黎明
朝は早く起きなければならない。
朝食はバランス良く。洗顔は顔を強く擦らず、着替えは手早く。
上の命令には逆らえない。逆らうなんて思ってはいけない。
そうして何度も銃を握っていると、怖いと思わなくなってしまった。
「おはよう」
「おはようございます」
「それじゃあ今日も始めようか」
「はい。……いっ」
「ん?どうした?」
「昨日怪我をしてしまったため、足がうまく動かせなくて…」
「……なにか、言うことは?」
「僕の不注意です。申し訳ありません」
「…それじゃあいつも通り始めるよ」
「はい」
今思い返せば、あの場はかなり地獄だった。血を吐くまで走ったり過労で倒れたりしたことも日常だった。
そして僕はいつのまにか養成所を卒業することができて、東京支部に送られた。養成所のやつは大体が東京支部を第一希望に入れる。最も実力があると言われているからだ。あとは大阪や福岡など。僕はその中でも第一希望に送られて、それなりにうまくできていたと思う。それなのに…
なぜ、たった一年で離れることになったのだろう。
「俺の何か至らぬところがありましたら…」
「いや、君はよくやっている」
「じゃあなんで…!」
「私の言うことに逆らうのか、お前はいつからそんなに偉くなったんだ」
「申し訳ありません。なんでもございません」
「…引き受けてくれるな?」
「はい」
仲間にはなにも言わず、ただ荷物をまとめて、書類の入った封筒を受け取った。
密かに憧れていた東京支部に、たった一年しかいることができなかった。
俺の実力不足だろうか。小さくため息を吐きながら封筒を開ける。中にはファイルに挟まれたものや厚紙など様々入っているが、まずはいちばん手前に入っている小さな紙を見ろと言われた。
取り出してみるとそれは住所と地図の書かれた紙で、ここに向かうように指示されている。遠いところなのかと思ったが、同じ東京都内だった。
支給された黒いボストンバッグを肩にかけ、リュックも背負う。建物の外へ踏み出すと、外は蒸し暑く、まだ七月中旬ということが信じられなかった。
ここから電車で約一時間。急に俺は支部に居られなくなってしまった。