境界知能の彼女と向き合う『彼女の人に嫌われる喋り方』
彼女は人に不快感を抱かれる声をしている。
不快感を抱かれる声とは、話す言葉の節々に濁った「あ゛」が入る不安定な声質のことだ。ホラー映画で、お化けが「あ゛あ゛あ゛」と言っているのを聞いたことはないだろうか。
ああいった、小さな破裂音が彼女の話し言葉の節々に入ってしまう。
その上で彼女は、機械の棒読みのように一定のトーンで話す。ホラー映画で使われるような「不快な音」と機械のような「棒読み」が合わさった彼女の喋り方は、多くの人から不快感を持たれてしまう。
彼女はそれで傷ついてる。
私たちは生まれたときから、トーンや表現方法といった『喋る技術』を、意識せずとも半自動的に学んでいく。
しかし、彼女はそれができていない。
おそらく、彼女の場合は、情報を受け取った際の処理速度の遅れが関係している。
彼女の処理速度は63と、部分的ではあるが知的障害に相当する。人の言葉を聞き取ることで精一杯らしく、相手の表情や言葉のトーンといった、言葉以外の情報に意識が回らず、『喋る技術』を習得できていないのだろう。
そこで試しに、彼女に「呼吸を意識して話してみて」と言うと、話し言葉の節々から「あ゛」が消えるようになった。どうやら呼吸の使い方に癖があったようだ。
私たちも、息が続く限り「あー」と言い続けると、最後には「あ゛ー」といった音に変化すると思う。それを踏まえると、彼女は話すときの呼吸の使い方が学習できていなかったのだろう。
次は、棒読みになってしまうことだが、「関西弁で話してみて」と言ってみたところ、かなりマシになった。
関西弁は特徴的なイントネーションで喋る。個人的な感覚だが、関西弁は楽器の演奏のような、リズムの良さというのだろうか。話していて楽しくなる言語だと思う。
彼女はいつもの喋り方だと、「嬉しいよ。→」といった、同じトーンで言葉を話し、語尾も伸ばしがちになってしまう。そんな彼女の話し言葉は、機械的に聞こえ、「人が話しているのに機械みたい」といった違和感を人に与えてしまう。
彼女が(エセ)関西弁で「嬉しいわ」と話してみると、関西弁のイントネーションが感情的な表現に聞こえるため、格段に嬉しそうに聞こえる。全然、違う。かなり印象が良くなった。
さて、ここまでで、彼女の「人に嫌われる喋り方」と言うのは、呼吸の使い方と関西弁のイントネーション(メロディ?)でかなり改善できると言うのがわかった。
あとは、「それをどのようにして身につけていくのか」といった話になるが、先のことはまだ分からない。
とりあえず今は、喋る前にしっかり息を吸って話す練習と、関西弁のイントネーションを何百回、何千回と繰り返して、言葉の表現方法を学んでいくしかないのだろう。
うまくいけばいいな。
【あとがき】
彼女が課題に取り組むとき、どんなことでも馬鹿にしないように、改めて気を引き締めなければならない。
人を育てるとき、教える立場にある人間が、まだ成長途中にある人を馬鹿にしてしまうと、その人はできない事を隠すようになり、違う場所で誰かを馬鹿にするようになってしまう。
できないから取り組んでいるのに、できないと言えば馬鹿にされる。変な話だ。とてつもなく強い憤りを感じる。教える立場にある人間は、内的な感情を排し、機械的な分析によって提示された課題に取り組むべきだ。
中は冷たく、外は温かい。
そのような感情のコントロールが必要だ。
自分の心がどれだけ打ちのめされようとも、教えてほしいと願う、成長途中の人を馬鹿にしてはいけない。それは、「この人は教えてくれるだろう」と選んでくれた相手の信頼を裏切る行為であり、信頼関係を重視してきた人類の根源にあるものへの冒涜だと思う。
特に、自分の子供のような身内には気をつけなければならない。つい気が緩んでしまうから。




