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第95回 とあるちょっとした死闘


 分厚い装甲によって、サンゴーグレートのビームを防いだハビリスだったが、その内部は穏やかではなかった。

 外よりもむしろ中のダメージが大きい。中の中、心の部分。


「あ。あ。あ… オートガードが外れちゃった………」


『申し訳ありません! 敵の行動がことごとくこちらの予測を外すものでした。これほど大胆に正面から来るなど、今までのデータからは見られない行動です。そのうえ敵機の性能の上昇も予測値を越えました。フェイズ5に関するデータは私には無いので、通常の機体の1.5倍の性能で予測を行いましたが、瞬間的にはそれを上回る数値を見せてきています。ビームの威力も──』


「いいから! そんなのいいから早くあいつを殺すよ!! さっさと殺らないとまた穴が空けられるでしョ! 全身を穴だらけにされたら…… どうすんのよ!!」


『それは大丈夫です。威力が増したとはいえ、敵機のビームでこちらの装甲を貫通させるのは困難です。こちらが穴だらけになる前に、敵機のエネルギーのチャージが追いつかなくなるで──』


「そんな問題じゃないでしョ! あいつに痕を付けられるのが気持ち悪いって言ってんの!! 穴が… 体に穴が開いてんだよ…… あんた平気なのッ! 嫌だッ! 死ぬ!」


 取り乱すChimaeraを、000195000は宥めようと努める。


『大丈夫Chimaera、落ち着いてください。現在敵機の行動パターンを改めて予測しています。どんなに性能が上がっていても、行動を予測できればこれ以上この体を傷つけずに、敵機を破壊することが出来ます!』


 励ますような音声で呼びかけた。


「うッ。じゃあ早くやって見せてよ… これ以上やられたらもう耐えられない… またオートガードが外れたら、もうあんたなんか信用できないんだからね…」


『判りました。万全を期します。一撃でこちらを破壊できないと理解した敵機は、攻撃を重ねることでダメージを与えてこようとするはずです。そのため一度攻撃した部分をまた狙ってくる。それ以外の攻撃は全て囮な筈です』


「なるほど… そうか…… それなら返り討ちで仕留められるかも…… 良かった。これでやっとあれを潰せるんだ…」


 Chimaeraがサンゴーグレートと相対した時間は、以前の戦いと合わせても10分に満たないだろう。だがその存在を嫌悪し、一秒でも早く消えてほしいという気持ちは、とてつもなく大きくなっていた。




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 一瞬でも気を抜いたら、たちまち死に至らしめられる、デスゾーンたる鉤爪の射程範囲から生還したサンゴーグレート。

 けれども、再びデスゾーンに向かって、サンゴーグレートは歩を進め始める。

 甲太は自らの処刑台に向かっていくようで。

 されどその表情は、決死の覚悟というより、何か興味深いものを見つけた幼児のようだった。

 ハビリスは動かない。待ち構えている。カウンターの姿勢。デスゾーンの致死率が更に上昇する。

 パッとサンゴーグレートが駆け出した。

 デスゾーンとかどうでもいい、ただ確かめたいことがあるんだ。と。

 不動のハビリスへ。突っ込む。頭から。

 ビームを放つサンゴーグレート。左目(の辺り)から。連射ビーム。

 咄嗟に片目だけからビームを撃つという微調整ができるのは、甲太とサンゴーグレートがこれ以上になく同調しているということ。

 ビームの連打はハビリスの左脚に注ぎ込まれる。

 オートガードが働き、すかさず鉤爪が下ろされビームを防いだ。

 それと同時に、サンゴーグレートは宙に飛び。

 飛び上ると同時に右目の辺りから、チャージビームを撃つ。先ほど穿ったハビリスの左肩部へ向けて。

 ただそれはハビリスの予測通り。

 ハビリスは鉤爪のない右腕にエネルギーを集中させると、ビームを受け止めた。眩しいエネルギーの飛沫が、火花のように撒き散らされる。

 そしてすかさず。

 空中のサンゴーグレートへ左腕を向けると、鉤爪を射出した。左手首と鎖(のような何か)で繋がれた鉤爪は、サンゴーグレートのコックピットへ一直線に撃ち込まれ。

 胸部へ突き刺さった。

 ただ刺さったのは。ほんの少しだけ。

 そこで止まった。サンゴーグレートが鎖の部分を掴んで止めた。

 以前のサンゴーグレートだったら無理だった。ここで破壊されていた。だが白金のサンゴーグレートには出来た。尋常じゃなく向上したスピードとパワー。そして分析力によって、凄まじい勢いの鉤爪を受け止めた。


「……なーる」


 甲太は感心していた。何となく感じていたサンゴーグレートの力の上昇を、ここではっきりと確認し、理解できた。

 いろいろ解った。

 サンゴーグレートの力がどれほど上がっているかを、これならどう戦えばいいかを。

 そしてハビリスの力も判った。

 ハビリスは恐ろしいパワーを持つ、大人用の機体だ。だけどそこに積むコンピューターは、サンゴーグレートと大して変わらない。

 恐らく未知の人の世界における汎用品のCPU。大量生産とまではいかなくても、工場で作られる同じような性能の電子部品。

 殆ど同じものだが、サンゴーグレートのような子供用ロボットのコンピューターは、リミッター的な制限がかけられている。

 だがそれがフェイズ5の効力により、リミッターが解除された。

 遥かにパワーが上だったハビリスだが、サンゴーグレートもパワーとスピードが上がっている。少しは対抗することが可能になった、はずだ。多分。

 機体性能で渡り合えるようになり、コンピューターも同等。

 だとすれば、差をつけるものはパイロット次第ということになるが……


(カールとの戦いを見た限りでは……)


 甲太はあの時の光景を思い起こしていた。


 甲太の思考は、時間にすれば一瞬未満のもの。サンゴーグレートとの同調によって、分析力が人間のそれを超越している。

 鉤爪を捕まえられたハビリスは、慌てて鎖(のような何か)を収納し始めた。

 恐ろしく強い力で鎖が引き込まれていく。甲太は、逆らわずそのまま引き寄せられてみた。

 鉤爪ごとハビリスのもとに、勢いよく引っ張られていくサンゴーグレート。

 下ではハビリスが待ち構える。

 対するサンゴーグレートも、鎖から手を離し。拳を固めた。

 落ちてくるサンゴーグレートと、下から迎え撃つハビリス。

 両機の超金属の拳が(たぎ)る。上下からのクロスカウンターのように、お互いの拳が、相手を貫こうと迫りくる。

 そして、すり抜けた。

 それぞれの拳は相手に突き刺さることなく、最高速度の新幹線同士がすれ違ったような勢いで、(おびただ)しい量の火花とけたたましい金属音を響かせ交差した。

 ハビリスの拳が虚空に突き上げられ。サンゴーグレートの拳は地へと突き刺さる。いや。

 サンゴーグレートの拳は目標を捉えていた。狙っていたもの目掛け突き下ろされ。

 砕いた。ハビリスの右足部のつまさきに、拳を命中させ、みごとこれを打ち砕いた。


「やった…」


 次の瞬間、ハビリスの世界樹の根の如き左脚が振り上げられ、サンゴーグレートの顔面を嫌というほど蹴とばした。

 インパクトの瞬間、甲太は力を逸らし受け流したが、それでもサンゴーグレートの顔の右半分が砕き割られ、内部のセンサーが大分駄目になった。

 蹴り上げられたサンゴーグレートは、そのまま吹っ飛んでいくと、後方一回転して着地した。

 サンゴーが顔を上げると、ハビリスから、こちらを睨みつけるような憎悪の感情が伝わってきた。その足元には地面ごと叩き割られた爪先部分の破片が散らばっている。

 これだけ命懸けのアタックを仕掛けた割に、得られた成果は相手の片足の爪先を壊すのがせいぜい。その代価として、こちらはマスク部のセンサーを大きく失った。

 等価交換には程遠い報酬であったが。


(よしっ。これでいい)


 甲太は気にしない。

 どうせここで終わりなら、このサンゴーグレートとかいうロボットの体も余さず使い切り、少しでも結果を出そう。


(あと…)


 今の攻撃は、ハビリスの巨体のほんの僅かな一部分。それを削りとったに過ぎない。だけど。


「さて。どうなるかな」


 これがどういう展開につながるか。甲太は興味津々だった。


 立ち上がるサンゴーグレート。そこには怯えも怯みも微塵も見られない。むしろ嬉々とした感情さえ窺える。

 それが相手の怒りを駆り立てた。




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「殺す」


 Chimaeraは000195000の助言を待つことなく、殺意を噴出させた。




--------------------------------------------------------------------------




 ハビリスが飛んできた。弾丸のごとく。90年代のCGのロボのような質量を感じさせない動き。

 それをギリギリでかわしながら。


「あぶねぇ・・・ けど」


 甲太は呟く。

 その顔には焦りも喜びも見られなかったが、眼には輝きが宿っていた。

 ロボットの中でも一際大きいハビリスが、飛んでいった先でピタッと停止し。

 また飛んできた。まるで超巨大ピンボールだ。

 サンゴーグレートはまた躱す。ハビリスはすれ違いざまに鉤爪のついた腕を振り回したが、サンゴーグレートはボディーをバナナみたいに曲げてこれも避け切った。

 ハビリスの神速の連続攻撃。そのスピードは衰えることがない。

 なのに。サンゴーグレートは追い込まれることなく躱す。

 むしろ、2回目の突撃の方が、より簡単に躱せたようだった。

 それどころか、サンゴーグレートはもう、相手の方を向いていない。

 ロードサイドのドデカい駐車場の真ん中で、突っ立ったままでいる。


 甲太は考える。

 思った以上の成功。

 ハビリスは重心のバランスを支持するのに必要なパーツ、片脚の爪先を失ったことにより、動きが単調になっている。

 飛行する際にも、ロボットは常に脚部で反重力をコントロールしている。その力をコントロールするパーツの一部を損なったことにより、それを補おうと高速移動中のハビリスのコンピューターは、常に機体全体のバランスにリソースを割かなくてはいけなくなっている。

 結果、高速移動中の柔軟な運動が制限されているのだ。

 甲太がさっき感じた通り、ハビリスのコンピューターはサンゴーグレートと性能が大して変わらない。だからどの程度の能力が出せるのかが、サンゴーグレートと同調している甲太には(何となく)解る。

 それが正しかったのが、今の一連の攻防で証明された。

 そこまで考えた甲太が視線を上げると、ふと目に入ってきたものがある。


(学校…)


 郊外の畑とまばらな家々がモザイク画のような風景を描き出すこの場所に、学校施設があった。

 その学校から何人もの生徒たちが、散り散りに逃げ出し校門からあふれ出ていく。

 この緊急事態に一度学校の体育館に避難した者達が、緊急事態の大本が近くに迫ってきたので、切羽詰まって逃げ出し始めたのだろう。

 そんな必死に逃げる学校の生徒たちに、甲太の視線が釘付けになる。

 自分と同い年ぐらいの学生たち、甲太が選びえなかったもう一つの生き方。そして。


(あの制服…)


 今朝、街のコンビニで、甲太のかつての名前を挙げ、その死を願っていた女子生徒、その制服に似ていると思った。


 一瞬、雑念に考えを割いてしまった。

 ハビリスがそれを見逃すはずはなく。

 すっ飛んできた。鉤爪を構え、今度こそ仕留めると、今まで以上の勢いで。

 

「!!」


 今ならまだかわせる。が。

 考えることなく。

 甲太はサンゴーグレートで、ハビリスを受け止めた。

 そのまますっ飛んでいく。ハビリスの重量と加速を、パワーアップしたとはいえサンゴーグレートが止められるはずない。

 だが軌道は変えられる。

 まるで社交ダンスのように。

 ダンスパートナー同士が握りあった片手を高く掲げるように、サンゴーグレートはハビリスの鉤爪の付いた腕を片手で制し。もう一方の腕で、お互い押さえ込みあう。

 ただダンスと異なるのは、2機は横倒しの体勢だった。

 両機が掴み合い、緩やかにスピンしながら、学校の真上を、校舎を掠めながら越えていった。見上げる生徒たちの頭上を。

 甲太はホッとした。

 トラック程のサイズの、殺意に満ちた得物を眼前に突きつけられている最中ながら、少しだけ安堵した。

 もしサンゴーグレートが躱していたら、ハビリスは勢いのまま、学校を削りとりながら通過して行っただろう。そうなれば学生たちは枯葉のように舞い散り粉々になっていた。


「それっ」


 学校を通り過ぎたところで、サンゴーグレートはハビリスの腹に足を突き入れ、巴投げの要領で投げ飛ばした。

 畑の中で立ち上がるサンゴーグレートと、姿勢を懸命に制御しながら離れたとこに不時着するハビリス。噴射で辺り一帯が土煙に覆われる。

 サンゴーグレートは急いでその場を移動する。学校を背にしていては、またハビリスが突撃してきたときに、被害を与えかねない。

 結果的に学校の人間は助かった。ただ。




--------------------------------------------------------------------------




『Chimaera! 何を! 商品を破壊する気ですか!?』


「知らない! 一個ぐらい無くなったっていい! 消えろォッ!!」


 ハビリスの頭部後方が音を立て突き出た。



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