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第86回 とある再開の場にて



「あたしたちにも謝ってよね! コータがいなくなってから研究所は大変だったんだから!」


「ごめんクラウ。ホントに迷惑かけた。反省してる」


「コータ! コココータ! ニポニポ。コ・キュウ!」


『甲太の故郷に来られて喜んでいるみたいだな』


「…なんかキ太郎、だいぶ喋れるようになってきてんじゃないか?」


 クラウディアやキ太郎、ルードルフと一月ぶりの会話を交わす甲太。

 ハビリスが襲来してからは、みんなと交流する余裕はなかったので、こうして普通に話すのは、本当に久しぶりのことに感じられた。

 胴体に風穴が開いたサンゴーグレートは、ヘルメイアスの糸によって縛られて端っこに転がされていた。

 この山の頂上に至る踊り場は、4体もの巨大ロボットでぎゅうぎゅう詰めになっていた。ルードルフが見張りに出ると言って、頂上へ駆け上がっていったので、やっと余裕ができた。


 甲太にとって、楓がイダルトゥに乗ったこと、すなわちアカウント登録してしまったことは非常にショックだった。

 このロボット達は、登録者が死なない限り登録は消えない。まるで悪魔の契約だ。これによって楓も、未知の人のターゲットに加えられることになる。


 でも甲太には、それをとやかく言う事はできなかった。

 言う資格もないし。何より今の楓には、カールの残した機体を自分が引き継ぐのは当然だと言わんばかりの、覚悟とか使命感のようなものが窺えたから。


「イダルトゥ。ソードの状態は?」


『良好だ。ミクロ単位においては傷や欠けが100箇所ほど見られるが、ミリ単位では目立った異常を感知することはない。あと50回程度は作動させられるだけの耐久性を保持している』


 楓とイダルトゥの会話を、目を丸くして聞いている甲太。

 そんな甲太に気づいた楓。


「甲太。イダルトゥ治ったんだよ! 性格も元通り、偏屈なままで!」


『偏屈とは心外だ。再生しても威厳は損なわれなかった、そう言って欲しいものだな』


 偏屈な物言いで反論するイダルトゥ。

 甲太はそれとなくホッとする。カールの痕跡が全て失われたわけではないのだと。

 されど当のイダルトゥは首をひねる(比喩的に)。


『…だがこれは全くもって不可解な事態なのだ。(それがし)が知る限り、通常ならパイロットが損なわれた場合、その乗機のパーソナルデータはリセットされる。すなわち人間でいう性格のようなものは変わってしまう筈なのだ。新しいパイロットに合わせてな。しかし今回の某の場合には、パイロットの交代の際にも、全くと言っていいほど変化が生じなかった。記録されていたデータもそのままだ。このようなことは内蔵のマニュアルにはない。はてさてこれは如何(いか)なることか』


 (いぶか)しむイダルトゥにクラウディアが一言。


「愛の力だよ!」


 大真面目に言い放った。

 何故か異常な説得力がある言葉。

 甲太はそっと楓の顔を窺ったが、楓は表情を変えることなく。


「じゃあイダルトゥ。その内蔵のマニュアルから今後に役立ちそうだと思われる箇所を選びだして教えて。次の、未知の人との戦いに備えて」


「!! た、戦うの!? あいつと…… 未知の人と……」


 甲太の声は悲痛な色を帯びる。大切な人を失った痛みは楓が一番分かっているじゃないか。それなのに何故、戦おうなどと思えるのか? と。


 楓はイダルトゥを操作し、剣のようなものを持ったアームを持ち上げる。


「これ、アポロンソード。カールが残してくれた最後の希望で。秘密兵器」


「ひみつへいき・・・? それが。ああっ、武器を用意してるってそれ!? そうか聞いたことある。アポロンソードってそれのことなんだ!」


 甲太の中で、カールの残した言葉の数々が組み合わさる。あいつは何時もふざけていたもんだから、どれが本当に重要なのか分かりづらい。


『自己消滅したフローレスの僅かな残滓から、研究・開発された対メカ・サピエンス兵器である。フローレスの持っていた強力な自壊プログラムを応用し、メカ・サピエンスの内部機構やナノマシンに働きかけて、それを形成する組織をミクロの単位まで、分解し破壊する機能を有している。某がカールの指令で設計を行った至上の逸品だ。その威力のさまは、あやつの姿を見れば一目瞭然であろう』


 みんなが振り返る先には、胴体に大穴を穿(うが)たれたサンゴーグレートが置かれていた。


「実施でのテストはしてなかったから、サンゴーグレートで試させてもらったの。悪いけど。ごめんね甲太」


 当のサンゴーではなく、甲太の方に謝る楓。


「いや、それは全然いいけど…… それにしても凄すぎるだろ… それ……」


 甲太は剣とサンゴーグレート、そして先程サンゴーから流出した深紅の錆の山を代わる代わる見る。積もった錆は風に舞い上がり、姿を消しつつあった。


「これ造るのガチで大変だったんだからね。ムチャクチャ細かくてエグい程いっぱいある材料を、ヘレンの能力で、より合わせるような感じで固めたんだから!」


 クラウディアが創造の苦労を叫べば、愛機も。


『ホントホント、チョー大変だった! 何週間も細かい作業やらされて、肩は凝るわ目は霞むわ腰は痛いわ…… もうマジ勘弁って感じ!』


 そう言うヘルメイアスだったが、作業に集中することで、クラウディアが一時悲しみを忘れることが出来た事に感謝していた。


「ルードルフも活躍したんだよ! 体のあちこちがビヨ~ンってなって、材料を作るのに役だったんだ」


 クラウディアは、ここにいないロボットを褒める。


「確かに凄かった… ボディ各部を工場のラインのように展開して素材を生成して。ルードルフの本来の機能は、ああいうものだったのかもしれない…」


 楓も思い出しながら感心している。


「キタローの相手してたベンさんも大変そうだったね」


 とクラウディア。

 そうなのだ、ロボットはパイロットを乗せないと力を発揮できないので、ルードルフが働くあいだ、暇なキ太郎をコックピットに押し留めるために、ベンが多大な労力を要しただろうことは甲太にも想像できた。


(数週間、キ太郎とコックピットに一緒に居るか…)


 苦笑いの甲太。

 ともあれ、2大ロボットの驚嘆すべき能力と、カールのかき集めた資材、そして楓の指揮もあって、この恐るべき兵器は誕生したのだった。

 見た目的には、ホントにロボット用の剣、と言う感じだが、その刀身は未知の人の超技術と地球人類の最先端化学を結集させた、材質、構造、作用、全てにおいて超越的な科学の結晶であった。


(これがあれば…… もしかしたらハビリス相手にだって……)


 甲太の心の奥に仄かな光が灯る。

 それを代弁するかのようにクラウディアが。


「このアポロンソードがあれば未知の人だってイチコロだよ! それに加えてこれもあるし」


 そう言ってヘルメイアスの背部から武器を取り出した。

 大きなビーム銃。


「それは…… アンテセッサー… ピーターの……」


 見覚えのある形に、甲太が呟く。


「そう。あいつの忘れ形見。これを使って(かたき)をとるの。あたしが! 絶対に!」


 クラウディアは叫ぶように言い。ヘルメイアスでビーム銃を抱きしめる。


(………………………………)


 今さら。今更ながらだが。クラウディアの心の痛みを感じとった甲太。

 今まで自分のことばかりで、他人に、仲間に目をやる余裕はなかった。だけど当たり前、本当に当たり前のことだが、周りのみんなも甲太と同じか、それ以上の痛みと苦しみを感じていたのだ。

 それをここに来るまで忘れていた、見ないふりをしていた自分は、とことんどうしょうもない人間だな、と噛みしめる甲太だった。

 感情に囚われる二人を前に、あえてなのか、楓は無感情な声で。


「これで現状出来うるかぎりの装備は整った。後は次に未知の人が現れた時にどう戦うか。とりあえずの対応策をここで決めておこうと思います」


 楓の呼びかけに、甲太とクラウディアは平静さを取り戻す。

 

(この感覚……)


 甲太は前のリーダーの姿を浮かべる。

 

(不思議だ・・・)


 甲太は感じる。なんか楓が本当にカールの代わりに、みんなのリーダーになったみたいだ。

 楓にはパイロットの経験などないのに。それなのに、ここにいる甲太を始めとする仲間とロボットたちが、楓の次の一言を忠犬のように待っている。

 カールから色々聞かされていたから。それだけでは説明できない統率力というか、強い意志を彼女から感じるのだった。

 だけども。ここにいる全ての者が、彼女に従っている訳ではない。


 笑い声が聞こえた。

 みんながそちらを見ると、それは縛られたサンゴーグレートから発せられたものだった。

 そのロボは、視線を受けると身を起こし、言う。


『フハハハハ… これは失笑ものだな。未知の人とどう戦うか? まだそんな夢を見ているのか? 先人の犠牲、いや愛しの恋人の犠牲と言うべきか? そこから何も学ばなかったのだな』


 甲太は縮みあがった。厳粛な晴れの舞台で、飼っている犬が壇上に乱入してウンコを漏らす。そんな感覚を覚えた。

 

「何が言いたいの?」


 楓はサンゴーグレートの方を見据えて言う。顔色一つ変えずに。


『言った通りだ。お前たちは未知の人に、未知の人が操る機体「ハビリス」には敵わない。それは地球人の兵器が私に対して無力なのと同様。如何に多勢で掛かろうが、如何に優れた武装を手に入れようが、無理なのだ。根本的なところで我らとハビリスは異なっている。それは絶対に覆せない違いだ』


 甲太を。少年を冒険へと(いざな)ったスーパーロボットのくせに、夢も希望もないことを嬉々として語るサンゴーグレート。

 このサンゴーグレートも未知の人が造ったもの。その当事者にこうも言われてしまったら、もう絶望するしかないではないか。

 そんな雰囲気がこの場を覆う、その前に、楓が乗るイダルトゥが立ち上がった。


「絶対に敵わない? それは本気で言ってるの?」


 問いながらイダルトゥを歩かせる楓。


『当然だ。性能的にも性質的にも、だ。あれは、ハビリスは我々を狩る為に運用されているのだから、我々が多少抵抗したぐらいで覆せるだけの差である訳がない。先の戦いでハビリスに歯向かおうとしなかった甲太は正しかった。あれこそがこの局面で唯一とるべき方策なのだ』


 今までの人生で一番恥ずかしかったこと。それを百倍にして濃縮し、ありとあらゆるネガティブな感情もプラスして、頭から浴びせられる。甲太はそんな思いがした。

 されどそんなこと気にする素振りもなしに、楓はサンゴーグレートの方へズンズン歩を進めた。


「だったらあなたはどうしたいの? 私たちに協力する気はない、と?」


 そう言う楓の機体が通り過ぎる際、甲太はゾワッとした。体を焼いていた恥の炎が、一瞬で吹き消される程の冷たいものを感じた。


『甲太の意思であれば、それがどんなものであれ従おう。ただお前たちのとる道は破滅への一方通行だ。そんなものに甲太を付き合わせるわけにはいかない。この(いまし)めを解け。私は甲太を説得し、未知の人の手の届かない場所まで逃げる。それが唯一の助かる方法だ。お前たちも見習うといい。まあ、無理な話か。無知蒙昧なお前たちが、この地球を後にする決断など出来るはずもなかったな』


「そう… かもね」


 楓は言いながらイダルトゥで、サンゴーグレートを蹴倒した。

 山の上の僅かな平地から、ずり落ちそうになるサンゴーグレート。頭が斜面に飛び出た。

 そのボディをイダルトゥが踏みつけ、サンゴーグレートの顔面に、アポロンソードと呼ばれた剣を突きつける。


「「ひえッ」」


 突然の、余りの仕打ちに恐れおののく甲太とクラウディア。

 楓は告げる。


「あなたは仲間ではある。でも同時に道具でもあるの。非常時においては使えない道具はうち捨てなければいけない。もう一度確かめます。甲太をこれ以上苦しめるのは止めて、私たちがハビリスを倒せるように手を貸しなさい。さもなければ…」


 サンゴーグレートの眼前に突き出された切っ先が、更にマスクへ近づく。サンゴーグレートの後頭部下の斜面が崩れ、転がり落ちた土塊(つちくれ)が遥か下へ消えていく。


『フヒヒ…… やってみるがいい……』


 サンゴーグレートは不気味な笑い声を漏らした。


「そう……」


 楓は諦めたようにイダルトゥに剣を引かせた。

 そして両手で剣を掴みなおすと。


「ごめん!」


 叫びとともに。

 思いっきりサンゴーグレートの顔面目掛け、アポロンソードの先端を突き下ろした。


「!!!!!」


 甲太の心臓が跳ね上がった。

 剣の切っ先がサンゴーグレートの顔を刺し貫こうとした刹那。

 イダルトゥが停止した。

 巨体が動きを止め、目から光が失われる。


「…はあ。やっぱりか……」


 本気かどうか分からないが、残念そうにつぶやく楓。

 剣先はサンゴーグレートの顔から、30cm程のとこで静止していた。


『ククク… どうした…』


 嘲弄するように笑うサンゴーだったが、その音声はちょっと震えているように感じられた。


「あわわわわ……」


 クラウディアもビビっているが、甲太はそれよりも気になることがあった。


「まただ… また止まった……」



 甲太がこれを目撃するのは、もう4回目になる。


 最初の時は、カールが何か仕掛けたのかと思っていた。

 甲太とピーターのロボットによる決闘に、カールが乱入してきた時のこと。サンゴーグレートの渾身のパンチがイダルトゥに当たる寸前に、サンゴーグレートがブラックアウトした。


 次は、ジャングルでキ太郎のルードルフを、サンゴーグレートで捕まえようとした時。

 あの瞬間、甲太は咄嗟にサンゴーグレートが停止した時のことを思い出し、ルードルフの攻撃を無防備なまま受け止めた。殆ど無意識にやったことだが、見事に成功しルードルフは動きを止めた。

 これで甲太は確信したのだ。このロボット達には何か不思議な仕掛けがあると。

 最初の停止の際には、後でサンゴーに訳を聞いてみても、要領の得ないことしか言わないので、何かの間違いかと思ったりもした。ロボットでも調子の悪い時はあるのかなと。

 だが2回目は自分が引き起こしたものだ。この仕掛けの正体を知っておかなければならない。甲太はそう思う。

 けれども。そのことを話す前にカールは絶命した。

 しかもカール自身が、この「停止」の仕掛けに(はま)った結果で。


 3度目。それはハビリスが、僅かだが、与えられたダメージによって隙を見せた瞬間、カールが止めを刺さんとイダルトゥで突撃した時だ。

 そして停止した。ハビリスはカールを易々(やすやす)と仕留めた。あれはカールのミスだったのか?


 それが今、再び繰り返された。イダルトゥがサンゴーグレートを刺し貫こうとした瞬間に、動きを止めた。これで4度目。


 いずれの場合も、ロボットがロボットに強力な一撃を加えようとした寸前、それは起きた。


 もしかしたら、これはそういう仕組みになっているのか? なにか… 安全装置のような感じで……

 しかし。甲太は思い出す。

 ハビリスはピーターを殺している。実際にその場を見たわけではないが、後に残された記録を見ても、ハビリスが引きずっていたアンテセッサーの残骸を見ても、それは明らかなこと……

 そしてハビリスがカールを殺した瞬間は、甲太がその眼で確かに……


「ああっ!」


 甲太は声を出した。

 もしかしたら、それこそが、ハビリスの持つ…


(サンゴーが言っていた、ハビリスには絶対に敵わないという言葉の意味。それはもしかして、このことを指しているのか?)


 甲太は思い返し、考え、顔を上げた。

 そして歩き出した。イダルトゥのもとへ。

 今こそみんなと共に、このロボットたちの謎を解き明かすために。




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