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逃げる元王女とそれを追う第3皇子の物語  作者: 月迎 百
第5章 ラクシュマナ ~南へ~ (ラクシュ視点)
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41 東へ進もう!

異世界物です。転生や魔法はありません。

第1章でハルキを助けたラクシュの話。

第2章でスーリア王国王女のルクレティアがなぜ逃げることになったかを。

第3章でゲンジとラクシュの旅の始まりを。

第4章で第2皇子リュートと皇都の状況。

第5章で再びラクシュの視点に戻って来ています。

お付き合いいただけたらうれしいです。

どうぞよろしくお願いします。

 次の日、薬草を採取してリン先生に昨日のことを報告する。


「それは、詳しいことを確かめず仕事を紹介した私も悪かったね」

「いえ、御主人と話した感じでは、私の仕事ぶりを見たり聞いたりしてという話だったので、お嬢さんひとりの希望というか、その……恋愛感情とかそういう思いがあるとか、わかりませんでしたし」


 リン先生は頷いてから言った。

「でもさ、本当に男だったら、噂なんてほっといても良かったんじないの?

 そうはできなかったっていうことは……、ラクシュ?」


 リン先生の言葉に目をつぶってため息をついた。

 実際、そうなのだ。

 ただ、今回、どんなことで相手が動いているかがわからず、もし、私がスーリアの元王女で帝国から追われていることに気づいた人がいるなら……、様子を見ることは命取りになる。

 確認のためにも動かざるをえなかったのだ。


 リン先生に……、この場合、どう答えていいのか、さっぱりわからなかった。


「……ラクシュ、あなたが何を抱えているのか私にはわからないけれど、私はあなたの力になりたい。

 困っていることはない?」


 リン先生のやさしさはよくわかっている。

 本心からそう思ってくれているであろうことも。

 でも、巻き込むのは……。


「……ありがとうございます。

 あと、1週間ちょっとですけど……。

 この街を出るつもりです」

「どこへ?」

「とりあえず、ここまで来たので東の方に行ってみようかと……」


「そう……、じゃあ、ラクシュとゲンジに仕事を依頼してもいいかしら?」

「依頼? 何ですか?」


 リン先生はくすっと笑った。

「私、前から、ここからずっと東へ行った所にあるキャシディ辺境伯爵領のディッシュという街で薬師をしないかと誘われていて……。

 この街には薬師が私以外にも複数いるしね。

 ディッシュまで一緒に旅をして護衛をしてもらいたいんだけど、どうかしら?」


「……願ってもない仕事だけど……。

 俺のために無理してるんじゃ……」


 リン先生は笑った。

「無理はしてない。

 前から考えてた。

 まあ、ラクシュのことがきっかけにはなったけどね」




   ◇ ◇ ◇




 3人の旅は楽しかった。

 リン先生は俺が話すまで待ってくれるつもりのようだ。


 ちょっとユーリのことを思い出した。


 エイラから小さな村をふたつ過ぎ、カーボスという大きめな街についた。

 ここにはリン先生の師匠である薬師がいるそう。


 ディッシュの街の薬師にというのも、この師匠からの話なのだそう。


「やっと決めてくれたか!」

 その師匠の薬師のおじいちゃんは喜んでいたけど、きっかけとなった俺は、ちょっと複雑だ……。


 この街は繊維業が盛んで質のいい服がたくさん売られているそう。

 リン先生に誘われて服を見に行くことにした。


 ゲンジの服も全体的に袖も裾も丈が短くなってて、ここで新調することにした。

 ゲンジのお古を俺が着ればいいや。

 そういえば、身体の線を隠すような服を着た方がいいと言われてたっけ。


 そこで防具の上からも羽織れる少し大きめの上着を買うことにした。

 薄手だけどフードもついていて、身体全体を覆えるようなコートを見つけた。

 動きやすい。


 このコートと首元が詰まっているデザインのシャツを見つけ買った。


 後、買いたいものがあるけど、ゲンジが一緒だと買えない……。


 どうやってひとりになろうかと考えていると、リン先生がゲンジに今まで買った物を渡して言った。

「これ、持って先に帰っててくれる?

 私、もう少し服を見たいから!」


 ゲンジは頷いて「わかりました」と宿に戻って行った。


「で、何を買いたいの?」

 リン先生にいたずらっぽく聞かれて……。

 ああ、もうしょうがないな……。


「……布を。

 胸を押さえるために細長い布をぐるぐる巻くので、その布を……」


 リン先生はニコッと笑った。

「それなら任せて!」



 リン先生とあるお店の裏口から中に入り、部屋に通された。


「ここは個室対応してくれるし、口も堅いから大丈夫よ」

 そこでリン先生が対応してくれた店員に何か伝えると、厚みのある生地で作られた、肩まで生地があるコルセットみたいなものがいくつか持ち込まれ……。


「これって……、胸を押さえる下着?」

 リン先生が頷く。


「この紐で絞めて調整できるから。

 布を巻くより楽だと思うよ。

 実はね、義姉ねえさんから言われてたの」

「奥さんから?」

「義姉さんも、若い頃、男のふりして生きてきた人だから。

 ラクシュのことも、だからなんとなく気がついてたのよ。

 何とか手助けしたいなって思ってたそう。

 でも、打ち明けてくれないからどうしようも……」


 俺は唇を噛んだ。

 心配してくれてた奥さんに『俺は男です!』と言い切っちゃってたもんな……。

 でも、それは仕方ないことで……。


「何か理由があることはわかってたから、気にしないで。

 で、もしできることがあればって、男のふりをしている時に困ったこととか教えてくれてね。

 このお店のことも聞いていたのよ」


 試着させてもらうと、本当に装着の時間が短縮できる。

 緩んでくるということもないし。


「これ、楽です!」

 私は感動した。

 こんなのがあるななんて!

 全く知らなかった!


「最初は剣術や弓術など、武術をする女性のために作られた物だったみたいね。

 今では男のふりをしたい人とか、演劇の方でも使われているそうよ」


 ちょっと高かったけれど、3枚も買ってしまった。

 このまま身に付けさせてもらう。

 防具も付けてみて、うん、大丈夫!


「リン先生、ありがとうございます!」


「後ね、月のものは大丈夫なの?」

「えっと……、その……」

 私はすっかりリン先生に男性のふりをするうえで苦労していたこととか、今までに困っていたことを話し出してしまった……。



   ◇ ◇ ◇



 カーボスを出て4日ほどの行程でディッシュだという。

 ディッシュは海のそばの街なのだそう。

 

 海が見えるなんて……。

 海は初めてだ。


 海のすぐ近くに港があり、そこは港町として栄えているそう。

 その港町から少し離れている高台にある街なのだそう。


 へー。


 途中に村があり、リン先生がディッシュに来た新しい薬師だとわかると歓迎してもらえ、村長の家に泊めてもらえた。

 薬師って地方だと重宝されるんだな。


 村に泊めてもらえたので、かなり楽することもでき、足取りも軽く旅を続けることができた。

 途中から畑が広がるのどかな景色になった。


「ほら、もうディッシュの城壁が見えてきたよ!」

 リン先生の言葉に俺とゲンジは遠くを見た。

 大きな城の壁が見えた。


「辺境だからね。

 港には異国の船もたくさん来る。

 ディッシュの街は賑やかよ!

 でも、そのぶん、中に入るには厳しい審査があるから……」


 俺はその言葉を聞いて動揺してしまった。

 大丈夫かな……。


「大丈夫よ。

 ふたりは私の弟子と護衛ってことになってるから!」

 俺の様子を見てリン先生が笑って言った。


 リン先生の言う通り、先生が何か書類を見せて話をしただけで中にすんなり入れてもらえた。


 そのまま、ディッシュの街の薬局に向かう。


 年配の女性薬師が待っていてくれて、歓迎してくれた。

「あなたが、リンね!

 今回は遠いところありがとう。

 これで私も心置きなく引退できるわ……」

「もう少し、私がこの街に慣れるまでよろしくお願いします!」


 どうやら、この女性薬師がそろそろ引退したいが後釜が決まらずということだったみたいだ。


「キクナ先生も、まだ薬の仕事はされるんですよね?」

 リン先生の言葉にそのキクナ先生は頷いた。

「薬局を切り盛りするほどはもう無理だけど、家の工房で少しは、ね」

「いろいろ教えていただきたいこともありますし、これからもよろしくお願いします。

 これはラクシュ。

 私の弟子で、薬草採取をしてくれてます。

 そして、ラクシュの友人のゲンジ。護衛をしてくれています。

 しばらく、この街にいることになると思いますので、どうぞよろしくお願いします」

 俺とゲンジもぺこりと礼をして挨拶した。


「荷物は届いていて、薬局に運んであるよ。

 今日はゆっくり荷など解いて、明日、辺境伯爵様の所に挨拶に行こう」

 キクナ先生はにっこり笑った。

読んで下さりありがとうございます。

ゆっくりと話が進んでいますが、長くお付き合いいただけたらうれしいです。

面白そうと思っていただけたら、ぜひブックマークして下さいっ!

これからもどうぞよろしくお願いします。

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