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洞窟暮らしの魔族の娘に転生しても、皇子様と結婚したい  作者: 渓夏 酔月


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21.裁判

 裁判はあっけなく終わった。


「医師ハンスとその助手グレア、両名を財産没収と身分剝奪の上、国外追放に処す」


 裁判官が一人で地獄牢まで来て、これから裁判を始めると言うと、すぐに判決を言い渡して終わった。わたし達の弁明も何もない。これで裁判と言えるのだろうか。


 獄長のトーマス様の反応を見ると、いつものことのようだ。


 わたし達を国境まで監視すると言う名目で同行してくれたモーガン様が、しきりと謝ってくれた。


「王妃様の怒りがすさまじく、死刑を回避するだけでやっとでした。国家の英雄に対してこの非礼、申し訳ありません」


「まあ、こんなこともあるだろうとは思っていたよ。命助けてもらってありがとよ。いろいろ大変だったろ」


 国外追放になったというのに、ハンス先生はいつもの調子だ。信じられない。診療所や頼りにしてくれる患者さんや、マリエット様達と会えなくなることを悲しいとは思わないのだろうか。


 王都に乗ってきた馬車と違い、わたし達を国外追放するための馬車は、鉄格子のはめられた非常に乗り心地の悪いものだった。これまた王都に来た時とは似ても似つかぬ粗末な宿に泊まらされ、三日目に隣国ウドテル王国との国境に着いた。


「ハンス先生もグレア殿もくれぐれもお達者で」


 そう言って頭を下げるモーガン様と別れた。国境となっている関所の門をくぐると、殺風景な荒涼とした風景が広がっていた。


 何ということだろう。もう少しで貴族になり、イケメン皇子様の腕の中でダンスを踊っていたわたしが、無一文でこの荒涼としたところに国外追放となるなんて。せっかく奴隷として売られそうになったところから、一発逆転人生で幸せになろうと思っていたのに。


「何泣きそうな顔してるんだよ。笑った方がいいぜ、笑う門には福来るってな」


 ハンス先生のお気楽な様子にものすごく腹が立つ。


「当り前じゃないですか! 貴族ですよ! もう少しで貴族になれるところだったんですよ。つい数日前まで国王陛下達と仲良くして皇子様の腕の中でダンスを踊っていたんですよ。皇子様はわたしに好意を寄せてくださっていました。王族になれたかもしれないんですよ。それが何が悲しくって無一文で国外追放されなきゃいけないんですか。そもそもハンス先生は危機感が無さすぎです。これからどうやって生きて行けばいいんですか!」


「終わったことをくよくよ言っていてもしょうがないだろ。財産没収と身分剝奪って言ったって、俺は金も爵位もないから失うものなんて別にないからな。この異世界には医師免許なんてものもないし。そんなことより俺、ウドテル王国好きだぜ。何せこの国にはエルブルグ王国と違って海がある。海釣り早くしたいなあ、ブリ釣りたい」


「バカなんですか。ハンス先生やっぱりバカですよね。何が海釣りですか、今晩泊まるどころかご飯食べるお金もないというのにいったいこれからどうするつもりなんですか」


「金ならあるぜ」


 そう言って、ハンス先生は袋いっぱいに入った金貨を懐から出して見せてくれた。これは王都に招待されたときに支度金としてもらったお金だ。


「こんなこともあろうかと、王都に着く前に宿屋でモーガンに、この金をくれてやったんだよ」


「モーガン様に?」


「そう、くれてやった。もし王都で患者の治療に成功すればもっと大金が手に入るし、失敗すれば身ぐるみはがされて追放されるのは目に見えていたからな。これはモーガンの金だ。だから俺達が財産没収になってもとられることはない。そうしたらさっき国境でモーガンが、この金を俺にたまたまそっくりそのままくれたという訳さ」


 ハンス先生は医学以外のことは本当にダメ人間だと思うが、時々こういう驚くようなことをする。やっぱり医者になる人って頭が良いのだろうか。


 それにしても人間とは現金なものだ。大金があると言うだけでもの凄く心強くなる。


「ハンス先生。わたしはハンス先生はやるときはやる人だと思っていました」


「さっき、俺のことをバカだとかなんだとか言っていなかったっけ。そう言えばここを降りて行った街に美味しいスイーツを出す店があったと思ったんだけど、俺一人で食おうかなあ」


「ハンス先生は天才です。一生ついて行きます。とりあえずスイーツのお店について行きます」


 国境の関所から1時間ほど歩いたところに小さな町があって、そこでハンス先生に連れて行ってもらったお店で食べたパフェは、フルーツいっぱいで本当に美味しかった。この辺りは果物がたくさん採れるらしい。


 夜はその街で一番の宿屋に泊まった。夕食も美味しかった。ウドテル王国にはハンス先生の友人がいるとのことで、とりあえずその友人を訪ねることになった。その道中は、わたしが国外追放時に想像していた野宿をして木の葉っぱなどを食べる極貧の生活と違って、結構いい宿に泊まって贅沢な旅行のようだった。



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