ムリ。ハルニナッタライクヨ」


 そう言って蝙蝠はよろよろと飛んで行ってしまった。


 わたしにはまともに相談出来る人もいないのか。これでは元の世界にいた時と同じだ。いや、ハンス先生といた時は違った。ハンス先生と話したり、酔っぱらっているハンス先生に怒っているうちに、いろいろなことを考えたり決めたり出来ていたような気がする。


 ハンス先生はどうしてわたしの部屋に一度も遊びに来てはくれないのだろうか。ひそかに美味しいお酒も準備しているのに。もうエリーゼの件で、わたしに呆れてしまったのだろうか。エリーゼはハンス先生に、わたしがした仕打ちのことを話しているに違いない。


 わたしは一人きりで泣いた。アベル様でもない、ハンス先生にそばにいてほしいと思った。




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