表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放悪役令嬢は、絶品農業料理で辺境開拓!気づけば隣国を動かす「食の女王」になってました  作者: 緋村ルナ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/17

プロローグ:仮面の令嬢、偽りの日々に揺れる心

【登場人物紹介】

◆ベアトリス・フォン・ローゼンベルク(主人公)

ローゼンベルク公爵家の令嬢。前世の知識(現代日本の農業・料理知識)を持つ。容姿端麗、成績優秀。しかし真面目すぎるが故に不器用な面があり、誤解されやすい。芯が強く、一度決めたことはやり遂げる努力家。食材と料理への情熱は誰にも負けない。追放後は「悪役令嬢」の仮面を脱ぎ捨て、本来の明るく面倒見の良い性格が表に出る。


◆アルフレッド・アストライア(元婚約者)

アストライア王国の第一王子。正義感が強いが、若さ故の未熟さ、判断力の甘さがある。当初はベアトリスを誤解し、冷たく接するが、後に自身の過ちを深く後悔し、彼女の最大の理解者、協力者となる。


◆リリアーナ・セレスティア(聖女)

王国に現れた聖女。天真爛漫で心優しい。当初はベアトリスを恐れるが、彼女の真の姿を知り、強い友情で結ばれる。聖女の力で農業を助けることも。


◆ディートリヒ・ヴァイス(辺境の村人)

ヴェルムント辺境伯領の若き村人。荒れた土地で生きることに諦めを感じていたが、ベアトリスの熱意に触れ、彼女の右腕となる。農業技術の習得に貪欲。


◆セリア・ヴァイス(ディートリヒの妹)

明るく朗らかな少女。ベアトリスに懐き、料理を学ぶ。後にレストランの看板娘となる。


◆ルードヴィヒ・フォン・レガリア(レガリア帝国宰相)

隣国レガリア帝国の若き宰相。切れ者で、ベアトリスの才能と料理の可能性にいち早く気づき、彼女に接近する。


◆マリエル・フォン・エルトマン(ベアトリスの元侍女)

追放後もベアトリスに付き従った忠実な侍女。料理の腕も磨き、レストランの運営を支える。


◆オスカー・フォン・シュワルツ(王国の大臣)

アストライア王国の大臣。保守的で貴族の立場を重んじるが、ベアトリスの実績には敬服せざるを得ない。

 アストライア王国の王宮は、色鮮やかな装飾と、貴族たちの朗らかな笑い声に満ちていた。しかし、その華やかさの只中で、公爵令嬢ベアトリス・フォン・ローゼンベルクの心は、重く沈んだ鉛のように感じられていた。彼女は、王子の婚約者として、常に完璧であることを求められた。朝から晩まで、歩き方、話し方、社交ダンスの練習、淑女としての教養、そして何より、周囲の期待に応えるための「笑顔」を繕う日々。


 完璧な令嬢。それは周囲から与えられた称号であり、彼女自身が望んで手に入れたものではなかった。幼い頃から、周囲は彼女を「神童」と称えた。何を学ばせてもあっという間に習得し、その容姿も歳を重ねるごとに磨かれていった。しかし、真面目すぎるがゆえに、感情を素直に出すことが苦手だった。常に最善を尽くそうとすることで、かえって周囲に誤解を与えることもあった。感情豊かな言葉を紡ぐよりも、正確で論理的な返答を選んでしまい、それが「冷たい」と評されることも少なくなかった。


 彼女の婚約者である第一王子アルフレッド・アストライアもまた、そんな彼女の一面しか見ていなかったのかもしれない。学園時代から共に過ごしてきた。アルフレッドは正義感が強く、民を思う心を持つ王子だった。初めはベアトリスの真面目さを評価し、彼女を信頼していたように見えた。だが、彼にとってベアトリスは、完璧な婚約者ではあっても、心を許せる相手ではなかったのかもしれない。ベアトリスもまた、彼の前で本当の自分を見せることはほとんどなかった。常に、公爵令嬢、王子の婚約者としての「仮面」を被り続けていたのだ。


 その「仮面」の下には、誰にも言えない秘密が隠されていた。彼女には、この世界とは異なる場所で生きた「前世の記憶」があった。現代日本の豊かな食と、効率的な農業技術を知る記憶。この世界の貧困や非効率な農業を見るたび、胸が締め付けられる思いだった。いつか、この知識を活かして、本当に困っている人々の役に立ちたい。土に触れ、作物を育て、美味しい料理を人々に振る舞いたい。そんな幼い頃からの密かな夢を、王宮の堅苦しい日常の中で、ベアトリスは必死に心の奥底に封じ込めていた。それは、公爵令嬢である自分には決して許されない、取るに足らない夢だと思っていたからだ。


 しかし、その平穏な、けれど窮屈な日々は、ある夜会を境に、音を立てて崩れ去ることになる。王国に現れたという「聖女」の噂が囁かれ始めた頃から、アルフレッド王子の視線が、そして王宮全体の空気が、変わり始めたのをベアトリスは肌で感じていた。王宮での生活は、彼女にとってまるで精密に組まれた機械仕掛けのようだった。毎日同じ時間に起床し、同じような顔ぶれと挨拶を交わし、決められた作法に則って食事をし、公務をこなす。感情の起伏を抑え、常に完璧な笑みを浮かべ、模範たる公爵令嬢であり続けること。それが彼女の使命であり、唯一の存在意義だと思い込んでいた。


 だが、心の奥底で、ベアトリスは常に渇きを覚えていた。誰かに心から笑いかけたい、誰かと分かち合いたい、そんな当たり前の感情さえ、この場所では許されないような気がしていたのだ。前世の記憶が時折フラッシュバックするたびに、温かい食卓を囲む家族の笑顔や、泥にまみれても達成感に満ちた農作業の記憶が、現在の彼女の生活との間に深い溝を作り出していた。王宮の立派な温室で育てられた、整然と並ぶ美しい花々を見ても、彼女の心は踊らなかった。彼女が本当に触れたいのは、土の匂いを纏った生命力あふれる野菜であり、不揃いでも懸命に育つ作物だった。しかし、そんな本心は、ひっそりと彼女の心の片隅に押し込められていたのだ。


 アルフレッド王子との関係もまた、儀礼的なものに過ぎなかった。彼は彼女を尊重し、信頼してはいたが、それは「王子の婚約者」という立場に対する敬意であって、一人の女性、ベアトリス・フォン・ローゼンベルクに向けられたものではないと、彼女は薄々感じていた。学園時代も、彼の視線は常に未来の王国に向けられていた。彼の隣で歩む自分は、あくまで彼の理想とする未来の国王を支える存在であり、そこに個人の感情が入り込む余地はない。そう、自らに言い聞かせながら、ベアトリスは与えられた役割を全うしてきた。だが、その努力と献身が、間もなく脆くも崩れ去ることを、この時の彼女はまだ知る由もなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ