23 用心棒
異世界物です。
ルクレティアという小国の王女が巻き込まれていく運命を書いてみたいなと思っています。
第1章でハルキを助けたラクシュの話。
第2章でスーリア王国王女のルクレティアがなぜ逃げることになったかを。
第3章でゲンジとラクシュの旅の始まりを書いています。
お付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
次の日、ラクシュが焼き菓子を多めに焼いていて「これ持って道場に昨日のお礼に行ってこい」と言った。
俺は師範にお礼を言って焼き菓子を渡した。
「どこの店のものだ?」
師範が言うので「ラクシュが焼きました」と言う。
師範はそれを聞いて一口齧り「売り物じゃないのか?!」と叫んでから、声を潜めた。
「ゲンジ、あの人は本当は君のお姉さんなんじゃないのか?!」
お姉さん?
俺は驚いて首を振った。
「あいつは幼馴染で、男です!!
変なこと言わないで下さい!」
俺はそのままくるりと方向転換すると走って道場から出て行った。
お姉さん?
お兄さんならまだしも、お姉さんだと?!
ラクシュがイケメン過ぎるのがいけないんだ!
俺はラクシュに腹を立てた。
男にももてるイケメンってなんだよ! ホント!
◇ ◇ ◇
俺の装備が整ったことから、ふたりで新しい仕事に挑戦することになった。
ふふふ、用心棒だ。
護衛じゃないぞ、用心棒。
なんか用心棒ってかっこいいよな。
護衛は移動の時に雇われるわけだが、用心棒は雇われて待機していて必要な時に呼ばれる。
薬屋の仕事を手伝っている時に、芸妓置屋のおかみさんと知り合いになったそうだ。
ラクシュが若くてかっこいいので(と自分で言うか?)、遊びに来いと言われていて、仕事があれば回して下さいと言っていたら本当に依頼されたと言っていた。
約束した昼過ぎに置屋に行ってみる。
花街に足を踏み入れるのが初めてでドキドキした。
ラクシュは全然平気みたいだ。
「花街ってさ、かわいい女の子や美女がたくさんいる所だよな?!」
俺が言うとラクシュが笑った。
「その裏を知るわけだから、幻滅すっかもな」
「げんめつ?」
「あー、理想と違くてがっかり?」
「うん?
かわいい女の子は女の子だろ?」
「あー、まあな……」
一軒の置屋の前で手帳を確認していたラクシュが「ここだ」と言った。
「こんにちは!
ラクシュです。
イーダさん、いますか?」
ラクシュがドアを開けて中に入り声をかける。
土間の向こうの座敷に女の人達がどわっと覗くような感じで顔を出した。
「おかあさん、この人?
新しい用心棒って!」
「わ、若いじゃん!
ふふふ、いいわね!」
「やーだ姐さん、年下好きじゃないでしょ?!」
たちまちキャーキャー言う声が上がり、俺はびっくりした。
女の人達は、かなり薄着で、まだ化粧をしてなかったけど、それでもなんかキラキラしててきれいだと思った。
その女の人の後ろから「はいはい、みんな仕度や稽古に戻る!」と出て来たのは年配の、でも若い頃はけっこう美人だったんだろうなと思える背筋のぴっと伸びた背の高い女の人だった。
「ラクシュ、来てくれたんだね!
そっちの子が話していたゲンジかい?」
「はい!
ゲンジ、この置屋のおかみさんのイーダさんだよ。
俺達の雇い主になる」
「ゲンジです、よろしくお願いします」
「ああ、頼んだよ。
今日の様子でこれから頼むか決めるから。
昼は女の子達が稽古や買い物に行ったりするのを護衛して欲しいのと、夜は座敷への護衛だね。
まあ送迎の付き添いという感じだ。
昼から夜だから、日替わりという感じで。
護衛はしたことがあるんだろ?」
「この街で商家の方の護衛は何度か」
ラクシュが言った。
「ああそれなら問題ないよ。
うちらの場合は芸妓達に言い寄ってこようとする男もいるから、そこだけ気をつけてもらえれば」
「はい、わかりました」
「まあ、ラクシュがそばにいたら、他の男なんぞに目をくれる暇はないか!」
イーダさんが豪快に笑う。
「おかあさん、行ってまいります」
靴を履き、こちらに出て来たのは俺よりちょっと年上に見えるすごくかわいい女の子だった。
柔らかそうな茶色の髪がふわふわしてて……。
大きくて明るい緑色の瞳がキラキラしてる。
「マリアン。
今日から雇ったラクシュとゲンジだ。
師匠の所まで道を教えておあげ。
芸妓のマリアンだ。
若いけれど、舞ではうちのエースだよ。
今日はこの子に付いとくれ」
「「はい」」
ラクシュと俺は返事をした。
「ラクシュとゲンジね。
行きましょ」
マリアンがそばを通る。
すごくいい匂いがした。
ラクシュがドアを開けて押さえる。
「ありがと」
マリアンがラクシュに笑いかけるが、ラクシュはすでに外の通りに気を配っていた。
マリアンはちょっと唇を尖らせてから俺を見た。
「荷物、持ってくれる?」
◇ ◇ ◇
置屋の用心棒は昼過ぎに行って、夜遅くまでだ。
イーダさんに週3で依頼された。
固定の仕事は収入が安定して助かるとラクシュが言っていた。
俺達は昼はマリアンが舞の師匠の所に通うの専属護衛みたいな感じで……、そんなわけだから夜もマリアンに付くことが多くなり、となると一番親しくなるわけで。
マリアンは16歳だそうだ。
俺が今まで知っている女の子とは全く違っていて、知っているといっても俺が知っているのはラーダの街の一緒に生き抜くためにつるんでた女の子で……。
マリアンは見てるだけでふわふわとやわらかい感じがして、いい匂いがして、光っているみたいな……。
まあ特別な女の子だということはよくわかる。
稽古の時は真剣に取り組んでいるし、座敷で踊っているのを遠目だけど見たこともある。
すごくきれいだった。
俺はマリアンが好きになっていたんだと思う。
マリアンを見ていれば見ているほど、マリアンがラクシュを気にしているのがよくわかった。
ラクシュは全然気にしてない。
というか、あんまり好きではないみたいだ。
ラクシュはラクシュで年上の姐さんたちにかわいがられてた。
マリアンが稽古から戻ってくると待ち構えていたようにラクシュに買い物の護衛をして欲しいと姐さん達から声がかかる。
ラクシュはマリアンより姐さん達の方が一緒にいて楽だと、俺には教えてくれた。
ラクシュはけっこう顔に感情が出る。
自分でも気にしているみたいで、こういう仕事をしているし、なるべく出さないように、相手に合わせることもしているが時々ふっと出てしまう。
俺にはそれがよくわかる。
マリアンがラクシュにはよく触るんだけど、その度に怪訝な顔をしたり、瞬間的に嫌そうな顔をする時があって、マリアンがそれを不満に思っていることもわかる。
「ねえ、ゲンジ、ラクシュって私が嫌いなのかな?」
師匠の所からの帰り、師匠がイーダさんに持って行ってもらいたいものがあるとラクシュを奥へ呼んで、ふたりきりで玄関で待っている時に言われた。
「そんなことはないと思うけど」
俺はドキマギしながら答える。
「あいつは……。身体に触られるのを嫌がるから、それでじゃないかな?」
この答えは、ずっと考えていたことだったのですんなり言えた。
マリアンに抱きつかれたり、手を貸して欲しいと袖を掴まれたり……、俺だったらうれしくなっちゃうけどな。
「ゲンジは優しいね。
ゲンジを好きになれば良かったかも」
マリアンがフフッと微笑む。
俺は真っ赤になった。
それから、マリアンは俺に触ったり掴まってくれたりすることが増え、俺は本当に俺のことを好きになってくれたのかと思ったが、俺に何かしてくる時には必ずラクシュがいる時だとそのうちに気が付いた。
たぶんラクシュの反応を見ているのだ。
ある時、ラクシュが家に帰ってから言った。
「マリアン、いい加減にして欲しいんだけど。
なんであんなに他の女の子にきついんだろう。
ゲンジには俺がいる時にべたべたするくせに、ゲンジがいない時にさ……。
……ゲンジはマリアンが好きなんだよな。
マリアンもゲンジが好きなんじゃないのか?」
俺は少しムッとして言った。
「マリアンはラクシュが好きなんだよ。
俺にはどうしてラクシュは私にやさしくしてくれないんだといつも言うよ」
ラクシュは驚いた顔をして俺を見た。
「えっ?
じゃあ、俺の前でゲンジにベタベタするのは、なんか思うところがあるのか?」
「思うところってなんだよ?
普通にラクシュにヤキモチを焼かせようとしてんじゃないのか?」
「……ゲンジはそれでいいわけ?」
「わけも何も、マリアンがしたいなら、いくらでも付き合うけど。
それにしても、もう少しマリアンにやさしくしてやれよ」
ラクシュは苦笑いして言った。
「お前、利用されてるよ」
「いいよ、利用されてても」
「すげーな。
いくら好きでも、そんな境地に俺はなれないよ」
次の日、ラクシュとマリアンがふたりきりの時、マリアンが涙目になっていた。
それ以来、マリアンは俺になんでも頼るようになった。
「ゲンジ、このままマイロでずっと私のそばにいて」と言われて……。
ラクシュは南へ行くんだよな。
まだお金返してないし。
どうしよう……。
読んで下さりありがとうございます。
評価、どうもありがとうございます!
とてもうれしかったです!!
これからもどうぞよろしくお願いします。




