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異世界マッチングアプリ運営 ~転生者同士、お繋ぎします~

掲載日:2025/12/13

 私は、人の縁を結ぶ仕事をしている。


 高瀬美月。元の世界では、マッチングアプリの企画・運営をやっていた。三十二歳、独身。過労で倒れて、気づいたらこの世界にいた。


 転生して三年。今は王都の片隅で「転生者縁結び相談所」を営んでいる。


 きっかけは、半年前に発足した「転生者互助会」だった。


 王都新聞の記者・伊藤さんが繋いでくれた転生者たちの集まり。そこで私は、同じ境遇の仲間と初めて出会えた。


 そして気づいた。転生者は、みんな孤独を抱えている。


 この世界に来て成功した人も、苦労している人も、「本当の自分を知る人がいない」という寂しさを抱えていた。


 だから私は思った。前世の経験を活かせないだろうか。


 人と人を繋ぐ仕事。それなら、私にもできるかもしれない。



 「ミヅキさん、また依頼が来てますよ」


 事務所の扉を開けて入ってきたのは、共同運営者のリュウジだ。


 彼も転生者で、前世はシステムエンジニアだったらしい。この世界では魔導具の整備士として働きながら、私の相談所を手伝ってくれている。


 互助会で意気投合して、一緒にこの相談所を始めた仲だ。


 「ありがとう、リュウジ。どんな依頼?」


 「三十代の女性。錬金術師として成功したけど、同じ境遇の人と話したいって」


 私は依頼書を受け取り、内容に目を通した。


 依頼人の名前はサクラ。前世は普通のOLで、この世界では錬金術師ギルドでそれなりの地位を築いているらしい。


 (成功者か……)


 転生者の中には、前世の知識やスキルを活かして、この世界で大成功を収める人がいる。でも、そういう人ほど孤独を抱えがちだ。


 周囲には言えない。「実は私、別の世界から来たんです」なんて。


 「もう一件あります」


 リュウジが二枚目の依頼書を差し出す。


 「こっちは三十代男性。商人として成功したけど、『自分を知る人がいない寂しさ』を感じているって」


 ユウトという名前の依頼人だった。前世は営業マン。この世界では行商から身を起こし、今は王都に店を構える成功者だという。


 (二人とも、成功しているのに孤独……)


 私はふと、前世の自分を思い出した。


 マッチングアプリの運営で、何千人もの出会いを生み出してきた。感謝のメッセージもたくさんもらった。


 でも、帰る家には誰もいなくて、休日は一人で過ごすことが多くて——


 「ミヅキさん?」


 「あ、ごめん。ちょっと考えごと」


 私は気持ちを切り替え、二枚の依頼書を並べた。


 「この二人、相性いいかもね」



 翌日、私はまずサクラと面談した。


 「初めまして、高瀬と申します。今日はよろしくお願いしますね」


 「こちらこそ……」


 サクラは、想像していたよりずっと控えめな女性だった。


 錬金術師というから、もっと気の強いタイプかと思っていた。でも、話してみると穏やかで、どこか寂しげな雰囲気がある。


 「あの、一つお聞きしてもいいですか」


 「なんでも」


 「私が転生者だって、ここでは秘密にできますか?」


 私は少し驚いた。


 この相談所は「転生者同士の縁結び」を謳っている。当然、マッチング相手も転生者だ。


 「秘密にしたい理由を教えていただけますか?」


 「……恥ずかしいんです」


 サクラは俯いた。


 「錬金術師ギルドでは、私は『天才』って呼ばれてます。でも、それは前世の化学知識があるからで、本当の実力じゃない」


 「……」


 「もし転生者だってバレたら、みんな幻滅すると思うんです」


 (ああ、そういうことか)


 成功しているからこそ、隠したくなる。自分の成功が「ズル」だと思われるのが怖い。


 私には、その気持ちがよく分かった。


 「サクラさん。私からの提案なんですけど」


 「はい?」


 「マッチング相手にだけは、転生者であることを打ち明けてみませんか」


 サクラの目が少し見開かれる。


 「相手も転生者なんです。だから、あなたの気持ち、きっと分かってくれます」



 同じ日の午後、今度はユウトと面談した。


 「いやあ、こういうサービスがあるとは知りませんでした」


 ユウトは、サクラとは対照的に明るい男性だった。


 商人らしく、話し方にも愛想がある。でも——


 (目が笑ってない)


 長年の「縁結び」で培った直感が、そう告げていた。


 「ユウトさん、依頼書には『自分を知る人がいない寂しさ』とありましたね」


 「ええ、まあ……」


 ユウトは少し照れたように頭を掻いた。


 「商売はうまくいってるんですよ。従業員も増えたし、取引先も広がった。でも、誰も知らないんです。俺が本当は何者なのか」


 「本当は?」


 「……前世の話とか、ここでの苦労とか。営業トークじゃなくて、本音で話せる相手がほしいんです」


 私は頷いた。


 「分かりました。ぴったりの方がいると思います」



 一週間後、私はサクラとユウトの顔合わせをセッティングした。


 場所は王都の静かな茶館。個室を借りて、二人だけで話せる環境を整えた。


 「じゃあ、私はこれで」


 二人を残して席を立とうとした時、サクラが私の袖を掴んだ。


 「あの、高瀬さん……私、やっぱり転生者だって言えません」


 「え?」


 「だって、初対面の人に『別の世界から来ました』なんて言ったら、おかしいと思われますよね?」


 私は困った。


 確かに、いきなり打ち明けるのはハードルが高い。でも——


 「ユウトさんも、実は同じことを言ってまして」


 「え?」


 「彼も転生者であることを隠したいそうです。『せっかくの出会いなのに、変な人だと思われたくない』って」


 サクラは目を丸くした。


 「でも、相手も転生者なんですよね?」


 「そうです。だから、お互いに隠し合って、お互いに『バレたらどうしよう』って怯えてる状態なんです」


 私は二人の顔を交互に見た。


 「滑稽だと思いませんか? 同じ境遇の人と出会いたくてここに来たのに、同じ境遇であることを隠そうとしてる」


 ユウトが苦笑した。


 「……確かに、言われてみれば」


 「ですよね。だから、提案があります」


 私は深呼吸した。


 「私が先に言いますね。——私、高瀬美月は、日本から転生してきました。前世はマッチングアプリの運営をしていた三十二歳の独身女性です」


 一瞬の沈黙。


 そして——


 「……俺は山田裕人。前世は東京で営業やってた。転生した時は二十八歳でした」


 ユウトが、いや、裕人が照れくさそうに言った。


 「私は……佐藤さくら。前世は大阪のOLでした。化学メーカーの研究補助をしてました」


 サクラが、いや、さくらが小さく笑った。


 「なんだ、普通に言えるじゃないですか」


 「ですね。なんで隠そうとしてたんだろ」


 二人が顔を見合わせて笑う。


 私はそっと席を立ち、個室を後にした。



 それから二時間後。


 茶館から出てきた二人は、すっかり打ち解けた様子だった。


 「高瀬さん、ありがとうございました!」


 さくらが満面の笑みで言った。


 「裕人さんと、来週また会う約束をしました」


 「よかった。うまくいくといいですね」


 「いや、もう十分うまくいってますよ」


 裕人が笑う。


 「同じ転生者と話せるって、こんなに楽なんですね。今まで、誰にも言えなかったことを全部話しちゃいました」


 二人は手を振って去っていった。


 私はその背中を見送りながら、少しだけ寂しさを感じていた。


 (私も、誰かとああいう風に話せたらな……)



 事務所に戻ると、リュウジがお茶を淹れて待っていてくれた。


 「お疲れさま」


 「ありがとう。今日のマッチング、うまくいったよ」


 「知ってます。さっき裕人さんから感謝の伝言が来てました」


 私は椅子に座り、熱いお茶を一口飲んだ。


 「リュウジは、この仕事どう思う?」


 「どうって?」


 「私たち、人の縁を結ぶ仕事をしてるじゃない。でも、私自身は——」


 言葉が詰まった。何を言おうとしてるんだろう、私は。


 「ミヅキさん」


 リュウジが静かに言った。


 「俺、前世ではずっと一人だったんです」


 「え?」


 「システムエンジニアって、パソコンに向かってる時間が長いでしょ。人と話すのも苦手で、友達もほとんどいなかった」


 リュウジは窓の外を見た。


 「だから転生した時、正直ほっとしたんです。リセットできるって」


 「……」


 「でも、この世界でも結局同じでした。魔導具の整備って、一人で黙々とやる仕事だから。気づいたら、また孤独だった」


 リュウジが私を見た。


 「だから、ミヅキさんに声をかけられた時、嬉しかったんです」


 「私に?」


 「互助会で会った時。『一緒に相談所をやらない?』って。あの一言で、俺の異世界生活は変わりました」


 私は目を見開いた。


 そうだ。リュウジと出会ったのは、伊藤さんが立ち上げた転生者互助会だった。


 そこで意気投合して、二人でこの相談所を始めたのだ。


 「ミヅキさんは、人を繋げる仕事をしてるって言うけど」


 リュウジが少し照れくさそうに言った。


 「俺にとっては、ミヅキさん自身が『繋がり』なんです」


 心臓がどきんと跳ねた。


 「……リュウジ」


 「あ、いや、変な意味じゃなくて——」


 「変な意味って、どういう意味?」


 私は思わず聞き返していた。


 リュウジの顔が少し赤くなる。


 「その……」


 「……」


 「俺は、ミヅキさんのこと——」


 言葉が止まる。でも、その続きは言わなくても分かった。


 「私も」


 小さく答える。


 「私も、リュウジがいてくれて、よかった」



 あの日から、私たちの関係は少しだけ変わった。


 いや、変わったというより——ずっとそこにあったものに、ようやく気づいたのかもしれない。


 人の縁を結ぶ仕事をしながら、自分の縁には鈍感だった。


 誰かの幸せを願いながら、自分の幸せは後回しにしていた。


 でも、気づいたのだ。


 私はもう、一人じゃなかった。


 この異世界で、リュウジと一緒に相談所を営み、毎日顔を合わせ、お茶を飲み、たわいない話をする。


 そんな日常の中で、いつの間にか——私たちは繋がっていた。



 翌週、さくらと裕人から連絡があった。


 「正式にお付き合いすることになりました!」


 二人は満面の笑みで報告してくれた。


 「おめでとうございます。本当によかったですね」


 「高瀬さんのおかげです。あの時、自分から転生者だって言ってくれなかったら、私たち、ずっと隠し合ってたと思います」


 「そうですね。本当に、感謝してます」


 二人が去った後、私はリュウジと顔を見合わせた。


 「また一組、うまくいったね」


 「ミヅキさんのおかげですよ」


 「リュウジがいてくれたからだよ」


 自然と、二人で笑い合う。


 ——人を繋げる仕事をしていたら、いつの間にか自分も繋がっていた。


 それが、私の異世界生活の、一番の収穫だった。


【作者からのお願い】

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