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逃げる元王女とそれを追う第3皇子の物語  作者: 月迎 百
第1章 ハルキ ~シェルターからの脱出と亡国の王女~ (ハルキ視点)
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3 ゲンジの話

異世界物です。

どうぞよろしくお願いします。

 ラクシュは決心したように言った。

 「では、ダーゼン先生ご夫婦を証人に。

 長老にもお願いします」


「本当にいいのだな?

 もうここには戻れなくなるぞ」

「はい、でも、アルジュナを殺したのは私ではないと証明したいので」

「わかった」


 長老が窓のそばの紐を引くと何人かの人がやって来て、僕の書類を持って出て行く人、長老に何か言われて頷いて出て行く人とてきぱき指示を出せれて出て行った。


 僕が窓の紐の仕掛けを不思議そうに見ているとラクシュが教えてくれた。


「あの紐を引くと家の外の窓の上に用事があるから来てくれって札が出るんだよ」

 その時、紐ががたんと少し上がった

「頼まれた人が戻してくれたんだ。

 便利だよな」


 夕食は長老がご馳走してくれた。

 ラクシュはここで受けられる教育のことなど説明してくれる。

 施設でも学校で学んでいたので、何となく内容はわかった。


 食事後、長老が大きな地図を持って来てくれて周辺の地理を説明してくれた。


 ここはドーワルト帝国という国の辺境と言った場所になるそう。


 砂漠地帯が広がっていて、そこに僕がいたようなシェルターがいくつかあるのだそう。

 シェルターは昔、ここにシーフィー教団という宗教国家があって、世界の終末が来ると信者達を集めて、そういう施設を造ったんだそう。


 それがまだ残っていて、いまだにシーフィー教を信じて生活している人々がいるそうだ。

 だから、彼らの教義的には、施設の外はすでに終末を迎え、自分達以外は滅亡していると。


 うん、そう言われてた。


「でもさ、ハルキはデーツを食べたことあるんだもんな。

 それは外と交易しているってことだよな」

「どこかの村の者か、それとも他国の者か……」

 長老が考え込む。

 そして、僕を見て言った。

「良く逃げようと思えたな」


 僕は話し出した。

 6歳の時に母が亡くなり、父はあんまりそばにいなかったが、施設の中では貴重な技術職人だったようで、僕自身も教育を受けることができていたこと。

 父が不在がちで親が亡くなった子のための家に行って数日から数週間過ごすことも何度かあり、そこで親がいない子は教育も受けずに雑用をやらされて、身体を壊したり病気になるといなくなる……ということを何度か見聞きしていた。


 ある時、空を飛んでいた鳥の足に何か付いているのを見た。

 それ以来、気になって見ていたら、違う鳥にも付いていることがあって、本当のことだと確信できた。


 これは外に人がいて、鳥を利用して連絡を取り合っているのでは?


 そう思うと外が見たくなり、壁をよく見たところ、登れそうなでっぱりがあるところを見つけた。

 そのままでは無理そうだが、手袋と靴の裏に滑り止め効果のある液体を塗っておけば、まだ身の軽い僕なら登れそうだということも。


 そんな時、父に再婚話が持ちかけられた。

 僕は配給された乾パンを少しずつ溜め始めた。

 

 父の再婚が決定となり、僕を教練場に送ると言われた。

 教練場は施設幹部を育てる場で、軍事訓練がとても厳しく、事故死した子の話も聞いたことがある。

 

 教練場に入ってしまうともう脱出のチャンスはない。

 僕は決意して脱出を決行したわけだ。


 塀を上り、砂の方へ飛び下り、飲み水が尽きて、雨水でしのいでいた時、ラクシュに助けてもらえたこと。


「ラクシュに出会えて良かったな」

 長老が言ってくれた。

 そしてラクシュに向かって言った。

「裁判後はすぐ出て行くのかね?」

「はい、ハルキをお願いします」

 

 僕はびっくりしてラクシュの袖を掴むと言った。

「ラクシュ、僕も連れていって!」


 ラクシュはびっくりしてから笑った。

「大丈夫。しばらくしたら戻ってくるよ」

「しばらくって?!」

「うーん、3年後くらいかな?

 ハルキが旅できるようになっていたら、今度は一緒に旅をしよう」


 ラクシュはそう言いながら、地図の上に手を伸ばし、一カ所を優しく撫でた。

 そこは湖のある北の地方でスーリアという地方だった。


「約束だよ!」

 僕は真剣に言った。

 ラクシュも真剣な顔になり頷いてくれた。


 次の日、ラクシュが朝食を作ってくれ、僕も手伝った。

 3人で食べているとゲンジが来て、準備が整っていることを教えてくれた。


「ゲンジはシュナ側の証人か?」

 ラクシュが聞いた。

「……ああ、最初に駆けつけたのが俺だから」

「そうだもんな」

 ラクシュが静かな声で言った。


 ゲンジは僕の服も用意して来てくれていて、風呂の使い方と着替えを教えてくれることになった。


 僕はゲンジに言われて服を脱いで、大きな桶の中に座った。

 上からお湯をぶっかけられる。

 3回ぐらいかけたところで、石鹸を渡されたので泡立てた。

「すげーな、石鹸がわかるんだ」

 変ところでゲンジが感心している。

 僕の怪訝そうな様子に笑って教えてくれた。

「俺は石鹸なんて、ラクシュに出会うまで知らなかったから」

「幼馴染とか?」

「いや、初めて出会ったのは15だったかな……。

 ストリートチルドレンって知ってるか?

 親も保護者もいなくて、自分で仕事をして、時には悪いこともして生き抜いてるような子だ」

 僕は頷く。


 親のいない子が生きていくことは大変な事はわかる。

 施設では管理され、選別されいなくなるけど……。

 ある程度自由なこの世界なら、子どもだけでも仕事をしたりして、生き抜くことはできるかもしれない。


「ラクシュとはそんな時に出会ったんだ。

 俺は金持ちから財布を掏ろうとして、失敗してつかまった。

 見せしめにそこで指を切られそうになった時、ラクシュが現れてさ。

 俺の指を買い戻してくれたんだ」

「買い戻す?」

「その金持ちは、見せしめで俺の指を切り落とすと宣言して、この指を買い戻す奴がいるならみたいなことを周りにいた野次馬というか聴衆というか、そういう奴らに言ったんだよ。

 指1本1000ディナリ。

 10本だから10000ディナリだ。

 そこまで高くはないが、まあ、すぐにポンと出せる金額じゃない。

 10000ディナリあれば、小さな宿に2~3泊ぐらいできるしな。

 もちろん誰も、1000ディナリですら出そうなんて大人はいなかったよ。

 その時に俺と同じくらいの背格好のラクシュマナが出てきて、財布らしい巾着を取り出してその金持ちに突きつけた。

『10000ディナリ入ってる。

 その子の指は付けたままにしておいてくれないか』って。

 金持ちは動揺してたね。

 でも、約束は約束だ。

 周囲に見ていた奴も多いし、約束を違えるのもな……。

 結局、金を確認して、去って行った。

 だから、ラクシュマナは命の恩人だ。

 あそこで指を切られていたら、もう普通の仕事もできなくなっていたはずだし、生き抜けなかったと思うから……」

 ゲンジは僕を見た。

「ほら、手が止まってるぞ、早く洗え。お湯冷めちまう」

 僕は慌てて身体を洗いながら言った。

「で、ラクシュと友達になったの?」

「あ、まあ、そんなところ。

 一応お礼を言った。

 少しずつでも返すって。

 そしたら、あれはいざという時にと渡されてた金だから、必要な時に使えて良かった、気にするなって。

 そんなんどうやって気にすんなって言うんだよな……。

 話しをしたら、北の方の戦乱の地から逃げてきて、もっと南に逃げるつもりだから、この街からはすぐ出るからと言うんで、無理やりくっついていくことにしたんだ。

 俺の指の代金を返すぐらいまではってさ。

 お、洗えたか」


 ゲンジはまた上からお湯をかけてくれた。

そして、床に敷いた布の上にひょいと俺を抱き上げて移動させると、拭き布を渡してくる。


 僕は拭きながら「で、それから?」と聞いた。


「それから? 

 ふたりで旅をして、ラクシュは剣もけっこう使えてさ。

 俺にも教えてくれて、ふたりで運搬の仕事とか隊商の警護とかの仕事もできるようになって。

 この辺境のパルシェ村に辿り着いたのが、1年ほど前だ。

 珍しく移動せず、住みついて1年以上……」


「指のお金は払えたの?」

「ああ、金貯めてすぐ返したよ」

「返したのに一緒にいたんだ?」

「ああ、別にお互いひとりだったし、まあ、ラクシュはいい奴で、俺を助けたみたいにその……、心配なところもあったからなっ!

 それに優男だろ、女からも男からもそういう声をかけられるっていうか……」

読んで下さりありがとうございます。

これからもどうぞよろしくお願いします。

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