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空と海  作者:
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第一話 生まれ

プロローグ


人生は、困難にあふれていると思う。

疲れたと思っても、時間は止まってくれない。

周りの人間も同じように、表上では一瞬止まってくれても、すぐに飽きて歩みはじめてしまう。

いくら辛くて、しんどくても、結局歩みはじめないといけない。

そうしないと社会から切り離されてしまう気がするから。

毎日水いっぱいのコップを持ちながら、溢れないように、そして溢さないようにはこぶ。

たまに水を捨てさせてくれる人もいるけど、過半数の人がコップを倒してきたり、壊しにきたり、水が溢れるほど注いでこようとする人だったりする。

その時はただじっと耐えて、壊れかけのコップを使い続ける。

私の人生は、そんなもんなんだと思う。

わたしは、生まれた時からそうなる運命だったんだと思う。

今までの人生、何度も他人にコップを倒されて、水があふれて、それでもそのコップを使い続けてきた。

そうやって古いコップを28年間、今までずっと使い続けてきた。


28年目にして、完全にコップが壊れるようなそんな音がした。


私は、私の宝を失った。


2025年11月1日2時49分。

私は、初めて我が子に触れた。

そして、大切に抱きしめたまま我が子を亡くした。



1話 お別れ


「おめでとうございます。女の子です」


永遠と目を開けず、安らかに眠っている赤子をやさしく抱え、助産師さんはそう言った。

冷たくなった我が子を抱きしめ、これが現実という事を改めて実感させられ、涙が溢れた。

夫と一緒に、我が子の成長しない小さな手を握り、頭を撫で、キスをし、最後にもう一度、抱きしめた。


「可愛いわね~、撫ででもいいかしら?」


そう声をかけてくれたのは、少し歳の取った助産師さんだった。

私は黙ったまま頷いた。


「目元はお母さん似で、お口はお父さん似かしらね。べっぴんさんだねぇ。お名前なんて言うの?」

「海です。私と夫、海が好きで笑」

「海ちゃん!可愛い名前だねぇ。海ちゃんもよく頑張ったし、お母さんもお父さんも、よく頑張ったね。おつかれさま。」


助産師さんは優しく微笑みながら、私たちの方を向いてそう言ってくれた。

名前を褒めてくれるのも、海の事を頑張ったと言ってくれたことも、私たちを親と認めてくれたことも、全てが嬉しくてでも悲しくて、感情がごちゃごちゃになりながらひたすら泣いた。

助産師さんはひたすら慰めてくれて、何度も


「よくがんばったね。お疲れ様。貴方は立派な親だよ」


と声をかけてくれた。

しばらくして、本当に赤ちゃんとお別れをする時がやってきた。

助産師さんが最後に


「赤ちゃんに何か言いたいことや思い残すことがあったらやっていいのよ。」


と言われ、私と夫はあらかじめ着せようと思っていた服を見せて


「これを着させてあげてもいいですか」


と聞いた。


「ええもちろん。台を用意しますね。」


そう言って着替えさせやすい台を出してくれた。

手を通して、足を通して、順番通りに服を着せる。

ボタンを留め終えると


「可愛いわね、海ちゃんこんなかわいい洋服着させてもらえて幸せ者ねぇ」


そう言ってもらえた。

最後にもう一度抱きしめた。

涙が止まらなかった。

生まれる前から、もう息をしていないという事はわかっていたはずなのに。


亡くなっていると知ったうえで産むことを決意し、赤ちゃんと会う前日の夜、夫と話し合いをした。

最後に何をしたいか、何を着させて、どんな言葉をかけてあげたいか。

何時間も話して、結局決まったことは二つ。

一つは準備しておいたお洋服を自分たちの手で着させてあげる事。

そして二つ目は、笑顔でお別れすること。

そして今、私たちは二つ目をしないといけなかった。

助産師さんが私たちの赤ちゃんを迎えに、私たちの目の前まで来た。

冷たいまま静かに眠っている我が子を目の前に、私は笑顔になれずにいた。

夫が涙をこらえながら、私の肩を静かに叩き


「よし!海と笑顔でお別れしよう。僕たちが最後にしてあげられることでしょ。僕たち親が笑顔じゃなかったら、海もきっと悲しいだろうし!」


と、不器用な笑顔を作りながら声を少し大きくして言った。

今すぐにでも涙がこぼれそうな顔をしているくせに、その場の誰よりも笑顔だった。


「そうだよね。笑顔にならないと。」


涙を流したまま必死に笑顔を作った。

私達は、静かな海を抱きしめたまま


「海、私たちの所に生まれてきてくれてありがとうね。ママとパパ、すっごい嬉しかった。大好きだよ」

「ぱぱも嬉しかったぞ~!海がママのお腹にいるってわかった瞬間とても幸せだった。僕たち親子に幸せを運んできてくれて、ありがとう。大好きだぞ」


と言った。

涙をこらえて、笑顔でお別れすると決めたから。

夫も少し不細工な笑顔で海に別れを告げた。

助産師さんに眠っている海を引き渡し、姿が見えなくなる最後まで海を見届けた。

そうしてまた、私たちは二人になった。



















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