175 部族間のしきたり
異世界物です。転生や魔法はありません。
第21章ルティ視点に入っています。
予定では最終章になる予定です。
もう少しお付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
不思議な4つ足動物に乗る。
座らせて乗り込むので立ち上がる時にぐわってなってびっくりした。
歩き出してしまえば馬より乗り心地は悪くない、ただ馬よりも上下運動を感じる時があって、独特の揺れがある。
「ルティ、と言うのか、名は?」
グラムに聞かれてはっとする。
まだ名乗ってなかった。
「はい、ルティといいます。
ドーワルト帝国で薬師をしています」
「薬師とはメディ、薬を作り、医師を補助する、で合っているか?」
「はいそうです。
そんな仕事です」
「……昨夜、食べた物ではないかと思う。
ふたり、腹、痛みを訴えていて、こう、手を当てて丸まってる。
汗……、顔色は白い」
うん、胃腸炎かな?
「吐いたり、下痢は?」
身振り手振りも交えて聞いてみる。
顔の前で手を広げる私の身振りをまねて、頷く。
わかってくれたみたいだな。
お腹に手を当て下に動かす。
首を傾げられる。
「うーん、下痢、お腹がゆるい、くだる、えーと……」
私の困惑を見て何か気がついたように頷くグラム。
「下は出ていない。吐き出したと」
「何か夕食に変ったものを入れたのか?」
「残ったスープ。具、少ない。生えていた草を入れたと言っていた」
「草……。どれかわかる?」
テントに着くと、グラムと同じような服装の人がわらわらと7人ほどいた。
誰が誰だかわからんな。これだけ同じ服装だと。
ふたり寝込んでいる。
グラムに聞いてもらうと「これ」と草が示された。
私は笑ってしまった。
グラムが怪訝な顔をしている。
「これは下剤として使う薬草だ。
煎じて使う。これを食べたのか!
葉を吐き出したとしても、スープに成分が出ていたかも。
我慢せず、下から出した方がいいぞ。
出せば、症状は落ち着くだろう」
グラムがふたりと周囲の人に何か説明すると、周囲の人は苦笑いした。
ふたりは周囲の人に助けられて、テントから出て行った。
「すまん、たいしたことなかったな」
グラムが私に謝るように言ってくれた。
それから、ため息をついて話を続ける。
「いや、原因がわかり、よかった。
わからなかったら、この不調を他の者に広げないようにと大事になっていただろう」
私はカバンから、胃薬を取り出した。
「念のため、胃の薬を。
吐き出したのは良かったけど、胃は荒れてそうだから」
青い顔をして戻ってきたふたりに胃薬と水分を取ってもらう。
まもなく、胃の痛みも和らいだようで、顔色が良くなってきた。
「良かった。落ち着いてきたね」
グラムが感謝でいっぱいという表情で私の手を握ってきた。
「ありがとう。ダーシェ、ダーシェ!」
ありがとうはダーシェか、ちょっとダートの名に似てる。
グラムともうひとりがあの動物『ラクダ』で送ってくれるという。
馬よりは遅いけれど、水をあまり飲まないので砂漠の移動で良く使われている動物なのだそう。
ということは馬はいるのか。
ドーワルト帝国とパルシェ村のことを聞かれる。
「ドーワルト帝国と交易をしたいのか?」
頷かれる。
「なら、皇帝陛下に近い者に紹介する。
その代わり、シェルター2に行く時に、私も連れて行ってはもらえないだろうか?」
「……シェルター1と3が解放と言っていたな」
「ああ、そうだ。
2だけがまだ見つけられていない」
「なぜ解放?
教義に背く?」
「あー、1も3もシェルターが古くなり、生きにくくなってた。
教義を信仰しているならいいよ。
でも、もう何年も何年も経っていて、信仰を信じていない人もいるんじゃない。
世界は滅びていないし、さ。
そういう人には自由を選べることを教えてあげたい」
「……教える、上からだな」
私ははっとしたけれど、頷いた。
「上から、偉そう、お節介と思うならそう思ってくれ。
でも、私達には他意はない。
苦しんでいる人がいるなら助けたい。それだけだ。
私といたハルキ。
さっきの子ども。
彼はシェルター2から、3年前逃げてきた。
私がパルシェ村の近くで保護した。
彼の話では、子どもが生きにくい社会のようだった……」
「ああ、設備は古い、ぼ、ぼろい?
あー、珍しい? ものが多い。
それに薬を作る力も高い。
エクスト、化学の力がある。
帝国はそれを解体してしまう?」
「技術力は置いておいて、まずちゃんと生きて欲しいから。
技術より、家族で幸せに、生きて欲しい」
グラムはうんうんと目をつぶって頷いた。
「うん、少しはわかる。
確かに、シェルターの環境は悪く、子どもは幸せそうじゃない、な。
わかった、帝国と話がしてみたい。
ルティを送って行けば話せるか?」
「はい、大丈夫です。
私を送ってくれれば、帝国もあなた方を信用してくれるでしょう」
ラクダに乗り込んだグラムはランプのようなものを持っている。
「ルティも持ってくれ」
グラムの後ろに乗り込むとグラムにそう言われ、近くの人に手渡される。
「ダーシェ」
そう言いながら受け取るとにこっとされた。
グラムがちょっとこっちを見た。
「ありがとう、ダーシェ、覚えたのか?」
「ああ、夫の、と言ってもまだ婚約中でこれから夫になる人の名前がダートなんだ。
似ているから、すぐ覚えられた」
「これから? まだ結婚していない?
婚約ということは約束はしているということか」
「そう」
ラクダが立ち上がる、すごい前後の揺れだ。
こわっ。
ラクダの馬とは違う揺れがゆっくりで。
何だか、眠くなる。
「ルティ、眠い?」
グラムに言われてあくびが出た。
「ふあぁーっ。ごめん、朝から動きっぱなしで、ちょっと疲れてる」
グラムがラクダの首の根元のカバンから幅があり平たい布の紐を取り出し「私と結べ」と言ってくる。
「へ?」
「寝ても落ちない」
うーん、まあ移動中だから、どうもこうもできないか。
紐を受け取ると私とグラムの腰や背中周りをぐるぐるさせて結んだ。
緩くしたら、揺れるたびにグラムにぶつかり……。
「もっときつく」
言われて少し解いてやり直す、グラムの背中にくっついてぎゅっと結んだ。
ランプは私のカバンにぶら下げても大丈夫ということで、そこへぶら下げた。
歩く時、腰にぶら下げたりもするそう。
ランプの周囲は熱くならないように工夫がしてあるとか……。
グラムの背中が温かい……。余計眠くなりそう……。
「近くなったら起こす」
「お願いします」
私はグラムの背に身体を預けてうとうとしだした。
「見えて来たぞ、あれだろう?」
グラムの声とグラムが身体をわざと揺する感覚で、目が覚めた。
「あ、うん、焚火を焚いておいてくれるって……」
火のついた薪を振っている人がいる。
ん、ダートか?
「おーい!」
叫んでから、あ、紐早く取らないと! と慌てて外した。
近づくと確かにダートやゲンジでほっとした。
みんな初めて見るラクダにびっくりしている。
馬と同じ所に案内すると、ラクダがぐびぐび水を飲み始めたのでびっくりする。
「あれ、水あまり飲まないって」
グラムが何だそんなことかという感じで言った。
「あまり飲まなくても平気なのだが、あれば普通に飲む」
へー。
皇帝陛下とダート、アドニスとヨシュアとゲンジが焚火のそばに座り、グラムとナサニエル(もうひとりついてきた人)と向き合った。
「デューン共和国の首長の息子グラムと申します。
こちらはナサニエル。外交を担当する文官。
ドーワルト帝国と国交を結び、交易したいと思います。
ドーワルト帝国の皇帝……」
私は助けようと口を出した。
「皇帝陛下」
グラムは頷いて言い直す。
「皇帝陛下に、上奏をお願いしたい」
ダートが口を開いた。
「ルティを、俺の婚約者を無事に送り届けてくれてありがとう。
俺はドーワルト帝国第3皇子ダシュケントだ」
「……ダート?」
グラムが怪訝そうな顔で私を見る。
「はい、ダート、彼が私の婚約者です」
「第3皇子? 皇帝陛下に近い?」
私は頷く。
「デューン共和国とはここからどれくらいの場所にあるのか?」
ダートの問いにグラムが答える。
「ここからラクダで約20日間。
デューンという部族で構成される、共和国。
いくつかそのような部族ごとの共和国がそこにはあり、連携し、協力、している」
へー、小国群のもうちょっと仲良い版みたいな感じかな?
「部族間の同盟のしきたりとして……、そこのルティを私の妻として譲り受けたい」
読んで下さりありがとうございます。
第21章のルティ視点が始まりました。
ラスト第21章で話が完結できると思います……。
ゆっくりと毎日更新を心掛けていきますので、もう少しだけお付き合いいただけたらと思います。
これからもどうぞよろしくお願いします。




