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第73回 とあるレーダー上にて






「…………」


 レーダーから、アンテセッサーの反応が消えるのを見届けたカールは、逆探知されぬようレーダー画面を閉じ。


「…さよなら。ピーター」


 顔を上げ、イダルトゥを全速力で飛び立たせた。




--------------------------------------------------------------------------




「やった…! やりました! 早速一体確保だよ!」


 ハビリスのコックピット内に喜びの声があがった。


「来て早々、捕まえられちゃうなんて… 思ってたよりこの仕事チョロいかも知れないね…!」


 地球にある言葉ではない。所謂(いわゆる)「声」ですらないかもしれない。ただ確かに意思を表現した情報の羅列だった。

 もう一つ声がする。


『攻撃力が過剰でした。多くの地球人を巻き添えにしてしまいましたよ。憂慮するべきことです』


「あ~~。195って細かいんですねェ~~。巻き添えって言ったってこちらのもの盗んだ地球生物の一味なんだから、自業自得とも言えるんじゃないですかねェ。それに“これ”に乗ってたヤツ、思いっきりこっちを狙ってましたよ。これは正当防衛ですね。完全に。ウン」


 195と呼ばれたハビリスのコンピューター[000195000]は言う。


『過剰防衛でした。地球人の子供の乗る機体が、こちら側に致命傷を及ぼす恐れはありませんから。初めての接触は褒められたものではなかったですよChimaera(キマエラ)


「はいはい随分厳しいんですね今回の相棒は。まあ幸先のいいのには変わりないし、続けて連続確保いっちゃいましょう! …さっきこっちを窺っていたストーカー君がまだ近くにいる筈だし。これは上手くいけば今日中にこの仕事終わるかもしれませんねェ。むむ?」


『おかしな行動をとる機体がいますね』


「わあ~~。やっぱあんまり賢くない生き物みたいだねェ。散り散りに逃げ始めたのを見た時は、面倒なことになったな~と思ったけど、どうやらこの子はパニックを起こしちゃったみたいですね。これは連チャンいけそうですな」


『………………………』


 ハビリスは、力を失ったアンテセッサーを自身の背中の接続部に引っ提げると、頭を(めぐ)らしサンゴーグレートの飛んで行った方向へ進路をとった。




--------------------------------------------------------------------------




 サンゴーグレートで輸送機から発進した甲太は、これからどこへ行こうか迷う。

 見れば、後続の輸送機(Uターンしたので今は先頭の)から、ヘルメイアスが飛び立つのが確認できた。

 思わず近づいていって、行き先の相談しようかと思ったが、ヘルメイアスに乗ってるクラウディアは、一言も発さずに自身の決めた方向へ真っすぐ飛んでいった。


「うっ、冷てえ・・・」


 そう漏らす甲太だが、クラウディアが正しいというのは理解していた。

 今は馴れ合っている時間は一秒たりともない。

 カール達の輸送機は、別のルートをとったようで見当たらない。先に飛び立ったルードルフの姿も見えなくなっていた。だがそれでいい。


「サンゴー。みんなが飛んでいったのとは違う方向を選んでくれ。そっちへ行く」


『了解した。4機の位置を割り出す。ん。アンテセッサーがこれは…』


「どうした? ピーターがどうかしたか?」


『いや問題ない。これ以上は探知される可能性があるのでレーダーを止める。それではこの方向へ』


「よし行こう!」


 サンゴーグレートが導きだした進路へ全速先進だ。

 そうして飛んでいくサンゴーグレートを、地上から見つめる眼があった。




『安心してくれ甲太。どんな相手が来ようが、私が必ず君を守りぬいてみせる』


「あ~。それはども」


 高速でアメリカの山間部を移動するサンゴーグレート。その中で甲太は少しばかり気が抜けた。

 発進するまでは緊張したが、何せ敵の姿が見えないのだから、これだけのスピードでかっ飛ばしていたら、安心の方が強くなる。


 サンゴーグレートが言う。


『…UFR研究所からこれだけ距離をとれば安心だ。しばらくはあそこに戻らない方が良さそうだな』


「そうかもな… しかしどこでカールと落ち合えばいいんだ。ひとまずポンポンさんのところへ行けばいいかな(楓は大丈夫かな)」


『……しばらくの間は身を隠した方が良いと考える。レーダーの届かない深海に留まるのが最善だろう。食料や娯楽品は私のボディーが取りに行くから、甲太はサンゴーゼロで海底で休んでいてくれ』


「え・・・ やだわ、それ。そんなつまらん生活するぐらいなら敵と一戦交えた方がマシだろ… そもそもあのデカいのは敵なのか? 今どこにいるの? そこんとこ確かめてよ」


『……今はその方法が無い。とにかく相手と距離を置くのが優先される。まずは安全なところまで退避し、そこから時間をかけて状況を確認していくのが良いだろう』


「いや、今ちょっとレーダーなりなんなりで見てみろよ。一瞬でいいからさ」


『……それは出来ない。甲太の身の安全が何よりも最優先だ』


「それはありがたいけど────」


 そこで甲太は何かを感じとった。この感じ。身に覚えのある感覚。

 こいつ何かを隠してる。

 地球のスーパーコンピューターとか最先端のAIとかを、遥かに凌駕するはずのサンゴーグレートのコンピューターだが、思考パターンにクセがある。

 長い付き合いになる甲太は(年数にしたら大したことないが甲太の人生で見れば長いのだ)、このクセを感じ取れるようになっていた。

 このロボットは平気でウソをつく。

 それも必ず甲太の為を思ってと言ってだ。実際にそうなのだろう、だがそれが甲太の意思に反するものになることも多々あった。


「レーダーをつけろ」


『今は危険だ。許可できない』


「お前の許可などいるか! レーダーオープン!」


 パネル操作で強制的に表示する。


「!!!!!!!!」


 甲太は目を見張った。

 自分に、サンゴーグレートに向かって二つの機影が接近しつつあった。

 動揺する甲太だったが、よく見ると近くの機影はルードルフのものだった。


(なぜこいつが……?)


 だが二つ目の機影。これにはunknownの表示が。


「もしかしてこいつは…………」


『そうだ。UFR研究所にいた機体だ』


 甲太は目が(くら)んだ。


(なんで…… なんで俺のとこに…… 5人がバラバラに逃げて、なんでこっちに来るんだよ…………!)


 当然その可能性はあった。

 カールの説明を受けた時から分かっていたこと。それはそうなのだが。

 リボルバー銃に弾1発をこめたロシアンルーレットより高い確率ではあった、が、それでもいざ自分に回ってくると疑問を抱いてしまう。

 どうして俺のところに? なぜ! こんなに真面目に生きてきたのに!?

 だがすぐに疑問は氷解する。

 5分の1ではなく5分の2なのだ。

 ルードルフが何故か甲太と同じ方向に逃げてきたために、敵はどちらかもしくは同時撃破を狙って、向かってきているのだ。


「あああ…………っ」


 レーダーに表示された未知の機体。まだハビリスという名は知らない。それを見て、もはや甲太の、あれは本当に敵なのか?、などという考えは霧散した。

 こいつは敵だ。

 レーダーの表示を見ただけでそれが分る。

 異常なスピード。どんどん速度を上げてこちらに迫ってくる。

 これを見てもまだ、なんで追いかけてくるんだろう? 何か伝えたいことがあるのかな? なんて考えてられる余裕は甲太にはなかった。


「高度をっ」


 機体を上昇させようとしたがサンゴーが諫める。


『ダメだ。ここまで近づかれたら上空にいる方が危ない。こちらの電波撹乱はあの機体には通じていない。下手に上昇すれば撃墜されかねない。当然あの機体もビーム兵器を搭載していると思われる』


「じゃあどうすればいいんだよっ!」


『地表近くを地形を利用しながら移動する。その方が相手にロックオンされる確率を低減させられる』


 飛行体がレーダーから逃れるにはステルス機能か、地表近くを飛ぶしかなく、今のサンゴーグレートには後者しかとる道はない。

 甲太は言われた通り、時に森林の上を、時に湖の水面ギリギリをすっ飛ばしていく。衝撃波で人に被害を与えないようなるべく自然の中を進む。ルードルフとのジャングルでの追いかけっこが生きてきた。

 そう、問題はルードルフだ。


「なんでアイツはついてくるんだよ!」


 レーダー画面を見ながら、がなる甲太。


「くそ、本人に聞くか。あいつと通信を開いてくれ」


『現状では避けた方がいい行動だ』


「いいから早く!」


 高速で逃げるサンゴーグレートと、その後を追うルードルフ。2体の間で通信が繋がった。


「ルードルフ! なんでこちらを追いかけてくるんだ! キ太郎のことは任せただろ!!」


『甲太。それが…… これはキ太郎の意思なのだ』


「え」


 ルードルフの返答に、甲太は絶句した。


『空中で離脱したあと、俺は最も発見される確率の低い手段として、すぐ下の渓谷に隠れた。レーダーで感知されないよう土で全身を覆い、完全に気配を消したのだ。それで相手がどんな高性能な探知システムを持っていようが、やり過ごせるはずだった。だが上空でサンゴーグレートが飛び立つのを見たキ太郎が、突然あとを追いかけ始めてしまった…』


「そんな… そんなの止めろよ…」


「ギャッ、オッオッオ~~~~!」


 キ太郎の声がした、元気そうだ。


『それは不可能なのだ。お前も知っているだろう。機体とパイロットの方向性に違いが生じた時、パイロットの意思が優先される。キ太郎は俺を操縦している訳ではないが、キ太郎にやりたいイメージが明確に固まった時には、俺は逆らうことが出来ない』


「そんな… バカな… え~~と… くそっ… おいキ太郎! 聞こえるか! 俺だ甲太だ! 今すぐに進路を変えてルードルフの言う事に従え!」


「ギャリッぽ? ゲウ!ゲウ! ガッ ギャオ」


「……だめだこりゃあ……」


 絶望的な状況だった。

 一人になるのを恐れたのか、キ太郎は甲太の後を追いかけてきた。そしてそれを止めようとしても、キ太郎には言葉が通じない。


 平時なら微笑ましい光景かもだが、今は二人の後を、とんでもなく恐ろしい鬼が猛追してきているのだ。

 遂に、後方にルードルフの姿が目視できた。

 距離が縮まっている。それはすなわち最後尾につくもの、ハビリスも近くなっているということで。

 顔面蒼白になる甲太。南国帰りで少し日に焼けていたが、それでも分かるほど顔色を失う。


「どうしたら…… どうしたら……」


 猛スピードで飛ばす機内で、つぶやき続ける。


『甲太…… これは最終手段なのだが』


 そんな甲太を見かねて、的な感じでサンゴーが口?を開く。

 甲太は悪い予感がした。


『こうなった以上、ルードルフを撃つのもやむを得ないのかもしれない。可哀そうだが他に手がない。ビームを撃ち、命中させずとも、奴を僅かに減速させるだけで十分に効果はある。我々は逃げ切ることができ、甲太は助かる』


 やはりな、ということを言ってきた。

 振り返れば、サンゴーグレートがレーダーを点けるのを嫌がったのも、甲太にルードルフの存在を気付かせまいとした為だろう。

 甲太が気づかなければ、サンゴーグレートはルードルフが通りにくいルートをわざと通ることで、ルードルフとの距離を開けることが出来た。

 しかし甲太がルードルフに、キ太郎に気付いてしまったため、後続のルードルフが通りやすいルートを選んで進むようになり、徐々に両者の間が縮まってきていた。

 これは甲太を生かすことを、この世の至上命題とするサンゴーグレートにとっては、最悪の展開だった。


『足元を撃つだけでいいんだ。それだけであいつは動揺してスピードを落とす。これは仕方がないことなんだ。カールも言っていただろう。より多くが生き延びるために分かれて逃げるのだと。今はその言葉に従う時だ。そもそも現状を理解できずに追ってくる方が悪いのだ。人間としての前提である言葉でのコミュニケーションも出来ないものに、我々を使う資格は無い。このまま生き延びても災いの種になる、いま切り捨てておくのが人類の為なのだ』


「ちょっと黙ってろ… この非人道ロボが……!」


 甲太は嫌悪感も露わに、ウザったい機械を黙らす。

 でも。状況は見る間に悪化し。

 サンゴーグレートの言う事が、急速に現実味を増してゆく。

 サンゴーグレートが、緩やかな丘陵を飛び越えた時。見えた。

 見えてしまった。

 後方。まだ遥かに距離はあったが。奴の姿が。ロボットビルの傍らに立っていた、あの威容が。


「!!!………………!!」


 後方カメラのモニターを見た甲太は、声を出さずに叫んだ。

 追いつかれてる。追いつかれてる。追いつかれてる。

 追いついてくる。

 この瞬間までは、何とかルードルフをキ太郎を救わなくては、という気持ちがあった。

 だが敵の姿を目の当たりにした瞬間、音を立てるように気持ちが変わった。

 目視できる以上、もうサンゴーはあいつの射程圏内に入ったということだ。

 飛び道具を持った追手に後ろ姿を晒すのは、一秒ごとに寿命が縮んでいく恐怖だった。

 後ろのルードルフたちは、それ以上の恐怖だろう。

 通信を送ってきた。


『甲太。こうなればもはや戦わざるを得まい! 息を合わせて同時攻撃すれば、あやつとて(ただ)ではすまない筈。こちらが合図するからその時は立ち止まって振り返りざま─────


 甲太には終わりまで聞こえなかった。

 焦りが憤りに変換されて、頭の中で爆発したから。

 何だコイツ。勝手に付いてきたくせに、自分が危なくなったら人を巻き込んで一緒に戦おうだと? 冗談じゃない。てめえ一人でやれ。


『甲太? 聞こえているか。今から同時に攻撃を───』


「ついてくんじゃねえええええぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~~~~~~!!!」


 甲太は絶叫した。


『な! 甲太?』


 驚きの声をあげるルードルフに対し。


『甲太。それでいい…』


 サンゴーグレートは安堵したように呟いた。


「ふざけんな離れろどっか行け!!」


 甲太は喚き散らす。


『甲太…… そうか……』


 ルードルフは理解した。人間が生存本能を脅かされればこうもなろう、ということを。

 けれど、それが分らない者もいる。


「こ~た?」


 キ太郎の声がした。

 甲太の怒声に驚いたのか、窺うように声をかけてきた。


「!?」


 甲太は動揺した。喋れなかったキ太郎が初めて意味のある単語を口にした。

 だけど、何故今なんだ? いままで出来なかったくせに、この土壇場になって急に話しやがって。

 通常なら嬉しく感じることが、この異常事態では苛立ちを覚えさせた。

 媚びやがって。こんな事態になって、いきなりこんなこと言い出しやがって。命乞いか?


「きょーた。こ、こ、こ…」


「黙れ消えろよ! こいつ!」


 甲太は、まさに必死だった。ここから逃げ切れるならどんなことだってしようと言うほどに。




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