表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逃げる元王女とそれを追う第3皇子の物語  作者: 月迎 百
第2章 ルクレティア ~スーリア王国の滅亡~ (ルティ視点)
7/188

7 決断の遅れ

異世界物です。

ルクレティアという小国の王女が巻き込まれていく運命を書いてみたいなと思っています。

第1章で4年後の世界を書いたので、第2章でスーリア王国王女のルクレティアがなぜ男装しているラクシュマナになったのかを書けたらいいなと思っています。

お付き合いいただけたらうれしいです。

どうぞよろしくお願いします。

「バルカニアの情勢を見ていると命取りになる可能性があります」

 バハ大臣が心配そうに言った。


「どうだ、進展状況は?」

 父の言葉にバハ大臣が説明を始めた。


「バルカニア王家は強気で、開戦して、少しでも有利な条件をもぎ取ろうと……。

 帝国相手にそれはかなり厳しいでしょう。

 最初の傭兵集団が曲者ですね。

 彼らを食い止めている間に疲弊し、対話ができる本軍の到着がかなり遅いという特徴があります。

 もしバルカニアと合同で事に当たっても、スーリアが前線になるのですから、帝国とバルカニアにすり潰されると……」


「しかし、バルカニアの機嫌を損ねると、その後に……」


「今はその後のことなど考えている場合ではありません」

 アーサーが言った。


「そうだな」

 父がため息をつく。


 ため息ついてばっかりだね。

 でも、早めに判断して、この国を戦場にしないようにしないと。

 例え、屈することになっても、それが一番重要だ。


 とりあえず、属国になることを了承すると帝国に手紙で返事をすることになる。

 アーサーもレイクール領にそう決まったことを知らせると言い、私と一緒に王の部屋から出た。


「ルティは人質になるのは……」

「私には婚約者もいないし、特に問題はないよ。

 アーサーはアニエス姉様とこの国を……、国ではなくなる可能性もあるけど、ここを守ることを考えて。

 父と母のこともよろしくお願いします」


「ああ、でも、人質にということならアニエスとしっかり話し合ったほうがいい」

「うん? その後のことを?

 あ、人質になってからのこと?」


 意味がわからなくなって少し混乱する。

 人質のお作法とかあるのか?


 首を傾げる私を見てアーサーが笑った。




   ◇ ◇ ◇




 それから数日後、大きく事態が動いた。


 バルカニアで内乱が起こり、開戦派だった王族が捕らえられ、処刑されたのだ。


 降伏派だった大臣が新しい王となり、属国になると帝国へ返事をしたと周囲に宣言すると、さらに、スーリア王国への進軍を準備し始めたのだ。


 スーリア王国も帝国に属国となる返事をしているが、まだ大々的に周囲に発表などはしていない。

 そしてスーリア王国王妃はバルカニアの王女であり王の妹。


 新バルカニアにしてみれば、旧バルカニアの王族への鬱憤をさらにぶつけるという意味もあるし、帝国に対して、帝国の進軍をお手伝いをするというポーズとも取れる。


 うまくいけば、帝国の機嫌を取り、スーリアの地も併合できるかもしれない。

 帝国と戦うよりはスーリアとの戦いの方が楽だという算段もあるのかもしれない。


 どちらにしろ、私達は突如、帝国と新バルカニアの軍勢に挟まれる形になった。


 周囲の戦況の乱れで、スーリア王国からの属国になるという返事は帝国側にまだ届いていない様子。


 レイクール領が新バルカニアにスーリアは属国となる返事を送ったことを知らせてくれたようだが、王族を処刑し盛り上がっている新バルカニアの民には次の生贄が必要なようで、聞く耳を持たなかったそうだ……。


 レイクールもそれ以上の働きかけは無理と判断した様子。


 みんな、自分のことだけで精いっぱいな状況。


 とりあえず、勢いがある新バルカニアの軍勢を父とアーサーが城から本軍を率いて防ぎ、残りは籠城して帝国軍の本軍が到着するか、属国の手紙が正式に受理されたのを確認した帝国軍が停戦してくれるまで、新バルカニアを退けるしかない。



 籠城の方の指揮を執るのは母と姉は無理だということで、私がバハ大臣と一緒に執ることになる。


 これは母が気に入らないことのひとつだが、私は剣の練習に子どもの頃から参加している。 


 父の母、つまり父方の祖母は南の方の出身で女でも剣を使える人だったので、父似の私に剣の才能があるのではと言い出して、母の反対を押し切ってやらせてくれたのだ。

 祖母は私が、自分の文武に長けた兄の『ラクシュマナ』に似ていると言って、私を時々『ラクシュ』と呼んだ。


 母はそれを『息子を産めなかった自分に対する嫌味』と思っていたようだが……。


 祖母や父の期待通り、私は剣の才能が少々あったようで、自分の力や特徴を生かした剣の使い手になれている、と思う。


 私を強く育てようとしてくれていた祖母も4年前、私が10歳の時に亡くなり、それ以降は、男に混じって、アーサーやオルトと一緒に剣の練習をする私を、母は『剣の練習を好むのは男といるためでは』とあてこすってくるけれど。


 まあ、今回は芸は身を助くではないけれど、王族のひとりとして少しは役に立てそうだ。


 バハ大臣はさらに帝国軍に向けて手紙の返事を経路を変えて届けることにし、帝国軍の方に繋ぎを付けようと動いてくれている。


 どっちにしろ、帝国軍の先陣は傭兵集団なので、帝国軍の統制は効いていないも同然のやからだ。

 それを防いで本軍到着まで持ちこたえ、皇子達と直接交渉できないと……、終わる。


 城周辺の戦場となるあたりの女性や子ども老人はみんな城に入れて、一緒に籠城することになる。


 籠城の準備をしつつ、父とアーサーは本軍出陣の準備もする。


 母はバルカニアの王達が処刑されたショックで寝込んでいるし……。


 もうそっちはアニエスに任せたいけど、アリアとマーサがそばにいない方がいいだろうし、なんだかんだ私がそちらの様子を見に行ったりすることもあり……。


 アニエスもピリピリしていた。


 母の様子を気にしながら、城内の全体に気を配り、それに婚約者のアーサーが出陣するわけで、それも心配だろうし……。


 城の使用人と仲が良いのは、どちらかというとよく城内をウロウロしてお手伝いを好きでしている私で、それぞれの仕事のこともある程度把握しているのも私。


 避難してきた民ともある程度顔見知りだったり、話しかけられやすかったり。


 そういうことに……、今回のことでアニエスは気がついて、少し落ち込んだようだ。


 気にしなくていいのに。


 私が城の外に出たり、使用人と過ごす機会が多かったりしているだけで……、後、剣の訓練で城の剣士達とも仲が良い、必然的にその家族にも私は知られていて……。


「ルティの方がこの国のためになっているのね……」

「そんなことないよ。

 緊急事態だから、ね。

 ここからはみんなで力を合わせていかないと」


 もう明日の早朝、父とアーサーは新バルカニアとの国境に向けて進軍を始める。

 まだ帝国軍の進軍も止まらず、連絡も何もない。


 本軍、籠城軍ともにしっかり戦えるように準備しておかないといけない。


 私はバハ大臣と籠城戦の確認をしてから、休むために自分の部屋に戻ろうとした。


 アーサーが廊下で私を待っていて「話がしたい」と言った。

 私はそこで立ち話をするつもりで立ち止まった。


「……ここで?」

 アーサーが戸惑うように言う。


「姉の部屋になら一緒に行くけど」

「……そういうところは気にするんだな」

「アーサーのことはお兄さんみたいに思っているけれど、姉の、アニエスの旦那様になる人だからね。

 そこはきちんとしないと。

 明日は、父のことよろしくお願いします」


「……実は、レイクールから国外へ出たらどうかと言われている」

 少し苦しそうな表情で小さな声で言われる。


 私は思わず周囲を見回した。

 誰もいない。


「逃げるならアニエスと?」

「いや、できればルティと逃げたい」


 は?


 私が思いっきりびっくりした顔をしたので、アーサーは笑った。


「そんな顔すると思った。

 これから先、生きていくなら、ルティがいい」


 は?


 えっと、アニエスは18歳で、アーサーは20歳だ。

 私は14歳。


 どういうこと?

 私はふたりからしてみればまだまだ子どもで、いつもそういう感じで接してこられてたので、理解できない。


「私は逃げないよ。

 ここにいる。

 逃げるなら、アニエスと逃げて。

 今なら、私は誰にも言わないから」


 父も母も、アニエスとアーサーが生きるために選択したことなら、責めないだろう。

 私も同じ。


 でも、私はこの国を城を民を捨てることはできない。


 アーサーがわざとらしくガックリして見せる。


「ルティならそう言うと思った。

 でも、これで会えるのは最後だと思うから、覚えておいて。

 俺はルティが好きだよ」


「そんなこと言われても……。

 兄様としてなら好きです。

 家族としてね」


 そう返事すると抱きしめられて、びっくりした。


 でも、少しすると放してくれて「アニエスと話してくるよ」と言って去って行った。


 私はアーサーの最後という言葉に胸が締め付けられるような思いになり、アリアとマーサとオルトの所へ行ってみた。


 オルトは父の本軍に参加して出陣する。

 父親はバハ大臣に頼まれ、手紙を届けるひとりとして湖を船で移動しているはずだ。

 どちらも危険なのに国のために動こうとしてくれている。


「ルティ!

 来てくれたんだ!」

 オルトが微笑んだ。


「うん、明日は別々に戦うけど、お互い生き抜こうね」

 私は死なないで欲しいという気持ちを込めて、そう言った。


「うん、たとえ死んだとしても、ルティを、姫様を守るためなら……」

「それは考えない!

 時間稼ぎでもあるんだから。

 手紙が届くか、交渉に持ち込んで……、停戦にするから!

 それまで絶対死なないように、して……」


「わかった。

 死なないように頑張る」

 そう言いながら、オルトがおずおずと私の手を握った。

「姫様も……、ルティも死なないで」


「うん、停戦に持ち込むまで絶対死なない」

 私は握られた手にもう片方の手を添えて握り返した。

読んで下さりありがとうございます。

これからもどうぞよろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ