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逃げる元王女とそれを追う第3皇子の物語  作者: 月迎 百
第2章 ルクレティア ~スーリア王国の滅亡~ (ルティ視点)
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9 停戦の笛の音

異世界物です。

ルクレティアという小国の王女が巻き込まれていく運命を書いてみたいなと思っています。

第1章で4年後の世界を書いたので、第2章でスーリア王国王女のルクレティアがなぜ男装しているラクシュマナになったのかを書けたらいいなと思っています。

お付き合いいただけたらうれしいです。

どうぞよろしくお願いします。

 大男の傭兵が倒れたことも大きかったようだ。

 彼に付いてきた傭兵達がひるんで戻っていく姿が見られた。


 少しホッとするが、倒れた大男の目が空の一点を信じられないような表情で見ているのに気づいてぎょっとする。


 恐る恐る近づいて、顔に触れ、目を閉じさせた。


 城の先の方からすごい轟くような大きな声が聞こえた。

 本軍か?

 まだ、こちらの真意と停戦の連絡はつかないのだろうか?!

 

 こちらからの手紙はなぜ届いていないのだろう?

 どこかの国が邪魔しているとか?

 どこだ?

 スーリアのことを知っているのは、アーサーの……。


 だから、アーサーにスーリアを出ることを勧めた?!

 それならば、こちらの動きはすべて筒抜けだ。

 手紙を届けてくれているオルトの父親や兵達はもしかしたら……。


 その時、傭兵集団がスーリアの兵と戦いながら、こちらに押し寄せてくるのが見えた。


 私の前に槍を持った兵達が出る。

 私は少し下がったが大声で兵達に声をかける。


「もう少し、頑張ってくれ!

 ここは絶対に守る!

 奥に避難している者達を守るのだ!」


「「「おう!!」」」


 傭兵達を次々に倒していくが、なかなかきりがない。

 私もこちらに来た傭兵に止めを刺し続ける。

 そのうち、きちんとした帝国の鎧を付けた兵が混じるようになってきた。


 私は前に出た。


「スーリア王国は数日前に属国となる返書を帝国に送っている!

 本軍の将と話をしたい!」

 帝国兵に呼びかける。


「この鬼姫が!」

 憎々し気に直接その言葉をぶつけられて、私のことか! と合点がいった。

 先ほどから何度かその言葉を呟きのような、囁きのような感じで聞いていたが、鬼姫とは? と思っていたから。


 確かにもう私はかなりの血まみれ状態かもしれない。

 鬼姫か……。

 私はニヤッと笑った。


 帝国兵が顔色を変えた。


 それだけ恐ろしい化け物の様に見えているのかもしれない。


 剣を持ち直そうとして返り血が乾いて、柄に指が貼りついているのに気がつく。

 その時、さらに新手の帝国兵が押し寄せてくるのが見えた。


「姫様! お下がり下さい!」

 兵達が必死に私の前に出ようとする。


「大丈夫だ!

 私もまだ戦える!」

「姫様! どうか! お戻り下さい!」


 私は母や姉やアリアやマーサが避難しているであろう王城の礼拝堂の方を振り返った。


 行けない……。

 こんな血まみれの姿を彼女達に見られたくない。


 私は帝国兵を睨みつけて、剣を構えた。


「姫?」

「あれがこの国の王女なのか?!」

 

 帝国兵の間にそんな囁きが広がる。


 帝国兵と私達で睨み合いが続いた。


 その時、風が吹いた。

 この場に似つかわしくない優しいそよ風で、一瞬、私はここが戦場だということを忘れた。

 怒号が飛び交う音すら一瞬聞こえなくなった。

 

 その時、高く澄んだ笛の音が聞こえた。


「停戦! 停戦! 戦いやめ!!」

 帝国兵達の後ろから号令が聞こえてきて、帝国兵達が脇に避け始めた。


「姫様~!!」

 バハ大臣の声が聞こえた。

 帝国兵が脇に避けるように作られた道をバハ大臣と帝国軍の将軍らしい人物達が歩いてくる。


 高く澄んだ笛の音は彼らの近くから発せられている。


 私は剣を降ろして、鞘に戻そうとしたが、柄が手に貼りついていたのと握力が無くなりかけていて手が震えているのに気づき、必死に両手で何とか戻した。


 そして、バハ大臣が案内してきた、帝国の将らしき男性の前に跪くようにして名乗ろうとした時、上空から鋭い風の音を聞いた、気がした。


 そのとたん、帝国将の隣に立っていた男が飛び出してくるなり、大きな盾を私の左側に投げた。

 

 私はすごい衝撃で、横に壁の様に落ちてきた盾を支えようとしたけれど、何かがぶつかる衝撃が盾に伝わり、跪いたまま重い盾の下敷きになった。


 なんでこんなに盾が重いんだよ……。

 すごいなあの男。

 重装歩兵?

 たぶん将を守るための装備なんだな……。

 

 そんなことを考えながら、気が遠くなった。




   ◇ ◇ ◇




 気がついたら、自室で寝ていた。

 ユーリが心配そうにそばに付いていてくれている。


 私は慌てて手を見た。

 洗われていたが、爪の間や指の関節に落としきれていない血の跡があった。


「……ユーリ」

 私の呼びかけに、ユーリが弾かれた様に「お気が付かれました!」と叫び、ドアの所にいた兵が私の部屋のドアを開けた。


 飛びこんで来たのはバハ大臣だった。


「姫様! よく頑張られましたな!」

「バハ大臣……、停戦できたのか?!

 父は、みんなは?!」


「帝国軍とは無事に停戦となりました。

 帝国軍は新バルカニアにも使者を送って下さり、新バルカニアは兵を引きました。

 ただ、王は……、お亡くなりになりました……」

「父が?!

 討ち死にか?」

「最初は互角に戦われていたのですが……。

 城の方での戦いが始まると新バルカニアが帝国軍に続けと勢いを取り戻したようで……」

「アーサーとオルトは?」

「……アーサー様は行方がわかりません。

 オルトは怪我をして、治療を受けています」


 オルトは生きているんだ。

 良かった……。

 アーサーは?

 行方不明?

 戦いで?

 それとも、逃げた?


 私は頭の中がぐるぐるした。


「……ありがとう、バハ大臣。

 私は一番大事なところで、気を失ってしまったみたいだな。

 本当に感謝する」


 その時、部屋に帝国の将とその側近、私を盾で守ろうとした男が入ってきた。


 あの盾は私を守ろうとしてくれたんだよね。

 あの風の音は矢の音だと思う。

 私がこの籠城の将だと、兵達を鼓舞している存在だと気づいた帝国の弓兵が狙っていたんだろう。


 確かに、私は傭兵集団を防ぎ切れたかもしれない。

 ひとりでじゃないけど、確かに象徴的な存在になっていたと思う。


 停戦後の攻撃は卑怯だけど、私はそれだけ憎まれるほど、帝国側の傭兵や兵を手に掛けた……。


「寝台から失礼します。

 スーリア王国第2王女ルクレティアです。

 なぜ、属国になるという返書がここまで届いていなかったのか……。

 そのため、無駄な戦いを……。

 国と民を守るためとはいえ、一時的に帝国に剣を向けた責任は私が取ります。

 どうとでもして下さい。

 それから……」

 盾を投げてくれた男に向かって頭を下げた。

「このような命、救っていただきありがとうございます」


 あの盾はその将を守るための物だったのだろう。

 とっさのこととはいえ、それを投げ出すというのは罰を受けるかもしれないことだから。


 将と見受けられる金髪の若い男が頷いてから口を開いた。

「私はドーワルト帝国第2皇子リュドラシオン。

 今回の北部統一の全権を命じられている。

 スーリア王国がすぐに従属の意を表して返書を送っていたこと確認できた。

 私達帝国軍ではなく、帝国本土の方へは伝わっていた。

 こちらの連絡の行き違いがあり、不幸な開戦状態になり、それは申し訳ない。

 ただ、そちらの大臣の説明によると、その後も軍の方に連絡を取ろうとしていたようだが……。

 それが届いていないのが解せない……。

 最終的に湖を渡っての使者となった漁師の手紙が届いて、私達もバルカニアが後ろからスーリアを攻めていることをはっきり知ったのだ」


「そうですか、やはり、どこかがスーリアの返信を握り潰していたのでしょうか……」

 私が目を伏せて呟いた。


「思うところがあるのか?」

 急に知らない声が部屋に響いて、顔を上げる。


 盾を投げた男だ。

 黒髪の彼が口を開いたらしい。


 第2皇子が苦笑して言った。

「まず名乗れよ、ダート。

 すまない。

 これは第3皇子のダシュケントだ。

 私の右腕であり、私を守る盾であり剣である。

 あの時は、私ではなくて君を守ったがな」

「名前などどうでもいい。

 何か気が付いているようだな?」

 黒髪の第3皇子は私をじっと見ている。


 私はバハ大臣を見た。

 バハ大臣が頷くので、考えながら考えを口に出す。

 不確かな話で相手の国を陥れるわけにはいかない。

 真実だけ……。


「スーリアはレイクール王国、今はレイクール領とは親しくしていて、今回属国になる返書をすることもレイクールには伝えています。

 姉アニエスの婚約者のアーサーがレイクールの王子でしたから、彼が間に入って伝えてくれていたはずです。

 バルカニアにもスーリアがすでに属国となる意思を示していることを伝えてくれていましたが、バルカニアが治まらなかったと……」

「レイクール領なら、俺達とも連絡を取りやすいはずだ。

 何故、帝国には連絡しなかった?」

 第2皇子、すごい顔をしかめている。


 バハ大臣が言った。

「いえ、バルカニアにも帝国軍にも連絡をしてくれているが、なかなかうまくいかないと聞いていました」


「そんなことはない。

 俺達は何も聞いていない。

 そのアーサーとやらは逃げたのだろう?」

 第2皇子が私を見る。


 私はバハ大臣を見た。

「はい、行方はわかりません。

 戦いの前半に王のそばから離れて、それっきり姿が確認できていません……。

 しかし、戦いで命を落としたやもしれませんし、怪我をして隠れていることも考えられましょう」


 うん、これだけでレイクール領に嫌疑をかけるのは……。

 でも、もしバルカニアの方にも働きかけをしていなかったら?

 あ、バルカニアにスーリアを取られるか……。

 なら、もしかしたら……、新バルカニアと何か約束していたのかもしれない……。


「気が付いたか?」

 第3皇子の声が近くから降ってきたので驚いて見上げた。


「その様子だと思い至ったようだな。

 推論でかまわん。

 言ってみろ」

 いや、音もなく近づいてきてるとか……。


「……レイクールが帝国に何も働きかけをしていないということが事実なら。

 新バルカニアの方へもと考えました。

 でも、新バルカニアがスーリアの地を占領してしまえばレイクールには利がありません。

 新バルカニアとは何か約束をしていたのではないだろうかと。

 ……アーサーは私とアニエス、両方に、戦の前夜、一緒に逃げないかと話していました。

 スーリアの王女のどちらかでもレイクールに連れて逃げ、その後のスーリアの領地の権利をレイクールに認めさせるような考えもあったのかもしれません……。

 バハ大臣、これは悪く考え過ぎだろうか?」

読んで下さりありがとうございます。

これからもどうぞよろしくお願いします。


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