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洞窟暮らしの魔族の娘に転生しても、皇子様と結婚したい  作者: 渓夏 酔月


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32.ツルネホルン王国

 翌朝、明るくなってから下山を開始した。


 特に危険な個所もなく、ツルネホルン側に下山することが出来た。


「良かったらお礼をしたいのですが。うちに寄っていただけませんか」


 アベルさんがわたし達にそう言った。


「アベル様、却って失礼ですよ。お二人は早く二人っきりになりたいのではないかしら」


 わたしは初めて人をぶん殴りたいと思った。何だこの女。


「でも、助けていただいて何もしないのはちょっと。あのままだと遭難になっていたよ」


「まあ、それは……そうかもしれないけど」


「ハンス先生はお酒がお好きなようだ。うちには良いお酒もあります。いかがですか」


「お邪魔します!」


 ハンス先生が即答した。エリーゼが露骨に嫌な顔をする。ハンス先生の無神経な態度を初めて応援したくなった。


 エリーザがすれ違いざまにわたしに耳打ちした。


「あなた、ちょっと魔力が強いからって調子に乗らないで頂戴」


 ああ、あからさまに敵意を向けられた。何か分からないがわたしの中にめらめらと燃え上がるものを感じた。絶対この女には負けたくない。


 麓の町まで歩くと、アベルさんが馬車を借りてくれた。


 アベルさんとエリーザの乗った馬車の後に、ハンス先生とわたしの乗った馬車がついて行く。アベルさんはお金持ちそうな感じだったけど、馬車を二台も借りるって結構お金がかかるのではないだろうか。


 馬車はいつしか大きな街に入ってきた。少し古びてはいるが、石造りのしっかりした建物が多い歴史を感じる街だ。その奥に山を利用して建てられている王宮が見えてきた。下から見ると山と王宮の建物が一体になっており、王宮の数々の尖塔が、山の峰のようで美しい宮殿だ。


 あとであの王宮をよく見てみたいなあと思っていると、馬車は王宮へと入って行った。


「おかえりなさいませ、アベル様、エリーゼ様」


 王宮の衛兵が二人にそう挨拶をする。


 ひょっとしてこの二人、結構偉い人だったのではないだろうか。


「後ろの馬車のお二人は、わたしの客人だ。わたしの客間に案内してくれ」


「かしこまりました、アベル様」


 ハンス先生とわたしは、衛兵に案内されて大きな部屋に入ると、エレベーターのようなものに乗せられた。聞くと水力を使った仕掛けで、これに乗って山の上部に位置する王宮の部屋に登っていけるらしい。


 エレベーターから出ると、執事のような男性が待ち構えていた。


「アベル様とエリーゼ様がお世話になったそうで、ありがとうございます。ここは田舎の山城で大したおもてなしは出来ませんが、どうぞごゆるりとおくつろぎください」


 そう言って案内されたのは、展望風呂だった。山を利用した王宮だけあって、お風呂からの眺望は、山の上から眺める景色のようで素晴らしかった。先ほどまでいた街並みが小さく見える。


 戦闘に巻き込まれて逃げ回り、岩壁を登って野営した後のお風呂は最高だった。隅々まできれいに洗って、髪を整える。あのエリーゼよりも綺麗だってことを見せつけてやる。


 用意されていた着替えを着て、すっきりしてお風呂場から出ていくと、客間に案内された。豪華なお料理とお酒が並んでいた。


 ひょっとしてあの二人は相当に偉い人ではないだろうか。わたしは偉い人に何か失礼な態度をとっていたりしていないだろうかと、ちょっと不安になってきた。


「あの~、アベルさんてどういうお方なのでしょうか」


 わたしは恐る恐る給仕の女性に聞いてみた。


「ツルネホルン王国の皇太子様ですよ。イケメンですよね~。この国の女子全員の憧れです!」


 あ~、何てことだ。わたしは皇太子様のことを『アベルさん』とか呼んでいた。


「え~と、エリーゼ……さんというのは……」


「はい! アベル様の婚約者で、この王国の有力貴族、オーベルト伯爵家の御令嬢です。お美しいですよね~。美男美女ってこのことを言うんだと思います。ため息出ちゃいますよね~」


 わたしがひそかに敵認定していたのは未来の王妃様だった。


「ねえちゃんもう一本これくれ~」


 まだお食事も始まっていないのに、もう一本お酒を空けている。ハンス先生は何をやっているんだろう。また失礼な事をしでかして、地獄牢とかに入れられたらどうしよう。


 わたしはあの地獄牢で冷たく震えていた自分を思い出した。いやだ、絶対あんなところにはもう入りたくない。


「ハンス先生、まだアベル様もいらっしゃっていないのに何やっているんですか!」


「お酒お持ちしました~」


「ありがとよ、メイリー!」


 いつの間に給仕さんの名前を覚えて親しくなっているのだろうか。給仕さんも給仕さんだ、ハンス先生を甘やかすな。


「ハンス先生飲み過ぎです。酔っぱらって失礼なことをしでかしたらどうするんですか!」


 わたしはとうとう立ち上がってハンス先生から酒瓶を取り上げようとした。抵抗する先生ともみあいになっている最中に、ドアが開いて誰かが入ってきた。


「いや~お待たせしてしまって申し訳ない。愚息がお世話になったそうで。おや、お取込み中でしたかな」


 部屋に入ってきたのはツルネホルン国王、マクラード様だった。




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