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逃げる元王女とそれを追う第3皇子の物語  作者: 月迎 百
第1章 ハルキ ~シェルターからの脱出と亡国の王女~ (ハルキ視点)
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5 秘密

異世界物です。

どうぞよろしくお願いします。

「ラクシュが女性?」

 シュナの気の抜けたような声が響いた。


「ごめん、シュナ。

 そうなんだ。

 アルジュナと長老には打ち明けていたんだけど……。

 公にできないことが絡んでて。

 だから、俺にはアルジュナを殺す理由がないんだ」

「女性って、嘘でしょ?」

「そう、証明するの難しいよね。

 脱いで見せるわけにはいかないし。

 それでダーゼン先生と奥様を俺の証人とするよ。

 パルシェ村の医者でみんなから信頼されているおふたりの言葉なら証拠になるよね」


 僕のお父さんよりもう少し年上かなというくらいのおじさんとその奥さんらしき人がステージに出てきた。


「俺が……、いや、私がずっと診察して頂いてたおふたりです。

 さすがに医者にまでは性別を偽れないので、ちゃんと話をして診てもらっていました」


「はい、ラクシュマナさんは女性です。

 私と家内が証人です」


 それだけ言うと、礼をしてふたりは下がっていく。


 みんな黙っている。

 それだけ、ダーゼン先生というのはみんなから信頼されている人なんだな。


 シュナがへたり込んだ。


 ゲンジが近寄って声をかけていいものか躊躇している。


 ラクシュが言った。

「みんな、私の秘密を守るために黙っていてくれて……。

 それで、こんなことに。

 なので私は秘密を公にして、この村を出る。

 だからシュナも、きちんと自分のしたことに向き合って欲しい」


「ふふっ。

 あなたはこの村を出るだけでいいでしょうけど。

 ……あなたに騙されてた私は、従兄を殺してしまったという訳か!」

「殺すつもりじゃなかったんでしょ?」

「いえ、ラクシュ、あなたを殺すつもりだったわ。

 こんなに恋焦がれてるのに、一度も振り向いてくれない。

 アルジュナ兄さんにも言ったの!

 ラクシュと私が一緒になれば、アルジュナ兄さんを支えていけるって!

 なのに、いつも『ラクシュはダメだ』としか言わなくて。

 そうか、アルジュナ兄さんもラクシュに恋い焦がれてたのか……。

 それはかばおうと飛び出してくるわ!

 兄さん、最後になんて言ってたの?

 俺を忘れるなって、この先誰のものにもなるな、とか?」


 ラクシュが悲しそうな目をした。

「……逃げろって。

 この事が公になったら困るのは私だから、このまま逃げろって。

 俺のことは放って逃げろって。

 でも、そんなことできなかった……」


「あっ?

 亡国の王女?」

 その時、そんな声が聴衆の中から聞こえてざわっとした。

「髪色は確かに!」「年齢的にも!」「懸賞金が掛けられてるはず!」


 長老がそんな声を一喝する。

「黙れ!

 アルジュナが命を懸けて、逃がそうとしたのだから。

 それに異論がある者はいるか?!」


 みんな、シーンとなった。


 長老がラクシュと一緒に僕の方へ降りてきた。


「後はシュナの話をよく聞いてあげて下さい。

 殺したかったのは私。

 アルジュナじゃない……。

 長老、ありがとうございました。

 ごめんなさい、アルジュナのこと……」

「アルジュナは愛した女を守って死ねたのだから、幸せだと思うぞ。

 愛した者を看取って失うほど辛いことはないからな」

「このまま、荷物を取ったら村を出ます」

「ああ、気をつけてな。

 儂の家に置いてある荷物の背中側のポケットにいろいろ逃げるために使えそうなものを入れてある。

 うまくやりなさい」

 長老が僕に「見送れるか?」と言ったので、頷く。


 ラクシュと早足で長老の家に向かう。

 ステージではゲンジとシュナの話が続いていた。


「さっさとシュナにもばらして、逃げれば良かったんだ……。

 この村が居心地が良くて、アルジュナもいたから……」

「アルジュナさんのこと好きだったの?」


 ラクシュはびっくりして僕を見た。

「……好きになりかけてたのかもしれない。

 この人なら、わかってくれると。

 でも、よくわからない。

 こんな私なのに、巻き込んで殺してしまった……」

「アルジュナさんって本当にラクシュのことが好きだったんだね。

 だって、ゲンジとシュナをくっつけて、ラクシュを自分だけのものにしようって……。

 それに、自分が死んだら逃げろなんて、シュナが犯人とわかったら、ゲンジはラクシュとこの村を出て行くって言い出しそうだから、そのまま逃げろって言ったんだろね」


 ラクシュが少しぎょっとして言った。

「まあ……、そういう風に考えることもできるか……。

 でも、本当に人のことを排除しようと考えたりするような人だったら、俺を道連れにしようとするかもよ。

 うん、まあ、それはしていないし……。いい人だったと思っておくよ。

 少なくとも、私を裏切ったり、傷つけることはしなかった、からね」


 長老の家に着くと、ラクシュは鍵を開けて中に入り、荷物に僕が預かっていた食べ物を入れると背負って、鍵を掛け、鍵を僕に預けた。


 村の門まで一緒に向かった。

「3年というのは守れるかわからないけど、なんとか様子を見に来るよ。

 ハルキ、元気でな。

 長老とゲンジによろしく伝えといてくれ」




   ◇ ◇ ◇



 

 あの後、シュナがすべてのことを話し出したそうだ。


 シュナはラクシュが好きで、自分のものにならなかったら殺そうと思うくらい好きだったんだ。

 確かにあんなにきれいな人なら、今まで好きになった男の人は自分のことを好きになってくれていたのかもしれない。

 ゲンジはシュナのことを好きだったみたいだし。

 

 シュナはアルジュナを殺そうとしていたわけではないということは考慮されて、村の裁判での結果、殺人ではなく事故ということになり、村を出ることになった。

 追放ということではなく、皇都の方の女官集めにこの辺りの村代表で派遣されることに決まったそうだ。

 たぶん、もうこの村には戻れない。それが罰になるんだろう。


 この事件が近くの街に伝わるとラクシュが懸賞金をかけられていた元王女かもしれないということで中央の役人が調べに来た。

 

 長老もダーゼン先生夫婦もラクシュが女性だとは知っていたが、過去は知らず、元王女とは気がつかなかったということでなんのとがも受けずに済んだ。

 だって、気がついていたら、ちゃんと届けていただろうからねってことで。


 ドーワルト帝国の皇都の皇宮には皇帝がいて、たくさんのお妃様がいるそうだ。

 みんな、帝国に滅ぼされたり従属させられりしている国の王女や姫だそう。


 ラクシュもそんな王女のひとりだったみたいだ。

 国から皇都に送られる時に行方不明になっていた。

 その時15歳。

 今から4年前の話だ。


 ずっと北の方の辺境のスーリア王国という小さな国が5年前に滅ぼされてる。

 この国は王が戦うことを選び、王が戦死した後、ふたりの王女様とお妃様が残されたそう。


 降伏して、どちらかの王女が皇子の誰かと結婚して、国を残して従属するという話になって、その相手に決まった第3皇子が妹の方を選んだそうだ。

 

 でも、半年後、妹の王女様も皇都に送られることになり、行方不明になって懸賞金が掛けられている。

 そのため、スーリア王国は名が消えた。

 今はドーワルト帝国のスーリア領と名が残っているだけだ。


 懸賞金の書類を見せてもらった。

『ルクレティア・スーリア 元スーリア王国第2王女』

 書かれている身体的特徴は確かにラクシュマナに似ている。

 

 何で逃げてるんだろう。

 そして、帝国もなんで追っているんだろう。

 皇宮にはたくさんの妃や姫や美しくて召し上げられた平民の女性なんかもいるそうだし、ひとりぐらい放っておいても良さそうなものなのに。


 僕が不思議そうな顔をして書類を見ていたら長老があるところを指差した。

 連絡先や報奨金の出どころの所で、普通に帝国の役所とかではなく、第3皇子直属の騎士団の名前が書いてあった。

「こいつがラクシュマナをあきらめていないんだろうな」


 調べてみたら、第3皇子が第2王女と結婚する話になっていたのに、その話が白紙になって、第2王女が皇宮に送られることになり、逃げ出したとあった。

 


 僕は一生懸命勉強した。

 この帝国のことも外国のことも、だって、ラクシュが来てくれた時、一緒に旅をするって約束したからね。


 ゲンジには恋人ができた。

 村の警護団の同僚の妹さんだそうで、とても優しいかわいらしい人だ。


 長老は元気。

 シュナには僕より2歳上の弟がいて、その子を引き取って僕と一緒に育ててくれている。

 とてもいい奴で、未来の長老候補だ。


 3年後、僕は13歳になった。


 長老を旅の薬師が訪ねてきた。

 異国の服を着ていた。

 髪の色が違うし、髪型も違うし、ゲンジも気がつかなかったみたいだけど、僕と長老は気がついた。


 ラクシュだ。


「長老、お元気そうでなによりです」


 長老がニヤッと笑った。

「アルジュナに言われて、アルミリアの戸籍を確認したら、まだ残っていることがわかり、本当に良かったよ。

 妹の戸籍じゃ、結婚はできないからと一度没になったが、な」


 アルミリアこと、ラクシュはくすっと笑った。

「ありがとうございます。おかげで助かりました。

 ハルキ、まだ旅に出る気はあるのかい?」

 僕は大きく頷いた。

読んで下さりありがとうございます。

次回は第2章になり、ルクレティア14歳の視点の話になります。

これからもどうぞよろしくお願いします。

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