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第75回 とある海岸近くにて


 甲太は再びハビリスに話しかけた。


「え~~。あなたは許可を得て地球に入ってきたのですか? 何の許可もなしに地球に来ると法律により罰せられます。今すぐ偉い人に許可を取りに行ってください! その間そのロボットは宇宙とかに待機させておいてください」


 ちょっと強く言ってみる。

 されどハビリスは動かない。

 それならそれでいい。こちらにも考えがある。


「聞こえていますか!? 後になって聞いていないとか言われても知りませんからねっ。今すぐ立ち去りなさい! さもないと……」


 サンゴーグレートは僅かに足先をにじり、足場を確かめる。




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 甲太の口調が変わったので、ハビリスのパイロットChimaera(キマエラ)は興味を持った。


「なんかずっと言ってるね。これ命乞いじゃないよねェ?」


『違いますね。一度地球から退避するよう要請してきているのです』


「えッ。今更…w そうか、アイツから背中のこれ見えてないんだw」


 Chimaeraはほくそ笑む。ただ。


『……あの機体……』


 000195000は何かを気にしているようだった。




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 甲太の独演は続く。


「さもないと…… 攻撃します! 言いましたからね? ちゃんと録音されていますからね。聞いてなかったは通じませんよ。だから… ええと… 立ち去りなさい! 今から100… いや60秒与えますから、その間にここから立ち去るか、もしくは返事をしてください。分かりましたね! では60! 59! 58!」


ルードルフ『甲太。どうする気だ……?』


キ太郎「が…う?」


 甲太がいきなり始めたカウントダウンに、戸惑う面々。




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「なんかカウントダウン始めてません?」


『そのようですね。地球から立ち去るか、返答するか。それを60カウント以内に行うよう要求してきています』


「へ~~、面白いねェ。これガン無視したらどうなるか、ちょっと観てやりましょうかw」



 甲太の始めた奇妙な行動により、とりあえずルードルフが立ち上がる間は稼げたようだ。




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「40! 39! 38!」


 甲太が大声で数字を数えるが、ハビリスにはなんの反応も見られない。微動だにしない。


(まる無視を決め込んでんのか… まあいい、カウント終わりまで動かないでいてくれたらそれで十分だ。おっと次は32)


 バカみたいに声を張り上げてカウントしながら、コンソールに何かを打ち込み、サンゴーグレートへ指示を出した。マルチタスクで甲太の頭は爆発寸前だ。


『了解した…』


 しぶしぶ従うサンゴー。

 こうなれば甲太のやることを見守るしかない。




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『Chimaera。先ほどから気になっていたのですが、あの機体』


「うん? どうかしたの」


『はい。カウントを始めたあの機体─── あっ。今あの機体からの通信を傍受しました』


「へェ。なんだって?」


『画像データ… 文字の様ですが… 解読中… 該当する文字・言葉は見当たりません。解読不能』


「えェ? どういうこと。壊れた? 今壊れられたら困るんですけど…!」


『暗号…? これは一体……』


 000195000でも解読できない文字の出現に、何かしらのエラーを疑うChimaera。

 それほどまでに、ハビリスのコンピューター000195000が、読めない文字が存在するとは考えにくかった。

 地球に到達すると同時に、世界中の重要度の高いデータを収集したハビリス。その中には言語も含まれる。人の物だけでなくコンピューター言語も学習した。

 全ての言語を使いこなすことで、UFR研究所の管制塔をハックして偽の誘導を輸送機に行うことが出来た。 現在地球で使われている言葉は、完全に理解し運用することがハビリスにはできる。

 今、使われているものならば。




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 ようやく立ち上がったルードルフに、その通信が届いた。


『甲太から文字が…? !! これは……』


「う~が! うぅぅがぁあ!」


『なる程…… そういうことか…… よしっ』


 ルードルフには理解できた文字。それはキ太郎の亡き母の故郷で使われていた文字。故郷が衰亡すると同時に地球から消えた文字だ。

 それをジャーナリストのケンペルが集めてデータ化していたものを、UFR研のロボットが保存・共有していたのだ。まだ世間に発表されていないデータで、インターネットにも晒していない、それゆえネット空間のどこを探しても見つけることは出来ない。

 甲太が指示した字を、サンゴーに画像データに変換させ、それをルードルフに送ったのだ。

 万が一ハビリスに傍受された時の為の、念には念を入れた対策だったが、予感は当たりハビリスは瞬く間に傍受し分析していた。

 だがこの文字を読むことができるのは、世界に4機だけ残された、UFR研究所のロボットだけだ。




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『私のエラーではありません。おそらくこの文字は、仲間内だけで使うお遊びで作った文字なのでしょう。1字だけなので意味を推測して訳することも出来ず…』


「はァ、しょうがないなあ。…うぅん。まあいいんじゃない。この五月蠅いカウントが終わったら目の前のから順番に潰してって、次の品を探し出すだけなんだから。考えても意味ないよ。えと、残り30か…」


 ハビリス内のモニターにカウントが表示されている。


「ん…? よく考えたらこんなカウントなんかどうでもいいよね? 何だかあいつのペースに乗せられてしまったような…… でもここまで付き合ったんだから、最後まで乗ってやろうかな。と見せかけて、カウントが終わる前に攻撃したらあいつビビるんじゃないww」


『そんなこと……』


「いいよやろうよ。じゃ…あ。残り3になったら前にいる、今起き上がったやつを潰しちゃおう!」




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「19! じゅうひゃち…! 17!」


 恐ろしく長く感じた60カウントが終わろうとしている。

 カウントが終わった時、どんな光景が現れるのか。

 甲太の頭の天辺から足裏まで、汗がにじんだ。


「16!……フウ… 15! 14!」




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「いよいよ命のカウントダウンも終わりですねェ」


『Chimaera。彼らと話し合えませんか…? なんとか他に打開策を見出して…』


「なんて? 商品を回収したいから勝手に使った君たちは死んでね、って言うの? その方が残酷じゃないかな?」


『それは……』




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「13! 12! 今だ!!」


 甲太が叫ぶ。

 ルードルフへ送った文字は“11”


 サンゴーグレートのビームが、ハビリスの顔面へ向けて放たれ。

 同時に片目からビーム刃の奔流を(たぎ)らせたルードルフが、低い姿勢からハビリスに突進した。

 瞬時に、ハビリスの片手が振り上げられ、その鉤爪にぶち当たったサンゴービームは反射し、躍りかかるルードルフの脚を貫いた。

 

『うごおッ』


 ハビリスの前でつんのめるルードルフ。そこをハビリスが蹴り上げ、吹き飛んだルードルフはサンゴーグレートに激突した。




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「………ほら、ね。こんな奴らに情けをかけると、痛い目見ちゃうんだよ」


『…でも、彼らも生きようと必死で……』


「もう…… いい子ぶるのは止めようよ。君はうちの備品に過ぎないんだし。私だってこんなことしたくないけど、やらなきゃなんないんだし立場は(おんな)じだよ。それにもし手ぶらで帰って色々バレたら、うちの会社自体ヤバいでしョ?」


『そうですが……でも』


「え~~、まだなんか言うの?」


『あの機体。今カウントの声がしていたあの機体。あれはもしかしたらphase3の状態に成っているかもしれません』

 

「は? なにそれ。どういうこと」


 Chimaeraはサンゴーグレートの方を見た。




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 甲太は蒼白だった。

 ロボットに顔色があったとしたら、ルードルフも同様だろう。

 騙し討ちで相手の不意を突いた。そこまでは完全に成功した。

 だが単純にスピードでもって防がれ、瞬く間に2機同時に圧倒された。


(今のは最高に決まってる一撃だった… 今のを防がれるなら、もう打てる手なんて……)


 緊張こそしていたが、今の甲太の調子は最高と言って良かった。

 なんかサンゴーの動きがフワフワと軽く感じられるほどに。アドレナリンとかのせいか?

 それなのに相手に傷一つ付けられないとは。

 

(こうなれば……)


 こうなれば逃げるしかない。

 だが前みたいにバラバラに逃げるのはもう止めたい。それだったら初めから戻ってきてないし、精神衛生に悪い。


(2機だ。ルードルフとサンゴーの2機が固まって防戦しながら、ダメージを分散しつつ海へ近づいて行って… 一気に飛び込む!)

 

 あと2キロほどで海岸に辿り着く。

 海中へ逃げ込み、母なる海にこの巨体を隠してもらう以外に術は無い。

 先程と同じ暗号を使って呼びかける。


「ルードルフ… まだ戦えるか? 海まで2体で戦いつつ移動しよう…」


『そうだな… もうそれしかあるまい… さあ、キ太郎。もうちょっと怖いのを我慢すれば、行きたがっていた海だぞ』


「ゴオ~~! コ~~ウ!!」


 2機のロボットは身構えた。

 眼前の脅威。ハビリスに向かって。

 並び立ち戦闘態勢のサンゴーグレートとルードルフ。

 サンゴーグレートの全身が、ぼんやりと銀色に輝いているのをルードルフは横目にしたが、今はそれを指摘する余裕もなかった。




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「ふぇいず3? そんなことあるわけないじゃない! そんなの私、今までの人生で見たの一度しかないよ? あれは遠足の時の事故で、先生が他のクラスの子を助けようとして… あの時の先生立派だったなあ…… そうだよ、あんなこと地球人間なんかに出来るわけないじゃない!」


『しかしこれまでの観測から、その可能性が限りなく高いと思われます。あの機体のビームをオートで防御した際に、予想された以上の負荷が機体各部に掛かりました。通常ならありえないレベルのものです。地球人類にあの機体を強化改造できるだけの技術はありませんので、phase3によって機能が上がっていると考えるのが妥当でしょう』


「そんな…… そんなこと… ないよ! あるわけない……!」


『見てください。あの機体から光が放たれています。僅かなものですが。あれはphase3によって生じる発光現象と酷似しています。地球人類が発動させたものゆえか、本来の発光とは多少差異はありますが』


「嘘ですよそれ。信じませんねッ。ホントにそうならこの仕事は危険だ! ってことになるんじゃありません?」


『安全に関する“原則”がありますので、Chimaera、あなたの生命に危険が及ぶことはありません。ただ… 私の機体が破損させられて、そのために作業に支障が生じる可能性は、あるかもしれません……』


「うそだよそんな…… …そうか、だからあいつあんなに舐めた真似してきたんだ…… あたしなんて怖くないって、そう思ってるから……! …でもね。あんたのお友達はそうでもなかったみたいよ……」


『Chimaera?』




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 ハビリスに向け勇ましくファイティングポーズを見せつけるサンゴーグレートとルードルフ。

 けどポーズをとりつつも、隙があれば一斉に逃げ出そうという心持ちであった。

 そんな2機に対して棒立ちだったハビリスが、突然片腕を背中に回した。


「くるぞキ太郎! ルード!!」


 甲太が、警告を発する。


(武器を出すのか!? デカい斧か? バズーカか?)


 甲太たちを極度の緊張が覆う。

 ハビリスは背面のジョイントを外し、背中の荷物を鉤爪に引っ掛けると、片腕で軽々と前に(ほう)った。

 投じられたアンテセッサーは、地面に力なく投げ出され砂煙を巻き上げる。

 仰向けで倒れてる、機体の前面がぱっくりと割れたそれ。


『アンテセッサー!!?』


 ルードルフがロボらしからぬ驚きの声を上げる。

 内部ではキ太郎が驚愕で固まった。

 その横で、サンゴーグレートが。


『甲太? 大丈夫か甲太』


 アンテセッサーの犠牲を、知っていたかのように驚かないサンゴーグレートは、慌てて自身のパイロットに呼びかける。


『甲太! しっかり─────』


「わああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁあぁああああああああああ!!!!!」


 甲太は絶叫した。

 

「ウああああぁぁぁぁぁ・………………………」


 固まった姿勢のまま、声だけが張り上げられ、噴き出して、吐き出し尽くして止まった。


『甲太! 大丈夫か! しっかりするんだ甲太!』


『甲太! こいつの言う通りだ! 今は、今は落ち着くんだ!!』


 サンゴーに続いてルードルフも必死に呼びかける。

 それを聞いてか聞かずか、甲太は無くなった肺の中の空気を補充し。


「ぎゃあああああぁああああああああぁああああああああああああああぁあぁあぁああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ・・・!!!!!」


 再び悲鳴として全部吐き出した。

 そして酸欠ゆえか恐怖ゆえか、後ろにのけぞっていく。


『甲太!』


 コックピット内部のシートを調節し、甲太の体を支えようとするサンゴーグレート。

 だが、そのボディも揺らいだ。


『こ、これは!』


 イメージ操作により甲太とサンゴーグレートは、強く結びついていた。その甲太が一瞬にしてダメになったので、サンゴーの機体も釣られるように力を失い傾いていく。

 スーパーロボット・サンゴーグレートは尻餅をついた。無様なまでに。

 その姿勢のまま、必死に後ずさりしようともがいている。

 機体がパイロットに同調していた。甲太と同じ姿勢で逃げようとしていた。

 目の前の光景から。

 目の前の現実から。

 サンゴーグレートを包んでいた(ほの)かな輝きは、もうどこかへ行ってしまった。




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