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第74回 とある逃走劇の果てにて



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「先を行くコは全然スピード落とさないんだねェ」


 追う者であるハビリスの中でChimaera(キマエラ)は誰にともなく言う。


『この様子だと2機が連携して応戦してくる可能性は低いでしょう。このまま行けば先頭の機体は海に到達します。ここは目の前の機体を捉えるのに集中しましょう』


 そう000195000は分析する。


「やっぱりオロカでジコチューな種族なんですね。仲間を見捨てて逃げるなんてサイテー」


『この状況なら殆どの動物は同じ行動をとるでしょう。それが高等な知的生命体であったとしても……』


「もし仲間を助けるためにUターンしてきたら、サービスしてあげたんだけどなァ…」


『見逃すということですか?』


「もちろん違うよ。苦しまずに仕留めてあげるってこと。自分が死んだのも判らないぐらいに超速でね♪」


『ああ… そういう…』


「あ~~ 残念だなァ」


 高速で追尾を続けるハビリスの中で、Chimaeraは両腕を枕にふんぞり返った。




--------------------------------------------------------------------------




『キ太郎。進路を変えよう。このままでは甲太も道連れにしてしまう……!』


 決死の逃走の最中(さなか)、ルードルフがキ太郎に呼びかけるが。


「コリュウウァァッタ。コウコウコウ… コ~~ウ!」


 キ太郎は甲太を追うのを止めようとしない。


「クソぉ… あいつ……」


 キ太郎の声に不快感を覚える甲太。


(あんな奴、助けるんじゃなかった……!)


 悔恨の念がつのる。

 助けるんじゃなかった。連れてくるんじゃなかった。もともと森の中で楽しく暮らしてたのに、無理に連れてきたからこうなったんだ。結局みんなが不幸になっただけ。故郷の森に置いてくるべきだったのだ。

 そんな甲太の意思をくみ、サンゴーグレートは後続のルードルフを振り切りにかかる。

 ルードルフも四足獣形態や飛行形態を使い分け、なんとか追いすがるが。

 サンゴーグレートが丘を飛び越えたところで、目の前に送電用の鉄塔が現れた。


甲太「くおっ!」


 サンゴーグレートは何とかすり抜け、前進を続けた。

 ルードルフもそれに続く。

 だが。


『しまった!』


 足先が電線に触れてしまった。電線は引っ掛かり引っ張られ、切れた。

 感電は大したことなかったが、引っ掛けた場所が機体の末端だったのがまずかった。

 数十メートルの巨体を持つロボットが、高速で移動中に身体の端を引っ掛けたことでバランスが崩れる。

 それでも1kmほどは、傾きつつ進んだが、そこで砂に足をとられ転倒した。

 普段なら、そんな凡ミス絶対しないルードルフなのだが。

 前を行くサンゴーグレートは、進行方向の先を最新の衛星写真と照らし合わせることによって、最適な道を選ぶことができた。

 ただ、これまでインターネットに繋がるのを避けていたルードルフは、それが出来なかった。大雑把なマップぐらいは持っているだろうが、それには鉄塔などの人工物は載っていない。

 それでもとんでもない運動性能によって、ここまで高速で飛ばしてきたが、キ太郎が甲太に追いつくのを焦るばかりに、とうとう高圧線の一本に捕まってしまったのだった。


「あ!」


 ルードルフが転倒したのを見て、甲太は声を上げた。

 すぐさまサンゴーグレートが(いさ)める。


『気にするな。前だけ見て走るんだ。彼の尊い犠牲を無駄にしてはいけない』


 そう言われても… 

 甲太はスピードを僅かに緩める。


『甲太! 駄目だ!!』


 サンゴーグレートの音声のボリュームが上がった。今までにない音量。


 もう海が近いのか、ここら一帯は地面が砂状で柔い。

 そのためルードルフが立ち上がろうとしても、すぐにバランスを崩してしまう。

 中のキ太郎が焦るあまり、機体の意思と人のイメージ操作がぶつかって、動きに混乱をきたしていた。

 ちゃんとした契約をしていないのが、ここにきて仇となった。


(あ!)


 また転んだ。

 もうルードルフ本体は諦めたようだ。せめてここで追手を食い止めよう、そんな気配すら感じる。

 だけどパイロットであるキ太郎は悲痛な声を上げる。


「ゥオオオォォォッォ。わ~~~~~うぅ……!」


「ううぅぅ…」


 後部カメラを映すモニターで、ルードルフを見つめる甲太。

 しかしその眼が、もう一つのものを見てしまう。

 後方より、砂煙を上げながら迫るそれ。

 他より一回り大きい機体ゆえ、より遠くからでも確認できる。


(未知の人の…!)


 うっかりロボットに乗ってしまった地球の子供たちを、狩りに来たもの。


『甲太!!!』


 サンゴーグレートのダメ押しを受け、甲太は再びスピードを上げた。

 ルードルフはその後ろ姿を静かに見送る。

 けど、キ太郎は叫び続ける。まだ生きるのを諦めたくないと言うように。


「コオウタッ! コ~~ウ。コーーテャァああ! こーーーーーうっ!!」


『通信を切ろう』


「だめだ」


 サンゴーを止める甲太。本当は耳を塞ぎたいぐらいだ。でもそれをしたら人として終わる。

 この子の、キ太郎の最初で最後の言葉。それは自分の名前。せめてこの言葉だけは、聞いておかないと、ダメなんだ。

 ありがとうキ太郎。ごめんキ太郎。守ってやれなかった。


「コータァァ!! コーーータァァあ! わあああぁぁぁぁああ! こーたぁ」


 迫りくる脅威に悲鳴を上げ、もがくキ太郎。恐慌の為かまたルードルフを転ばせた。


「コーーーーーーーーータァァぁぁぁあああぁぁあ」


 甲太はアクセルを全開にした。



 突然、甲太の目の前に映像が現れた。幻か、脳内の混乱ゆえか、定かでないが。

 そこには幼いころの甲太が映し出されていた。

 

(これは()っさいころ、まだ小学校入る前の俺だな・・・)


 突然の白昼夢、しかも命が掛かった場面で見たものにも関わらず、驚かない甲太がどこかにいた。

 その、今よりガキの甲太は、雨の中を泣きじゃくりながら歩いている。

 どうしてこうなったのか、あまり憶えていないが、なんか遠くの公園まで行って帰れなくなっていたような。

 そうだ、近所の小学生の群れに付いていったのだが、公園で甲太は一人で土とか(いじ)っていて、気づいたらみんな帰ってしまっていたのだ。

 そのうち雨が降り出す。幼い甲太は、どうやって来たのか分からず、雨で辺りも暗くなり、怯えて泣きながら彷徨っていた。

 

(あぁ… そこで……)


 道の先に傘をさした楓がいた。探しに来てくれたのだ。

 それを見て、慌てて走り出した幼甲太はスッ転んだ。

 転んだガキ甲太は更に激しく泣きわめく。顔面、泥と涙と鼻水でぐしょぐしょだ。

 そんな甲太を楓は立たせて、ハンカチで顔を拭ってくれた。

 そうして手をとって家まで連れて行ってくれたのだ。

 あれほど安心を覚えたことは他にない。

 それにしてもあの時の楓は、とても同い年とは思えない程しっかりしてたな。まあ、公園自体そんなに遠くないのだと後になって気づくのだが。恥っずい思い出ではある。

 すっかり忘れていた記憶。どうして今、こんなものを思い出したのだろう?

 何秒、もしくは一瞬だったかは分からないが、その光景を見終わった、思い出し終わった甲太は不思議だった。

 しかし見てしまった以上、このままでは居れない。

 ブレーキをかける。



『甲太!!!???』


 サンゴーが驚きの声を上げる。

 それを無視して機体の向きを急反転させた。


『待って! 待ってくれ!! 待つんだ甲太!!!』


 待つわけにはいかない。あそこで転んで泣いている子がいる。

 あれは自分だ。俺なんだ。


『ダメだ駄目だ駄目だだめだめだめd』


 泣いていた小さい俺は楓が助けてくれた。じゃあ、あそこにいる泣き虫はだれが助けるんだ?

 俺があの子を見捨てたら、小さい俺が見捨てられるのと同じだ。

 雨の中、迷子で泣きじゃくっていたチビ甲太は、楓に救われることなく、追いかけてきた怪物にとって喰われる。

 そんなことあるか。そんなことがあってたまるか。そんなことが許されるか。

 

「そんなこと駄目だ! 絶対駄目なんだっ!!」

『ダメだぁ!! 甲太駄目なのだァ!!』


 ロボとパイロットが同じことを口走る。意味は真逆だが。

 サンゴーグレートの機体は、猛スピードで来た道を引き返す。が。

 そのコンピューターは、苦悶の唸り声のような音声を発した。


『あれと戦ってはいけない! あれに勝つことは出来ない! あれに(あらが)うのは絶対にムリなんだ!!』


 その声を聞き流しながらも、サンゴーは“あれ”を知っている? と、ふと思う甲太。

 甲太はカールの命令に背き、仲間を救うために恐ろしい難敵に向かっていく。

 もし、甲太がもうちょっと幼かったら怯えて逃げてただろうし、もう少し大人だったら冷静な判断のもと、引き返さなかっただろう。

 今の、今この瞬間の甲太だからやったこと。出来た事だった。

 砂煙を上げ、ルードルフのもとへ駆けつけるサンゴーグレート。


「こう! コ~~~~~ウ!!」


『戻ってきてくれたのか……』


 感慨のもとに迎えてくれる、キ太郎とルードを前に。


「まあ…… その… 待たせたな!!」


 はにかむ甲太。

 その視界の向こうに。

 ハビリスがいた。

 これだけの巨体が、いつの間にか、音もなく立っていた。


「!…………………」

 

 ついにハビリスと対峙したサンゴーグレート。

 そのサンゴーのボディーが、ほのかに白く発光していることに、甲太は気付かなかった。




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『戻ってきました。引き返して… こんなことが起こるとは……』


「…… …… …… …… …… …… …… …… …… …… …… ……」


『どうしますChimaera。なにか特別の対応をとりますか?』


「うん… そうね。仲間への愛情を見せてくれたお礼にたっぷり可愛がってあげようかな…」


『…先ほどは苦しまないよう瞬時に仕留める、と言っていましたが?』


「う~ん。そう思ったんだけど… あいつ舐めてるよね。こっちを。あたしが弱いと思ったから平気で近づいてきたんだよね? あたしじゃ殺せない。殺されないと思って」


『そのようなことは無いと思いますが…』


「じゃあ何で戻ってきたの? 一度は逃げたのに。完全に見捨てる気だったよね? 今の今まで」


『それは仲間の大切さを思い返して……』


「そんなわけないじゃん!! あッ… ごめん。そんなわけないと思うな… だってこいつら頭が悪いし性根も腐ってる下等生物でしょ。賢かったらとっくに商品をこちらに返してるよね。それが無いってことは、こちらサイドを見くびってるか絶望的に頭が悪いかのどちらかってことになりますよ?」


『こちらの要請に応えなかったのは、この星の大人たちの事情でしょう。目の前の子供たちは事情を知らされていないのでは』


「ま。いいでしょ。どっちにしても戻ってきたのは嬉しいことだもんね。どう始末するかはこれからの態度次第ということで」




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 海近くの荒れ地で。

 起き上がろうとするルードルフを挟み、サンゴーグレートとハビリスが相対(あいたい)した。

 

(やばいやばいやばい………………っっう)


 勢いづいて戻ってきたはいいものの、いざハビリスを目の前にして、心身ともに縮みあがる甲太。

 前見た時は、飛行機の窓から遥か遠方にだった。それがすぐ間近に。

 こうして見るとデカい。サンゴーより頭二つ分ぐらいデカいんじゃないかとパッと見感じる。

 その巨体の片手には、これまた大きな鉤爪が備えてあった。どう見てもイイモンには見えない装備をしてらっしゃる。


 だが甲太とて、生身で自身よりタッパのデカい奴とやり合ったことが何回かある。すぐロボットが助けてくれたけど。

 とにかくケンカでもなんでもハッタリが大事だ。

 まずは言葉で気勢を制しよう。その間に隙を見出せるかもしれないし、ルードルフの体勢も整うだろう。

 どれだけ地球の人間が恐ろしいかを、言葉にしてビビらせてやる。

 甲太は口を開いた。


「こ。こんにちは。えーーーあのーーー… こちら地球の… 人間です。ニッポン人です。はなし… はなしをしましょー。平和がだいじです。あなたのいけんをきかせてくだしゃい…」


 声が震える、でも、とにかく話しかけてみる。通信の周波数が分からないので、ひとまず音声で流す。

 この(たぐい)のロボットの翻訳機能はズバ抜けている。相手のロボも、甲太のたどたどしい呼びかけを、ちゃんと訳して中の人に届けてくれるはず。

 ただ一つ、甲太には気がかりなことが。


(中の人… いるのか…? 無人機じゃないよな……)



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 その中の人はというと。


『向こうから音声でメッセージ… らしきものが流れていますが…?』


「ああいいです。聞かせないで」


『確かに… 声を聞いたら情が移りそうですね』


「え、いや。キモいからですよ? 汚い生物の鳴き声なんて聞きたい人いるんですかね?」


『…………………………』



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 そんなこと言われてるとも知らず、相手からの反応がなく焦る甲太。


(怖い… こうやって正面に立ってるだけでヤバい、ヤバすぎる… サンゴーの言ってたことが合ってた……)


 サンゴーグレートとハビリスの距離は300mはあったが、それでも怖い。迫力が伝わってくる。

 ふと。前にいるルードルフが視線?を送ってきたように見えた。


(そうか同時攻撃…)


 甲太たちの機体より高性能であろうあのロボには、それしか手がない。

 だがタイミングはどう合わせる?


(…そうだ。あれがあった… あれならルードルフは判ってくれる)


 甲太は懸命に思案し。


(よしっ)


 そのアイデアを実行に移す。



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