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洞窟暮らしの魔族の娘に転生しても、皇子様と結婚したい  作者: 渓夏 酔月


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22.海の診療所

 この異世界に来て初めて海を見た。


 真っ白な砂浜にエメラルドブルーの海が広がっていて、元の日本で見た外国のパンフレットにあるような風景だった。しかもここはエルブルグ王国より暖かく、ヤシの木などが生えていて南国の雰囲気がしている。海には水着のカップルがはしゃいでいて楽しそうだ。


 その砂浜から少し高くなったところに、白いペンキが所々剥げた古い木造の建物が見えた。テラスに座ってお茶を飲んでいた男性が、わたし達に気づいて立ち上がった。そしてしばらくそのままこちらを見ていたが、大きく手を振ってわたし達に言った。


「ハンス先生! ハンス先生じゃないですか! お久しぶりです!」


「よ~ニコル、久しぶり! 元気だったか?」


「そんなことよりハンス先生、ご結婚されたんですか?」


 そのニコルと呼ばれたハンス先生よりちょっとだけ若いおじさんは、わたしのことを見ながらそう言った。


「はじめまして、わたし、ハンス先生の助手をさせていただいているグレアと申します。よろしくお願いします」


 助手のところを強調して言う。結婚だなんて、失礼にもほどがある。


「え~と、助手? 結婚していないの?」


「しておりませんし、する気もありません」


 つい勢いで強く言ってしまったが、初対面の年上の人に失礼だったかもしれない。


「ハンス先生、ご説明してください」


「ニコル、まあそういうことだ。ただの助手だよ。お前、そういう素直に地雷踏むところ変わらねえな」


 ハンス先生が笑ってそう言った。笑い事ではありません。


「いや~そうか、驚きましたよ。グレアさん、大変失礼しました。わたしはニコルと申します。ここで診療所をやっている医師です。ハンス先生にはドーエルにいたときに本当にお世話になりました。汚いところですが、まあおかけください」


 診療所のテラスには丸テーブルが三つあって、それぞれ椅子が三つずつ置いてあった。どうも診療所にしては建物の構造が変だなと思って屋根の方を見てみると、『渚診療所』と書かれている看板には、まだうっすらと消えかかっている字で『コーヒーと紅茶の店 渚』と書かれているのが見えた。


「ああ、この診療所はもともと喫茶店だったんですよ。だからここのテラス、眺めもいいし最高なんですよ。わたしは患者がいないときはここでお茶しているんですよ。さあ、座って座って」


 ニコル先生はそう言うと、診療所の中から紅茶を持ってきてくれた。結構歩いてきた後だったので紅茶がおいしい。


「ニコル、悪いんだけど、グレアと二人でここにしばらく居候させてもらってもいいか。俺達国外追放されちゃったんだよ」


「国外追放!? ハンス先生何やらかしたんですか? 相変わらずですね。どうせ私は相変わらず独り身ですからどれだけいてもらっても構いませんよ。前にハンス先生が使っていた二階の部屋と、その隣の部屋をグレアさんが使ってください」


「サンキュー悪いな。これ土産の酒。あと金ならあるからこれ使ってくれ」


 そう言ってハンス先生は途中で買った一升瓶と、支度金の入った袋ごと診療机の上に置いた。


「あ、これ結構いい酒じゃないですか、ありがとうございます。何ですかこの大金、こんなのいりませんよ。今晩は歓迎の宴ですね」


「いいね、じゃあこの金で買い出し行こうぜ」


「その前に、行っときます?」


「うん、まずはな」


 この二人、とっても仲が良さそうだ。結構会うのは久しぶりだとハンス先生は言っていたけれど、その時間を感じさせない仲の良さだ。


 何だろう、この感覚。曲がりなりにも最近はずっとわたしがハンス先生の傍にいて、地獄牢にも一緒に入った仲だ。それなのにニコル先生との親しさには敵わない感じがする。嫉妬? これは嫉妬なのだろうか。自分が何故こんな感情を持つのかよく分からない。


「グレア、俺達ちょっと出かけてくるから、二階の階段あがって右側にある、二つの部屋の掃除をしておいてくれるか。よろしく」


 そう言ってハンス先生はニコル先生と出かけてしまった。まだ紅茶もちょっとしか飲んでいないのに慌ただしいものだ。


 しょうがないので診療所の中に入るとわたしは思った。ニコル先生もハンス先生と同じで片付けられない人だと。医者ってみんなこうなのだろうか。





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