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03.クレープ屋のイケメン店員さん

 頭が痛い。まだ意識が朦朧とする中、わたしは周囲を見渡した。


 わたしは、かろうじて立てるくらいの大きさの檻の中に入れられていた。まわりには同じような檻が積み重ねられて唸り声が聞こえる。懐かしい魔獣の声だ。どうやらここは生きた魔獣を入れた檻を保管する倉庫のようだった。


 倉庫の中央には、二人の男が立っていた。


 薄暗い中でもわたしの目にははっきりわかる。この前わたしを斬ろうとした魔獣密猟者のロベールと、クレープ屋のイケメン店員フローベルだ。


「ロベールさん、僕がおびき出したんですから報酬弾んでくださいよ。こんな上玉の魔族の娘、変態貴族に売れば相当の金になりますよ」


「全くだ。これからはチマチマ魔獣なんて狩らずに魔族の娘をおびき出して捕まえたほうが金になるな。フローベル、この町は魔族の生息する山に近い。これからもクレープ屋に魔族のバカ娘が来るようなことがあれば俺に教えるんだぞ」


 わたしが意識を取り戻したことに気づいたのか、ロベールがわたしの檻に近づいてきた。


 ロベールは檻の前でしゃがむとこう言った。


「おい、魔族。この前は俺をだまして散々ひどい目にあわせてくれたな。これはその罰だ。自業自得と思え。その檻の中でしっかり反省しろ。ほら言ってみろ、わたしがすべて悪かったです、奴隷として売られても当然のことをしてしまったので文句は言いません、と」


「……ここから出してください」


「おめえ、何の反省もしてないようだな!」


 ロベールはそう言うと、わたしの入っている檻を足で蹴った。檻全体が揺れ、わたしは恐怖で固まった。


「商品に傷がついたら値が下がっちまうから手枷や足枷もなしで檻に入れてやっているんだ、ありがたいと思え! 舐めた真似してると殺すぞ! ほら、お礼はどうした!」


「……あ、ありがとうございます」


「へっ、お前には罰として水もやらねえ。水が欲しくなったらこう言え、『ロベール様に奴隷として売られて嬉しいです』ってな!」


「今度からは男に誘われたからってホイホイついて行っちゃ駄目だぜ、魔族ちゃん」


 そう言ってロベールとフローベルは倉庫から出て行った。


 自分の男を見る目のなさに、改めて絶望した。


 マスターは心配しているかな。申し訳なくて涙があふれてきた。




 翌日、わたしの入った檻は馬車に積み込まれ、どこかに運ばれていった。この世界の馬車にはスプリングというものがないだろうか。檻の中でガタゴト揺られているだけで辛い。体は痛いし揺れで吐き気がする。馬車の揺れに対応するだけの体力も全くなくなり、檻の中を吐いた胃液だらけにした頃、どこかに到着した。


 馬車の荷台から檻が運び出されるときにはもう夜中になっていた。わたしが運び込まれた倉庫には、わたしの檻以外はなかった。昨日の倉庫よりは小さかったが、小綺麗な感じでベッドや机なども置かれていた。


 やっと馬車の揺れから解放されたわたしは、疲れ切って意識を失っていたが、倉庫の扉が開いた音で目を覚ました。扉から荷物を抱えたロベールが入ってきた。


「お前、檻を汚したな」


 ロベールが檻を蹴る。恐怖でわたしは謝ってしまう。


「……も、申し訳ありません」


「服と下着を脱げ、そして自分が汚したのだから自分で檻を掃除しろ。これじゃ売り物にならねえ」


 もう何も抵抗する気力は無くなっていた。


 わたしはよろよろと立ち上がると、自分の着ていた胃液だらけの服と下着を脱いでロベールに渡そうとした。


「何をやっているんだよ。それで檻を拭き掃除するんだよ」


 全裸になって自分の服を雑巾にして檻の中を掃除していると、涙があふれてきた。初めてお手紙をくれた男性とデートをするために選んだ服を雑巾にして、自分の入れられた胃液まみれの檻を掃除することになるとは。こんな仕打ちってあるのだろうか。わたしには何の幸せも許されないのだろうか。女神様を呪った。美少女にならなければ、こんな目には合わなかったのだろうか。


 ふと気づくと後ろの檻の扉が開かれ、ズボンを降ろしながらロベールが近づいてきた。


「貴族の変態に売る前に、俺がお前を味見してやる。ありがたいと思え」


「嫌! やめて!」


 ロベールがわたしを押し倒してのしかかってきた。胸を揉まれながらキスをされた。わたしの元の世界でも、この異世界でも初めてのキスがこんな男に奪われるなんて最悪だ。女神様はこういうことになるのが分かっていたのだろうか。何が『あなたの願いは聞き届けられました』だ! だんだん腹が立ってきた。


 わたしは母から教えてもらった魔法で指先から小さな炎を出すと、ロベールの乳首にあてた。


「うわっ、熱っち! 熱っちっち! ナニコレ! 乳首こげてる~!」


 ロベールがのけぞって自分の乳首を抑える。その隙にロベールの股間をしこたま蹴り上げ、口から泡を吹いて悶絶するロベールを押しのけて檻の外に出た。ロベールがこちらを振り向くが、わたしは檻の扉を閉め、ガチャリと鍵をかけた。


「お、お前、ふざけんな!」


 ロベールの罵声を尻目に、わたしはロベールが持ってきた荷物の中から女性用の服と下着を見つけるとそれに着替え、倉庫から逃げ出した。


 外はいつしか雨が降っていた。ここも中世の街並みには違いなかったが、もといた『転がる雌豚亭』のあった町に比べて大きい街だった。大きな城壁も見える。雨の降る中、わたしはとにかく人に見つからないところへ行こうと、夜の見知らぬ街を裸足で走った。



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