シュレディンガーはもういらない~朝、目が覚めたら裸の女友達が隣で寝ていた件~
久々の新作短編!
現実恋愛です!
「う、うわぁ……やっちゃった!?」
朝、目が覚めるとなぜか隣で大学の女友達であるミカが爆睡キメていた。裸で。
「……なんでこんな状況になってるんだっけ?」
頭がやけに重いのは昨日、しこたまお酒を飲んだからだ。
ミカが家に遊びに来て、二人で一緒に深酒をして、それからどうなった!?
「ううーん」
ミカが起き出す気配がして、ちょっと気まずいので目を逸らしてみる。
「あ、ユーキ、おはよ~」
まだ眠そうなふわふわした声がした。
そっと見ると、うまいことフトンで体を隠してくれている。よかった。普通に見せてきたらどうしようかと思った。
「お、おはよ……ミカ」
「昨日楽しかったね~」
「あーえっと、お酒、いっぱい飲んだ?」
「飲んだ飲んだ。やっぱユーキと一緒にいると安心するから飲み過ぎちゃう~!」
「安心って、ミカ、お前さぁ……」
この状況は果たして“安心”なのだろうか。
なにがあったか覚えてないけど、なんかあったからこうなっているんだろう。
思い出すまで事実は確定しないけど、思い出したらヤバい気がする。
「あ、うわ……ユーキ、ごめん」
「え」
「下着、ほら」
「……ん?」
ふとミカの指差す先、自分の体に視線をやる。
あれ?
こ、これって……。
「げぇ~!? なんでミカの下着、身に着けてんだっ!?」
「あははっ、ユーキ可愛い~! マジ似合う!」
「じょ、冗談じゃないって! ミカ、お前こんな……」
ど、どういうことだかさっぱりわかんないけど、昨日の夜、絶対なんかダメな遊びをしていたんだと思う!
ぜーんぜん思い出せない! 酒で記憶を失ったことは大学になってから数えるほどしかないけど、そのうち一回がよりにもよって今日だとは!
にしてもミカ、ムダにエロい下着つけやがってコイツめ……!
顔はそこらのアイドル顔負けでキラキラしてて、細いくせに出るとこちゃんと出てる抜群のスタイル。のわりに好物は甘いもの全般でスタバに行ったらクリーム山盛りのフラペチーノばっかり頼んで、そのあとでファミレスのデカいパフェも食べる。で、太らない。羨ましい。
「ってかユーキってさぁ……口調は荒っぽいのに意外とアレなんだよね」
「いやだ、聞きたくない」
「え、なんで?」
「酒のせいで、覚えてないから」
「うそー!? 覚えてないの~?」
「ガチで、この状況が理解不能」
「じゃあ、理解らせてあげよっか?」
「よし、大学行くぞ、講義に遅れる!」
猫っぽく擦り寄ってくるミカをするりとかわす。
思い出せない以上は、それはもう二人の間にはなんにもなかったということ。
「えー、もうちょっとまったりしない? 朝一は必須の講義じゃないじゃん?」
「ミカも早く服、着ろって」
「ぶー、ケチっ!」
膨れっ面のビジュだけは非の打ちどころのないミカが、その体から布団を退かした。
「……見せんな、バカっ!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
人付き合いが面倒だったから、大学ではぼっちでいるつもりだった。
それなのに気が付いたらミカが隣にいて、なんとなくでつるむようになって今に至る。
で、学部も学年も一緒だから必然的に受講科目もほとんど被ってしまって、だいたい毎日隣にこの顔面強い女が座っている。
最初のころはよくミカ目当ての男が寄ってきてたけど、追い払ってるうちにそういうこともなくなった。
「ユーキは私のボディガードみたいだねぇ」
とはミカの談。
「お前はスキだらけなんだよ。すぐチャラい男が寄ってくんだろ」
「え、だって、やっぱ私って可愛いからさぁ」
他の女が言ってたら嫌味もあるかもしれないけど、コイツの場合はその通り過ぎて言い返せない。
顔がいいだけでなく、ちょっと舌足らずな喋り方なところが余計に庇護欲をそそる……あー、一般論として。
「ねぇ、シュレディンガー」
講義中、例によって肩がくっつく距離で隣に座っているミカが謎の言葉を耳打ちしてきた。
「えっ?」
「知らない?」
「シュレディンガーの猫の話しようとしてる?」
「うん」
「どうした、いきなり」
「この前のこと、ユーキ覚えてないんだよね?」
「あー、まぁね」
あれから三日が経過してもやっぱり何も思い出せていない。
もしかしたら寝てる間にミカに一方的に“何か”されたか、もっと悪いパターンだと薬でも盛られた可能性も……ないとは言い切れないか。
じーっと見詰めてくるネコみたいな瞳には、時折邪悪な光が差す瞬間がある。ような気がする。
「あ、わかった。そういうことか」
シュレディンガーの猫、ね。
確かに、記憶にない以上はあの日何があったか現時点では確定しない。
ぶっちゃけ、ヤッたか、ヤッてないかって確率論的な話?
「なので、そろそろもう一回、一緒にお酒飲もうかなって」
にししっ、と白い歯を見せてミカが笑った。
「まさか今日?」
「んー、ダメ?」
小首を傾げないで欲しい。それ、てめーで思ってる以上に破壊力凄いから。
「今日は……ダメじゃねーけどさぁ」
「じゃあ決まりね」
小さな手が重ねられ、ぎゅっと握られる。
その「もう私たち恋人同士だよね」みたいな仕草がいちいちドキドキさせるから止めて欲しい。
そーいう関係に、ならないつもりなんだけどなぁ……。
調子狂うよな、マジで。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「うわ、お前それ……本気!?」
ミカはその細腕で一升瓶を持って我が家に参上した。
芋焼酎、ミカの生まれ故郷である九州は熊本のやつだ。本場。夏なのにミカは熱燗にして飲むらしい。においが凄い。嗅いでるだけで酔いが回りそう。
「いつか言った気がするけど、私のパパもママも酒豪だし、おじーちゃんとおばーちゃんも肝硬変で死んだんだよね」
「お、おう……」
「なので私、お酒バリ強いから」
耐熱グラスいっぱいに満たされた焼酎をぐいぐい飲み干し、美少女はご満悦で体を預けてくる。
「ユーキさぁ、ホントは前のこと覚えてるんじゃないの~?」
「いや、これがガチで覚えてないんだよな」
「信じられないなぁ? お酒で記憶飛ぶって本当にあるのかなぁ?」
「ミカにゃわからねぇだろうよ」
「じゃ、もう一回この前の“おさらい”しよ?」
「シュレディンガーじゃなくなるけど」
「何したか、予想してみて?」
「酒の飲み過ぎで爆睡」
「惜しい」
「じゃあ、わかんね」
「知りたくないのぉ?」
二杯目の焼酎を飲み干したミカの口からは猛烈な酒気。普段でも甘ったるい喋り方なのに、酒が進むとその甘さがいよいよ極まってくる。
「いや、そもそも、さ」
「ん?」
なんていうか……最近は大学でもそういうカップル見かけるし、もはや普通なのかもしれないけど。
「アタシら、女の子同士じゃん?」
「え、ユーキってそういうの気にする古風なタイプ?」
「ミカは?」
「ふふっ」
トン、と胸を押されて床に仰向けに倒された。
体が怠いのはお酒のせいだ。アタシ、そんな強くないしな。
「私はずっとユーキ狙いだったんだけどなぁ?」
体の上に跨ってきたネコみたいな美少女に、邪悪な瞳で見下ろされる。
妙に、ゾクゾクするぞこれ……!?
「あの夜もそうだったけどぉ……ユーキって普段の口調は荒っぽいのに、ネコなんだよね」
「ネ、ネコ?」
「受け」
顔、近い!
やっぱりコイツ、めちゃくちゃ悪い女なんじゃねーの!?
「同性だからって、こんな迂闊に家に上げたりしちゃダメだよ? ネコちゃん」
「ちょ、ちょっと待とうか! やっぱり今日は……」
「今夜の記憶は無くさないでね?」
「シュレディンガー、だろっ!?」
「それはもう、いらない。ユーキは今から、シュレディンガーの猫じゃなくなるんだよ?」
「待っ……」
とんでもなく強烈で、濃厚な……芋焼酎の味がアタシの口に押し付けられた。
悔しいことに記憶はなくさなかったけど、理性は……あー、ちょっとどっか行っちゃったかな。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
それから、結局アタシはミカと付き合うことになった。
っていうか、どうもアタシの方がミカから離れられなくなっちゃったみたい。
近頃では順調にミカの色に染められつつある。素っ気ない下着しか買ってなかったのに、可愛らしかったりセクシーだったりする下着を一緒に買いに行ったり、化粧ももっとちゃんとするように躾けられた。
いいのか悪いのかわからないけど、ミカ目当てじゃなくて「二人とも可愛いね、デートしない?」ってナンパしてくる男も増えちゃった。
「やっほー! ユーキ!」
「お、おう……」
今日もお揃いの甘ロリコーデでデートする。
フリフリのスカートなんかアタシには似合わないって思ってたけど、これが意外と楽しい。
腕を組んで、颯爽と街を行く。
映画を見て、おいしいケーキを食べに行って、ゲーセン寄って……それから、何をするんだろう。
「私と付き合えて幸せでしょ? ネコちゃん」
「……んっ」
どうやらアタシはこれからもずっと、猫のままではあるらしい。
……幸せ、だけどっ!
『シュレディンガーはもういらない』
完
おっと、大切なタグをつけ忘れてました!
つ【ガールズラブ】
これ、お話の構造上どうしても隠さなければならなかったので、最後に載せておきますねw
最後までお読みくださりありがとうございます。
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あと、感想もたいへんうれしいのですが叙述トリックがメインの作品なのでネタバレ感想はお控えください。よろしくお願いします。