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第94回 とある田園地帯に立ち



 サンゴーグレートと、誘導されたハビリスは、田園地帯に来ていた。

 辺りは多くが田畑で占められているが、役所の庁舎や学校なども点在している。

 甲太はもっと遠く、できれば森とか山の中まで誘導したかったが、そこまで付き合うつもりはない、というハビリスの雰囲気を感じた。

 それでも街中に比べれば人口は遥かに少ない。人々が頑張って逃げてくれることを祈りつつ、この地へ降りた。



 長閑(のどか)な田園風景の中、相対する2体の巨大ロボ。

 片方のロボット、ハビリスの方が頭一個分以上大きい。人間でいえば海外のレスリング選手、それも130kg級のような体格をしている。サンゴーグレートはヒーローロボット的に肩や胸のパーツこそデカいが、全体的にスマート体形だ。

 傍目から見ても相当な体格差。そこにハビリスの強大な鉤爪が拍車をかける。

 ハビリスは既にUFR研究所側のロボを2体も撃破し、更に再び来たイダルトゥを返り討ちにしたばかり。

 その機体は、新品に近い輝きを保持していた。

 対するサンゴーグレートは、胸に開いた損傷を塞いだばかりで、まだ試し運転もしていない。そしてパイロットの甲太は、傷だらけで弱りきっている。

 そのうえ最後の切り札であるアポロンソードは、どっかに飛んでいってしまったときた。

 戦う前に既に開ききった圧倒的差。けれど、こんな状況であるにも関わらず。

 甲太の心は晴れやかだった。


(ようやくここまでこれた……)


 数時間前まで、未知の人が怖くて逃げ惑っていたというのに、この感想だ。

 多重人格を疑われそうな心境の変化だが。甲太はただ気付いただけだ。

 自分のやるべきことを。自分がやりたいことを。自分が定めた自分の役割を。

 もうとっくに幸せになるのは諦めた。ただ、不幸にならない方法も分かった。

 不幸にならない方法。それは人生の最後に全てをやりきって満足して終わることだ。きっと。

 まだ20年も生きてない頭ながら、そう考えた。

 

 ここにはルールもへったくれもない。あるのは未成熟な人間が乗った狂ったロボットと、未知の世界から来た高等な人種が乗った強力無比なロボットだけ。止める者もいなければ止められる者もいない。レフェリーも仲裁者もいない。

 そんな戦場で、甲太は目をつぶった。

 その様子に、サンゴーが焦り。


『甲太! 敵が来るぞ! 早く構えるんだ! 防御か回避か攻撃か、私に指示を!!』


 いつものことだが、騒々しいな。甲太はそう思った。




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『敵機体、動きません』


 000195000の報告。


「見れば分かりますよ。でも確かに怪しいね… さっきと同じような武器を、どっかに隠してるかもしれないよね。あいつに付いてここへ来ちゃったし…」


『周囲一帯にスキャンをかけましたが、先ほどの剣状の武器と同じ反応は見当たりません。地中深くにでも埋めていない限り、ですが』


「川の中も見た? あんたたちのセンサーは森とかの中にも効きにくいんじゃなかったっけ?」


『このサイズの川や森でしたら探知可能です。少なくともこの近くにはあの武器と同等の兵器は見当たりません。ですが』


「えッなに?」


『先ほど敵の一機が分かれて町へと降下していきました。あの機体は剣の回収に向かったと見るのが妥当でしょう』


「ああッそうか! あいつ仲間を助けに行ったと思ったら、剣を取りに行ってたんだ!? そうと分かってたら先にやってたのに! あんた、なんで先に言わないのよッ!」


『不確定要素が多くて報告が遅れました。ただ戦術的には今のままで問題ありません。敵は各個撃破しましょう、がセオリーです。先ほどの機体が剣を運んでくる前に、目の前の敵を沈黙させましょう。その時間は充分だと考えます』


「そうか… 確かに二匹同時に相手にするのは疲れるよね…… じゃあ順番にいきましょうか。せっかくこんな決闘向きの場所に連れてきてもらったのに悪いけど、剣を持ってこられたら面倒ですもんね。瞬殺しちゃいましょう!」


『敵機が仕掛けてこないのも、剣が到着するまでの時間稼ぎかもしれません』


「なるほどォ。じゃあ… こっちもそれに付き合うフリして… と」




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『甲太! 敵がエネルギーのチャージを始めた! 急いで距離をとるんだ! この距離では瞬時にやられる! 甲太!!』


 心配してくれるのはありがたいけど、いささかオーバーだよな。甲太は思う。

 すぐに飛び掛かってこないでくれるんなら、むしろありがたいんだ。



 甲太の瞼の裏には、走馬燈っぽいのが走っている。そこに映るのは。

 家族、親戚、小中校での友達。そして。

 カールがいた。甲太は笑いながら手を振る。コンプレックスという眼鏡を外すと、こんなにも自然に笑いあえるものなんだ。ただまあ生前はコンプレックスによって結ばれた仲だった。悪いことじゃない。

 幼い楓と、今の楓がいた。まったくもっていつも世話をかけてきた。さっき少しだけでも謝れたのが、何よりもありがたい。

 口をとがらせ小言を言ってくるピーターと、そんなピーターに文句を言ってるクラウディアが見えた。

 ピーターとは一応仲良くなれた、よな? それは良かったが、仲良くなる前の、嫌みキャラだったときのあいつも今となっては面白い。

 思わぬとこで知ってしまったクラウディアの過去だけど。心から悔いる気持ちがあれば、人はまた笑っていい。あいつを見てるとそう思える。してしまったことが消えることはなくとも。

 キ太郎のこの映像はなんだ? そうだジャングルの中で必死にあいつの背中を追っていた時のやつだ。この頃はキャンサーとか言われてたな懐かしい。あれ、まだ一月くらいしか経ってないっけ。

 キ太郎のお陰で、ここに立つことができた。お礼してもしたりないな。言葉は通じないけど、頭を下げたら分かるかな?

 他にも花咲や学校の取り巻きやら、迷惑かけた人々の顔が浮かぶ。本当に申し訳ない。でもその酷い出会いのお陰で、自分はこうしてここにいられる。


 感謝しかなかった。

 カールや楓はもちろん、ピーター、クラウディア、キ太郎。ベンにポンポンさん。親と家族。そして十七年間で出会った全ての人に感謝した。心から。

 ハビリスにすら感謝したい思いだった。こんな自分の最後に付き合ってくれるんだから。

 そしてサンゴーグレート。

 後悔しかないこいつとのこれまでだったけど、それもこれで最後だと思うと、なんだか笑みが零れてくる。一応感謝しといてやるか、心の中で。


「さあ、行こう」


 甲太は目を開け、誰かに語りかけるように言うと。

 ロボットの足で、一歩踏み出した。


『甲太。待て、そんな無防備なああぁぁァァあ?』


 サンゴーグレートの音声が奇妙に歪んだ。


『こ。これは一体いいいいい。甲太のイメージが広がって、そst広がってえええええええええええええエエエ』


 何だか騒がしいな、いつもながら。

 甲太は2歩目を踏み出す。

 その足元からぼんやりとした光が立ち(のぼ)っていた。




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『始まりました! 再びあの機体がフェイズ3を発現させています』


 000195000が、少し慌てたような音声で報告する。

 指摘通り、サンゴーグレートのコックピットから光の波紋のようなものが広がり、徐々に機体の色を銀色へと染めていく。

 

「チッ。ホントにあの時と同じ中身なんだ… でもいいよ。今度こそ分からせてあげる。地球生物がどんなにフェイズを上げたって、人間には敵わないってことを。ねッ!」




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 ハビリスは、後方の民家を爆発的なジェットと斥力で吹き飛ばしサンゴーグレートに迫った。

 巨大なロボットが瞬間的に場所を移し、そして停止する。下手くそなCG映像みたいにリアリティーがない挙動。傍目からはワープしたようにしか見えない。

 三次元の空間をパワーでもって無理やり跳躍する、暴力的な瞬間移動でもってサンゴーグレートの前に降り立ったハビリスは、眼下のサンゴーグレートへ鉤爪を振り下ろした。

 凶悪で強大な鉤爪が、サンゴーグレートの胸部に吸い込まれていく。そこに徐々に距離が生まれ始め。空を切った。




--------------------------------------------------------------------------




「!!?」


 必勝パターンを外したChimaeraは、何が起きたか分からない。

 

『横です!』


 モニターに示された敵機の位置を見たChimaeraは仰天する。

 サンゴーグレートはハビリスの振り下ろした鉤爪の横に立ち、その鉤爪に触れていた。




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「こいつにみんなやられたのか…」


 甲太は呟きながらロボットの手を通して鉤爪に触れる。その声には怒りも悲しみもなく、それでいて感慨深げだった。

 これを(かわ)すのは簡単だった。迷いなくコックピットを狙ってくるのが分かってるから、ハビリスが動く前からその位置をずらし始め、ハビリスが目の前に現れた時には回避は半分終わっていた。あとは振り下ろされたその横に回り込むだけ。

 それにしても、僅かでも読み間違えれば既に絶命しているというのに、甲太の顔からは、緊張も高揚も見られなかった。




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「ギャッ! 汚いッッ!!」


 Chimaeraは、ハビリスの鉤爪の付いた腕を大きく振り払った。




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 ハビリスの片腕の一振りで、サンゴーグレートは吹っ飛ばされた。いやハビリスの力を利用して距離をとったのだ。

 鉤爪に触れていた腕をバネのようにして、サンゴーグレートは宙に高く跳ね、そして一回転すると、ふわりと着地した。

 ハビリス側は目を見開いている。今ので倒したはず。こんなことがあるはずない。こんな動き見たことない。


 驚き慌てているのはハビリス側だけではない。


『ここ甲太たああああああ。そんの動きのイメ~~ジはワワワ。なぁにいいいぃぃぃぃiiiiii!?』


 サンゴーグレートも、自らの身体に引き起こされた尋常でない動きに動揺していた。

 ただ甲太にそれを構っている暇はない。今は戦闘中なのだ。

 目を細め、今の感触。ハビリスのパワー、スピード、鉤爪の殺意を思い返し。

 そして。息を吐き。目を開いた。

 

『おおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉおおおお!! 甲太のイメージが拡大していくうううう! 限りないいいい!! 私の回路の隅々まで染みわたりいいいい!! プログラムとより合わさっていくううううううううう!!!』


 サンゴーグレートが喚いた。途端に。

 機体の色が銀から金へと、コックピットから広がり変わっていく。そして。

 煌めく黄金色へと変わったそれが、吹き飛ばされるようにまた変わり。

 なにやら透明感のある金属色へと移り変わった。例えるなら白金色と言ったところか。




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『ふぇ。フェイズ5・・・・・・・・・・・』


 000195000が機械とは思えない、素っ頓狂な音声を出した。

 ただ、目の前の異常事態を伝えるには、最適な音声であるかもしれない。


「えッ! なに! なに! フェイズ5!? えッ!? どういうこと!? どういうことよ!!?? あの光が… あの輝きが… フェイズ5だっていうの?!」


『…はい… 私も視認するのは初めてです』


「私だって見たことないわよォォォォォ……………… なんで? どうして? どうしてこんなことが…………………………」




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 なんかサンゴーグレートの色が変わったか?

 まあ、邪魔にならなければなんでもいい。向こうが驚いてくれたらありがたい限りだ。

 それにしても今のサンゴーの声は凄かったな。

 ちょっとだけ気になったので、声をかけてみる。


「おいサンゴー。大丈夫かよ?」


『ダイジョウブデス マッタクモンダイアリマセン』


 なんだこれ。


「ん… お前サンゴー? なんだか声が変わってないか?」


『プログラムノ クミカエニツキ インターフェースニ タショウノヘンコウガアリマシタ』


 なんかテレビで見た、昭和とかの機械音声がこんなだったな。甲高くてもろに機械って感じの声。


『デスガセイノウニオイテ オオキナチガイハアリマセン ゴアンシンクダサイ』


「そう…」


 まあ、本人?がそう言うんだから気にしないでおこう。それに最初から甲太にサンゴーを気にするつもりも余裕もない。どうせここでぶっ壊れるのは決まっている。最低限動きゃいい。


「じゃよろしく」


『リョウカイ ゼンリョクデサポートイタシマス』


 なんかいい感じだ。少なくとも五月蠅くなくなっただけでも良かった。


 声変わりしたサンゴーグレートが、敵に向かっていく。



 静かに、しかし着実に歩いてくる白金のサンゴーグレートを、ハビリスは微動だにせず待ち構える。

 怪しんでいる。分析している。対応を練っている。未知の人であっても未だ経験したことない事態に戸惑っているのだ。

 今頃ハビリスのコックピット内は大騒ぎだろうが、外からは分からない。ただ巨大な金属の人型が、田舎町で沈黙しているだけ。

 結局分からない。

 どんなに文明だか知性だかが進んだ未知の人であっても、その者が創った超科学のロボットであっても。

 結局ぶつかり合ってみなくては、その先にどんな未来が待っているかは分からないのだ。

 だからハビリスは待ち、サンゴーグレートは進む。

 二機の間が縮まっていく。

 サンゴーは斜め下に体躯を屈めずらし、その上に空いた空間をハビリスの鉤爪が切り裂いていった。

 前触れなしに始まった白兵戦。

 この距離では、相手の攻撃を見てから避けたのでは間に合わない。甲太とサンゴーグレートの統合思考が予測し避けて、その元いた位置にハビリスが攻撃している、というかたち。

 それでも危機一髪。鉤爪はサンゴーグレートのボディーを掠め、目にも止まらぬ速さで通過していった。

 ただ、この回避運動はあまりに急で、サンゴーグレートの体勢が崩れる。

 そこへハビリスの鉤爪が、返す刀で襲い掛かった。

 再びかわすサンゴーグレートだが、流石に無理があった。重心が外れ、大きくよろめく。




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「あッ」


 Chimaeraが喜色を帯びた声をもらす。ただ次の瞬間。




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 サンゴーグレートは音速で片手を伸ばすと、目の前を掠めていった、ハビリスの鉤爪がある左アームを掴み、その振りきるパワーに乗じて姿勢を戻した。

 そして引き寄せる。ハビリスのアームの力で相手との距離を詰める。まあ、ハビリスの方がデカいので、引き寄せたというよりは引っ張られた、という感じだ。

 瞬間的に。サンゴーグレートとハビリスの頭部がすぐ近くまで来た。互いの目線が合う。




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「ひッ」


 恐怖と嫌悪感がChimaeraの口から出た。

 撃たれる、という感覚。サンゴーグレートの目の辺りのビーム砲がこちらを覗いている。

 そしてその目が光った。




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 突き放すように。サッと離れるサンゴーグレート。

 そのすぐ前を、鉤爪が通過した。

 サンゴーはハビリスから離れつつ、滞空の状態で、目の辺りからのビームを放った。

 照準はハビリスの左肩。


 咄嗟(とっさ)の際にも甲太は間違えなかった。

 サンゴービームをハビリスの頭部に向けて撃っていたら、サンゴーグレートは緊急停止していた。こちらからは相手の核は撃てない。向こうからは撃てるのに。そんな仕組み。

 カールは咄嗟に間違えて死んでしまった。解っていたのに。この不条理な仕組みを最初に読み解いたのはカールだったのに。

 だから甲太は、絶対間違えてはいけなかった。それを間違えることは、カールの残してくれたものを無駄にすることだから。

 その代わりと言っては何だが、ハビリスの頭部と胸部以外だったら撃ち放題なはずだ。だから早速左肩から撃ち抜くことにした。


 凄まじいフラッシュ光が輝き。

 後に残ったのは、茶色く焦げて少し凹んだ傷が付いたハビリスの左肩部。


「フィーー」


 甲太は鼻から息を吹いた。

 あまりのダメージの少なさに少々ガッカリしながら。

 だけどまあ、そんなもんかと思いなおした。ビームを当てられただけでもこれまでにない成果だ。

 次行ってみよう。




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