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マリスタニア王国史-ローレライと白銀の死神-  作者: 月狐-つきのきつね-
1/81

聴取

カクヨムにて先行配信。現在、最終話第81話までを公開中。

よければ、下の方にあるイイねマークをポチってから、次の話に行って下さい。


「すれ違う刹那、流れる様に押されるイイねが作者の胴を横に薙ぎ、音もなくすれ違う読み手の右手は、作者フォローを捉える。トサリ、と空虚な音がして作者はその場に倒れ込んだ、そう、それは見事な土下座。感謝の姿」

うたが……、聞こえたんです」


 若い兵士は少し迷いながら、しかしはっきりとそう言った。

 そして、自分達が見た前線の様子をゆっくりと思い出しながら、噛み締めるように語り出した。


「あの日、魔物たちが押し寄せた日。前線は混乱を極めていました」


 そう語る彼は惨状さんじょうを思い出したのか顔を曇らせる。


 憔悴しょうすいし、未だ色濃く残る疲労が青年を10年は老けた見た目へと変えていた。


 それ程までに激しい戦闘が行われたことをうかがわせる疲れ切った風貌ふうぼうとは裏腹に、彼は普通では考えられない程の輝かしい戦功を立てていた。


 通常、訓練された一般兵は、ゴブリン三匹と同時に戦い辛勝し、オーク一匹相手に引き分ける。


 彼の居た前線には本来ならゴブリンの群れとオークの群れ、あとは獣型や昆虫型の魔物の一部が到達する予定だった。先遣隊である弓士隊のレンジャー達もそのように報告を上げてきていた。


「その日起きた事を、順を追って聞かせてもらえるか?」


「承知しました」

 

 魔物があふれ押し寄せた日、若い兵士は午前の訓練を終えると午後からは非番となっていた。


 青年の名をモリアスという。


 大隊長の直下に位置する指揮兵と呼ばれる上級一般兵であり、槍とロングソードを使った白兵戦を行う戦闘要員を指揮し、自身も前線を担う騎兵である。


 戦闘力は決して高くはないが大隊長の指揮を体現し、他の下級兵を束ねる立場にあり戦略にそって適切な戦術を選択し、大隊長を補佐する役割を担っている。


「作戦が開始された当初はブリーフィングにあった通り、暴走する魔物を土塁どるいと槍で食い止め、弓矢と魔法で数を削りながら負傷者もほとんど出さずに順調に推移すいいしていました」


 そこまで言うとカップの飲み物を口へと運ぶ。


「しかし、途中から魔物の動きが統率とうそつされ始めて、それまでバラバラに襲いかかってきていた魔物達が、数をそろえる待機行動を見せるようになり、数がまとまってから襲いかかってくるようになったんです」


 手元のカップの中身を見つめながら青年が続ける。


「ゴブリンリーダーが現れて、ゴブリン達を下級兵としてたばねて。あるいは、オークリーダーが現れてオーク達を下級兵のように束ねて襲ってくるようになりました」


 魔物達は個々の戦闘能力が高いが、バラバラに突っ込んで来てくれている分には無傷での個別撃破が可能だ。


 一匹ずつ複数の兵で相手をすれば自陣が消耗する事なく相手の耐久力を削り切ることができる。


 しかし統率されて数を揃えて来られると基礎能力が高い分魔物が有利である。


 事前の準備と戦術での有利を差し引いても自陣の損耗そんもうは避けられなかっただろうな、と聴取を行うマシュー師団長は前線の様子を想像する。


「バタバタと仲間が倒れていきました。消耗戦の様相ようそうを呈してきていました。まだ戦力は拮抗きっこうしていましたが後から後からいてくる魔物達に、兵士達はみんな心が削られていきました。士気が下がり始め、恐怖にとらわれるものも現れ始めていました」


 思い出しながら話す言葉には、苦々しい思いが混ざっているようにみえる。


「少しずつ前線は押し込まれ、待機中の第二歩兵大隊が前線に出て、我々第一歩兵大隊は下がりました。その時点で死者行方不明者100名、負傷者180名となっていました。負傷者の半数は戦線復帰の不可能な不可逆的ふかぎゃくてきな傷を負っていました」


 王都は高く分厚い壁に囲まれる構造をしている。


 壁の中には作戦司令室や救護室が備えられており、救護室には教会から司祭たちが派遣されて詰めている。


 彼らは神への信仰を力に変え、魔法に似た奇跡を起こす。


 その一部が回復魔法と呼ばれる治癒術である。

 出血を止め、傷口を閉じ、毒を消し、病気を治し、痛みをなくす。


 一見万能に見えるが失ったものは戻らないという特性を持っている。食いちぎられたり、切り落とされた手足は生えてきたりはしないし、流れ出た血は戻らない。


 モリアスの言う不可逆的な負傷とはつまりそういった負傷を指していた。


 実際には教皇の秘術の中にはそのような傷すら治し、流れ出た血すら元に戻す回復魔法もあるという話ではあるが、王侯貴族以外に使われることはない為、真偽の程は定かではない。


「その時点で約3割の兵が戦えなくなっていたわけか。くだんの大隊長殿はその時どうしていた?」


「我々第一歩兵大隊のロラン大隊長は、第二大隊の大隊長殿と共に馬をって最前線で魔物達の横腹よこばらを突いて大暴れしておりましたよ」


 青年の目に光が戻る。


「あの人、本当に人族ですか?お母さんがオーガ族とか巨人族とか、お父さんが魔神族とかじゃないですか?たった二騎で魔物の小隊を二つか三つ壊滅させていましたよ」


「貴殿はそれに付き合っていたのか?」


「作戦行動外だったので置いてきました」


「何というか、貴殿割り切り方エグいな、それで?」


「第二大隊が下がるまで戦い続けたみたいで、戻るなり『きみはもう少し体力を付けた方がいい』とか返り血で血まみれになった姿で言いながら、涼しい顔して喉をうるおしたあとまたすぐ戦いに出ようとしていましたよ。馬がへばっていて出られませんでしたけど。言っても聞かないので注意しておいてください」


 そこまで一気にまくし立て、呆れた顔を見せながらも大隊長について一通りの罵倒ばとうを交えて話すと、モリアスは少し落ち着きと気力を取り戻したように見える。


 第一歩兵大隊の大隊長は名をロランという。


 常に冷静で知謀に長け、戦場にあっては敵兵から死神扱いされるほどの武人でありながら、度々吟遊詩人の唄になるほどの美丈夫である。


 宮中にあっては侍女達が遠巻きにその姿をうかがっては色めき立っているとも聞いている。


「きつく言い聞かせておこう。まあ、ちなみに彼の両親は間違いなく人間だ。師匠にあたる人物は人間離れした怪物だがね。で、ロランが怪我をしたのは、第三歩兵大隊が下がって、人員の補充が済んだ第一歩兵大隊が再び前線に出た時で間違いないか?」


 マシューがモリアスを見ると、戦場の惨状を思い出しているのか少し真剣な表情を取り戻した。


「ゴブリンリーダーやオークリーダー達が兵として部隊を作り始め、レア種、希少種が現れました」

いつもありがとうございます。リアクションがないと寂しいので、できれば評価、いいね、感想、イチオシレビュー、ブックマークをお願いします。何なら話しかけてくれるなら何でもいいのでぼっちにしないでくださいおねがいしますがんばります。

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