砕け散った願い星
──『願い星』。それは、願いを叶える流星。
──『願い星』。それは、希望をもたらす水星。
──『願い星』。それは、終わりを告げる火球。
「ゲホッゲホッ、うぅ」
私は星野灯。生まれつき病弱で、病院のベッドから動けない生活を送っている。咳をし始めた私を、両親が心配そうな顔で覗き込んでいる。
「灯! 大丈夫? 苦しいの?」
「ゲホッ、だ、大丈夫だよゲホッゴホッ」
「まぁ、大変! お医者さん呼んでくるわね」
「だから大丈夫だってゴッホゴホッ」
見ての通り、両親は過保護だ。どうせすぐ命尽きるのに、なんでここまで愛情が大きいの……? 私には、重いよ……。
「うぅ、ゴッホゴホッ! ガハッ」
ピャッ!
やば、血反吐が出ちゃったし。どうしよ、咳も収まらないし……。
とにかく私はベッドで横になる。うぅ、苦しい……。
「灯、大丈夫かい? お医者さんを呼んできたよ」
あぁ、またお父さんの心配性が発動してる……。呼ばなくていいって言ったのに。
「ふむふむ、なるほど……病状が悪化しているようです。このままだと灯さんの余命は半年もないでしょう」
「そんなっ! どうにかならないんですか??」
両親がごちゃごちゃと、お医者サンと揉み合いになってる。なんでこんな過保護な環境に生まれてきたのだか。甚だ自分の不幸を呪う。たとえ病弱じゃなかったとしても、このぶんじゃろくに外も遊ばせてもらえなかっただろう。
「はぁ……、ホントやんなる……ゴホッガハッ……」
ピャッ!
「はぁ、はぁ……」
「まぁ、灯!? それって、血じゃない! お医者さん、一体どうしたら……?」
過保護。だるい。吐き気がする。いや、この吐き気は病気のせいか……。どうでもいいけど。
「残念ながら、この病気は現段階では治す方法がなく、また、病状を和らげることもできないのです。入院された頃から咳止めや痛み止め、吐き気がするとのこともあって、酔い止めなど、様々な薬を投与してきたのですが、どれも効き目がないのです」
「そんな……! じゃあ、灯は、死ぬまでずっと苦しみ続けるんですか……っ!」
お医者サンはつらそうに目をふせった。実際は、多少は楽になるのだが、見た目ではわからないほどしか効果がない。何となく、咳がおさまるような感覚もするし、吐き気も収まる気がする。
あぁ、あるいは『病は気から』ってやつ? プラシーボ効果がどうとか。ま、そうだとしても治りそうにないのは事実。全然良くならないのも事実。
こんな会話に意味はない。
夜
私は、のそっと起き上がった。窓辺においてあった『砕けた願い星』に、いつものように語りかける。
「ねぇ、願い星さん。あなたは砕け散ってしまっているけれど、私のお願い、聞いてくれないかな?」
返答なんて、もちろんあるわけない。砕けてるし。
願い星は、持ち主の願いを叶えてくれると言われる珍しい星型の隕石。別名が2つあり、『希望の水星』というのと、『破滅の火球』という2つ。相反する二つ名だが、結局のところ意味は同じ。
破滅という名の希望。どこにでもある話だ。持ち主に、破滅をもたらしたこともあると言われているこの『願い星』は、私にとって希望でしかない。
早く殺して。楽にして。次の人生ではもっと“普通”の暮らしを。何度も願ってきた。でも、所詮は迷信に過ぎないのだろう。あるいは、私の願い星は見つけたときから砕けていたから、力を失っているのか。
どうだっていい。全部無駄。私の命はもうすぐ尽きる。多分、明日には──。
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翌日
ツー! ツー! ツー! ツー!
「緊急! 緊急! 直ちに患者に電気ショックを加えなさい! 繰り返します! 直ちに患者に電気ショックを加えなさい!」
「電気ショック準備スタンバイ! いつでも開始できます!」
「了解! 電気ショック開始!」
「「「開始!」」」
突然、灯の心臓が止まった。なんで、どうして、昨日までは、会話できていたのに。
「灯……灯……」
「母さん、きっと大丈夫だ、灯は還ってくるよ……俺達は、信じて待とう。な?」
灯に、心臓マッサージ、電気ショック、ありとあらゆる方法を尽くすと医師たちは言っていたが、不安で、不安で、仕方がない。
「灯ぃ……」
……つい、涙がこぼれてしまいそうになる。まだ逝ったとは限らないのに不謹慎だと、必死に堪える。でも、娘が、最愛の娘が、どうしても心配だ……。
しばらく経って。
どれほどの時間が過ぎたのか、あるいは一瞬だったのかわからないほど両親は落ち込んでいた。そんなときに、医師から入った、最悪の知らせを聞いてしまった。
「娘さんは、お亡くなりになられました……」
「……、え……?」
「そん、な……嘘だよな? 嘘だと言ってくれ! なぁ!!」
「嘘ではありません。娘さん、灯さんは、お亡くなりになられました。たいへん不甲斐なく思います。本当に申し訳ありませんでした」
「そんな、そんなことって……」
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暗い。星空、とかではなさそう……? どこだろう、ここは……。
ホワァ……
ん? なにか光ってる。行ってみよう。
ホワァ……!
これって、私が持ってた願い星! あ……、もしかして、あなたが私の願いを叶えてくれたの?
ホワァ!
やっぱり! あなたは本当に願いを叶えられるのね! ありがとう! ここはどこ?
ホワァ
へぇ……そんなことってあるんだ。てっきり小説の中だけの話かと思ってた。私は、これからどうしたらいいの?
ホワァ!
え!? ほんとに!? いいの?? ……、ありがとう、私、今度こそ幸せになってみせるよ。
ホワァ!!
じゃあね! またいつか!
願い星の光が、これ以上ないくらいに輝いた。まもなく私の視界は白い光に包まれ──
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「おぎゃぁ! おぎゃぁ!」
──新たな命を授かった。
今度こそは、幸せに生きてみせる。ちゃんと生きて、あの子にお礼を言いに行くんだ。
砕け散ってもなお、願いを叶えてくれた星にかけて。
この作品から読んでくれた人にははじめまして、紅月麻実といいます。
これは、とあるサイトで投稿していた短編にちょっと付け足したものです。気軽な感じで書いたものなので、軽い気持ちで読んでくれると嬉しいです。コメントお待ちしております。