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第71回 とあるキャンプファイヤーが終わって


「コホン。一応論拠はあるんだ。これまでの経過を見る限り、未知の人というのは、生真面目で嘘が苦手だ。月に高性能爆弾を落として自分たちの軍事力を見せつけたり、特殊な電波で世界の首脳陣を洗脳するようなことはしてこなかった。またアカウント登録をした子供を処分するように言う時も、実に婉曲的な物言いに終始した。つまり彼らは、ある程度のモラルを持ち合わせている人種だというのが窺える。そして僕らのロボットは彼らにとっても、かなり高性能かつ最新式のモノなのではないかと予想する。だって大したことない古い機械なら、原始的な地球人に渡してしまっても構わなかった筈だから。秘密保持の為と言うなら、引き渡せなんて言わずに、こっそり破壊しようとするだろう、破壊するだけなら比較的簡単なんだ、フローレスが自壊したみたいに」


 カールは弁明を繰り広げる。

 それでもまだみんな納得しないようで。

 宇宙人(?)がロボットに乗って襲撃してくるなんて、あまりにもアニメ・特撮すぎる。


「つまりこのロボットは彼らにも、重要で強力な価値のある兵器なんだ。そして彼らのモラルが高いとするならば、無差別に人間を虐殺したり人質をとったりして、強硬に要求を通そうなどとはしない筈。だとすると考えられる有力な方法は、より強力なロボットを使って、こちらのロボットを捕獲するということ」


「ううむ… なるほど」


 甲太は早くも納得してしまっている。


「……う~~ん。高度な科学力を持つ人たちが、そんな野蛮な方法とりますかね?」


 ピーターはまだ言いくるめられていない。


「可能性は上げていったら切りがない。だから一先ずはこの予測を前提に行動していこうと思う。今の僕らに出来るのはそれぐらいしかないし」


 カールはそう諭す。

 クラウディアも。


「そうだね。相手がどう来るかでずっと悩んでいたら、ホントに来る前にこっちがダメになっちゃうよ」


 カールの意見を受け入れた。


「そうですね…… そうなんですけど… でも……」


 ピーターは口ごもる。


(何だよ… せっかく話がまとまりかけてるのに… いつもはカール、カール言ってる腰ぎんちゃくのくせに。文句があるなら対案を出せ対案を)


 敵はロボットで攻めてくるから、こちらもロボで迎え撃つ、それで決まり! そんな風に物事を単純化したい甲太は、いつまでも抗弁するピーターにイラついた。


「やはり… 話し合いを… 何とか話し合いの場を持てないものでしょうか? 僕らはある意味巻き込まれた被害者ですし、そんな僕らの立場からなら話を聞いてもらえるのでは…」


 ピーターの問いかけに深く頷くカール。


「君の言うことは凄く良く判る。それこそが最善の手段だと言うのは、関わった全ての人間が同意することだろう。ただ彼らの通信を見る限り、彼らは地球人を下に見ているようだ。一方的な物言いからそれが窺える。そして彼らの財産たるロボットを取り返せるなら、地球人の子供が犠牲になっても仕方ないと考えているんだから、そんな相手に僕らの立場からものを言っても聞いてもらえるとは思えない。だからこそ、僕らの生命を保証すると、彼らの上層部、未知の人を代表するような立場の者、がはっきり表明してくれない限り、交渉を行うことは出来ない。それが大前提だ」


「…なるほど。それはそうですね」


「だから最終的に交渉での解決を目指すとしても、僕らの防衛力を最大限高めないといけない、というのは変わらない。君の言うように僕らは被害者だが、彼らにしてみればロボットをネコババした盗人の一員に見えるかもしれない。そうしたお互いの主張をすり合わせる場を持つためにも、まずは生き延びる力を持たなくてはならないんだ」


 ピーターもついに頷いた。


 ようやくみんなの心が一つになった感がある。

 と同時に、なんかカールの口車にまんまと乗せられたような… という気分もあるのだが。


 キャンプファイアーはすっかり小さくなり、辺りは冷え込んできた。

 話に一区切りつき、それぞれ自然と周りの片づけを始めたが、動きながらも時折カールに質問をする。


「実際問題、いつそいつらは攻めてくると思う?」


「分からないね。僕は来年ぐらいだと予測しているが、10年後かも知れないし、この後すぐかもしれない。ようするに組織としては防衛力を出来る限り高めておくから、君たちはいざという時の為に心構えをしといてくれということ、それが一番大事なことだ」


「ハァ・・・・・・」



「防衛力を高めると言いますが、それは具体的にどんな… あ、言える範囲で構いませんが」


「まずは僕らのロボット達が使える武器を造る。シミュレーション上では既に出来ていて、後は発注した素材で組み立てを待つばかりだ。まあ… それが中々難題なんだけど。そいつが完成してテストで使えそうだと判ったら、量産してみんなの機体にも持たせようと思ってる」


 横からそれが聞こえて、片付け中の甲太の気持ちは少し軽くなった。



「う~~~~~~~ん~~~~ん……」


「どうした? 何を悩んでる?」


「や… これはね提案なんだけど… いややっぱり駄目ね。ヘレンが聞いたら悲しむし……」


「つまり?」


「ようするにね… 相手の目的がロボットを奪い返すということなら、ロボットを壊しちゃえばいいんじゃないかって… でも無理だね。ヘレンがそんな目に会うなんて考えただけでもヤダもん…」


「そうだね… 可哀そうだし、そんなことしたら怒られてしまう」


「?」


「僕らのロボットは国連の所有物ということになっているんだ。今はそれを貸与(たいよ)されているという恰好。だから研究目的であれサンゴーグレートをバラバラにした時は許可をとったし、僕らの独断で破壊しようとしたら、僕らはパイロットの資格を取り上げられてしまう」


「え? そうなの!? じゃあヘレンもいつか返さなくちゃいけないの?」


「当分それはないよ。登録の問題があって僕ら以外は動かせないんだから。でもそんなことを言って僕らを縛るわりには、僕らの命を何としても守ろうという考えは持っていないんだよ、あいつらは……」


「カール?」


「ああ、ごめん。よし。これで今夜のねぐらが整ったぞ!」


 テントの設置が終わり、みんなは入って寝転んだりしてみる。

 テントの端に陣取る、紅一点のクラウディアの横で誰が寝るかでちょっとした騒動となる。騒いでいるのは主にクラウディアだったが。

 ということで、最も安全な男性と言うことでピーターが選出された。


「なんで僕が… これだったら外で寝た方が…」


 山の上の気温はそれを許さない。


「ヤダ…… 怖い… もし何かあったら呼ぶからすぐに助けてね……」


 クラウディアの懇願を、早く休みたい甲太とカールは(うやうや)しく受け入れる。

 その後ろで拳を震わせるピーター。

 大紛糾の末、彼らはようやく寝床についたのだった。


 先程の話の衝撃は、まだ残っていたが。

 ただ、カールの、運命に抗う宣言。それがまだ若い彼らの、大きな心の拠り所となっていた。

 先程までは強い絶望感に包まれていた。何せ未知の宇宙人みたいのが、自分たちを狙っていると言うのだから。

 けど今は、カールの造っているという武器があれば何とかなりそうだ、むしろ未知の人を返り討ちにして降参させれば、全地球人から賞賛されるかもしれない。そんな楽観すらも湧いてくるのだった。


(でも今夜は寝られないだろうな・・・)


 甲太は思う。

 流石に今晩は想うことがありすぎる。

 みんなも、問題から気を逸らすように、テントの中で下らない話に興じている。

 寝る前に甲太は、カンテラを持って野便に行き。

 は~さみいさみい、言いながらテントに戻ってくると。

 みんな寝ていた。


(うそだろ)

(マジか)

(どんな神経してんだこいつら)


 等々感想を浮かべながら、テントのファスナーを閉める。


「うっ」


 テントの中は、若い人間の汗と体臭が混じった、独特の匂いが充満していた。


「ハ~…やれやれ」


 小声でつぶやきながら、テントの端、カールの隣で横になる。

 匂いもそうだし、なんか寂しくてますます寝られなさそうだ。絶対深夜までみんな会話していると思ってたから。

 

(でも… どうせ起きててコッソリ見てんじゃ…)


 そう思い、横目でカールを窺ってみるが、どうやらガチで寝てるらしい。

 

(・・・・・・・・・・・・・・)


 実に。実に不思議な感じだ。

 去年、ロボットバトルの末、自分をとっ捕まえたライバルであり、この先の宇宙人とのバトルでのリーダーでもあり、世界を変えると言った大言壮語の変人でもある。

 そんなヤツが、自分の目と鼻の先で寝ているのだから。

 

(ヘンな感じだなぁ)


 思いながら、寝袋に包まる甲太。

 しかし、こいつの側にいるのは確かに、安心感がある。

 でもそれは、こいつが優秀なパイロットだからだとか、大人と渡り合えるリーダーだからだとか言うことじゃなくて…

 じゃあ、それはなにかといえば・・・ な に

 

 甲太は何時の間にか寝ていた。

 辺りに漂う体臭にも、大きな安心感を憶えて。




 翌朝。

 帰りの準備を終えた一同を前に、カールが。


「いろいろ話してきたが、最後にもう一つ言うべきことがある。みんなドッグタグを下げてるだろう。それを出してくれないか。家に忘れてきたおマヌケはいないだろうな」


 流石の甲太やクラウディアも、これは忘れない。

 ロボットビルへの入館の際にチェックされるので、着けてるのが習慣になっていた。


「よし。全員持ってるな。ではそれをよく見ていてくれ」


 そうしてカールが、ガラケーのような端末を何やら操作すると。


「!?」


 ドッグタグは振動した。そして。

 縁に明かりが灯った。赤い色。

 今まで見たことが無い状態。


「これが点いたら、全員、自分のロボットに乗り込み。逃げろ。行き先は随時通知する」


 その言葉に、みんなハッとなりカールの顔を見る。


「そして一番重要なことをここに厳命する。逃げる時は自分一人で逃げろ。周りに構わず、他の者とは別の進路で逃げる。つまりコータが北へ逃げているのを見たらクラウディアは南に、出来るだけ反対の方向に逃げるんだ」


 それはつまり。


「未知の人が襲って来た時の為……?」


 ピーターの漏らした問いに、頷くカール。


「迎え撃つんじゃなかったのか……」


 甲太の、か細い問いには。


「まだ準備が出来ていない。もう少し、あともう少しで反撃の用意が整う。それまでに彼らに来られたら一旦退避するのが最善だ。被害を少なくするために」


 甲太は一応頷く。

 だが落ち着かない者が一名。


「バラバラに逃げたらすぐにやられちゃうじゃない! 各個撃破だよ。まとまっていた方がどう考えても強いじゃない!」


 クラウディアは、バラバラに逃げるというのが受け入れ難いようだ。


「その通りだ。でももしも僕らが全員揃っているところへ彼らが現れたとすると。それは僕ら全員を一網打尽に出来るほどの兵器を、相手が持っていることになる。そうなったら全滅だ。そうならないように、各自自分を守ることだけを考えて逃げる。そうするしか方法がないんだ。より多くが生き残るためには」


「それでも嫌だよ! みんながバラバラになるぐらいなら、やられちゃった方がマシだよ!」


「いい加減にしろクラウディア! そんなことじゃ、みんなの足手まといになるというのが分からないのか!」


 クラウディアにだけ強気のピーターが叱りつける。


「あんたに言ってないよ! あんたこそいざとなったら泣きべそかいて腰を抜かしておしっこ漏らしちゃうくせに! そうなっても助けてやんないんだから!」


「なっ、お前! よくもそんなこと! 僕だってお前なんか助けてやらないからな!」


(赤ちゃんか。赤ちゃんがケンカしてんのか)


 やれやれだぜな甲太。

 これからちょっとした宇宙戦争に臨もうというのに、メンバーがこれでは先が思いやられる。


「クラウディアの言うことも分かる。このことに関してはこれからも話し合いを重ねて、みんなが納得いくところを探っていこう。ただ今の時点では僕に従ってもらう。これはリーダーからの命令でありお願いだ」


 そう言ってカールは、両手でクラウディアとピーターの手を握った。

 これでクラウディアも矛を収めた。ピーターへのムカつきで不満の矛先が変わっただけかもしれないが。


「では、嫌でも想い出に残るであろう、この場所にお別れして、僕らのホームへ帰ろう!」


 カールの号令でみんなは帰路につく。

 大変なことになった今回のキャンプだったが、いざ終わりとなると何だか名残惜しかった。


(なんかそんなことばっかりだな。最初はヤなのに終わってみれば寂しいんだ)


 甲太はそう感じる。

 またキャンプに誘われたら、どうしようか。

 すぐには嫌だけど、再来年ぐらいだったら、また来てもいいかもしれない。


(また来られるかな、ここにいるみんなと。そのときは楓や、もしかしたらルードルフのパイロットと一緒に…)


 そんなことを考えていたら、カールに呼ばれた。

 慌てて甲太は、先を行くカールと歩きながら(ののし)り合っているピーター・クラウディアの後を追った。





 再び手の中に振動を感じ、甲太は回想から引き戻された。

 周囲は輸送機の機内。見下ろすと。

 記憶の中の光景と、掌の物体が重なる。


「ああ………… くそっ…………」


 足元が爆発し焦りと迷いのマグマが噴出したような感覚。

 天を仰ぎ目を瞑って数秒静止する。


「くっ……」


 そして歩き出した、ゆっくりと。

 歩きながら甲太は端末を手にし、前を飛ぶ輸送機のカールに向けて通信を試みる。

 出ない。

 

「畜生…… ああちくしょう……」


 甲太は客室に向かって駆け出した。




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