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逃げる元王女とそれを追う第3皇子の物語  作者: 月迎 百
第19章 ルクレティア ~シェルターからの解放~ (ルティ視点)
168/188

168 過去とのさよなら

異世界物です。転生や魔法はありません。

第19章ルティ視点に入っています。

さて、南部の砂漠を舞台にシェルター解放に向けた話が続きます。

これからもお付き合いいただけたらうれしいです。

どうぞよろしくお願いします。

 宿までゲンジが送ってくれた。

 宿の受け入れ人数、他の宿なども調べるように言っておいてくれるそう。


「明日、ハルキとクリシュナ、長老も行くかな?

 迎えに来るから」

「うん、よろしく頼みます」

「……大丈夫か?」

「何が?」

「いや、そのアルジュナは……」

 ダートをちらりと見るゲンジ。


「ああ、そうだね。

 アルジュナは私のこと。

 だから、守って……、うん、でも、なんか違う気もするし……。

 前にハルキに言われたんだ。

 アルジュナは……、ゲンジを私から遠ざけようとしていたんじゃないかって。

 まあ、アルジュナの思いに答えることはできなかったけど、いい人で片づけられないものはあるだろうね」

「そうだな。

 確かに……。

 あの時は、アルジュナが俺を泊まりの仕事に出すことも多くなってたし……。

 は、だから、あの家に来たくない?!」

「……うー、そうだな。

 ゲンジがいない時、アルジュナ押しかけてくることあって。

 泊めたことはないけど……」

「えっ?

 アルジュナはラクシュが女だとわかって泊まるとか言ってたのか?!」

 苦笑いして頷く。


「それは……、確信犯だな。

 何だそんな奴だったのか?! アルジュナ!」

「……そうなんだよな。

 私とゲンジとシュナに言ってたことも微妙に違うみたいだったし……。

 まあ、もう死んでしまったから、悪くは言いたくないし」

 頷くゲンジ。

「ラクシュを守ってくれたことには変わりはないからな」

「あ、私、今はルティと呼ばれてる。

 どちらでもいいけど……」

「そうか、ルティ……、うん、そう呼ぶことにするよ」


 ゲンジが手を振りながら戻って行った。


 宿の方の部屋をアドニスが取ってくれていて、全員ひとり部屋を取ってくれてた。


「ルティ、手紙を書く。文面考えるの手伝ってくれ」

 ダートに言われて頷く。

 自分の部屋に荷物を入れてからダートの部屋を訪ねた。


 ふたりでローエン公爵に今の状況と、この後パルシェ村での待機をお願いしたいが、騎士団の人数が多いので、この手紙を持参したパルシェ村の買い出し隊に道案内を頼んで一緒に来て欲しいこと。

 騎士団のことも考え、多めに補充する予定なので、もしできたら輸送を手伝って欲しいこと、そして、気にせず村の宿や店も利用して欲しいことを下書きとして考えた。


「こんなんでわかるかな?」

 私が言うと、ダートが頷く。

「まあ細かいことに気がつく人だから大丈夫だろ?」

 ペンを手に取ると、下書きを確認しながら、便箋に書きあげていく。


 出来上がり、ローエン公爵の名を記した封筒に入れた。

 後ろにダートがサインを入れる。


「出来上がり」

「んじゃ、私は戻るね」

 立ち上がると右腕をつかまれた。


 目が細められてる?!

 何か考えてるな?!

 なんだ?


「さっきの、アルジュナのことって、俺聞いてないんだけど」

「えっ?

 シュナの時に話したよね。

 私に結婚申し込んでて、とかさ」

「ゲンジが不在の夜に押しかけて来てたって、どういうことだよ。

 なんで入れるわけ?」

「だって、私は対外的に男だったわけで、男友達が男友達を訪ねてきてご飯食べるくらい普通だろ?

 そこで追い返したりしてたら、変じゃん?!」

「でも、相手がそういう気持ちなのは知ってたわけで……。

 何かされてないよな?」


 つい斜め下を見てしまう。

「それは……、何かあったな?!」

「何もないよ!

 その、……抱きしめられそうになったりとかはあったけど、俺の方が強いから、うまくかわしてたし!!」

「本当に?」

「本当!!

 俺がやられるわけないだろ?!」

「……ラクシュじゃなくて、ルティとしては?」

 目を覗き込まれる。

 動揺してしまった。

「……なんか、隠してない?」

「いや、本当に何にもない!

 ただ、何度も好きだ、ずっと待つと言われ続けて、気にはなったことはある……。

 本当に強引にしてこなかったし。

 強引にされれば、ぶっ叩くなり、村を出るなりすればよかったんだけど……。

 本当に……してこなかった」

「……そうなんだ」

「うん」

「わかったから、その眉間に皺寄せるのやめろ」

「えっ?」

 私は眉間に両手をやった。


 両手首をつかまれて強引にキスされた。

「こんなことされなかった?」

「くどい! されてない!!」

 いい加減、怒るぞ。


「うん、本当みたいだな……」

「うん、本当」

 そのまま腕を引き付けられるように抱きしめられた。


「アルジュナもゲンジも仲間というか友達というか……、ゲンジは兄弟みたいな感じもあるかな。

 ダートだけだよ」

「……死者に嫉妬なんかして……、俺はどうしようもないな」

「嫉妬……」


 シュナは私の心に誰かがいると知って、その嫉妬で私を殺そうとした。

「ダートは私を殺す?」

「殺さないよっ!」

 びっくりした声で肩を掴んで少し身体を離し、私をまじまじと見つめるダート。

「なら良かった」

「……いや、相手の男なら殺したくなるかも……」

 不穏な言葉。

 一瞬、レッドのことが思い出された。

 本当に隠し通すというか、もう忘れなきゃっ!!



 次の日の朝、朝食を食べ終えて荷物をまとめているとダートが呼びに来た。

「ゲンジ達が来てる」


 長老もハルキもクリシュナも来てた。

 みんなで墓地に行く。

 アルジュナの墓があった。

 ハルキが花を用意してくれてて、それを供えた。


 アルジュナ……、あの時は助けてくれてありがとう。

 アルジュナとアルミリアには感謝しても感謝しきれない。

 

 私はあなたの思いに応えることはできなかった。

 あなたが何か策を弄していたのかもしれないけれど、それはもう今となっては責めるべくもない。

 ただ、ありがとう、さようならと伝えるしかできない。

 これももう伝わらないし、私の中で区切りをつけただけなのかもしれないけれど。


「ありがとう。さようなら……」


 声に出して言うと、震えた。



 墓参り後、村の役場に行った。

 ガープやカイルや懐かしい面々と挨拶する。

 彼らは私を見ると目を見張り「本当にラクシュだ……」「本当に女性だったんだな」「まあ、きれいな顔してたもんな」と口々に本心を駄々洩れさせて……。

 なんかそういう素直なところに私は笑ってしまう。


「執務室はそのまま?」

 ゲンジに聞くと頷かれる。


 そっか、そうだよな。

 そのまま使うよな、普通は。


 今回はアーレス村に行くのは、ある程度場所が絞り込まれているシェルター探しなので、ゲンジとハルキだけ、同行してくれるそう。


「ケイティさんは来てないの?」

 ゲンジがちらっと視線を動かし、そこに女性の姿があった。

「ケイティさん?」


 ゲンジが頷き、呼び寄せる素振りをする。

 

 かわいらしい小柄な女性がこちらに来た。

「ケイティさん、ご結婚おめでとうございます」

「……ラクシュさん、ありがとうございます」

 

 私はダートを振り返って腕を取り言った。

「私のことはルティと呼んで下さい。

 私の婚約者です。

 ダートといいます。

 ゲンジは私の弟のような、兄のような、家族のような存在でした。

 今は友人です。

 少し力を借りたいことがありますが、それが終われば南部を去る予定ですので、その間だけでもよろしくお願いします」

「はい……。

 私はゲンジの妻です!

 こちらこそ、どうぞよろしくお願いします」


 ふふっ、本当にゲンジのことが好きというか愛してるんだな。

『妻です』と主張するいじらしさというか……。

 

 私はゲンジにとって、もう他人で友人だ。

 あの時のラクシュはいない。


 今の私は、ダートの婚約者のルティだ。

読んで下さりありがとうございます。

ルティ視点、ここで19章は終わりにして、少し他視点を挟んでから最後に行きたいと思います。

思ったより早く帰って来れたので、午後投稿しました。

明日の朝から20章が始まります。

ゆっくりと毎日更新を心掛けていきますので、もう少しだけお付き合いいただけたらと思います。

これからもどうぞよろしくお願いします。

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