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逃げる元王女とそれを追う第3皇子の物語  作者: 月迎 百
第2章 ルクレティア ~スーリア王国の滅亡~ (ルティ視点)
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13 母の言葉

異世界物です。

ルクレティアという小国の王女が巻き込まれていく運命を書いてみたいなと思っています。

第1章で4年後の世界を書いたので、第2章でスーリア王国王女のルクレティアがなぜ男装しているラクシュマナになったのかを書けたらいいなと思っています。

お付き合いいただけたらうれしいです。

どうぞよろしくお願いします。

 私は寝てしまったようだ。

 夢の中で父がいて、母がいて、姉がいて……。

 あれ、アニエスがすごく小さい。

 

 私がいない時だ。

 3人とも楽しそうに城の中庭で過ごしていた。


 ああ、母もあんな顔をして、娘を抱きしめている母親だったんだな。


 アニエスの年齢的に私は……、母のお腹の中か?


 ああ、私が難産で女だったから……。


 この幸せが途絶えたんだ。


 本当に?

 私のせいなのか?


 違うという気持ちと、やっぱりという気持ちと……。


 世界が一変した。


 ここは、城の城壁の上。


 いやだ……。


 私の手には剣が握られていて、反射的に手を離そうとするが、指が剣が貼り付いたように動かない。

 べっとりとまとわりつくように血で覆われていて……。


 足元に大男の傭兵が仰向けに倒れていて、目を開けている。

 目を瞑らせたはずなのに!


 私は後退あとずさった。

 踵が何かに躓いて、それを避けようと斜め後ろに座りこむようにしゃがみこんだ。


 父が倒れている。

 

 父が目を開けて半身を起こし前を指差す。

 私が顔を上げてその方向を見ると、第3皇子と第2皇子が剣と盾を持ってこちらに歩いてくる。

 兜で顔が見えないので、ふたりの表情が見えない。


 敵として対峙しているのか?!

 恐怖が身体を支配し、動けない。

 声すら出せない。


 私は声にならない悲鳴を上げた。


 

 身体を揺すぶられる感覚。

「姫様!! 姫様!!」

 ユーリの声が聞こえる。


 明かりとユーリの声が近づいてきた。

 

 うん、あれ?

 ユーリが近づいてくる灯りなら、この身体を掴んでいるのは誰だ?


 ユーリとともに近づいてきた灯りでダートの顔が見えてびっくりする。


「大丈夫か?

 悪い夢を見たんだろう……」


 半身を起こした私の頭を胸に抱きしめてくれる。

 

 えっと、あれ、寝るまでじゃ?


 かなり動揺している私を見てユーリが吹き出した。

 でも、そんなユーリの笑っている顔に、私は癒された。


 あの後、手を握ったまま寝てしまった私を置いていけないとダートが言い出して、ユーリとダートが部屋で番をするみたいにいたんだそう。


 ダートはベッドのそばにカウチを持って来させてそこに横になり、ユーリはそれを見張るように少し離れた所に灯りを灯し、毛布にくるまっていたそう。


 ユーリ、そんな苦行を……、ごめんよ。


「どんな夢を見た?

 話したら気持ちが落ち着くかも」

 ダートが私の頭を解放してから言った。


「夢だから、とりとめない……」

「断片的でいいから話せ。

 抱え込むな」

「……なんで、そんなに優しくするの?

 私は、小国群の中のほんの小さな国の王女に過ぎない。

 もう帝国に従うと表明している。

 もう用はないはずだ。

 これからも進軍は続くのだろう……。

 私などに関わっている場合では……」


 ベッドに寝かせられて、手を握られる。

「それはこの先の話だろう。

 今は今。

 夢見たことを話せ」


 私は大きく深呼吸してから、夢の話をした。

 途中から涙が出て、泣きながら話をした。


 そして、また寝てしまった。




   ◇ ◇ ◇




 湖の方に薬草取りに来ている。



 次に目覚めたら、もう部屋は朝の光で明るくなっていて、ダートはいなかった。


 ユーリに聞いたら、私が寝たのを確認して、ダートは引き揚げたそう。


 おかげで空いたカウチでユーリが寝ることができたそうで、それはまあ、良かった。


「ユーリ、ごめんね。

 寝不足じゃない?」

「大丈夫ですよ。

 一度跳ね起きましたが、第3皇子様が姫様を落ち着かせてくれましたから……。

 その後は姫様もよく寝ていらっしゃいましたよ。

 それのおかげですかね」

 ユーリが微笑んだ。

 

 それ?


 右手首に何か巻き付いている。

 ペンダントみたいな?


 きれいな黒い半透明な石が嵌めこまれている小さなメダルのようなものが付いている。


「悪い夢を見ないおまじないだと仰っていましたよ」


 ダートのものか。

 後で返さないと。


「姫様こそ、起きられますか?」

「うん、大丈夫。

 迷惑かけてごめんね」

「そんなこと!!

 姫様の助けになれたら、それがうれしいんですから……。

 気にしないで下さい」


 ユーリが仕度を手伝ってくれ、朝食も取りに行ってくれた。

 

「薬草取りでしたね」

 私は頷く。


 うん、少し寝不足感はあったが、動き出したらそんなに気にならなくなった。

 ユーリも休ませてあげたいし、今日は早く寝よう。


 ユーリがマーサを呼びに行ってくれた。

 入れ違いの様にダートが部屋にやってくる。


「昨夜はありがとうございました。

 これ、お守り、貸していただいてありがとうございます」

 メダルのペンダントを返す。


 ダートは受け取って、自分の首にかけ、服の中にしまった。

 

 っと、いつも、肌に直につけてるものだったのか……。

 ちょっとドキッとしてしまい、顔が赤くなりそうで後ろを向いて、薬草を入れる袋を探すふりをした。


 気持ちと顔の火照りが治まったなと感じた時、ダートの方を向いて「寝不足ではありませんか?」と聞けた。


「ああ、大丈夫だ。

 これぐらい、寝不足のうちに入らない」


 ダートが部屋の前の帝国兵に「一緒に来い」と命じて、5人で湖の方へ歩いて出る。


 城の外にたくさんの野営のテントが立っているのを見て、ああ、帝国軍はここにいたのかと思い、その量に圧倒された。

 墓も作られていたようで、木で作られた墓標が並んでいる区画があった。


 私が手に掛けた者も葬られているのだろう……。

 背中が冷えたような気がした。

 お参りした方がいいのだろうか?


 私が戸惑ったようにそちらを見ていたからだろう、ダートが私の視線を遮るように間に立ち、手を引いて、歩き出す。


 湖の方へ向かうとそこはいつもの様子と変わらず、静かな森だった。


 ヴェーダ草を見つけて、根も採取するように掘り出すことを教える。


 昨日採取した薬草もあり、それも採っていく。


 ヴェーダ草の群生している場所を見つけた。

 全部取らないように気をつけて採取する。

「マーサ、この場所なんとなくでいいから覚えておいてね」

 私がそう言うとマーサが不思議そうな顔をする。

「姫様?」


「私はこの国を出るかもしれないし……」

「それは人質ということですか?

 それなら……、姫様がということではないでしょう。

 アニエス様も王妃様だっている」


 うん?

 マーサ達の間ではどんな風に話が伝わっているのだろう?


 2時間ほどだろうか。

 森の中を移動しながら、かなり集めることができた。


 帰り道、私は花を摘んで歩いた。

「それも薬草なのか?」

 ダートが聞いてきたが首を振る。


「父にスーリアの湖の森の花を手向けたいと思って。

 少しだけ」


 帰り道、ダートが意識的にさっきとは違う道を選んで通っているのに気が付いたが、何も言わなかった。


 薬草とマーサをカール先生の部屋に送り届け、私は部屋に戻った。

 ダートも用事があると戻って行った。

 なんかほっとしている気持ちとちょっと寂しいと思う気持ちと……。

 

 なんだ、これは?


 ユーリと早めの昼食を食べた。

 部屋の番をしてくれている兵にも飲み物を渡してくるようにユーリに頼んだ。


 それから、黒のドレスはないので、灰色の地味めなドレスを着て、摘んできた花にも白いリボンをかけた。


 バハ大臣が来てくれて、廟の前に行くと、第2皇子と第3皇子が母とアニエスと一緒にいた。


 私は4人に礼をした。

「お待たせしてすみません」


 母が言った。

「そうね。

 その花は?」

「午前中、薬草を取りに森へ行ったので、その時に摘んできました」

「貸しなさい。

 自分だけの分しか用意してないのでしょう」

  

 確かに3つ用意するとかそこまで考えなかったよ。

 私は花束を母に差し出す。


 母はアニエスに花束を持たせて、満足気に頷く。


「この国を守るのはアニエスです」


 バハ大臣が何か思うところを飲み込むような表情をして黙った。

 私は微笑みを作り、頷いた。


 バハ大臣が母とアニエスを連れて廟の中に入って行く。

 私は続くのに躊躇した。


 第2皇子であるリュートがダートに何か耳打ちして、私の肩をポンと叩きながらお付きの兵と廟に向かった。


「行こう」

 ダートが私に手を差し出した。


 私は深呼吸してからダートの手を取った。

 もう片方のダートの手が私の前に差し出された。


 青い花が1輪握られていて……。


「スーリア王に、というよりお父さんにか」

 私は心の底から微笑んで、その花を受け取った。


「ありがとう……」

読んで下さりありがとうございます。

これからもどうぞよろしくお願いします。


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