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洞窟暮らしの魔族の娘に転生しても、皇子様と結婚したい  作者: 渓夏 酔月


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33.国王陛下

 国王陛下は気さくな方だった。


 失礼なハンス先生の行為を全く気にせず、さらにお酒を勧めてくれた。


「いや、実はハンス先生とグレア殿の動向はかなり前から把握しておりました。お二人がどのような高名な方かも存じ上げております」


 国王陛下はわたし達に説明してくれた。


「ツルネホルン王国は強国に囲まれた小さな山岳国家です。攻め入るには周囲を険しい山々が囲い、多大な犠牲を強いられます。その割に国土は山ばかりでたいして農業生産力もなく、資源に恵まれているわけではない。つまり、侵攻しても労多くして得るものが無い、というわけです」


 確かに、王妃軍も岩壁の下で恨めしそうに見ているだけだった。


「とは言っても気まぐれでどの国からいつ攻められるか分かりません。そのようなときに備え、このような小国が得ておくべきものは情報です。常に最新の情報を把握し、大国の先手を打てるようにしているのです」


 国王陛下は魔族? 話を聞いているうちに何となくそんな気がした。


「それでお二人のことも把握しておりました。特にグレア殿、あなたの魔力は素晴らしい」


 国王陛下のことを魔族かと思っていたことがばれたのだろうか。急にわたしの魔力の話になってびっくりした。


「そうです。わたしには半分魔族の血が流れています。わたしの母は魔族なのです」


 わたしは驚いて言葉を失った。いままで貴族の人たちの間には、魔族を差別する感じがあると思っていた。それなのに国王陛下の母君が魔族ってどういうことなのだろうか。


「驚かれるのも無理はありません。この山岳国家ツルネホルン王国は国土の大半が険しい山々です。必然的に国民の中には多くの魔族がおります。当然貴族の中にもです。なので、この国には魔族に対する他国での様な差別はありません。魔族の国なのです」


「魔族の国……」


「そうです。魔族の国です。グレア殿のような魔族が堂々と、普通に暮らしていける唯一の国なのです」


「魔族が奴隷にされないのですか」


「当り前です。国民は魔族もそうでない者もすべて平等です。同じような権利があるのです」


 わたしは感動して泣きだしてしまった。思えば奴隷として売られそうになった時から、常に自分が魔族であることに怯えていた気がする。ここではそんな怯える必要が無い。魔族が普通に暮らせる国、何て素晴らしいのだろう。


「ですから、お二人には気の済むまでこちらに滞在していただいて構いません。もうすぐこの辺りは雪が降ります。雪が降っては国境から出ることも入ることも出来ません。春になるまででも、御滞在されてはいかがですかな。当然、王宮でお好きなだけ自由に暮らしていただいて構いません」


「酒も飲み放題か?」


「当然です。ハンス先生のような御高名な医師が、我が王国にいてくださるだけでありがたいことです」


「じゃあ、ここにいる~!」


「ありがとうございます。ところで、わたしの母がお二人に会うのを非常に楽しみにしております。どうかお会いしていただいてもよろしいでしょうか」


「いいよ」


「では、わたしは支度をしてまいりますので少々お待ちください」


 国王陛下はそう言って退出された。


「国王陛下のお母様、つまり国母陛下はこの国の実質のナンバーワン。一番偉い人ですよ~。こんなにすぐに謁見できるなんて、お二人はすごい方なんですね~」


 給仕のメイリーが笑顔でわたしに教えてくれた。


 腰の低い国王陛下の母君。悪い予感しかしない。


 ついこの前、腰の低い国王陛下の王妃はとんでもない人だった。腰の低い男性の周りにはきっとものすごく気の強い女性がいるのではないだろうか。地獄牢……あそこだけはもう嫌だ。


 どうしよう、ここは山のかなり上に位置する宮殿だ。逃げるには先ほどのエレベーターを使わないといけないが、周りには衛兵の人がいたはず。


 わたしが頭の中で逃亡のシュミレーションを目まぐるしく繰り返している中、ハンス先生はのんきにまたメアリーにお酒のお代わりを頼んでいた。この能天気さには本当に腹が立って来た。


「ハンス先生、逃げましょう。ここにいては危険な気がします」


 わたしは周りに聞かれないように、ハンス先生の耳元にささやいた。


「うひゃ、くすぐったいぞグレア」


「くすぐったいじゃありません。国母陛下が厳しい人だったらどうするんですか。逃げましょう」


「うひゃひゃ。俺耳弱いんだよ、やめてくれよ」


 ダメだこの男は。お話にならない。この男を頼ったわたしがバカだった。


「どうぞ、国母陛下が広間でお待ちです」


 扉が開くと、執事の方がわたし達を迎えに来た。


 ああ、もう、どうしよう。女神様、わたしはどうすればよいのでしょうか。



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