25.手術
「よし、では手術の準備をするぞ。ニコル、前回使ったやつ、まだあるか」
「いつでも使えるように、滅菌だけは定期的に行っています」
「あの後手術したことあるのか?」
「まさか。あれっきりですよ」
「そうか……」
そう言うと、ハンス先生とニコル先生は黙々と準備を始めた。機械台の上に次々と手術道具が並べられていく。本当にこの二人は息がぴったり合っている。一緒にドーエルの病院で働いていたことがあると聞いたが、相当いろいろと二人でやってきたようだ。
準備が整うと、ハンス先生がわたしに説明してくれた。
「グレア、虫垂炎というのは文字通り、虫垂という組織が何らかの原因で炎症、つまり腫れるのが原因だ。抗生物質が無いこの世界では、切除するしか治療法はない」
ハンス先生は紙に絵を描いて教えてくれる。
「この大腸の先についているのが虫垂だ。こいつを根元から切除する。今は結構腫れて大きくなっているはずだ。そして大腸の内容物は細菌だらけだ。この中身が腹腔内にばらまかれたらジ、エンドだ。細菌感染で大変なことになっちまう。中身がこぼれないように気を付けて塞げ」
「分かりました」
ニコル先生が娘さんのお腹を消毒し、メスを握ったハンス先生が言った。
「では、はじめよう。グレア、麻酔をかけろ。皮膚だけでなく腹腔全体に麻酔しろ。炎症が広がっているから腸を少し引っ張っただけで痛いはずだ」
「はい、分かりました」
わたしは魔力を込めて麻酔をかける。さっきまでのアニサキスが見つからなくて不安だった時と違い、ハンス先生の指示があることが心強い。
「出来ました」
「よし、では切開する」
ハンス先生がお腹を切ると、出血部をニコル先生が器具でパチパチと挟んで止血する。手際が良い。
開腹部から金具を突っ込んでいたハンス先生が、腫れた虫垂を持ち上げた。
「グレア、虫垂を切除しろ」
「はい」
ハンス先生に虫垂を探し出してもらったことで、より正確に魔力で切り取ることが出来る。わたしは慎重に切り取り、その断端を綺麗に整復する。
「どちらの断端もしっかり消毒しろ」
「分かりました」
わたしは目に見えない細菌をイメージし、それらを死滅させる。
「よし、切開部を閉じろ」
「はい、閉腹します」
わたしは切開部の皮膚をぴたりとくっつけ、傷を整復する。
「腹腔内に細菌がまだ残っているかもしれない、全体を消毒してくれ」
細菌が残っているのなんて許さない。わたしは丁寧に腹腔内を消毒した。
「出来ました」
「お疲れ様、よくやったグレア」
「グレアさん、お見事でした」
ハンス先生やニコル先生はそう言ってわたしのことを誉めてくれたが、やっぱりすごいのは先生達だ。きちんとした診断あっての治療なのだ。わたしはガードナーさんに言われるがまま、アニサキスが原因だと思ってしまった。
ハンス先生の的確な診断と指示があって、初めてわたしの魔法が生かされるのだということがよく分かった。
ふと窓の外を見ると、空がもう明るくなりかけていた。




