43 ディッシュでの生活
異世界物です。転生や魔法はありません。
第1章でハルキを助けたラクシュの話。
第2章でスーリア王国王女のルクレティアがなぜ逃げることになったかを。
第3章でゲンジとラクシュの旅の始まりを。
第4章で第2皇子リュートと皇都の状況。
第5章で再びラクシュの視点に戻って来ています。
お付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
アリスの話だと、辺境伯爵家のお嬢様はアリスの身の上は知っていてその延長で私のことと第3皇子のことも少し知っているそう。
そうなんだ……。
これからは人がいる所ではアリスの弟のラクシュということで通してもらうことにする。
アーサーにもそう伝えてもらうようにお願いした。
ディッシュの街の警備をしているそうだから、またばったり会うかもしれないし。
「アリス、アーサーとお幸せに!
しばらくはここにいるけど、いつ出て行くかはまだわからないから……」
「うん、わかった。
やっと2年というところよね。
まだまだ逃げ続けなきゃね」
私はアリスの言葉に笑って頷いた。
そのまま、お嬢様達がお茶をしているところに合流して、姉とゆっくり話せたお礼を伝えた。
そして、キクナ先生とゲンジとも合流して、また馬車に乗り、城から出た。
「なんだったんだよ?!」
ゲンジが心配している。
「お嬢様の使用人の中に、俺の姉がいてさ」
「……北の方にいるとか言ってた?」
「うん、そう」
「じゃあ、あの男は?」
「あ、森の中の?
うん、無事に会えて、結婚したって。
良かったよ。気になってたことがわかって」
「そうか、良かったな」
「うん。
これで家族のことはそこまで心配じゃなくなった……」
キクナ先生とリン先生も何やら話している。
とりあえず、ほっとしたが、はっと気が付いた。
第2皇子と第3皇子に連絡が行くのでは?
◇ ◇ ◇
とりあえず、様子を見ながらディッシュでの生活をスタートさせた。
俺とゲンジは近くの森へ……、と言っても、畑としてかなり開拓されてて、大きな森はなく、小さな森が点在という感じだった。
薬草採取にはいいかもだけど、小型の動物が多く、狩りはそこまで収入が見込めなかった。
「弓の練習にはなるけどな」
ゲンジはそう言いながら、ウサギや鳥を上手に狩っていたけどね。
アナが薬草採取を覚えたいと言って、ゲンジに店番をしてもらい、ふたりで薬草採取に行った時もあった。
薬局が休みの時、薬草採取ができたらいいなと考えてたそうだ。
俺はマーサと薬草採取をしたことを思い出した。
見つけ方や気をつけること、ここは小さな森が点在しているから、一度採取した森は次に薬草が成長するまで、入らないようにするといいことなど教えた。
「でも、他の薬草採取の人もいるし……」
この街には薬草採取を専門にする人はいないけれど、時々持ち込む人がいた。
街の人にしてみればいい臨時収入源、なのかも。
「うーん、でも、今のところ、人数も持ち込みも少ないよね。
アナが採取にきてまだその薬草が成長してなかったら、違うのを取ればいい」
「そうですね……」
「気になるなら、薬草を根ごと採取して育てるというのもできるけど、特定の環境を好む薬草があるから、全部が全部、畑や庭で育てられるとは限らないし……」
「とくていのかんきょう?」
「あ?
えっと、例えばこのイブ草は痛み止めだよね。
大きな葉のある植物の下、完全な日陰に生える。
この傷薬のヨギは比較的どこにでも生えるけど、水をたくさん吸う草でさ。
大きな木の根元に生えていることが多い。
木の根の所に水が貯えられてるからね。
土が乾きにくいんだ。
で、そういうところは半日陰っていうかな、強い日光は当たらないけど、暗くはない、みたいな」
「なるほど、特定の環境って周辺の普通と違う様子とかそういうことですね!」
「うん、そう」
アナはノートに何やら書き込んで真剣だ。
店番をしている時にも薬草や薬について質問してきたり、自分でいろいろ勉強しているみたい。
「アナは薬師になりたいの?」
頷くアナ。
「なら、リン先生にもっと薬の作り方とか手伝いたいと言えばいいのに」
「でも、そうすると、それは習うことになるからお給料が出ないし……」
「そうか、家にお金を入れないとか……。
じゃ、休みの日に薬草採取して、その後、工房を借りて作ってみようよ」
「作る?」
「うん、薬を。
簡単なものなら、俺も教えられるし。
一緒になら、大丈夫だろ?」
次の休みの日に薬草を採取してから、薬局に戻り、工房を借りて採取した薬草のヨギだけ買取してもらわず、自分達で薬にすることにした。
すり潰して濾して精製した油に混ぜ込む。
自分だと目分量で作ってしまうところがあるのだけど、きちんと量り、アナはメモを取りながらゆっくり作っていった。
5つの傷薬の軟膏ができた。
「初めてアナが作った薬だね」
俺の言葉にうれしそうに薬の容器を眺めるアナ。
リン先生も見に来てくれ、ひとつ手に取ると蓋を開け、薬の状態を確認して「うん、いいね」と言って「ひとつ買うよ」と薬局で売っている傷薬の値段で買ってくれた。
夕方になっていたので、家まで送ると、残りの4つは家族と自分で使うと本当にうれしそうに笑って帰って行った。
私は幸せな気持ちになって、薬局に戻ったが、薬局近くで足を止め、物陰に隠れた。
薬局の前にアーサーと第2皇子と騎士が数人いた。
リン先生が俺は用事で外出していると話をしていて……。
俺はこっそり裏口に回ると庭から住居の方に入った。
ゲンジが俺が裏から帰ってきたので驚いている。
「表が物騒な感じだったから」
「ああ、ラクシュに会いに辺境伯爵家の人と……、あれ、マイロで見かけた皇子だよな」
そうか、ゲンジは………、第1皇子は仕事をしたから知ってて、マイロで第2皇子は見かけてたっけ?!
「ああ、そうかも……。
とりあえず、リン先生に……」
その時、リン先生が住居の方に戻って来て俺を見てびっくりした。
「ラクシュ、戻ってたの?!
薬局の客間の方にお客さん待ってるから?!」
俺は苦笑いして「待ってるんだ」と答えて、行こうとした。
ゲンジが俺の腕を取る。
「逃げるなら、一緒に行くけど」
「……大丈夫。
今すぐには逃げないよ。
ただ、この先はちょっとわかんないな」
そう言って、ゲンジの肩をポンポンと叩いて安心させる。
「ちょっと話してくる。
もうひとりはあの森の人で姉の旦那さんだから、大丈夫だよ」
客間に入るとアーサーと第2皇子が同時に立ち上がるから笑ってしまう。
「なんだよ、座っててよ」
「すまん……」
第2皇子が座った。
アーサーはそのまま俺の手を取ると「本当にありがとう」と言った。
「うん、アリス、から聞いた。
良かった、ちゃんと会えてさ。
結婚おめでとうございます。
アーサー、姉のこと、よろしく頼みます。
……で?」
俺は第2皇子を見て、向かいの椅子に座った。
第2皇子の話では、第3皇子はバハ大臣と仲良く、北部で元気にやっているそう。
久しぶりにダートのことが聞けてうれしかった。
「マイロでリュートに会ったというか気づかれたから、もうラクシュという名もばれてるそうだね……。
今、名前を変えられないから、それは内緒にしてもらえるとありがたい。
あと、イズタールで第1皇子にも会ったよ。
侍従になって欲しいと言われて断ったけど……」
「……やっぱり、ジークの言うラクシュって、ルティのことだったのか……。
ちょっと話は聞いた。
ザクロンでお世話になったんだって?」
「お世話というか、雇われたというか……。
第1皇子だけで大丈夫かね? と心配してたけど、リュートも合流して西の方のこと収めてくれたみたいで良かったよ」
「ああ、すぐ対応したから、シンカイ王国もそれ以上はしてこなかった。
ただ、アマンの流入はこれからも対策が必要で……、隠れてこちらに細々とは流れて入ってきているようだ……。
今はジークが対応している」
俺は頷いた。
「ここにしばらくいるのか?」
俺は首を振った。
「そろそろ旅に戻るよ。
南の方に行ってみたいと思ってたし」
「ダートには会わなくていいのか?」
えーと、この東の地に第2皇子と第3皇子と集まってきちゃって大丈夫なのか?
「まだ2年しか経ってない。
私は逃げないと?」
ダートに会いたい気持ちもあるし、なんだか曖昧なよくわからない聞き方になってしまったので言い直す。
「まだ私を追っているのは帝国だし、ここにリュートもダートも来ちゃうってのは変じゃない?
それに、第1皇子の婚約者の所にリュートが来ちゃって大丈夫なの?」
今度はリュートが苦笑いする。
「あ、まあそうなんだけど……」
読んで下さりありがとうございます。
ゆっくりと話が進んでいますが、長くお付き合いいただけたらうれしいです。
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