15 私を信じてくれない
異世界物です。
ルクレティアという小国の王女が巻き込まれていく運命を書いてみたいなと思っています。
第1章で4年後の世界を書いたので、第2章でスーリア王国王女のルクレティアがなぜ男装しているラクシュマナになったのかを書けたらいいなと思っています。
今回の話は性的な問題に触れています。
苦手な方はご注意下さい。
どうぞよろしくお願いします。
リュートの部屋を出た直後、アニエスに会った。
「第2皇子の部屋に?」
険しい顔で言われ、思わずユーリを振り返る。
「話があると言われて、ユーリもずっと一緒だったよ!」
何にもなかったと伝えたいけど……。
うん、これなら伝わるよね。
ユーリも頷いてくれる。
アニエスが左手指を口にやり爪を噛んだ。
あれ、そんな癖あったっけ?
なんだか、私の知っている、いい意味でおっとりしたアニエスとは違うような……。
「アニエス、爪……」
私はアニエスの左手を取った。
人差し指と中指の爪がギザギザで深爪のようになっている。
「痛いでしょ。
包帯巻いておく?」
手を振り払われる。
「誰のせいでっ!」
ユーリが私を守ろうと前に出て、私を抱きしめる。
「なんで、ルティがいつも守られて、いい目が巡ってくるのよ!」
いい目?
私は思わずアニエスを見た。
アニエスは私から目を逸らして、戻って行ってしまった。
「アニエス様付きのリーナが話してましたが……。
アーサー様のことで、かなり気持ちが不安定になられているようです。
先ほど、第2皇子様の話にもありましたよね。
今ではアーサー様がすべての元凶のように言われていると。
姫様の様にアーサー様を信じたい気持ちと、周囲の言葉から自分を守られるために自分も騙されていたのだと……、もがいているようだと」
そうか……。
アーサーを愛してると言っていたもんな……。
そういえば……、戦の前夜にアーサーを慰めたと言っていたけれど……。
慰めるとは?
もしかして……。
心も身体も……、大丈夫なんだろうか……。
自分の部屋に戻るとユーリが「少し城内の様子を見てきます」と言って、部屋を出ていった。
そうだ、アーサーが悪く言われてるのなら、アニエスも何か言われているのかもしれない……。
私は沈んだ気持ちで窓から庭を見た。
城内からの景色はもうすっかり依然と変わりがない。
戦いは前の方の城壁が一番激しく、外から城を見ると少し壁が焦げたようになっていたり欠けていたりという所があるのだけれど。
私が戦って血まみれになっていたのも城壁の上の通路だし……。
また、思い出しそうになり、胸の上からダートのメダルを押さえて肌で硬さを感じる。
少し冷静になれた。
その時、ドアがノックされた。
少し荒々しかったので、誰だろうと思って振り返ると同時にダートが部屋に入ってきた。
ダート?
荒々しいノックと結びつかなくて驚く。
「ちょっと聞きたいことがある」
近づいてくると手を掴まれて、引っ張られる。
「何?」
「来て!」
ユーリに伝言を残したかったけれど、それすらできずに廊下に連れ出され、どんどん歩いて行く。
さっきのリュートの部屋の近くまで行くと、そのひとつの部屋に連れ込まれる。
ダートが部屋に鍵を掛けるのを呆然と見ているしかできなかった。
「……何?」
ダートから怒りの気配がした。
歩いている時からそれは感じていたけれど、ずっと抑えていたようだ。
「今日、リュートから何を聞いた?」
「何って、これからのスーリアのことやレイクールとバルカニアには話をしてくれたこと、あ、スーリアをこの地域の拠点にしようかとかそんなこと」
「アーサーのことも話した?」
「聞かれたから、話した」
「なんて?」
「レイクールが言うように、すべてアーサーがしたこととは思えない……って」
「それは、つまり?」
「アーサーの戦の前夜の行動とか、そういうことを考えると、もし、本当に私達を裏切っていたなら、違う行動を取っていたのではと思うことがあって……」
ダートの目から怒りを感じる。
どういうことだろう?
何を怒っている?
「戦の前夜……」
そう呟きながら、ダートが私を捕まえるように抱きしめてきた。
「なっ?」
私は振り払おうともがいた。
でも、引きずられてベッドに押し倒される。
しがみつくように押さえこまれて動けない。
「アーサーに抱かれたのか?!」
は?
「何?
なんのこと?
私は断った」
「断ったとは?」
「……一緒に逃げてくれと言われたから、断った。
そんなことできないと」
「一緒に行くことができない代わりに、身体を差し出したと?」
「!! 違う!
そんなことしてない!」
なんだ?
話がおかしい。
悪意を持って、話が捻じ曲げられている。
「愛していると言われたんだろ。
アーサーに、姉ではなくてお前を愛していると!」
ダートの怒りが私を通してアーサーに向けられているのがわかった。
「なら、俺だって。
ルティを愛してもいいはずだ」
えっ?
アーサーがしたなら、俺もって理論?!
いやいや、私、してないしというか、させてないし!
「アーサーには好きだと言われたけど、そういうことはしてないっ!
ダート、信じて!」
私は必死に訴えるが、ダートは信じてくれない。
私をさらに押さえこんでくる。
「嫌だ! 放して!」
ダートのことは好きだけど、こんなのはおかしい。
怒りにかられたダートに……、こんな形で抱かれたくはない。
「嫌だ! やめて!
なんで私の言葉は信じてくれない?!」
「……なら、俺の物になれば、お前の母と姉はここにいられるように取り計らってやる。
お前の、ルティの希望通りに……」
ずるい……。
そんな条件を出されたら……。
私がダートに抱いていた好意や恋のような感情はすべて、私の希望を叶えてもらうための対価として、全て脆くも崩れ去って、消え去って、なかったことにされるんだ。
私は絶望して身体から力が抜けた。
それを肯定と受け取ったらしいダートにされるがままになった。
◇ ◇ ◇
「姫様っ!」
ユーリの泣き声で気がついた。
部屋……。
どこだこの部屋。
あ、ダートの……。
ベッドの上で私は気を失ったんだか、寝てたんだか……。
身体にかかる布団の下はスースーする。
何も身につけていないようだ。
慌てて首に手をやると、ダートのメダルは身につけているようだ。
私はメダルのペンダントを首から外すと「返しておいて」とユーリに渡した。
下半身がどんより痛い。
布団を引っ張り上げながら半身を起こすと、部屋にダートとリュートもいるのに気が付き、悲鳴を上げて布団を身体に引き付けるようにベッドの端っこまで逃げた。
露わになったベッドのシーツに血痕があり、それを見て悲しくなると同時にバカらしい気持ちになる。
ダートは私の言葉を信じてくれなかったけど、こんなものが証拠になるなんて……。
終わってしまった後にそうじゃない証拠があっても、もう元には戻れない。
ユーリが泣きながら私を布団ごと抱きしめる。
「痛かったですね! 苦しかったですね!」
冷めた気持ちでいたのに、ユーリのその言葉にじわっと涙が浮かんだ。
目がひりひりする。
指で擦ろうとして、ユーリに止められた。
「もう赤く腫れてます。
触らないように。
おふたりとも出て行って下さい!!」
ユーリの言葉にダートとリュートが気圧されたようにのろのろ出て行く。
ユーリはてきぱきと服と下着を探してきてくれて、着るのを手伝ってくれた。
「歩けますよね。
嫌ですよ、あの人達の手を借りるなんて!!」
ユーリが怒っている。
私は頷いて立ち上がった。
「ユーリ、メダルは?」
「そこに置いてあります!」
ユーリの視線を追うと部屋にあるテーブルの上にメダルが置かれていた。
「ありがとう。
ちゃんと返したと言わなきゃ……」
「姫様は何も言わなくていいです!
言ってやりますから!」
ユーリが私を支えるようにしてくれて立ち上がる。
うん、大丈夫。
ゆっくりなら歩ける。
私はユーリに微笑んだけど、弱々しくしか笑えてない気がする。
ドアを開けたユーリが叫んでいる。
「借りてたメダルはテーブルの上にありますからっ!
失礼しますっ!」
私はダートともリュートとも目を合わせず、下を向いていた。
もう対価は払ったのだ。
もう関わることはない。
「ルティ!」
ダートの声が聞こえたけれど……。
私は歩みを止めずに自分の部屋へと向かった。
自分の部屋ともいえるのだろうか?
ここはもう、私の国ではない。
でも、守らなくてはならない。
歩きながらまた涙が出そうになり、下唇を噛んだ。
読んで下さりありがとうございます。
これからもどうぞよろしくお願いします。




