182 新月の夜(後)
異世界物です。転生や魔法はありません。
第21章ルティ視点に入っています。この21章で物語は完結する予定です。
南部の砂漠を舞台に最後のシェルター2の調査、解放に向けた話が続きます。
もう少しお付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
下のワンピースも取っておいた薄ピンクの物に着替えて、全然違う服装になる。
頭の飾りはグラムが荷物から取ってきてくれると言い、その時に青い羽織り物は、どこかへ捨ててきてくれるというので頼んだ。
クリーム色のワンピースのポケットから毒消しを取り出し、飲んだ……。
メイサ先生の薬は用心のため、薄ピンクのワンピースのポケットに移して入れておき、自分のベッドに仰向けに寝転んだ。
手を掲げて見る
震えてる……。
私のクリーム色のワンピースを荷物に入れてきてくれたダートがベッドの方に来て、座った。
「ダート達は大丈夫? 毒消しまだあるけど」
「俺達はすぐその場を離れたし、大丈夫だ」
「ミサキ様とショウタロウ様は?」
「無事に外へ逃げたのは確認した。
ショウタロウが大広間の方で人手が足りないと門から人を大広間の方へ行かせて、その隙に門を開け、馬でミサキを乗せて逃げていた。離れたところから見てたが、特にトラブルもなく外に出れていた。
道はもう一度伝えて確認したから大丈夫だと思う。
今、ミサキがいなくなったわけで、これから追手がかかるとしても、大丈夫なくらい時間は稼げている。それに、追手は出さない気もするな……」
「ミサキ様はすぐ目が覚めたの?」
「ああ、こっちに連れて来て、すぐ意識は戻ってさ。
ショウタロウとの待ち合わせを教えてくれたから、ショウタロウにこっちに来てもらって。
その時までにはだいぶしっかりしてきてて、歩けるまでになってたから」
「そうなんだ……、良かった。
煙の方が毒性が弱いらしいんだけど、毒消しの効果がどれほど効くかよくわからなかったから……。
効いて良かった……」
「ルティは大丈夫?」
ダートが私の頬に手を当てて言った。
「うん、大丈夫。
ごめんね。予定と全然違う動きになって。
でも、これで私は、ダートとグラムと一緒にこちらに引き上げてきて、休んでたってことにできるかな……」
グラムが戻って来た。
「ほら、頭の飾り。同じものが残っていて良かった。
すごい騒ぎになってるよ。
羽織り物は門のそばの植え込みの裏に投げ込んできた」
「グラム……。
アマンはデューン共和国が持ち込んだのか?」
ダートがはっとしてグラムを見る。
グラムは一度下を見たが、私を見て頷いた。
「ああ、デューンが乾燥させた葉を持ち込み、精製した薬と交換。
医薬品として使う」
「医薬品、麻酔や痛み止めだね」
「ああ、渡した以上、相手に委ねるが……」
「いや、知ってたでしょ!」
「……もしかしたらとは思っていたが……。
実際に薬以外に使っているのを見たのは初めてだ……」
本当かな?
今までにも使われている、または使った形跡、匂いとか……感じたことありそうな気がする、けど。
まあ、精製してもらって、薬にしてもらうから、見て見ぬ振りか……。
私は隊商のみんながいる大きな部屋に移動した。
もう、明かり取りの天井付近の窓から見える空はもう暗くて……。
その時、ドアがノックされ、タイチロウ様が数人で訪ねてきた。
「ミサキが姿をくらました。ショウタロウと一緒に行動しているようだ。
申し訳ないが、部屋の中を見せてもらいたい」
「どうぞ」
グラムはそう言って、招き入れた。
結局、いろいろ見て回ったが、ミサキ様やショウタロウ様の痕跡は何もなく、最後にミサキ様の部屋を訪ねた時のことを聞かれる。
「嗅いだことのない匂いで……。
ぐったりしてたミサキ様に毒消しを飲ませました。
心配だったからです。
その後、私も頭がくらくらというかふわふわしてきて、グラムとダートに頼んで、こちらの部屋に連れて来てもらい、毒消しを飲んで寝ていました」
タイチロウ様は頷いた。
「そうか……。
それは客人に煙を当ててしまい申し訳なかった」
もうひとり不機嫌そうに私を見ているのが……。
「ミサキがいなくなったのは、お前が飲ませた薬のせいではないかと、ヤスコが言っている」
誰だ、この人。
私がきょとんとしているとタイチロウ様が言った。
「ソウジロウだ。次男になる」
あー、初めましてだな。
「ミサキに色違いの服を売ったのはわざとではないのか?」
きつい言い方だな。疑われている。
「ミサキ様に私の服が良いと言われたから、自分の服でしたが、お譲りしたのです」
「……あの音が出る腕輪は?」
「休む時に外して……」
私が言いかけるとグラムが「私が預かっています」と言って、自分の部屋から箱を持って来て、開けて見せる。
中に20本の金属の細い腕輪が入っている。
ソウジロウ様は少し忌々し気に、タイチロウ様は納得したように頷いた。
「邪魔をした。
今回の新月の儀式はいつもと同じ各自家族と祈るだけとした。
デューン共和国のみなさんも、そうして過ごして欲しい。
予定が変わり、申し訳ない」
「兄さん!
ショウタロウとミサキだけでできることではないと思う!
絶対にこいつらが何か……!」
「ソウジロウ!
これ以上は何もするな。
兄として言うぞ。
もうデューン共和国のみなさんに失礼なことは言うな!」
タイチロウ様の言葉を最後にシェルター2の人達は出て行った。
次の日の朝、私達は予定通り、出発する準備をしていた。
タイチロウ様が「話したいことがある」と私の所に来た。
「何、この庭で少し話すだけだ」とグラムとダートに言って、ふたりから見えるところに私と座った。
袖から青い物を取り出す。
私が投げ捨てた頭の布と飾りだ。
「これに見覚えは?」
「ミサキ様のものです」
「そうか……。
これに、こんな不思議な毛が付いていてね……」
今度は懐から折りたたんだ紙を出し広げた。
うん、私の髪ですね……。
「不思議な髪だろう……。君はどう思う?」
私は一度目をつぶって考えてから、目を開け答えた。
「ルーモスが遣わした幻のような物かもしれません」
「ルーモス?」
「はい、ドグラとアフラの間に生まれたルーモスのことはご存じですか?
ルーモスはドグラに殺されそうになりますが……、殺されませんでした。
そして、今では世界のどんな所でも、太陽に月に星に、火にも、ルーモスが宿っています」
「それが、外の世界の神話なのか?」
「いろいろな話がありますよ。
それを研究している人がそれぞれの国にいて、時々会って神殿や神話やこれからのことを話し合うんです。タイチロウ様も来てみればいいのに」
「ふふふ、ではこの髪はドグラとルーモスが人の髪の中でも戦っていると?」
「それは新しい説ですね!
うん、それぞれの人々の心の中にドグラもアフラもルーモスもいる。
素敵な新説だわ!」
タイチロウ様は微笑んだ。
「そういうことにしておこうかね。
ルーモスの僕さん。
ソウジロウにはこう言っておいたから安心しなさい。
『もともとはルティが身に付けていた布だから、ルティの髪が付いていても何らおかしいことはない』と」
「……私の髪のことをご存じだったのですか……」
「ああ、かわいい女の子がいるとその子について、徹底的に調べる質でね。
またいつか……。
君はデューン共和国の者ではないだろう。
次は、君の本当の名前と身分で会えることを楽しみにしているよ」
タイチロウ様は立ち上がろうとしたが、急に私の耳元に口を寄せて囁いた。
「ミサキとショウタロウによろしく。
ショウタロウには外からの施設解体を進めるようにお願いしてある」
私はびっくりしてタイチロウ様の顔を見た。
「そういうことだ。
私達は実は同じ目的のために動いていたんだよ。
父は私のことは信用しているようだが、ショウタロウのことは疑っていてね。
父が……、ミサキとショウタロウの動きを疑って、アマンの煙を儀式前から使うとは想定外で……。
助かったよ。ありがとう」
タイチロウ様は微笑んで、立ち上がり去って行った。
ダートとグラムの所に行き、ラクダに乗ろうとした時、ヤスコが「ルティ!」と言いながら走ってきた。
「ヤスコ!」
良かった!
そこまで咎められずに済んだとは聞いていたけど、会えなかったから心配してたんだ。
「ヤスコが無事で良かった!」
「また来てね!
私、あなたがミサキと姉妹のような気がして……。不思議ね。
そうすると私とも従姉妹の縁があるのかも。
ミサキのこと……。
ううん、どう考えても無理よね、違うか……。
でも、私のことも心配してくれてたのね、ありがとう。
さようなら。また、来てね!」
「うん、また、来る」
私達はこうして無事にシェルター2を後にした。
読んで下さりありがとうございます。
第21章のルティ視点に入っています。
とりあえず調査は終わり、無事に外に出られました。
昨夜、Wi-Fi繋がった~!
パソコンで投稿できてます!
今日は仕事で、午後投稿お休みします。
ゆっくりと毎日更新を心掛けていきますので、もう少しだけお付き合いいただけたらと思います。
これからもどうぞよろしくお願いします。




