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逃げる元王女とそれを追う第3皇子の物語  作者: 月迎 百
第2章 ルクレティア ~スーリア王国の滅亡~ (ルティ視点)
8/188

8 戦闘開始

異世界物です。

ルクレティアという小国の王女が巻き込まれていく運命を書いてみたいなと思っています。

第1章で4年後の世界を書いたので、第2章でスーリア王国王女のルクレティアがなぜ男装しているラクシュマナになったのかを書けたらいいなと思っています。

お付き合いいただけたらうれしいです。

今回は戦いの場になり、人を殺す場面が出てきます。

苦手な方はご注意下さい。

どうぞよろしくお願いします。

 早朝、出陣していく本軍を見送る。

 父とアーサーと……、オルトもいる。

 父のそばに付くことになったようだ。

 

 母は出てこなかった。


 アニエスと並んで見送る。

 アニエスは少し暗い顔をしている。

 私は気になったけれど、本軍を送り出すまでは黙っていた。


 本軍の後姿が少し遠くなったところで、アニエスが話し出した。


「昨夜、アーサーと話したわ。

 ルティはアーサーを拒絶したそうね」

「拒絶って……、家族としか思っていないって……」

「出陣したら生きて帰れないかもしれないのよ。

 それなのに、拒絶するなんて……」

「……なら、私がアーサーとどうにかなればいいと思ってたの?

 アーサーの気持ちを受け入れる?

 それと出陣やいくさは関係ない!

 そんなこと言っていたら、いくさの度におかしいことになる」


 アニエスは私をじっと見た。

「ルティの言うこともわかるけれど……。

 私は、私が愛するアーサーがあなたを選び告白したのに、それが拒絶されたことが悲しいとも思うし、あなたを選んだことに腹が立ってる」

「どっちも私のせいじゃない!」

「わかってるわよ!

 それぐらい!

 でも、母の気持ちもわかった。

 いつも明るくて人を惹きつけて、それでいて傷つかず、天真爛漫に振舞うあなたを……、見ているのがイライラするんだわ」


 アニエスが低い声で言った。

「あなたに拒絶されてアーサーは私の所に来たわ。

 そしてすべてを打ち明けて、私と逃げようかと……。

 本当はルティと逃げたいのに?

 断られたから仕方なく?

 でも、うれしい気持ちもあったのよ。

 とても複雑な……。

 でも、あなたが正しい王女の姿をそこで示してしまったから……」


 えっ?

 私のせい?


 私はアニエスの言葉を呆然と聞いているしかできなかった。


「私はアーサーを慰め、戦場に送り出すことにした。

 それを今、とても後悔している……。

 王女であることなんか捨てて、アーサーに、連れて逃げてと縋れば良かったのかも……」


 もう遅い。

 出陣しちゃったよ。


 私が顔をしかめたのを見てアニエスが笑った。

「あなたには理解できないかもしれないわね」

「ごめん。わかんない」

 私は呟いた。


「王女として正しく民を守りなさい」

 アニエスはそれだけ言うと、城の奥へ入って行った。


 私は城の武具室に行き、自分の鎧を身につける。

 私の鎧は金属ではなく、革製だ。

 2枚の白い革で金属の薄い板を挟み込むようにして形作っているため、軽い。


 手甲と足甲は盾としても使うので金属の物を利用しているけど、腕や足の関節全部は覆っていない。

 頭の兜も大きなものではなく、金属を張り付けた布を巻くようにしている。

 これは弓兵の鎧を参考にさせてもらっている。

 後、祖母の出身の南の方の防具のアイデアが活かされている。


 力ではどうしても男性には押し負けるので、動きと早さでそこをカバーしていくしかないからだ。

 足甲と手甲には小さなナイフが仕込んであり、取り出せるようにもなっている。


 私は封鎖した門を見回り、守備している剣士達に声をかけた。

 そして、自分の持ち場に戻る。

 

 私の持ち場は王城の城壁の城内に入る、少し狭くなっている場所の前。

 ここを突破されたら母や姉、避難してきている民がいる王城の建物内に侵入を許すことになってしまう。


 城の端の方、帝国軍が進軍してきた方から戦いの声と音が聞こえてくる。

 

「始まりましたね」

 私に従っている兵士が緊張して言った。

 

 バハ大臣は城の、帝国軍からすると一番前となる高い城壁の上で、帝国軍に対して属国になる連絡を送っていること、しかし、攻撃されるのであればそれは停戦になるまで撃退する旨を掲げ、帝国本軍との連絡を取ろうと試みてくれている。


 しかし、傭兵軍団にしてみれば、いい稼ぎになる略奪のチャンスである先駆けをやめて様子を見る……とはいかないか。


 ふっと、ひとりの小柄な兵というよりは軽装な男が急に視界に入った。

 盗賊あがりなのかもしれない。

 気配を消して戦いの場をすり抜けたり、死角を選んでうまく侵入してきたようだ。


 私は剣を抜き、周囲にも警戒するように声をかけてから、近づく。


 最初は警戒していた男だったが、途中で私が女であることに気がついて、ニヤッと笑った。


 私の両脇に兵がつき、3人で立ち塞がったのだが、躊躇することなく私めがけて突っ込んできた。


 短剣を構えている。

 私はその攻撃を長剣で弾き、さらに蹴とばした。


 蹴られた勢いを利用して男は素早く後ろに跳び退く。

 気を引き締めるような表情だ。

 次は本気で掛かってくる。


 私は剣を構えた。

 男は走ってきて、跳んだ。

 走りは助走で、ジャンプして、こちらが防ごうとしたら、こちらの盾を踏んで背後に抜けようと考えたよう。


 跳んでから私が盾を持っていないことに気がついたようで、少し驚きの表情を浮かべ、短剣を慌ててこちらに突き出してくる。

 両脇の兵が盾で私を守ろうと出た。


 バランスを崩しながら、その盾に足をつけ低くこちらに跳び込んでくる。


 私は低くこちらに跳んできた彼の手首の上あたりを狙い剣を突き刺す。

 そこからは防具がなく肩のあたりまで剥き出しの腕だ。

 しかも彼の体重というか勢いがあるから、剣を当てるだけで滑るように腕が斬り裂かれる。


 彼の腕から血が噴き出て、後方に転がる。

 後ろの兵達が仕留めた。


 初めて人を斬った……。

 片刃が赤くなった剣を見て、胸がどくどくして、頭がくらくらした。

 この刃の上を人の身体が斬られながら滑って行ったのだ。

 そう思うと、自分が斬られたかのように身体が心が痛いと思った。

 叫んでしまいそうな声を押し殺す。


 しかし、もうそんなことは考えていられなかった。

 次にこちらの兵達を振り払うように進んできた傭兵は大男で、大剣をすごい勢いで振り回している。

 数人の傭兵も後ろから一緒に付いてきている。


 この先の守備兵らしい数人の姿も見える。

 怪我を負いながら、少しでも足止めしようと追撃してきてくれたのだ。


「持ち場に戻れ!

 後はこちらが対応する!」

 

 私の言葉に頷いて、兵達は戻りながら、こちらに来ようとする他の傭兵達との戦闘状態になった。


 私は大男に対峙した。


「その声、女か?

 兵が素直に指示に従うところをみると、姫さんかなんかか?!」

 男はせせら笑うように続ける。

「斬っちまうのもったいねーな」


 私は大男の剣の間合いを計りながら、どこへの攻撃が有効か考える。


 この場合、足か!

 足止めしないといけないし。


 その時、後ろの兵士のひとりが、大男に声をかけ注意をそちらに引いてくれた。

 私は足甲のナイフを大男の足の剥き出しの所を狙って投げた。

 うまく刺さり、大男が怒り狂ったように大剣を振り回す。


 声をかけた兵も私達も剣先が届かないところに引くことができた。


 しかし、足の怪我はそれほど効いていないようだ。

 向こうも死に物狂いだろうし。


 私は彼が剣を振り下ろし終わったタイミングで跳び込んで、彼の腕を押さえつけるように踏んでから顎めがけて剣を突き出した。

 素早くのけ反る大男の顔の前を剣がつき上がり、兜にぶつかって、後ろに落とした。


 剣を持つ手がびりびりして、慌てて自分に剣を引き付けて身体を守る態勢を取る。

 この場合、彼の懐近くにいた方が衝撃が少ないはず。

 まあ、掴まれないようにしないといけないけど。


 男は剣から右手を離すと、私を振り払うかのように横に殴ってきた。

 彼の腕を手甲と剣で受けたが吹っ飛ばされる。

 しかし、うまく衝撃を抑えることができた。


 そのまま、男の右手側に転がり、起き上がったところに大剣が振り下ろされ、かろうじて跳んで回避。

 攻撃の先端、特にあの大剣の先端の攻撃を受けたら、斬られるどころか潰されるだろう。


 その時、私の左にいた兵が男の右脇腹、ちょうど鎧と鎧の繋ぎ目が無防備になった所へ、突っ込んで刺した。

 大男は血を少し吐いたが、まだ表情はしっかりとしている。


「離れろ!」

 私は刺した兵に叫んだ。


 兵は大男が大剣を振り上げたのを見て腰を抜かしたようにへたり込む。


 私は素早く剣を、兜が落ちたことによって剥き出しになっていた男の後ろ首めがけて斬りつけた。


 大男の首の後ろから大量の血が吹き出した。

 大男が信じられないという顔をゆっくりとこちらに向け、振り上げた大剣の先をこちらに向けた。


 ふたりの兵が彼の鎧の継ぎ目に剣を突き刺すように体当たりしていく。


 大男が膝をつき、そして、力の消えかけた瞳で私を見据えてから、手を伸ばし、血を吐いて倒れ、残りの力を振り絞って仰向けになって動かなくなった。


 私は自分の手を見た。

 そして、自分の身体を見下ろした。


 もう鎧に、白い革の鎧が血で汚れている。


「鬼!」

 近くの傭兵が恐ろしいものを見るように私を見て叫んだのが聞こえた。


 私はそのまま、残りの傭兵達との戦闘に突入する。

 槍を掴まれてしまった兵を助けるためにその傭兵の首を狙って斬る。


「ひとりで対峙するな!」


 剣を突き刺して抜くのを難儀している若い兵には「足で踏んで体重をかけて抜け!」と指示を出し、彼が剣を抜くまで、背中を守った。


 かなり混乱してきている。

 帝国の傭兵達はここまでの抵抗や攻撃を受けるとは考えていなかったようで押し返すことができているようだ。

読んで下さりありがとうございます。

これからもどうぞよろしくお願いします。


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