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01.転生

 思い起こせばろくなことのない人生だった。


 わたしは昔から容姿に恵まれず、小学生の頃に着いたあだ名が『デブス』。引っ込み思案な性格もあって、あまり友人や、ましてや彼氏も出来なかった。


 高校卒業後に就職した会社はブラック企業で、残業代もほとんど出なかった。文句も言わずに毎日夜遅くまで働いていたら、髪が抜けるようになった。


 その日は徹夜で働いて昼頃にやっと仕事が終わったと思ったら、家に帰る途中でビルから飛び降り自殺をした女子高生の下敷きになって23歳で死んでしまった。


 真面目にコツコツ働いていればきっと神様は見ていてくれるはずだ、と思っていたが実際にはそんなことはなかった。もう神様なんて信じない、そう思った時だった。


 気が付いたら目の前に女神様がいた。


 この世界で頑張ったご褒美に、異世界転生させてくれると言う。


 わたしは飛び上がらんばかりに喜んだ。


 生前ファンタジー小説やアニメが好きで、話の中に出てくる皇子様や勇者様と恋愛するお姫様や令嬢に憧れていた。何がいいだろう、伯爵令嬢? いや、公爵令嬢のほうがいいかな? 悪役令嬢もいいかも。皇子様とめくるめく恋愛をして、最後は結ばれるのだ。


 ただ、わたしの容姿のままだったらどうしよう。結局どんな令嬢に生まれ変わっても、この容姿ならきっと誰からも相手にされないだろう。


「異世界で……誰もが振り向くような美少女に生まれ変わりたいです」


「あなたの願いは聞き届けられました」


 女神様が優しく微笑みながらそう言ったのを最後に意識が飛び、気づいた時には鏡の前に立っていた。


 鏡の中にはすらりとした手足に艶やかな黒い髪。長い(まつげ)と星のきらめくような大きな瞳に二重瞼(ふたえまぶた)。そして服の上からでもわかる豊かな胸ときゅっと突き出たお尻を持った、16歳の女の子が立っていた。わたしは念願の美少女に転生していたのだ。


 ただ、よく見ると頭の右前に小さな角が生えていた。


 そう、わたしは魔族のグレアという名の娘に転生していた。


 美少女に生まれ変わりたいとは言ったが、当然それは伯爵令嬢とか、公爵令嬢とか、いや平民でも構わないけど人間としてのことだった。確かにきちんと女神様に言わなかったわたしが悪かったが、それにしても魔族とは……。


 頭の小さな角以外は、驚くべき美少女ではあるものの、この鏡が置いてある部屋もどうやら洞窟のようで、じめじめしている。


 わたしは髪の毛で角を隠しながら、美少女になれたことには違いがないので、これで満足することにした。


 わたしの魔族の両親はとても良い人で、それは良かったのだけれど、魔族の暮らしには全然馴染めなかった。魔獣の生肉は匂いがちょっと無理で、なにより寝床がいつも湿っているのが耐えられない。いくら拭いても洞窟の上から(しずく)が落ちてくる。


 この世界では魔族と言っても魔力はたいしたことはないようで、わたしが母から教わった魔法は、指から水や洗剤、ライターみたいな小さな炎を出すという家事に少し役に立つ程度のものだった。真っ暗闇でも普通に目が見えることには驚いたけれど、これは魔法というより洞窟暮らしで身についたものかもしれない。


 わたしの家族の住んでいる、山の中腹にあるこの洞窟の入り口からは、遠く人間界の街並みの明かりが見えた。それは、わたしが憧れた異世界の中世の街並みそのものだった。街の明かりを眺めながら、いつかそこに行ったら、こんなにも美少女なのだから、領主様の御子息に見初められはしないだろうかと夢見ていた。


 或る日、蝙蝠達がわたし達の住む山の中腹に、勇者様が魔獣狩りにやって来たことを知らせに来た。どうやら魔族は蝙蝠を使役できるようだったが、わたしは怖くて使えなかった。父と母は決して近づくなと言ったが、わたしはこっそり見に行った。勇者様のカッコよさと言ったらなかった。揺れる銀髪に切れ長の青い瞳。颯爽と馬を乗りこなす姿にわたしの眼はくぎ付けになった。


「元の世界だったら、動画撮ってバズってたな」


 物陰に隠れながら聞いた、勇者様が去り際につぶやいていた言葉に、勇者様は転生者だと確信した。


 わたしも転生者だと伝えれば、たとえ魔族の娘でも勇者様は無下にはしないのではないだろうか。角さえ隠せばこれほどの美少女だ、勇者様に気に入ってもらって、おつき合い出来たらどうしよう。そうしたら一緒にパーティーを組んで、夢のような冒険が出来るかもしれない。そして最後は幸せな結婚をし、かわいい子供を一緒に育てたい。


 或る日わたしは父と母の目を盗み、ウィッグで角を隠すと、山を降りて人間の街に向かった。初めて歩くこの世界の人間の町は、賑やかな中世のファンタジーの世界そのものだった。町の中心部に位置する噴水まで行くと、近くの酒場のテラスに勇者様一行がいた。通りすがりの人に聞くと、この『転がる雌豚亭』という酒場は勇者様のお気に入りで、ちょくちょく来ているそうだ。


 わたしは酒場のマスターに頼んで住み込みで働かせてもらうことにした。


「ちょうど人手が足りなかったから助かるよ。グレアちゃんみたいな美人さんが来てくれたら客が増えて、もっと人手が足りなくなるかもな」


 そう言ってマスターは歓迎してくれた。マスターは筋肉ムキムキの大男で、モヒカン頭の強面だったが、とてもやさしい人だった。


 わたしは一生懸命働いた。お客さん達からも人気が出て、馴染みのお客さんもたくさん出来た。


「グレアちゃんみたいな別嬪さんに運んで来てもらったお酒はいつもより美味しくなるよ」


「気だても良くてよく働くなあ。グレアちゃんが来てくれて毎日通いたくなっちゃうよ」


「彼氏いるの? つき合ってくれるまで毎日来ちゃおうかなあ」


 陽気な気のいいお客さんとマスターに囲まれて、毎日楽しくお店で働いた。生前働いていたブラック企業に比べれば仕事もきつくなかったし、男性からちやほやされるのが嬉しかった。美人ってこんな感じだったのだと思い知った。性格も自然と明るくなった。


 わたしが働き始めて三か月後、とうとう勇者様がお店にやってきた。今日は遠征帰りの打ち上げだそうで、仲間の人も一緒だった。


 一刻も早く勇者様に話しかけたいと思ったが、お酒やお料理を運ぶのが忙しく、なかなか勇者様のテーブルには行けなかった。


 ちょうど宴もたけなわとなり、場の空気もかなりくだけたものになった時、お酒とお料理を勇者様のテーブルに運ぶようにとマスターに頼まれた。勇者様のテーブルには綺麗な女の人がたくさんいたが、今のわたしなら決して負けてはいない。


「おまたせしました~!」


 わたしはとびっきりの笑顔を振りまきながらお酒とお料理をテーブルに置くと、意を決して勇者様に話しかけた。


「あの、勇者様って転生者だったりしますか。実はわたしも……」


「あのさ、おまえさっきから俺のことちらちら見てるよね」


 勇者様は飲んでいたお酒をテーブルに置いてそう言った。


「え、あの……」


「お前魔族だろ」


 勇者様の目は据わっていた。勇者様の手が剣の柄を握った。


 わたしは、恐怖で身動き出来なくなってしまった。


 ああ、そう。わたしはいつも大切なところで失敗してしまう、運が無い女。


 転生しても、美少女になっても本質は変わらない。


 結局、わたしはダメなままなんだ。




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