16.王妃殿下
「ビルギット王妃殿下のお成りである、一同、頭が高い、控えい、控えい!」
王妃様の騎士団が感謝会の参加者に向かって声を張り上げた。
感謝会に突如闖入してきた王妃様は、騎士団に囲まれて仁王立ちに皆を睥睨していた。
「ビルギット、これはいったい……」
国王陛下が恐る恐る王妃様に尋ねる。
「あなた、これは一体どういうことですか」
王妃様は仁王立ちのまま腕を組んで国王陛下を睨みつける。
「皇女の、カミーユの病気をこの方々が治療してくださったのだ。お前からも礼を言う……」
「はあ? あなたは何寝ぼけたことを言ってらっしゃるの? 聞けば酔っぱらいの医者と魔族の娘がわたしの愛する娘にちょっかいを出したらしいではないですか」
「これ、ビルギット、何を失礼なことを……」
「おまえは黙ってろ!」
「ひいっ」
王妃様の一喝に、国王陛下は震え上がった。いつの間にかフリッツ様はわたしから離れていた。
「わたしの許可なく、魔族の娘を王宮内に入れた。これは事実ですか」
「……」
「答えろ! 何黙っているんだ!」
「ひぃ、黙ってろって言ったのに……いや、カミーユの治療を……」
「事実かと聞いている」
「……事実です」
国王陛下が打ちひしがれながらそう答えた。
「あなた、以前あなたが魔族の娘とわたしに隠れて浮気した際、金輪際魔族の娘は王宮に入れないと誓いましたよね」
「……はい、誓いました」
「あの時、もう一度魔族の娘を王宮に入れたら、命はないと言いましたよね」
「いや、今回は浮気とかそんな……」
「言ったのか言わなかったのか!」
「言いました」
「では、それにもかかわらず何で魔族の娘を王宮内に入れたのですか。怒らないから理由を言ってください」
「……いや、だから、あの、カミーユの治療のために」
「言い訳するなって言ってるだろう!」
「すみません!」
「お前が魔族の娘を王宮内に入れた、そうだな!」
「はい! そうです! 私が悪うございました!」
「ならあなたは死刑です。王妃騎士団、国王陛下を連れていけ!」
「待ってくれ、ビルギット。私が悪かった、許してくれ」
王妃様はゆっくりとこう言った。
「では、あなたが魔族の娘を引き入れたのではなく、勝手に入ってきた。そうですね」
「……」
「聞いているだろう! 答えろ!」
「ひぃ……そうです、その通りです」
王妃様はわたしの方を向いた。
「おい、お前達、この魔族の娘を地下牢に連れていけ」
王妃様の命令で、騎士様の二人がわたしの両腕をかかえて連れて行こうとした。
「おう、ヒステリーババア、黙って聞いてりゃ調子に乗りやがって」
ハンス先生がお酒をあおりながら言った。
「俺たちゃ国王陛下のお招きでわざわざ王都くんだりまで来たんだぜ。しかも治療したのはおめえの娘だろう。この国広しと言えども治せるのは俺とグレアしかいねえ。おめえも母親なら感謝の一つも言ったらどうだ。さっきから聞いてりゃおめえのメンツの話ばっかりで、娘のことなどこれっぽっちも思ってねえだろう、ヒスバアア」
王妃様の怒りが振り切りすぎて、何も言わずにわなわな震えている。
「酒がまずくなるって言ってるんだよ、帰れクソババア!」
「……こ……殺せ、こいつを斬り殺せ!」
王妃様の騎士達が、抜刀してハンス先生を取り囲む。するとモーガン様がハンス先生の前に立ちふさがった。
「王妃様、これらの者はカミーユ様のお命を救われた英雄です。王妃様の許可なく魔族の娘を王宮内に入れたのは国王陛下の過失とは言え、娘の命を救った者を罰すれば王妃殿下の名声に傷がつくこと必定。ゆめゆめよくお考えなされませ」
モーガン様が大音声で王妃様に諫言した。誰もが自分の身を心配する中で、さすが騎士様だと思った。
「モーガンよ。ガリエル大戦の英雄だからと言って、妾が何の手出しも出来ぬと思ったら大間違いだぞ」
王妃様の圧倒的な迫力を、モーガン様は堂々と睨み返していた。
「まあいい。そのヤブ医者と魔族の娘を地下牢に放り込んでおけ。いや、ただの地下牢では生ぬるい。最下層の地獄牢に入れておけ」
「王妃様! それはあんまりです。地獄牢は最高刑の重罪人が入れられるところ。この者たちは裁判もまだ済んでおりません」
モーガン様が必死に抗弁する。
「ふん、命があるだけありがたいと思え」
そう言って王妃様は感謝会場から出て行った。




