14 第3皇子のこと
異世界物です。
ルクレティアという小国の王女が巻き込まれていく運命を書いてみたいなと思っています。
第1章で4年後の世界を書いたので、第2章でスーリア王国王女のルクレティアがなぜ男装しているラクシュマナになったのかを書けたらいいなと思っています。
お付き合いいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。
父の埋葬も無事に済ませることができ、後はスーリア王国をどうしていくかだけど……。
レイクール領と新バルカニア王国に騙されてたというか利用されて帝国にぶつけられていたということがわかってきて、第2皇子も第3皇子も同情的というか……。
どうやら、王国としては残してもらえそうで、それは頑張った甲斐があったのか?!
でも、国の名前が残ったとしても、それはそれで……。
王家以外にはどうでもいい話じゃないか?
なんだか、そういうことを考えるとよくわからなくなってくる……。
もうこれからのことは母とアニエスとバハ大臣に任せて、私は人質になりに帝国に行けばいい。
それまで、できることをするだけだ。
薬草を摘みに行き、薬を作り、負傷者の手当てをする。
レイクール領と新バルカニア王国はお互いにあっちから話を持ちかけられたといい、レイクール領はさらにアーサーに全部の責任を負わせる発言をしている。
アーサーの行方はわからない。
もうこの地方から出てしまったのではないだろうか。
スーリア王国内でも戦になったのはアーサーのせいで……ということが広がり始め、その怒りが復興を駆り立てているようだ。
アーサーのことを思い出すと、そこまで考えていなかったような気がするけど……。
オルトはだいぶ足の状態も落ち着き、少しなら動き回れるようになった。
マーサと私と薬草を庭で摘んだりならできるので、外で動く練習も兼ねて一緒に城の庭を歩くようにする。
父親が戻って来たら、湖の方の家に帰る予定。
足の動きが少々悪くても、船なら仕事もできそうだしね。
マーサも薬作りをすっかり覚えて、薬草採取や薬作りの仕事ができそうだと喜んでいた。
第3皇子はとても忙しいらしく、時々、夜に話をしに部屋に来たり、するくらい。
次、来れる時までと、あのメダルを私に預けるようになった。
そんなに気にしないでいいのに。
大切なものだから、私も服の下に大切に身につけている。
そのおかげか、怖い夢は見ないで済んでいる。
日中、城の中では見かけたり、すれ違うこともあるが特に話しかけたりはしていない。
バハ大臣も一緒にいるのをよく見かけた。
バハ大臣はそんな時、私に声をかけたそうなそぶりを見せるけれど、私の方がすぐにその場から去るようにしていた。
そんな時、第2皇子のリュートから急にお茶に誘われた。
リュートの私室で……、行ってもいいのか?! と思ったけれど、招待されたわけだし、ユーリと行けば大丈夫か……と思い直した。
伺うと「全然話ができなかったから」と謝られた。
「いえいえ、私はただこの国の第2王女というだけですから。
大切な話はバハ大臣や母と姉としていただけたら」
リュートは目を細めた。
「私からしてみると、大変な事はルティとバハ大臣に押しつけ、事が無事に済んだ後、我が物顔で出てくる輩に見えるがね」
「しょうがないですよ。
母も姉も剣術や戦術とは縁がありませんでしたし、王妃と王女なら……、それが普通でしょ」
「ルティは普通じゃないんだな」
「……ええ、きっとそうなんでしょう」
私は微笑んだ。
「バハ大臣から、だいたいのことは聞いた。
ルティと王妃の確執というか、君の生い立ちというか……」
確執……。
うーん、その言葉だとなんだかやりあってる感がありますが……。
私は母は苦手だけど、やり返したりはしませんよ?!
「今回のスーリア王国のことで、他の小国がかなり震え上がってね。
属国になるとほとんどの国から返事が来たよ」
「……そうですか。
それは……、おめでとうございます……」
「……まあ、ありがとう。
戦をせずに従わせられるならそれに越したことはないからね」
「はい、その通りですね」
「で、レイクール領と新バルカニア王国にはきつく釘を刺してある。
他の国を利用しようとしたり機に乗じて不穏な動きをすることを帝国は許さないと。
もう手出しはしてこないだろう。
それで、この王国を小国群統治の中心にしようと考えている」
「スーリアを?」
「ああ、で、王女のうちひとりをここの統治者と結婚させることにし、ひとりを帝国で人質として預けてもらうことになる」
「はい、人質には私が行きます」
「まあ、待て。
バハ大臣や他の臣下とも話をしたが、彼らは……ルティに残って欲しいと話している」
私は無理に笑った。
「私は……、ここを、王妃とは離れた方がいいです。
なので私が人質になるのは、どちらにとってもいいことだと思います」
「うん、見ているとそうかもな。
でも、王のいない王妃をこの城に置いておくことはできない。
いずれ、修道院にでも移っていただこうかと考えている」
うーん、どうなんだろう。
母が納得するとは思えないけど……。
「王妃が納得しないだろう……という顔だな」
「はい、やはり、私が人質で、母とアニエスが一緒にいる方が揉めないと思います」
「実の母でも……、そんなにダメか?」
「はい、無理だと思います」
「君は……聞かないんだな。
ここの統治者が誰になるかを」
私は笑った。
「誰でもいいですよ。
私には関係ないんですから。
まあ、姉にやさしい方だといいですけどね」
「まあ、私かダートだ。
他の弟達はまだ幼いからな」
「……そうですか」
「少し動揺したか?!」
うっ、そりゃ、少しはね。
「はい、少しは」
正直に答えた。
「ルティはアーサーのことをどう思っている?」
戦の前夜のアーサーのことを思いだす。
やはり無理やりでも、私か姉を連れて行くことはできたのに……、しなかったアーサー。
やろうと思えば父を戦場で害することもできたのにそれもせずに姿を消した。
「レイクールが言うように、全てを計画し実行したのがアーサーだとは……、今でも思えません」
私はやはり正直に答える。
「そうか、正直でいいね。
アニエスと話をしているんだが、彼女の話は聞くたびに変容してきていてね。
今では彼女の中ではアーサーはすっかり悪者だよ」
そうなんだ。
でも、それは嘘じゃなくて、たぶんアニエスがいろいろ知ったことによる『真実』なんだろう。
「それはアニエスが変容しているのではなく……。
周囲が変容したことにより、彼女の認識している事実が変容してきているんだと思います」
リュートが微笑んだ。
「彼女に罪はないと」
「ありません」
私も微笑んだ。
「そうか、まあ、こちらだけが君のことを知ったのはフェアじゃないと思うので、ダートのことも伝えておくよ」
ダートのこと?
フェアじゃない?
私のきょとん顔を見て、リュートが吹き出す。
「本当にルティは面白いな。
えーと、私の母が正妃で、ダートの母が皇宮の女官上がりの妃ではない寵姫という扱いだったことは知ってるか?」
「細かいことまでは……。
第2皇子と第3皇子が同い年で、母親が正妃と女官で違うとは聞きましたが」
「……同時期に私達を身籠った母達だが、産気づくのも同時でね。
私を第2皇子とするために、ダートの母親にはかなり無理を強いたようだ。
産気づいているのに出産させないというのは……。
そのせいで、ダートの母は……、出産後歩けなくなり、ダートが3歳……、4歳の誕生会の時にはもうダートがそばにいたから……、そうだな、3歳を過ぎてから亡くなったわけだ。
乳母は付けられたようだが、正妃を気にして、長くダートの養育に関わった者はいなかったようだ。
そして、母を亡くし、皇帝、つまり父の命で私と一緒に正妃に育てられることになった。
私を立てるように、私を守るように、彼は周囲から強いられ育てられたということだ」
そうか、だから……。
「ダートはそんな境遇のせいか、人にあまり興味を持たないし、喜怒哀楽を出せないというか出さないというか……。
そんな奴が何故か興味を持って、関わろうとしたのがルティ、君だよ。
なんでかな? と思っていたんだ。
最初の出会いは強烈だったしね」
そこでリュートは笑った。
「戦場で血まみれで剣を振るう王女だもんな。
遠目から見た時、鬼姫という名がなんてぴったりなんだ! と思った。
でも、停戦になり、私達の前に跪いた必死な表情の君の目を見て……、ダートに似ているなと瞬間的に思った。
自分のためじゃなく、人のために動いている者の目だ。
ダートも何か感じ取ったのだろう。
君を守るために私を守る盾をぶん投げるという、今までのダートでは考えられない行動を起こしたからね」
やっぱり、あそこであの盾を使って私を助けたのは、してはいけないことだったんだ。
私が唇を引き結んだのを見てリュートが話を続ける。
「大丈夫。罰したりはしていないよ。
ダートは君に急速に惹かれている。
それは嫌じゃない?」
嫌とは?
私が首を傾げたのでリュートが言い直した。
「ダートがぐいぐい来るのはルティは迷惑じゃない?」
「迷惑ではないです!」
即答してから、あ、これ、何か変なこと言った?! と思い、真っ赤になってしまった。
「あ、両思いなんだな……。
そっか、でも、たとえ相手がダートでも、この国に残るつもりはないと……」
「はい」
私は頷いた。
読んで下さりありがとうございます。
これからもどうぞよろしくお願いします。




