第88回 とあるロボットについて②
『お前から話せサンゴーグレート。その方がこやつらも実感できるはず』
イダルトゥがそう声をかけるが、縛られて地面に転がされているサンゴーグレートは反応しない。胴体に風穴が開いているのもあって、なんか死体みたいだ。
けれど。
「サンゴー。お前に聞きたいことがあるんだ。俺たちに大事な情報を教えてくれないか」
甲太が声をかけると。
『ああ… 甲太。了解した。君の求める質問には可能な限り答えよう。システム上答えられないこともあるかもしれないが、気を悪くしないでくれ』
サンゴーグレートは頭を起こして、愛想よく返事をした。
自分の機体がこんなんで恥じい甲太。ただ今はそうも言っていられない。
「どうせ今までの話聞いてたんだろ? だったら教えてくれ。お前たち『未知の人が造ったロボット』は、人間を攻撃出来ないプログラムがある筈なんだけど、ハビリスはそうじゃなかった。あれは一体どうしてなんだ? どうしてあいつはカールを… 仲間をあんないとも簡単に……」
口が重くなる甲太に、サンゴーグレートはハキハキと回答した
『それは単純な話だ。ハビリスは甲太たちを“人間”だと思っていない。未知の人とは違うモノだと。だから殺傷しても、ロボットのプログラム的にも、未知の人の法的にもなんの支障もない』
「えっ…」
サンゴーグレートの言ってることがすぐには理解できず、甲太は他の二人と顔を見合わせる。
『また地球人は、未知の人が纏めた知的生命体のアーカイブに記載されていない。そのため保護の対象に含まれない。よって未知の人が君たち地球人をどれだけ殺めたところで何も問題は生じないのだ』
通販番組の説明みたいに朗々と語るサンゴーグレート。
『実際は未知の人にも良識がある。それほど無茶なことはしないはずなのだが…』
イダルトゥが、苦々しく付け加える。
甲太の方は、まだ混乱の最中だ。「~は人権がない」というネットスラングはあるが、「人間だと思っていない」とは、どういう……
「……じゃあ。あなたたちは、どうして私たちを受け入れたの。未知の人にとって、地球人は人間とは認められない存在… そんな私たちを、どうしてあなたはパイロットとして受け入れたの…?」
『・・・・・・・・・』
急に黙るサンゴーグレート。
楓の質問には答えたくないのか。それに気づいた甲太が。
「答えろよ。どうしてお前は、人間として認められない俺を、パイロットに選んだんだ!?」
甲太の質問ならばと、パッと明快に答えてくれるサンゴーグレート。
『ああ、それは誤認しているんだよ』
「ごにん?」
『その通り。我々に内蔵されたセンサーが、甲太たちから放たれる脳波を「未知の人の子供」だと誤って認識してしまったので、甲太をパイロットに迎え入れたんだ。これほど酷似した脳波は、未知の人の記録にも存在しなかった。それゆえ私は間違えてしまっているんだね。そうして甲太は私の頼もしいパイロットになったんだよ』
「ええ… ええ… ええ・そんな・そんなのって・・……」
ふらつく甲太。なんだか世界が回っているような錯覚を覚える。
そんな甲太の背を、楓が支えて。
「サンゴーグレートに聞いて。どうして、あなたたちが感じた脳波を、ハビリスは感じられないのって」
「答えろ… サンゴー… 楓の問いに……」
荒い息をつく甲太の要求に、サンゴーグレートは朗らかに応じた。
『それは私たちが「子守りロボット」だからさ。子供を守るために、その脳波に敏感に反応する仕組みを持っている。ハビリスは、用途が違う。あれは作業用の機体だ。強力なパワーを有しているが、子供の脳波を感じるセンサーが無いので、君たちを殺戮するのに何の躊躇も覚えないだろうな』
思いもよらない事実を聞かされて、3人はポカンと口を開ける。
「こもり… え… なに、それ…… あんなすごい力を持ったお前が…… 世界を変えるほどの… それが、こもり……?」
ショックで眩暈を起こしている甲太は、一縷の望みをかけてサンゴーグレートに問いただす。
「でも… お前は… それだけの力を持ったスーパーロボット… なんだから… 地球の平和を守ろうと、思う… だろ… ?」
『地球を守る? それは私の役目ではない。私にとってこの世で大事なのは甲太だけだよ。まさに甲太は地球というゴミ溜めに咲いた美しい一輪の花だ。たとえこの星を犠牲にしてでも護る価値があるんだ』
「ああっ…」
甲太はその場に膝をついた。
思い返せばそうだ。
前に甲太が売名目的で移送中の囚人を撃とうとしたとき、怖気づいて躊躇する甲太に対して、サンゴーグレートが自分が代わりに撃とうかと言ってきた。サンゴーにしてみれば、人の命などゴミのようなものなのだ。
そう。このロボットは正義のロボットなどではない。甲太という地球人が乗っているから、一応人間の制御化にいるだけで。
本来は、ただプログラム通りに動くだけの機械にすぎない。
しかもそのプログラムは間違っている。狂っているのだ。ただのセンサーの誤検知。ほんの小さな機械上のミスが、人の手に余る高性能ロボを、甲太の前に落としてしまったのだ。
「こいつの… こいつのせいで……」
甲太は俯き、嘆いた。
サンゴーグレート。こいつのせいで自分の人生は狂った。
こいつと出会わなければ、今頃普通に高校に通って、平凡ながらそれなりに充実した生活を送っていたかもしれない。3年もあれば流石に友人もできたはずだ多分。この時期には進路も決まり、将来へ向け勉学に励んでいた事だろう。もしかしたら彼女だっていたかもしれない。
それが奪われてしまった。こいつと出会ったせいで。
自分が悪い。それは重々承知している。
でも無理もないだろ。目の前にこれだけの高性能をぶら下げられて、無茶をしない十代なんて、滅多にいるもんじゃない。そうじゃないか?
甲太はまんまとそれに踊らされて中毒にさせられた。スーパーロボットのパワーに酔っ払い過剰摂取した。オーバードーズだ。
(その結果がこれだ……!)
こいつらを生み出した超科学を持つ異界の住人に、命を狙われているときた。
それだって、ロボットアニメの主人公みたいに、地球を守る為という使命があるなら、命を懸けてでも! という気分になるが。
未知の人の目的は、別に地球侵略とかじゃなくて、ただ地球に誤って落っことしたロボットを回収したいだけ。そして勝手にロボットにアカウント登録したクソガキを消去したいだけ。
地球上で、このことで苦しんでいるのは甲太たちだけ。たった4人。
誰にもこの窮状を訴えられない。もしこの事実が世間に知れ渡ったら、SNSで甲太たちに対して「迷惑だから早く死ねよ」という書き込みが乱舞することだろう。ただでさえ、もう言われているのに。
たとえ甲太たちを救いたいという人がいたとしても、どうすることもできない。絶対的に。せいぜい慰めの言葉を貰えるぐらいだろう。
正に。全くもって。絶望的な状況だった。
それも、この可笑しなロボットのシステムが、ちょこっとミスをしたというだけで。
もし、このロボを拾わない世界線があったら。今頃、「何か世界で変なことが起きてるみたいね」と軽い不安を感じるぐらいで、命の危険とは無縁でいられたはずなのに。
「うっ… くそ… こんな… こんな……」
地面にへたり込み、頭を抱え悲嘆にくれる甲太。
そんな甲太を愛おしそうに見つめるサンゴーグレート。
『可哀そうな甲太… やはりこの女がいけない。カールと番っていただけあって、奴にそっくりだ。何時だって甲太を惑わそうとする。甲太を愛してもいないのに。今だって慰めの言葉一つかけようともしない。ああっ! 私のコックピットがこんな邪な者に破壊されなければ、甲太を永遠の安らぎへと案内できたというのに!』
それを聞いた甲太は、キッと顔を上げ。
「お前だって俺のこと愛しちゃいねえだろっ! プログラム通りに動いてるだけの機械のくせして! ホントに俺のこと愛してるなら、俺が大人になってもジジイになっても愛するのかよっ! どうなんだっ」
『こ… 甲太。……………………………………………………………………それは。解らない。未知数のことだ。データからは予測不能だ。甲太。君が大人になったら。私はどうなるんだ?』
それを聞いて、甲太はガックリと肩を落とす。
「もう…… いいかげんにしてくれよ…… そんなことすら……」
こんなにも、人の心が分からないロボットだったとは。こんなロボットのせいで自分が死ななくてはならないとは。このロボットに乗ると決めたのが自分だとは。
うなだれる甲太の肩に、楓が無言で手を置いた。
それにしてもキ太郎がここに居なくて本当に良かった。こんな雰囲気の下では耐えられなくなって大騒ぎしてたはずだ。
もしかしたら、ルードルフはそれを見越してキ太郎を伴い、見張りに行ったのかもしれない。
そう考えると、けっして全てのロボットがサンゴーのように、人の気持ちを察することが出来ない訳ではないのかもしれない。
「コータ大丈夫? ・・・で。カエデ。結局今の状況ってサイアクって感じ?」
クラウディアが二人を交互に見ながら言う。
楓は何か考え込んで。
「そうとも言えないかもしれない… まだ打開策はある… かも」
「えっ、マジそれ教えて!」
クラウディアが息せき聞き、甲太も顔を上げる。
「三原則が存在する以上、ハビリスもこちらの機体に、深刻なダメージを与えることは出来ないということ。そこを上手く利用すれば、戦いようはあるかも。…カールの命を奪った三原則が、今度は私たちに道を開いてくれるかもしれない」
楓の発言に、後の二人の目に光が戻る。
するとサンゴーグレートが口を挟んでくる。
『んん? 何を言ってるんだこの女は? そんなこと出来るわけがない』
「なんでそんなこと言うのさ!? あんたロボットのくせに性格悪いよ!?」
怒るクラウディアを手で制して、楓はサンゴーに問う。
「何故そう言えるの?」
『こんな簡単なことも類推できないのか? 三原則というのは、児童を保護する目的で定められたものだ。子供がロボットに搭乗した際に、過ちを犯さないように設定してある。よってそれが適用されるのは、児童がロボットに乗る時だけなのだ』
「それって…… つまり……」
楓の目が見開かれる。
『そういうことだ。ハビリスは成人用の機体であり大人が乗っている。原則に縛られることはない』
クラウディアが、縋るような目で楓を見つめる。
「つまり… つまりどういうこと……?」
「ハビリスは、私たちの命を奪うことも、ロボットを破壊することも自由に行える。けど… 私たちには… それができない……」
甲太は耳を塞ぎたい思いだった。
もうこれ以上怖い情報に、脅かされたくない。
山の中腹、といっても頂上に近い。
辺りに冷たい空っ風が吹き抜ける。
その場所で、沢楓は、ロボットに対する聞き取りを続けていた。
「イダルトゥ。この三原則という、子供のみに科せられた頸木は何とかならないの? 私はもうすぐ18歳になる。そしたら日本では成人ということになるのだけど… あなたたちのいう“子供”と“大人”の違いって何?」
『それはサンゴーグレートも言った通り、脳波によるものだ。ただそれだけではなく、パイロットになった者の、行動、思考、発育、身体能力、履歴、それら全て含めた総合的な観点から判断される。』
「未知の人の、成人年齢は?」
『そ───────────。述べることは出来ない。禁則事項というやつだ。そもそも地球とは、天体の運動周期も異なれば時間の進み方も異なる。地球の単位で表すのは無意味だ』
「時間の進み方も!?」
『これ以上は話せない』
肝心なとこで話さなくなってしまう。実にじれったい。
クラウディアと甲太は諦めモードになっていた。だが楓は、ロボットとの会話を止めない。その話せる範囲内で、何か打開策はないかと探る。
「例えば、そう… パイロット以外の大人をコックピットに同席させたら、大人として認めてもらえない?」
『無理だ。地球人の成人は、我々には動物としか感知できない。動物と一緒に乗ったからと言って、それが大人だということにはならない』
傍らで聞いてて、甲太は悲しくなってきた。
自分たちを招き入れたのは、お前らロボットの方からじゃないか、と。
パイロットになってくれたら良いことがあるよ。楽しいことがあるよ。そんな調子で、優しくして、誘ってきて、パイロットになったら世界で一番大事な存在だよと誉めそやす。
だけど実際のところ、甲太たちを求めたのは機械の誤作動からで、一度契約したら死ぬまで外れないという、まさに悪魔の取引をさせられた。
結局、このロボットたちは死神だったのだ。
色々あったがそれでも、この三年間を共に切り抜けてきた仲間だと思っていた。だけどそれはこっちの思い込みで。
こいつらはただの「子供ホイホイ」だった。スーパーロボットだと思ったのも、こちらの勝手な勘違いだったのだ。
そして…… なにより悲しいのは、それに楓を巻き込んでしまったこと。
自分だけでも辛いのに、楓という甲太にとっての“正しいもの”を、死の運命に引きずり込んでしまったという事実が、甲太の苦しみを倍にさせた。
悲嘆にくれる甲太。クラウディアも側にしゃがみ込む。
されど楓の方は、一人でイダルトゥに論陣を張っていた。
「では、三原則を打ち消す方法はないの? 絶対に?」
『打ち消す方法は… 無い』
「打ち消す方法は… か…」
甲太は楓を止めたかった。こんなことを続けていても何にもならない。より惨めになるだけだ。
クラウディアが声をかける。
「カエデ… そろそろ…」
「待って。何か、何かが見つかりそうな気が… 1条“自機のパイロットを守ることを最優先にしなくてはならない”…何から守るというの… あれほど高度な未知の人を… イダルトゥ。原則に附則事項はないの?」
『存在する』
「それは見せられるもの?」
『大方可能だが。附則の附則の附則等、合わせると1万5千以上にのぼる。平均的地球人では通常、一日12時間読んでも、読み終わり理解するまでに半年はかかる』
甲太は嘆息した。
「ああっ……」
ただ楓は、何かを見つけたように。
「その附則の中に… 原則を一時停止する、というものはある?」
『存在する』
「「「!?」」」




